軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

333話 ボス

「と、いうわけでして、諸悪の根源、オーラン男爵に替わって、次男のアルス君がこれからは頑張るそうです」

「「「おぉおおおおおお!!」」」

翌日のギニエ。

少しずつ人の出入りは増えてきているも、それでもまだまだ暇な酒場に声を掛ければ、店主は昼前だというのに快くお店を開けてくれた。

祝勝会ということになるのだろうか。

金を出すのが依頼主ではなく、依頼を受けて動いた俺という理解し難い状況だけれど、それでも報告ついでに酒を用意すれば、悪党面した男達は競い合うようにジョッキを空にしていく。

「まさか領主が替わっちまうとこまでいくとはなぁ」

「すげぇっす……本当に貴族までやっちまうなんて……思ってなかったっすぅ……」

「はは、そんな泣かないでくださいよ。それに1つしくじったっていうか、甘くてできなかったこともあるんですから」

「え、そうなんすか?」

「キウスやオーラン男爵の信用を貶める――つまりはクアドさんの信用を回復させる方法もあったんですけど、すみません。最後に情というか、甘さが出ちゃってそこまでできませんでした」

案としてはあったのだ。

キウスに『悪いことしてごめんなさい』の立て看板でも持たせ、ドミアの中心で干し豚になるまで土下座の刑でも当初は実行しようかと思っていた。

が、どんな事情があるにせよ、文句も言わず、さすが商人というだけあって絶妙な演技までかましてオーラン男爵を謀ったのだから、そうなると粗大ゴミのような扱いもできなくなってくる。

自分の甘さにゲンナリだが、こればっかりはしょうがない。

「じゃあ、なんだ? 結局全員生かしたのか?」

「いや、バーシェは大事な者達と一緒に、静かな場所で安らかな死を。キウスは家族を守るために自分の命も含めて全てを捨てたので、その代わりに身内は今回見逃すことにしました」

「なるほどな……ん? オーラン男爵は?」

「アレは素っ裸で遥か西にある暗闇の洞窟内にいますよ。本当の家畜以下を体験している真っ最中ですから」

「な、何やってんのかさっぱり分かんねーな……」

「いいんす。それでも自分には十分過ぎるほどの結果っすから、これで本望。もう思い残すことは何もないっす」

「……?」

なんだろう。

クアドさんにとっては朗報のはずが、今日は耳も尻尾もしょんぼり萎れ、壁のシミを見つめながら、なんか自分の人生フィニッシュモードに入っていらっしゃる。

基本は煩いこの犬獣人、もしや自分の状況を理解していないのではないだろうか?

「クアドさん? 思い残すも何も、あなた僕に借金が残ってるんですからね? 1億5000万ビーケ」

「すぅ―――………?」

「そんな変な顔して深呼吸してる場合じゃないです。僕はクアドさんにお金をあげたのではなく 貸(・) し(・) た(・) んですから、死ぬ気で働くなりしてちゃんと返してくださいよ」

「だ、大事件じゃないっすか!?」

「クアドさんよ。俺らの解放にも金使ったんだろうが……今、いくら残ってんだ?」

「もう2000万ビーケもないっすよ……」

「マジかよ! これから商売するにしたって、店構えるなら結構ギリギリなんじゃねーか?」

「だって、しょうがないんすよ!? 米の仕入れに難航してかなり相場より高く買うしかなかったですし、馬車や馬だって表立っては売ってくれなかったんで同じっす! それにベッグさん達18人を奴隷商から買うのだって、なんだかんだ5000万ビーケくらいは掛かってるんすから!」

