軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

419話 協力者

目の前で振り下ろされる、腕に備わった巨大な鎌。

ズン――……

それを、掴み、力任せに引き千切ろうとするも。

「あれ?」

想像以上に軽いようで、そのままグリムリーパーの身体が持ち上がり、他の魔物を吹き飛ばしながら豪快に聖堂内を転がっていく。

「んーこれは斬った方が早いかな……」

そう思って取り出したのは、どこぞの爺さんが使っていた長剣『刻踏残刃』。

特殊付与は【縮地】+2レベルなのだから、追うなら丁度良いとばかりに勢い良く踏み込み、

――【縮地】――

「ははっ!」

壁にぶち当たっていたグリムリーパーの片腕を根本から切断する。

すると振り払うようにもう一方の腕を振るってくるので、今度はしっかり掴み――

握っていた『刻踏残刃』を真上に放り投げてから、骨の強度を確かめるように両手で強く引き千切った。

そして間髪容れずに使用したのは【土操術】。

地面や石壁に広がる石をツタのように伸ばし、落下してきた長剣を掴みながらスカスカの身体を縫うように通して張り付けにしていく。

「………ッ?」

骨が擦れただけのはずが、聞こえた音には焦燥感が含まれているように感じられたのだから不思議なものだ。

「さーて、一応こっちも確かめておくか」

腹を何重にも守る網の目のような骨。

それらを砕きながら、張り付いた黒い腐肉を握り込むように毟ると、やはりその肉はトロルデッドよりもだいぶ硬いと感じる。

捕食した分の肉と受肉した量が明らかに違っていたのだから、骨と同じような原理が働いているんだろう。

喰らうほど防御力は増すんだろうけど……うん。

この程度の硬さであれば問題無い。

その事実を、完全な受肉型を湧かせる前に把握できれば、もうコイツに用はなかった。

そのまま顔を出していた魔石を強引に引き抜けば、他のボスのように"段階"が切り替わることなく、視界の隅で恒例のアナウンスが流れ始める。

『【共食い】Lv1を取得しました』

『【共食い】Lv2を取得しました』

『【共食い】Lv3を取得しました』

『【共食い】Lv4を取得しました』

『【地形耐性】Lv5を取得しました』

『【地形耐性】Lv6を取得しました』

『【恐怖】Lv1を取得しました』

『【恐怖】Lv2を取得しました』

『【恐怖】Lv3を取得しました』

『【恐怖】Lv4を取得しました』

『【恐怖】Lv5を取得しました』

――【魂装】――

はぁ~……

やはり、ボスは美味い。

タフなだけで大して強くもないのに、これだけスキルを得られたのだから上等だろう。

それに今回は魔法防御力だったが、ボスに対しての【魂装】で大きくステータスを伸ばすこともできた。

詳しいスキル内容の確認はのちほどやるとして、一先ずは捕縛用に絡めていた石を元に戻し、さすがに黙って俺が収納しちゃマズいよなーと。

ずるずる死体の骨を引き摺りながら皆の下へ向かう。

大半は口を半開きにしたまま放心しているけど、この反応なら問題ない。

平静を装い狡猾な手を狙われるよりは、この手の反応の方がよほど安心できる。

「それじゃ町までは運びますから、誰か一緒についてきてもらえますか?」

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

場所は最寄り町となる『スウィロー』。

ハンターギルドの人に案内され、とある倉庫にアウレーゼさんと二人で訪れていた。

国内有数の狩場を管轄するギルドと言えど、普段は魔石と小さな下位狩場の素材が持ち込まれるくらい。

そこまで大きな解体場は備わっていなかったため、ギルド員の指示でわざわざ別の場所に運んできたわけだ。

「改めて見ても、倒し方が綺麗だねぇ」

「そうですか? 魔石を抜くのに腹の骨、かなり割っちゃいましたけど」

「この程度で済んでるなら軽微も軽微。私らなんて全方位からバッキバキに叩いて割るし、最低限自分達が持って帰れる程度の大きさまでは現地で砕くからさ」

「あぁ、それはしょうがないですよね」

無事倒せたとしても、今度は魔物がいる狩場を通過して素材を持ち帰らなきゃならないからな。

普通に考えれば、こんなデカいブツをそのまま運ぼうなんて誰も思わないだろう。

「普段から、もっとデカい塊で運んでこいなんて言ってる『リーガル商会』が、これ見て色でも付けてくれれば――、って、噂をすればだね」

倉庫の入り口に視線を向けると、小太りのおじさんが布で汗を拭きながら歩いてくる。

夏も終わり、だいぶ涼しくなってきているというのに大変そうだな。

そんなに暑いなら金持ち風味漂う派手な格好などせず、俺みたいな風通しの良いペラペラな服か、横のアマゾネスさんみたいな露出狂一歩手前くらいまで脱いでしまえばいいのにと思ってしまう。

