作品タイトル不明
311話 宝の山
拠点に帰還したあと、俺が真っ先に向かったのは資材倉庫。
その8階に飛び、誰も使う用途のない、戦利品だらけの防具を眺める。
「やっばー……これ全部、宝の山じゃん」
下は使い古された野盗連中の革鎧から、上は火岩洞にいたサラマンダーの火耐性鎧まで。
いつかどこかで売れたらいいなと思っていたものが、【付与】の中身次第で一気に化ける可能性が出てくるとは予想だにしていなかった。
果たしてどのスキルを【付与】すれば正解なのか。
価値だけでなく、売り捌いた後の影響まで考えなければいけないため、ステータスを眺めながら慎重に判断するつもりだったが。
んー、んん? んー。
首を捻って考えても、そもそも防具になんのスキルが【付与】できるのかよく分かっていないことに気付いてしまった。
「ゼ、ゼオ――ッ!」
叫びながら資材倉庫の外へ飛び出せば、ゼオは湖の畔で皆の洗濯物を取り込んでいた。
いつもいつも、ありがとうございます!
「どうしたのだ?」
「ちょっと聞きたいことがあってさ! この前聞いた【付与】のやつ、もっと詳しく教えて!」
「そう言われても、何を教えればいい」
「武器と防具と装飾で、付けられるスキルはどう違うのかなって」
「ふむ。我が知る限り、防具と装飾は対象が同じなはずだ。武器は能力向上型のパッシブ系、防具と装飾は能力向上型に加えて、耐性上昇型のパッシブ系も対象になる」
「えーと、【剛力】とか【封魔】とかが能力向上系で、耐性上昇系が【毒耐性】とか【火耐性】って分け方か。この耐性上昇型って何が一番需要高いとかあるかな?」
「それはやはり、食らえばそのまま死に繋がりやすい状態異常耐性だろう。【毒耐性】【睡眠耐性】【麻痺耐性】【石化耐性】の4種は常に人気があった。遅効性の【呪い耐性】も我は重視していたな」
「おぉ~……って、【呪い耐性】はまだないわ」
「弱い効果のモノを100年200年とひたすら食らい続け、そして耐えるのだ。そうすればスキルレベルは自然と伸びる」
「……あのー、人間だと耐えている間に寿命で死んでるんですけどー」
「まったく、人間は軟弱なものよ」
「……」
そういえばゼオって何歳なんだろう。
冬眠期間まで含めたらわけの分からないことになっているだろうけど、魔人の寿命って今まで気にしたこともなかったな。
「ゼオってさ、今何歳なの?」
「寝ていた期間を除けば3000は超えていると思うが、5000までは超えていない」
「その幅っ!」
「そうは言ってもだな。歳を数えて喜ぶなど、子供の時だけだろう?」
「いや、そりゃたしかにそうなんだけど……ってか、ビックリするくらい長生きだよね」
「魔人は亜人種の中でかなり長く生きる方だからな。だが、我よりカルラの方がもっと長いぞ?」
「え、そうなの?」
「あれは長いというより永いと言った方が適切だが……まぁ、その辺りはいずれ本人から直接聞いた方が良かろう」
「そっか……分かった、あんがとね!」
考えてみれば、カルラは魔力さえあればいくらでも若返ることができるし、魔力を断っても仮死状態のまま命を引き延ばすこともできる。
となれば戦闘を避け、生きようと思えばいくらでも生き永らえることもできたわけか。
(相変わらずカルラは謎が多いなぁ)
まぁ、それは追々の話だ。
今どうしても必要というわけではないのだから、本人が話したくなったら聞けばいいだけ。
大事な話なんて、きっとそんなもんだろう。
こうしてゼオから情報を仕入れた俺は再度8階に戻り、中古の革鎧に囲まれながら、様々な【付与】を付けていった。
そして翌日。
革鎧を特大籠に詰め込み、俺は鑑定屋のマグナークさんの下を訪れた。
今日の用事は『相場相談』だ。
