軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

350話 血湧き、肉躍る

「ロキ様……?」

「やっぱりウィルズさんでしたか。宿の支配人がこんなところにいるなんて意外ですね」

見たことがない派手な素材のレザー装備で身を包み、飄々とした様子で背後から歩いてくる、見知った顔の子供。

目の前の砂塵はなんだ? 何かを投げたのか?

オランドは前に後ろにと、忙しなく顔を振りながら戸惑いを見せるも、かつて戦争には参加しないと言っていた者が、どうやら敵ではなく味方として目の前に現れたのだ。

久しく姿は見ておらず、そして期待もしていなかっただけに、なんとも頼もしい援軍が来たと喚声を漏らした。

「ロキッ! 来てくれたのか!」

「ええ、ハンターギルドに向かったら、東に多くの傭兵がいると聞いたので。それにしてもオランドさん、かなりボロボロですね」

「そ、そうなのだ。傭兵の中でも明らかに上位、質も数もこちらは負けている」

「なるほど」

「オランド。この少年は、その、味方でいいのか?」

困惑の表情を残したまま問い掛けるのは、ここまでマルタ側の要として、多くの攻撃を防いできたノディアス。

ハンター歴が長く、その分だけ"強者"と呼ばれる存在を知っていただけに、見覚えのない少年の参戦を素直に喜んでいいのか。

この子供の力量を推し量れないでいた。

ギリギリまで気付かれずに街から移動してきたのなら、隠密能力には長けているだろう。

だが何かの種族が混ざっているような雰囲気はなく、明らかに人間の子供。

鎧は相当上物に見えるが、腰に佩いた剣もやや小振りに見える。

(近中距離を好む軽戦士……剣士系に派生する職か?)

ノディアスがそのように見当を付けたところで、俄かに敵側がザワついているのを耳が拾った。

視線を向ければ既に砂塵は収まってきており、だからこそ何が飛来したのか。

敵側の方に転がっていた塊を注視するも、すぐに何かを判別することはできない。

それは周りも同様のようで。

「金属の塊?」

「あ、あの赤いのは"血"じゃないのか?」

「じゃあ、周囲に散乱しているのは……まさか、人が降ってきた?」

「あぁ、あれはヴァルツ兵ですよ。僕を殺そうとしたので」

「「「……」」」

この時多くの者が、"どうやってやった?" という疑問を頭に浮かべるが、その言葉は誰からも出てこない。

スタスタと、臆することなく一人で前に出ようとする子供を見て、別の言葉を口走ってしまったからだ。

「ま、待て坊主! 前に出るな!」

「出た者から真っ先に狙われるぞ」

「ロキ、数と戦力で劣る分、こちらは連携でなんとかやっていくしかない」

「俺とランドルフ、それにオランドがまず前に出よう。少年はこちらに寄ってきた近接を叩いてくれ。前衛の数をなんとか減らしてから後衛職を叩くから、無理はするな――」

「たぶん、大丈夫ですから」

「え?」

「ちょ、ちょっと、待て!」

「ロ、ロキッ! 話を聞いていたのか!? 連携だ! こちらの強みはそこだけなのだぞ!」

この時、警戒を続けながらも、ノディアスは僅かに舌打ちを漏らした。

少年は、目の前の連中と同じではないか、と。

オランドが目を輝かせるくらいなのだから、若くしてよほど才能に恵まれたのだろうが……

過信や慢心で命を散らす者など掃いて捨てるほどおり、決まってそういった者は協調性に乏しく、和を乱すことが多かった。

自らが死ぬだけならまだいいが、最悪は他の者達まで巻き込む恐れすらある。

だがここで、貴重な戦力を無下にするわけにもいかない。

(どうする……Sランクという立場を使って、この場だけでも強引に従わせるべきか……)