この話を聞いて、その米も、馬車も、俺が持ってるよとは思ったが。

ここは敢えて言わないでおこうと思った。

なんか見てて面白いし。

「まぁよ。俺は買われた身だし、ちゃんと美味い飯も食わせてくれっからついていくが……早いとこ商売の計画でも立てた方がいいんじゃねーか?」

「それはそうなんすけど、ドミアじゃ嫌われ者なんでもう厳しいんすよね…………………………………………ロキさん、どこか良い場所ないっすか?」

「え。どこでも好きな所でやったらいいんじゃないですか」

「ちょっと、そんな投げやりにならないでくださいよ! 次はロキさんが商会長になるんっすからね!?」

「……は?」

「だってそうでしょう! 俺っちはロキさんに借金してて、そのお金でまた商売始めようとしてんすよ?」

「なるほどな。そうなるとたしかに、金出してるのはあんちゃんなんだから、商会の頭ってことになるか」

「それにベッグさん、ここだけの話っすけどね……」

「?」

「ロキさんがボスなら超安泰なんすよ。この人、仕入れ能力も輸送能力も最強っすから。もう食いっぱぐれることはねーっすよ!」

「そういや一気に俺達をここまで運んできたもんな……それによく考えなくても、Aランク傭兵や貴族までぶっ飛ばしちまうんだから、とんでもねぇ用心棒でもあるじゃねーか!」

「あのー……バリバリ聞こえてるんですけどー……」

「でしょう? ロキさん自身も相当高額な魔道具を普通に持ち歩いてるくらい資産家ですし、怒ると怖そうですけど普段は寝る直前のタヌキみたいな顔してますし、これほど有能な雇い主はそういねーっす」

「おぉいおまえら! 飲んでばっかいねーでちょっと来い! もしかしたら毎日腹いっぱい飯が食えるかもしれねぇぞ!!」

「「「うぇえええええ!?」」」

「……」

魔物が存在するおかげでこの世界は食が豊富なはずなのに、毎日ご飯いっぱい食べたいって……

さすが元長期在庫奴隷達、なんて切ない望みで盛り上がっているんだろう。

それでも、酔っ払いのダダ洩れ過ぎる内緒話を聞きながら、自分なりに考える。

自分と明確な繋がりのある100%出資の商会があったとすれば、それは決して悪い話ではない。

ただでさえ拠点の資材倉庫には使い道のない品が大量にあり、それは今回押収したキウス商会の7店舗と王都の別宅でさらに膨れ上がっているのだ。

それでも腐らないモノならまだいいが、食べ物はいくら上台地に大食い担当がいようと限界があり、最終的にはベザートで配るか捨てるかの二択になってしまっているのだから、それが多少でもお金に変わり、かつ彼らの生活の支えになるなら意味もあるというもの。

建物だって広い土地さえあれば、石造りの簡易倉庫くらいはいつでも造れる。

だが……問題は ど(・) こ(・) に(・) 造(・) る(・) か(・) だ。

まず、拠点は無い。

そもそも客がいないのだから、店を開いたところで商店(笑)になってしまう。

ラグリースなら商業ギルドやばあさんにも伝手があるから一番無難なところだけど、どうも肩入れし過ぎているような感じになっちゃうし、オルトランならサヌールとかのキウスが使っていた空き店舗を利用できそうなものだけど、ただそうするとあくまで普通の店舗だから手狭も手狭。

かと言って店舗が分散すると俺が少々面倒に感じてしまう。

フレイビルのロズベリアなら街も大きく商売はしやすそうだが、反面魔物の素材は地場素材が強過ぎてやや弱くなりそうだし、物価が高いと感じたヴァルツに店を構えれば、最も商売をする意味はあるような気もするけど、しかし繋がりが――。

一長一短。

どこを想定したところで善し悪しがあり、今までの旅を思い返しても、ココッ! っていう決定打に繋がる何かが出てこない。

うーん、そんな時は焦ってもしょうがないのかな。

やるとなれば俺だけの問題ではなく、彼らの人生も掛かってくるのだ。

どの道オルトランでの予定もこれで終わり。

明日からまた俺の新しい旅は始まるのだから、その先で良い立地や環境が見つかるかもしれないしな。

ここから隣接している国は3か国――果たして、どの道へ進むべきか。

「クアドさん、オルトランの南方がクアドさんの故郷なんですよね?」

「っすよ? 獣人の部族が点在する地域っすね」

「そっちって、ハンターギルドとか、あとはBランクやAランクくらいの高位狩場ってあります?」

「いや、魔物の生息地帯はあるっすけど、中には人間を嫌って攻撃する部族もいるくらいっすからね。あまり外から人が入ってこないんで、自分の古い記憶だとスチア連邦にギルドなんて無かったと思うっすよ」

