軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

352話 神聖魔法

傭兵達の装備や遺品も何かしら使えるモノがあるかもしれない。

そう思って死体ごと回収しながら得られたスキルを眺め、嬉しいやら悲しいやら。

なんとも言えぬ結果に、苦笑いを浮かべてしまう。

条件クリアで解放される上位スキルがいくつか手に入った――これは素晴らしい結果だ。

【暗殺術】やかなり興味のあった【神聖魔法】。

どこかでレベル1だけは取得していたけど使いどころの無かった【結界魔法】も、ある程度スキルレベルが伸びたことで今後使える場面も出てくるだろう。

それに【剣術】をはじめ、取得済みの高レベルスキルがここで複数伸ばせたのはかなり大きい。

スキルの内容だってもちろん重要だが、同等かそれ以上に高レベル帯でのステータスボーナスは強さに直結してくる。

詳しい上昇数値は手帳を見ないと分からないけど、これだけのスキルが上がれば、鈍っていたステータス数値の伸びにもかなりの期待が持てそうだ。

しかし――レベル9の壁が、恐ろしくぶ厚い。

それが今回の結果でよりはっきりと分かってしまい、戸惑いを隠せないでいた。

大人なら誰もが相応の水準で所持している【異言語理解】と、強者であるほど高レベルの所持率が高い【隠蔽】。

既にスキルレベル8を所持しているこの2種くらいは、今回の戦いでレベル9に上がるかもしれないと内心期待し、戦う前の数値も確認していたのだ。

しかし、上昇した結果は【異言語理解】が4%で、【隠蔽】が13%。

傭兵が選択するような戦闘系職業であれば、まずこの2種に職業加護なんて乗らないだろうと踏んでいたのに、それでも僅かこの程度しか経験値が伸びていない。

つまりこのクラスを500から1000人くらいは殺らないと、レベル9には到達しないということ。

となれば、いったいスキルレベル10の時にはどうなってしまうのか。

想像しただけで眩暈がしてしまう。

(レベル9ならまだしも、レベル10を目指すならこの程度じゃダメ……さらなる大物、より強いヤツらか、桁の違う数を……)

「ロ、ロキ……?」

気付けばマルタの城壁は見上げるほどに近くなっており、その下に集まるラグリース側の人達は、多くが俺を見つめていた。

「あ、あぁ、すみません。ちょっと考え事をしてまして」

誤魔化すように苦笑いを浮かべるも、胃をギュッと締め付けられたような感覚は途端に強くなる。

ウィルズさんだけはいつもと変わらなそうだが、他は皆、分かりやすく顔が引き攣っているのだ。

いくら覚悟を決めたからと言っても不安がなくなるわけじゃない。

あれだけ派手に魔法を連発したのだから、俺の魔力だって見ていたはずで――

「すっげぇーじゃん!」

「え?」

声を上げたのは、まったく身に覚えのない青年。

たぶん先ほどの戦闘には参加していたのだと思うが……正直記憶にはなかった。

「あんな派手な戦闘初めて見たぜ! なぁ、アンタ異世界人なんだろ? 神様からスキル貰えるってのはマジなのか!?」

「え、っと……え?」

なんだ、この青年は。

先ほどの表情から一転して、今は興奮した面持ちで俺に迫ってくる。

「あ、あの! 身体に火を纏わせるのって【火魔法】ですよね!? あれってどうやるんですか!?」

と思ったら、もう一人いた。

この女性はなぜか、俺の両手まで握ってくる。

顔が、近い。

「いや、あれは【火魔法】ともちょっと違くて、ですね。なかなか難しいといいますか――」

「バカモン! 礼儀を弁えんか!」

「うぶっ!」

「んにっ!?」

二人にゲンコツ食らわしたのは、足元に巨大な盾を置いた渋いおじさん。

ふーむ、今更だけどオランドさんよりも明らかに強く、ウィルズさんと――……うえ?