「最初はなんの冗談かと思ったが、本当にもう倒してきたのか。それに、この状態……どういうことか説明しろ」

「今回だけ特別ってことさ」

そう言いながらアウレーゼさんが俺に視線を落とせば、釣られるように小太りの男も俺に訝し気な視線を向ける。

そして徐々によく見る、分かりやすい 商人(ハイエナ) の顔へ。

一瞬、アウレーゼさんは知っていたのに、この男は知らないのか?

そう思ったが、このままでは面倒事になりそうだなと感じ、とっとと"手紙"を渡した。

「これ、見てもらえれば分かりますから」

「? ……こ、国王陛下ッッ!?」

「この国の王に話は通していますので、片腕を含む3割ほどの素材は既に頂いています。あぁ、魔石はサービスでそのままお譲りしますから、その分参加した人達の報酬にでも足してあげてください。素材もそちらが望まれている、加工しやすい大きさになっていますので」

そう伝えれば俺を見て、手紙に視線を戻し、アウレーゼさんを見ようとしてすぐ横に覗き込む顔があることにビックリしてから、なぜかまた凄い顔して俺を見る。

随分と忙しそうな男だな。

そして手紙を覗いていたアウレーゼさんは、なぜかバキバキの腹を抱えて大笑いし始めた。

骨の提供割合に合わせて、3割のボス素材を俺に報酬として渡すこと。

そして余計なことをしたら、『リーガル商会』が綺麗に消えてなくなることくらいしか書いてなかったと思うが……

まぁ、いいか。

「それじゃお腹も空いたしお風呂に入りたいので、僕はこの辺で失礼しますね」

そう伝えて倉庫を出ようとすると、アウレーゼさんが走り寄ってくる。

「あっはっは! 異世界人ってのはすぐ気付けたけど、まさかロキが王様だとは知らなかったよ!」

「あだっ、あだっ!」

この人、物凄く勢いが強い!

知ったところで態度がまったく変わらないのは気楽で有難いけど、なぜ俺はバシバシ叩かれているのか。

「アウレーゼさんはもういいんですか?」

「報酬をここで貰うわけでもないし、急に周期が早まった事情を依頼主のアレに伝えたら用事は終わりだからね」

「そうでしたか」

「私も腹減ってきたから、一緒に昼飯食おうか。美味い店紹介するよ」

「ほほぉ」

そう言われ、倉庫で一人呆けている男を放置したまま、二人で少し早い昼飯に。

以前に本で見た、タバコっぽいヤツとお香以外にジュロイの名産を教えてもらいつつ、パンにつけながら食べる、とろみの強いかなり濃厚なラム肉スープをなぜかご馳走になってしまった。

マッピングしながら感じてはいたけど、金回りが良いという理由からジュロイは羊飼いが多いようで、今後は気持ち値段が安くて在庫も他よりは余裕がありそうなジュロイで羊皮紙を購入しても良さそうだな。

