軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

315話 ラストチャンス

「それじゃ僕が護衛をしますので、もう1回荷物を運んでみますか」

この言葉にクアドさんは狐につままれたような顔をしていたが、次第に状況を呑み込めてきたのか。

しかし浮かべる表情は喜びではなく困惑で、勢いよく首を左右へ振った。

「み、見ての通りで俺っちにはもう金がないっすよ? まず商品を仕入れられないっす!」

「そのお金、全部貸しますよ」

「へ……?」

「だから貸しますよ、お金」

「い、いや……それに馬車も! 馬車だって一緒に消えちまって、もう手元にないっすから!」

「ないなら借りるか買ったらいいじゃないですか。そのお金も貸しますよ」

「へあっ!? で、でも人が! 残ってたヤツらもこんなことがあって離れちまったんで、馬車を動かす人がいないっす!」

「じゃあ雇ったらいいでしょう」

「厳しいっすよ! うちがキウス商会に目を付けられてるのは皆知ってるんっす! そんな状況でうちに雇われる人なんていないっすよ!?」

「ならリスクにも納得できるくらい、大きなお金を出してあげたらいいんじゃないですか?」

「それはまぁ、そうかもしれないっすけど」

「というか、あなた本当に復讐したいんです?」

「そ、それは……」

「先ほどからできない理由ばかり一生懸命並べてますけど、コツコツ積み上げてきたモノが簡単に潰されて、一泡吹かすことなくあなたの店も、お金も、命も、すべて枯れようとしているわけですよね?」

「……」

「まぁそのキウス商会ってのは、目的さえ達せられれば、あとは小石程度の存在なんてどうでもいいと思ってそうですけど」

「ふ、ふざけるなっ!! どんな思いで俺が! 俺達が……ッ!!」

その気持ちは分かるが、実際はそんなものなのだ。

簡単に害を与える悪党なんて弱者のその後に興味はないし、まず加害者である自覚すらほとんど持っていない。

だからその話が本当なら――本当に自らが被害者で怒る気持ちがあるのならば、自覚させ、死ぬほどに後悔されられるかもしれないこのチャンスをしっかり掴めばいい。

「その気持ちがあるなら動けばいいじゃないですか。一通りのお金を工面してくれて、護衛までしてくれる人が現れるなんて奇跡ですよ?」

「……というか、随分とちっこい傭兵ですけど、あなたはいったい何者なんすか……?」

「そういえばそうですね。申し遅れましたロキです。傭兵とハンターで稼ぎながら旅をしています。ちなみにハンターはAランク、実力だけで言えば間違いなくSランクの基準は満たしているはずです」

なんとも見栄っ張りな自己紹介だが、たぶん嘘は言っていない。

それに今必要なのは、謎の失踪を跳ね除けられる『戦力』、もしくは謎の誘惑を断ち切れるほどの『財力』だろう。

『A』と彫られたギルドカードを見せれば、マジマジとカードを見つめ、俺の顔を見つめ――

「ほ、ほんとに?」

「えぇ、本当です」

「というか、なんで……?」

当然とも言える質問をしてくる。

そりゃそうだろうな。

俺が逆の立場だとしても同じことを思うし、問われて初めて、自分でもここを訪れる前より、今の方がやる気になっていることに気付いた。

「色々と理由はありますが……僕も嫌いなんですよ。ノーリスクだと錯覚して簡単に人を害したり、その光景を後ろで踏ん反り返りながら眺めているようなヤツは」

「え?」

「なのであなたの話が本当で裏も取れれば、そのオーラン男爵ってヤツもぶっ潰そうか――」

ここまで言いかけたところで、クアドさんが俺の口を慌てて塞いだ。

「ちょ、ちょっと! 誰かに聞かれでもしたら斬首確定っすよ!? 俺っちはいつでも死ぬ覚悟くらいできてるっすけど、ロキさんがそんなこと言っちゃダメでしょう!?」

「むごごご……大丈夫ですよ。結界魔道具を入り口に置いてますし、一応【探査】で周囲も確認してますから」

「ふぉ、ふぉおおおおっ!? まさかこれって、小型遮断結界じゃないっすか! 五式っすか? 六式っすか!? 市場価値で3億ビーケはくだらないでしょうに、なんでこんなモノ持ってんすか!?」