いやいや、どういうことか分からないけど、ウィルズさんと並んで、この中ではトップクラスに強い。

うーん、ウィルズさんってばこんなに強かったのか……

「うちのパーティメンバーが無礼なことを、大変申し訳ない」

「いえいえ、そんな、大丈夫です」

「そして、この場を代表して言わせてもらおう。我らを救ってくれたこと、心より感謝する」

「……」

深々と頭を下げてくるおじさんに、俺はなんと言葉を返したらいいのか分からくなる。

俺は人命救助などという高尚な目的のために参戦したわけではないのだ。

多くは結果的に救われただけであり、救おうと思って行動したわけではない。

「正直、どれほど相手戦力を削れるか、玉砕覚悟の戦いになっていた。ロキ殿が一人で立ち向かった時は肝を潰したが、異世界人と聞けば納得もする」

「俺にも内緒にしておくとはなぁ……しっかし、デボアの小金蟻はこれで絶望的になっちまったな、ノディアス」

「あぁ、そういうことか。ロキ殿が倒したというのなら、これは確かに絶望的だ。出現したところで明らかに戦力が足りていない」

「あのーオランドさん? 誰が倒したかは、秘密にするんじゃなかったでしたっけ?」

このおっさん、またやらかしてくれた気がするんだが?

「そ、そういえばそうだった、かもしれん。がはっ! がははははがっ……うぐっ、いだ……」

「おい、オランド! かなり簡易の処置しかできていないのだから、動けばすぐに傷口など開くぞ!」

地面に座り込んでいたオランドさんは相変わらずのボロボロで、鎧の隙間からは血が滲み出ていた。

右腕も爛れているのか、おかしな色に変色しているし、片目はたぶん、深さからして瞼の傷だけでは済んでいない。

ふぅ――……

大きく、一呼吸。

最初はどうなるかと不安を抱えていたが、たぶんこの人達なら大丈夫――そんな雰囲気に後押しされて、目の前で【回復魔法】を使った。

『周囲の、傷を、癒せ』

「「「……」」」

死体は俺が殺した傭兵連中だけでなく、ラグリース側にも多く存在していた。

死者が出るほどの攻撃を受けていたのだから、誰がどこまでの傷を負っているのか分からない。

だから一先ずは全体を。

ついでに試すのなら丁度良いと、オランドさんの腹部に視線を向ける。

「オランドさん、お腹の傷はどうです?」

「痛みはまだ残っているが……助かった。血は止まっているっぽいな」

「それは良かった。なら次はその目が治るか試してみますか」

「左目は完全に視界を失っているんだぞ? そんなことまでできるのか?」

「それはやってみないとなんとも。でも試す価値はあるかなと」

「そうか……なら済まないが、こっちの腕にしてくれないか?」

そう言われて差し出されたのは、未だボロボロの右腕。

血はある程度止まったようだが、色は変色したままで明らかに普通じゃない。

「ここの東が終わったからマルタが無事ってわけじゃない。とっとと街の中を荒らしているヴァルツ兵どもをぶちのめさなきゃならんのに、この腕じゃ満足に武器も振れんのでな」

「なるほど。それならどちらも試してみますよ」

「いやいい、この目は自分自身への戒めだ。ギルドの運営ばかりに目が向き、ハンターであることを忘れていたからこんな有様になる。それにな……」

オランドさんの視線は、横にいた渋いおじさんへ。

するとおじさんは、申し訳なさそうな、それでいて力の籠った眼差しを俺に向ける。

「ロキ殿には南も救出に向かってほしいのだ。今レイモンド伯爵とモーガス殿がたった二人で押さえているはずだが、敵はヴァルツ国内で3位と9位に位置する一桁ランカーの傭兵。かなり厳しい戦いを強いられていることはまず間違いない」