「はぁ~量も多いし、かなり美味しくて大満足です。なんだか、ご馳走になってしまってすみません」

「いいんだよ。私らからすればいきなりの臨時収入だし、何よりケガ人すら出さずに、あの短時間でボスを討伐できたからね」

「特殊環境のせいかボス本体は他より少し弱めっぽいですけど、その分リッチがいるせいで、あそこは"事故"が起きやすい環境になってますもんねぇ」

何気ない一言。

経験から事実を事実として伝えただけだったが。

この言葉に、アウレーゼさんは大きく身を乗り出し反応した。

「おぉ!? なんだなんだその口ぶり、ロキは他のボスも結構知ってそうだね」

「え、ええ、と言っても知っているのは他に3体くらいですけど……」

「どいつを倒してるの?」

「えーと、旧ヴァルツの《エントニア火岩洞》にいた『ヴァラカン』と、その東、フレイビルの《クオイツ竜葬山地》にいた『ガルグイユ』ですね」

「あれ? 《デボアの大穴》にいるクイーンアントは? 今は王様みたいだけど、ロキって元はラグリースが拠点でしょ?」

「クイーンアントは倒されちゃってて、まだ実物を見たことがないんですよ。ちなみに僕の拠点がラグリースって、なんでそう思ったんです?」

そう問うと、革袋をゴソゴソし始めたアウレーゼさん。

取り出したのは、見覚えしかないラグリースの地図だった。

「コイツに凄い興味があってさ。マルタで情報を収集してたら、空を飛ぶ子供が『地図』を作っているんじゃないかって、そんな話がチラホラと出てきたんだよね」

「なるほど、マルタで情報収集ってことは、クイーンアント討伐にも参加していたわけですか」

「私は周期が関係ないココを拠点に、ラグリースのクイーンアント、トルメリアのズケイラを回ってるからね。まぁ1ヵ月前くらいまではマルタに長期滞在してたけど」

「あぁ、もしかして特別な蟻ですか?」

「そっ、急にラグリースで戦争が始まったっていうから、慌ててこっちに避難してきたけどさ。それにしても……すぐに事情を察したってことは、『魔宝石』を持つ蟻もロキが倒してそうだね」

そう言いながら向けられた視線は、悪意のようなモノを一切感じられず、ただ少女のように目を輝かせ、興味本位だけで聞いているような雰囲気だった。

ならいいか。

オランドさんが口を滑らせたことで、マルタの東を守っていた高ランクハンターの人達には既にバレたわけだし、情報がジワリジワリと広がるのも時間の問題だろう。

それに今更情報を伏せるメリットも感じられない。

リュークさん達のように骨の収集をしていなかったということは、他に何か稼ぐ手立てがあるのか、もしくは金稼ぎよりもボスそのものに対しての興味が強い人だろうからなぁ……

「正確には僕じゃありませんけど、僕もその場にいたので特殊な黄金色の蟻は見ています」

「ほんとに!? で、実際のところはどうだったの!?」

「結論から言えば、アホみたいに強いので、参加はお勧めしません。えーとマルタにいた強そうな盾の人――、ノディアスさんだったかな?」

「ああ、ノディアスと知り合いなんだ?」

「戦争絡みで会いましたからね。あの人が50人いても全く無理、そのくらいぶっ飛んでいると思ってください。たぶんですけど今の僕が本気でやって、それで勝てるかどうかという魔物です」

「マジか……」

そう言いながらブルリと身体を震わすアウレーゼさん。

その引き攣った表情はボス討伐を生業にしている人だからこそ感じる恐怖だと思うけど、しかしすぐに僅かながら口角が上がり、

「倒せば、どれほど凄い素材が……」

ボソリと呟いた言葉から、アウレーゼさんも俺と似たような狂人の類であろうことを理解する。

まぁそういう、"好きに夢中になれる人"は嫌いじゃないけど。

暫し時間を忘れ、お互いがお互いに倒した経験のあるボス、また情報だけ抱えているボスの知識を交換していく。

さすがにガルグイユの地下にいた腐敗の竜は謎が多過ぎるため伏せたが、この世界には『隠しボス』が存在し、変わった行動を取って初めて湧く可能性があること。

そして倒せば『魔宝石』が得られる可能性が高いことは伝えておいた。

こうしてボスに強い興味を示す人へ伝えておけば、何かしらの情報を独自に得てくれる可能性もあるからな。

そして――。

「マルタの南側にあるパルメラ大森林がロキの国――『アースガルド』の入り口ね。了解、一先ずクイーンアントとズケイラの時期が近くなったら声掛けるよ」

「遠回りさせちゃってすみません。住んでいるのはもっと奥なので、常にいるわけじゃないんですけど……入り口にいる黒象の魔物に伝えてもらえれば、僕も 気(・) 付(・) く(・) ことができますから」

「いいよいいよ。レイド戦で得られる高揚感は堪らないけど、死んじまったらそれまでだからね。いざとなればどうにかしてくれる守護者がいるっていうのは私らからすれば最高の環境だし、そのベザートって町までいけば、ここまで移動したみたいにロキが一瞬で連れてきてくれんだろう?」

「えぇ、トルメリアって国はまだ行ったことないのでアレですけど、案内してくれればそう時間はかからないはずです」

「あははっ、これで素材の装備加工までアテがあるってんだから、私にとってはこれ以上ないほどの協力者だ。少しずつ活動範囲を広げていくから、これからもよろしく頼むよ」

そう言われ、本日2度目の握手を交わす。

ボスに興味がある者同士、お互いが持ちつ持たれつの関係。

ボスの周期管理や情報収集をしてもらい、俺は俺で参加者を死なせずにラストアタックを得て、必要があれば素材を買い取る。

(ふふ、そんな関係もいいじゃない)

そう思いながら、随分と冷えてしまった食後のコーヒーをズズッと口にした。