「え、いや、ちょ……落ち着いて?」

「ん? よく見たら、ロキさんの着ている鎧も普通じゃないっすよね……? 見たことのない素材ですし、俺っちの【鑑定】が通らないとかいったい何者!?」

ど、どうしよう。

元気になったのは良いけど、なり過ぎて急に煩くなってしまった。

「まぁそこら辺は気が向いたら追々話すとして――どうします? こんな魅力的な提案、今後絶対ないと思いますけど、ラストチャンスに乗っかります?」

「……ロキさんが護衛をすれば、もう誰も死なせずに済むんすか?」

あぁ、躊躇っていた理由は、ここか。

「僕は神様じゃないんで、そんな無責任な約束はできません。長い道中を連日僕だけで護衛し続けるなんてまず不可能ですしね」

「……」

「でも死なせない自信はありますし、最大限その努力はしますよ」

「なら……俺っちが足掻くことで、周りの人達がどんどん消えていくのは耐えらなかったっすけど、泣いても笑ってもこれが最後っす。ぜひお願いしまっす!」

この日から、潰れかけていたクアド商会は動き出した。

相応の時間を掛けてでも、今までの失踪事件をなぞるように同等の規模を目指していく。

その準備は商人であるクアドさんがやることであって、俺は彼の軍資金を稼ぐべくロズベリアへ飛び、その日の稼ぎをそのまま渡したら通常の1日へと戻っていく。

マッピングを進めながら、夜間はパルメラでスキル経験値を溜め、朝にファルメンタのオルグさんに素材を卸したら、オルトランに戻ってまたマッピング。

その間、適度にクアド商会へ足を運びつつ彼とその周囲を観察したが、懸念していた直接的な攻撃はないようで――

「今やられるなら、もっと前にやられたと思うっす」

という彼の言葉に、それもそうかと、納得して任せることにした。

きっと何か直接的にはやれない理由でもあるのだろう。

そんなこんなで10日以上が経ち、オルグさんのパンク宣言に頭を悩ませながら、拠点の西側でAランク魔物をシバいていた時。

ふと、森の中でおかしな光景を目にする。

「これってもしかして、石化した身体の一部か……?」

偶然見かけたのは、人の腕にしか見えない一塊の石。

それでも最初は勘違いの可能性だって十分にあると思っていた。

ここはカトプレパスの生息域で、第6層となるAランク狩場でもある。

過去にここまで到達した話は聞いていない。

そのはずだったが――。

「5層で撤退なんて話だったけど、実際は潜り抜けた鳥人もいたのか」

拠点の西側に聳える、かなり標高の高い山々。

その中腹にある森で、俺は推定2体の石像を目の当たりにしていた。

いったいどれほどの年月が経過しているのか。

羽を背に持つやや小柄な人型の石像が地面に寝そべり、その上を元は大きかったであろう、辛うじて人型と判別できる石像が覆いかぶさっている。

被さる石像には羽がほとんど見当たらず、背中が少し薄くなっているような気もするので、長く雨や木の枝に打たれて、溶けるように削られている可能性も考えられた。

ソッと守るように被さっていた石像をズラし、改めて2体の石像を眺める。

寝そべっていた少し小さい石像は、無い状態で石化されたのか、それとも石化の後に割れたのか。

どちらかは分からないが、片方の羽を根本から失っていた。

しかし他は失っている部分が見当たらず、一見すれば状態は良いように思える。

――完全に石化した状態を回復させることができるのか。

今まで考えたことのない疑問だった。

解決する術は現状見当たらない。

それでももし、何か可能性があるならば。

そう思い、俺は2体の石像を抱え、念のため周囲も入念に探索してから拠点へと帰還した。