「縞模様の獣人と、小人の獣人ですか?」

「そうだ。特にファニーファニーはここにいた連中とはまったく質が違う。魔力も極力温存しておいた方が――」

「倒せるかどうかは別として、南側にも行きますよ。元々僕はその二人を殺しに来たんですから」

「え?」

「それより7位の傭兵もこの街にいるはずなんですけど、その男も南側ですか?」

空の旅をした兵士は確かに言っていた。

南部侵攻軍には3人の一桁ランカーと、100名近い傭兵が参戦していると。

3位と9位の所在はこれで分かったが、問題は7位。

弓を得意とし、大型の鳥を従えるような男は、間違いなくこの場にいなかった。

「そ、それは本当か? 南部侵攻に加わっているとするなら、たぶん誰も見ていない。レイモンド伯爵も掴んでいない情報だろう」

しかし所在は掴めない。

不気味で気持ち悪い存在だ。

一桁ランカーに遠距離から狙われる可能性を残すというのは非常に気が揉む。

……自然と視線は空へ。

上空からの狙撃を想像するも、そのような怪しい鳥の姿は見られない。

「相手兵士から得た情報なので、約10万という兵数、南部侵攻の目的がマルタを落として王都を孤立させること、西に陣を敷く南部侵攻軍の司令官がアトナーという男であること――この辺りが一致しているなら信憑性は高いと思います」

「そうか……ならば我らも用心しておこう」

今は探している余裕もないし、兵士の中に紛れ込んでいたら見つけるのは至難。

これは街の中も一筋縄ではいかないな。

そう思いながらオランドさんの手を取り、初めての【神聖魔法】を詠唱する。

『この手を、治せ』

内容は【回復魔法】と大して変わらない。

しかし身体から引っ張られる魔力の量が明らかに違う。

【神聖魔法】Lv2 魔力消費200未満の神聖魔法を発動することが可能

説明ではこのようになっており、どこまで治せるかは判断がつかず、魔力の消費基準だけが10倍に膨れ上がっていた。

たしかにこんな魔法を連発していたのでは、これからの戦闘に差し支えるが……

それでも今回の戦いで魔力総量は上がっているし、いざという時のために効果は今のうちから把握しておきたい。

「「「おぉ……」」」

周囲から感嘆の声が漏れる中。

先ほどとは違う、濃厚な黒い魔力が腕に絡みつき、皮膚の中へ浸透するように沈んでいけば、次第に腕の色が正常な肌色へと戻っていく。

「異世界人の魔力って、違うのは色だけなのかな?」

そんな時。

唐突に思いがけない言葉を発したのは、先ほどゲンコツを食らっていた例の青年だった。

思わず周囲に視線を向けるも、この言葉に大きな反応を示す者はおらず、横にいた女性が『密度』や『濃度』なんて会話を青年と進めているくらい。

(だから皆、この色を見ても平然としているのか……?)

"異世界人だから魔力が黒い"というのは、女神様達から 魔(・) 人(・) 種(・) 以(・) 外(・) に(・) あ(・) り(・) 得(・) な(・) い(・) という答えを教えてもらっている俺ではまったく出てこなかった発想。

さすがにこの部分を神様が間違えるとは考えにくいので、実際はハンスさんも勇者タクヤも、まず魔力は正常な青紫だと思う。

だが、公にされている異世界人が僅か4人となれば、大半の人達は異世界人の魔力など見たことがないわけで。

(だからこんな勘違いをする人もいるわけか)

俺が『異世界人』と名乗ることで生まれる『 誤解(メリット) 』。

先ほどの狐獣人は違ったし、全員が全員というわけではないだろうけど、それを知れただけでもかなり大きいな。

まぁ、今はそれよりも『南』だ。

回収していたラグリース側の遺体を彼らに託しながら視線を向ける。

「それでは行ってきますので、街の中はお願いしますね」

「あぁ、任せておけ。腕がまともに動かせるのなら、ヴァルツの兵くらい薙ぎ倒してくれる」

「ロキ殿、レイモンド伯爵を……マルタを救ってくれ」

奮起するオランドさんの横で、改めて頭を下げるおじさんに視線を向けるも、俺は言葉を返さない。

マルタにいる知り合いは救えるならそうしたいと思うが、見知らぬ貴族を救いたいなんて気持ちは微塵にも湧いてはこないのだから、軽はずみに約束などしたくもない。

一桁ランカー二人を抑えるという、その伯爵の強さには興味も湧くが……

あくまで、俺は俺のために。

自分を殺そうとする『敵』と、殺すべき『悪党』を殺す。

そのつもりで、マルタ南部へと移動した。