軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

325話 準備完了

山道に入って2日目での出来事から、事態は大きく動き出した。

ここからの目的は当初の予定通り、クアド商会の襲撃に成功したと見せかけ、商会長キウスと【魔物使役】を使う実行犯が繋がっている現場を押さえること。

そのためにはクアドさんや、今回参加している奴隷達が魔物の餌になっていないとマズいわけで、まずは全員をこの場所から程よく近場で馴染みのある町。

ラッド君の治める『ギニエ』に護送した。

ここなら町に訪れる人間があまりいないのだから宿もガラガラ。

加えて隣国ならばそう簡単には情報も掴めないだろうし、潜伏目的としてこの町以上に最適な場所はそうないだろう。

転移による大移動だったので、予想通り現場はてんやわんやの大騒ぎ。

特にクアドさんが人一倍煩く――というより、あまりにも煩過ぎて頭だけ地中にでも埋めてやろうかと思ったが、とりあえずは進展があるまでこの町で待機しておくように伝え、お次は <<サザラー魔物生息地帯 >>へ。

ここで1台につき2匹、計16匹のベイブリザードを男に使役させ、収納していた馬車に繋げれば準備完了だ。

実行犯の男が全てを諦めた様子で先頭馬車の御者台に座り、一度襲われた場所の辺りからサヌールへ向けて旅立っていく姿を俺達3人で眺める。

魔物が馬車を引けば馬よりも早く到着するらしく、ここからサヌールまでは予定より1日短縮された約2日ほど。

それでも原因が特定できたのであれば、暇過ぎる旅路にこれ以上付き合ってはいられないわけで……

――このままどこの町には寄らず、まっすぐ街道を通ってサヌールに向かうこと。

――道中、人に危害は加えないこと。

――本日の襲撃に関する一件は誰にも伝えないこと。

――自らの死は全力で回避すること。

実行犯の男には【奴隷術】を施し、この4つの契りを抱えて旅立ってもらったわけだ。

特に最後が重要で、今回の計画はこの男が死んでしまえば頓挫してしまうわけだから、自害を防止する意味でもしっかり付け加えておく。

そうしないとこの男、自分で命を絶ちそうだからなぁ……

「本当に一人で行かせて大丈夫なのか? ここまで来たのだ。町に到着するまで付き合っても構わないぞ?」

「それは有難いけど、さすがに長い時間ロッジ一人じゃ心配だしね。それにカルラはもう飽きてるっぽいし」

二人で視線を向ければ、カルラは俺がオークションで仕入れた鍛錬用の魔道具をブンブン振り回して遊んでいた。

どうやら木剣にスキルレベル4の【剣術】スキルを組み込ませているようで、スキルを所持していなくても握って振れば誰でも自然と型が身につくという優れモノらしい。

剣に苦手意識を持っていたっぽいので、カルラにとってはちょうど良い特訓アイテムだろう。

「たしかに、狭い馬車の中では存分に振れず、ずっとウズウズしていたからな……」

「どのみち大移動で拠点まで送れるほどの魔力は無くなっちゃったし、今日は久々にどこか近場の宿にでも泊まってのんびりしようよ。美味しいご飯いっぱい食べてさ」

「そうだな。では別の米料理でも―――……」

こうして俺達3人はサヌールへ飛び、お礼も兼ねて高級料理と化した米料理を堪能。

心地良い満腹感のままフカフカベッドで爆睡し、翌日拠点に二人を送り届けた。

ロッジにはグリフォンやドリームシアターといったAランク魔物の素材を渡しておいたので、きっとあれが何よりのお土産になることだろう。

うっし、そんじゃここからがラストスパートだ!

街道沿いを移動していれば、一度上空を通っている俺はすぐに男の動きを捕捉できる。

順調に馬車がサヌールへ向かっていることを確認したのち、スキル経験値を求めて狩場へ移動。

この2日でなんとか【透過】をスキルレベル5まで上げようと、フィッシャーカメレオンをピンポイントで狙いつつ、素材はギニエに輸送していく。

そんな流れ作業をひたすら繰り返して、2日目の日暮れ前。

『【透過】Lv5を取得しました』

ようやくこのアナウンスが視界に流れ、俺は一人静かにガッツポーズした。

護衛をしつつも隙を見ては狩場に向かい、コツコツと狩って狩って狩って狩って、約10日ほど。

初めてスキルレベル1の魔物をひたすら倒して、レベル5までもっていったのだ。

僅か0.5秒の効果時間増加のために掛ける労力じゃないような気もするが、いつかきっと、こんな努力が実を結ぶ時だって来るかもしれない。

そう思えば多少の苦労などなんのそのである。

「そう言えば、殺したら急に色々なモノを吐いて縮んだあの白いミミズってなんなんです? うちの魔物に詳しい仲間も知らなかったですし」

これで俺がやるべきことは終わり、準備万端。

クアドさんを迎えに行き、馬車の中から小さく見えてきたサヌールの町を眺めつつ、生気を失った実行犯の男に問いかける。

「ホ、ホワイトワームと呼ばれる、魔物だ……サンドワームの希少種で、消化せず、体内に食らったモノを、ある程度の量まで、保存することができる。その代わり、質量に応じて、どんどん身体も大きくなって、しまうが……」

「あぁなるほど、希少種でしたか」

この白いミミズだけはゼオも分からず、魔物の詳細が見えてこなかった。

倒して得られたスキルも、【膨張】というグレー文字の使えないスキルで意味がさっぱり分からなかったが、そういうことか。

「ロキさんのヤツほどじゃないっすけど、商人が欲しがりそうな魔物じゃないっすか?」

「うーん、いくら保存できるって言っても、結局身体が大きくなっちゃうんじゃなぁ……それに一度ミミズが食べた肉とか食べたいと思います?」

「多少腐ったくらいなら自分は全然食えるっすよ? なんでもモノは粗末にできないっすから」

「そ、それはたくましいですね……」

男にもう少し詳しい用途を聞けば、モノを保存するというよりは隠す。

そして隠したまま運ぶというこの2点に優れているようで、魔物を含めた生き物でも生かしたまま体内に保存することができ、かつ自前の穴掘りスキルを使って地中を移動することができるので、人に見られる心配もなくなるらしい。

難点は本来砂地に生息している魔物なので、普通の地面ではあまり早く掘り進めることができず、巨大化するほどその遅さは顕著になること。

そして表に出しておくよりは多少マシみたいだが、それでもミミズの体内はしっかり時間経過が発生するので、腐るようなモノは長く保管できないという話だった。

「ちなみに、量はどこまで保存できるんです?」

「この8台の、馬車を呑み込んで、もう少し余裕がある、くらいだ……」

「へ~想像以上に呑みますね。だから最後にしょうがなくこの魔物を出してきたわけですか」

「……っ……」

男がしゃべろうとし、すぐに口籠って顔を顰める。

あぁそういえば、俺が"襲撃の件は語るな"と縛りを入れていたんだったな。

用意していたベイブリザードがやられるなど、不測の事態で自走による馬車の移動ができなくなった場合、最悪はこの魔物が飲み込んで対処する算段を立てていたのだろう。

活動の幅は広く、用意周到で応用も利く。

ギリギリのランクインではあるも、それでもオルトランのランカー傭兵だというこの男が、なぜ好んで貴族に使われ、こうして悪事を働く必要があるのか。

(分からないな……)

それほどまでに、金が魅力的なのか。

それとも繋がりを重視する意味が別にあるのか。

自分なら絶対に取らないであろう選択を取る理由に、少しばかりの興味を持ちながら、俺たちは別々にサヌールの町へと入っていった。