「ふーむ……」

南に向かえば緑豊かな密林地帯が続き、その中に種族単位で活動する村が点在する――ここまでは聞いていたが、本当に村ばっかりって感じなのかな。

クアドさんは長く外に出て大陸を旅していたみたいだから、古い記憶という話ではあるけど、それでもかなり参考にはなる情報だろう。

「なんだ? 次の旅先でも考えてるのか?」

「そうなんですよね。南、東、北東のどこに向かおうかなーって」

「北東は止めた方が良いだろ。ガルムの紛争ってもう落ち着いたのか?」

「え? 紛争?」

ベッグさんの言葉に疑問を重ねれば、クアドさんが補足してくれる。

「たしか今も、アルバート王国に寄るか反るかで揉めてるはずっすね」

「アルバート……あぁ、マリーですか」

「ちょ!? 急に怖い雰囲気出さないでくださいよ! びっくりするっすから!」

「あ、ごめんなさい! それでそれで?」

「親アルバート派と中立派で揉めてて、そのまま東西に分かれた内紛になってるはずなんすよね」

「なるほど……それは面倒そうで、できれば立ち寄りたくないですね」

「でもまぁ俺なら、東の『ヘルデザート』にだけは絶対行かないけどな」

「自分もっすね。こっちのような荒野とは別物っすから」

「砂漠地帯という話だけは聞いてましたけど、色々と寄る場所はあるんでしょう? バーシェの抱えていた希少種だって、そっちから取ってきたみたいですし」

「そりゃ東の方までいけば人だってそれなりに住んでるはずっすけど、まともに通過するなら相当大変っすよ?」

「あんなとこ普通は迂回するだろ。ろくに水場もないのに、頼みの【水魔法】すらまともに発動しないとか、行くやつの気が知れねぇ」

ってことは、そもそも水の精霊がまともにいないってことなのか。

たしか前にリステがそんなことを言っていたような気がするけど、砂漠だからいないのか、別の要因があっていないのか。

「まぁ、僕はあまり関係ないですけどね。空、飛べますし、水も、収納できますし」

「……それ、ズルくないっすか?」

「……ズルいが、だからこそ俺達の将来は、安泰なんだろう?」

「あぁー! そうっすそうっす! 早く場所決めてくださいよ! ボスが仕入れてきたやつはなんだって売るっすよ! 【鑑定】と【交渉】は結構自信あるっすから!」

「荷運びと荷物整理は任せろ。ボスが腹いっぱい飯食わせてくれるなら、俺達はガンガン働くぜ?」

「「「うぇいうぇいうぇーーい!」」

「ちょ、ちょっと待って、そんな迫ってこないで! 商会を作るってのはいいにしても、場所はそう簡単に決められないですから。とりあえず……うん、ギニエで復興の手伝いでもしててください。領主には話しときますし、生活費くらいは僕が出しますから」

「「「おぉぉー!!」」」

なんなんだこの精神攻撃は。

圧が凄いし、男臭くて思わず倒れそうになる。

でもまぁ確かに、クアドさんは職業補正でもついているのか、【鑑定】レベルが『6』とそこそこ高いし、広く旅をしたというだけあって大陸の情勢には結構詳しかったりする。

それにベッグさん達も顔が怖いだけで根は真面目なのか、輸送中もサボることなく普通に働いていた。

ならば早いとこ場所を決めて、彼らが活躍できるお店を作らないとな。

……これが仲間なのか、ちょっと判断に迷うところもあるけど。

でも決めていたことなんだから、ちゃんと一歩を踏み出そう。

「よし……じゃあボスなんだから、もう堅い言葉は使わないよ! その代わり、今日は俺の奢りで飲み放題だー!」

「「「うぇーーーい!」」