どう、戦力に組み込むか。

オランドは必死に説得し、ノディアスは策を練るも、少年から続く言葉はさらに耳を疑う内容で。

「なので、皆さんできる限り遠くに離れておいてください。戦闘になるのかまだ分かりませんけど、なったら巻き込んで殺しちゃいそうなので」

「……は?」

「な、なんだと?」

「……」

誰もが言葉を呑み込めず、放心したまま敵陣に向かって歩いていく少年の後ろ姿を眺めるしかなかった。

そんな中、一人やり取りを黙って聞いていたウィルズが口を開く。

「それでは皆さん、言う通りに一度下がりましょうか」

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

眼前には武器を構える40~50人の傭兵達。

先ほどは上空から纏めて確認したが、今は歩きながら一人一人、流し見るように【心眼】と【洞察】を使っていく。

(縞模様の獣人と小人はやっぱりここじゃない……一番強そうなので、ばあさんと似たような感覚のヤツが2人か3人ってところか)

【心眼】は2割ほどしか通らず、見通せた中に目を見張るようなスキルは見当たらない。

だが上位であろう傭兵連中の集まりだけあって、見えたスキルのレベルは相応に高かった。

職業加護のブーストを差し引いたとしても、間違いなく、いくつものスキルレベルが確実に上がる。

となれば、あとはこの者達がどこまで『悪党』なのか。

あの二人以外にも、兵士とは明らかに恰好の違う獣人が町や村を蹂躙したとは言っていたけど、特徴が薄くて判別が――。

「おぬし、本当にロキという名なのか?」

悩んでいるところに話し掛けてきたのは、この場で最も強いと感じたうちの一人。

正面に立つ狐のような容姿をした獣人だった。

「そうですが?」

「どこから現れたのかは砂煙で見えなかったが、この"肉塊"はおぬしが現れたのと同時に空から降ってきた。フハッ、空を飛ぶ幼き姿をした異世界人、条件は一致するな」

「他は火を纏いながら、高位の雷を扱う、だったか」

「まさか現れるかも分からない最上位の報奨対象が、いきなり目の前に登場するとはネ」

このやり取りが聞こえたのか。

【気配察知】範囲内だったオランドさん達の動きがピタリと止まり、慌ててこちらに振り返っているのが分かるも……これはしょうがないな。

いずれバレること。

それに今更隠そうという気もない。

しかし、この情報――。

ここにはいないようだが、【発火】を知っているということは、俺を監視していた爆走獣人が収集した内容で間違いないだろう。

国に報告し、傭兵連中に伝わった――そういうことだと思うが、最上位の報奨対象とはなんだ?

「もしかして、僕に懸賞金でもかかってるんですか?」

「フハハッ、そのようなかわいらしいモノではないわ。それこそおぬしを殺せば、決して金では買えぬモノも手に入るだろうな」

「『火仙の魔女』も討ち取れば結構な報奨は得られるだろうけど、異世界人となれば話は別だネ」

「戦力は未知数。だがジョルジアを取り逃がすくらいなのだから、世界を揺るがす4強ほどということは決してあるまい」

「他はどういうわけか、勝手に引いてったしなぁ! こんなチャンス二度と起きねぇ……ぎひひっ、俺だぁ、俺が喰らってるやるぜぇえええ!!」

共に飛行してきた男はこの事に関して何も言っていなかったが、一介の兵士では傭兵の事情など知らなくてもしょうがないか。

しかしこれは、少々予想外な展開だな。

少なからずこの者達が『悪党』であり、『執行』対象であること望んでいたが……

まさか相手も、金ではない何かを得るために、俺との純粋な殺し合いを望んでいたとは。

あぁ……最高だ。

手札の多くが隠されている以上、相応のリスクはある。

だがこの血湧き、肉躍るような高揚感。

俺を殺そうとする者達を殲滅することで、何を得られ、いったいどれほど強くなれるのか――。

「窮地だからと、空を舞って逃げるようなツマらぬことだけはせぬよう、期待しておこう」

「ええ、やり合いましょう? お互い、燃え尽きるまで」

逃げも、逃がしもしない。

目の前にいる連中は、一人残らず、喰らってやる。