果たしていくらくらいの値が付くモノなのか。
というか、オークション出品のルールにある推定価値1000万以上を満たすことができるのか。
プロに尋ねるべく、一つのボロい革鎧をカウンターの上へドンと置く。
「なんだこのボロい上に、ちょっと臭う汚い鎧は」
「うちの倉庫にあったやつでして。【付与】の内容次第では需要が一気に増すような話を人伝に聞いたので、こんなのはどうかなーと」
「ふむ……見るからに低位の革鎧だな。この程度なら鑑定費用は1つ2万ビーケだが、構わないか?」
「はい、大丈夫です。そのまま相場も教えてください」
「相場くらいなら無料で教えて、って、なんだこれは……? こんな不自然な組み合わせのモノが眠っていたのか?」
マグナークさんが早速鑑定してくれたのは、討伐した野盗の誰かが着ていたであろう一般的な革鎧だ。
【鑑定】を使えば『フォレストウルフの皮』となっており、これか『ピーキーボアの皮』を使った鎧がうちの倉庫には大量にあった。
どちらもEランク素材を用いた装備。
ただの衣類であれば別だが、鎧という括りで見ればほぼ最底辺に近いくらいの素材だろう。
だがしかし、付いている【付与】は一味違う。
「【麻痺耐性】レベル4か……この程度の革鎧に【付与】されているとは、あまりにも勿体ない付け方だな」
「いくらくらいになりそうです? もしオークションに出せるなら出しちゃいたいんですよね」
「それなら問題ないはずだ。1000万を多少超える程度だと思うが、【麻痺耐性】レベル4ならば買うやつはいる。ここに出入りしている武器商の連中も数人は興味を示すだろうな」
「なるほど。では、これは?」
「ん? これも似たよう――……んなっ!?」
「こっちは【石化耐性】レベル6の【付与】付きです。これならもっと価値は高いでしょう?」
「……あ、当たり前だ! 希少な【石化耐性】で、しかもレベル6だと……? この鎧に【付与】を付けたやつはバカなのか!?」
「ぐふっ」
なぜ俺がさりげなくバカ判定を受けているのか。
まぁ普通こんなことはしないだろうという組み合わせを敢えてやっているのだから、この言葉は甘んじて受け入れよう。
「相場は正直に言えば分からん。【石化耐性】レベル6というだけで、もしかしたら億に近い値まで伸びるかもしれん。多くはなさそうだが、確実に欲しいやつはいる」
「ほうほう。ではこれもオークション出品ですね。では、こんなのだとどうでしょう?」
「まだあるのか。お前の家の倉庫はいったいなんなの―――………」
「もしもーし、マグナークさーん」
「……本当に、お前のとこの倉庫はなんなのだ?」
「え?」
「【毒耐性】のレベル8なんて、長年ここで鑑定してきたワシだって一度も見たことがない……」
「じゃあこれなら億は超えそうです?」
「あ、当たり前だッ! 耐性系でも最も幅広い需要がある【毒耐性】なのだぞ!? しかもレベル8なんて、いやいや。こんなモノ、いくらになるか想像も付かん。3億か? 5億か? 武器商だけでなく、貴族連中だってこぞって欲しがるわ!」
「あ~毒殺とかありそうですもんね」
「何を呑気なこと言っている! というかおまえの家の倉庫は本当になんなのだ!?」
大騒ぎしながらも、それでも次から次へと出す見た目だけはショボイ鎧に、興奮しながら【鑑定】を続けるマグナークさん。
オークション出品『可』の判定を受けた鎧は横にいるアランさんへと流れ、そのまま確実に売れるであろう開始価格を相談しながら出品手続きへと入っていく。
オークション利用手数料は出品側のみの負担で落札代金の2%のみ。
だからこそギルド運営の表オークションは価値あるモノしか出品許可が下りない仕組みだが、それだけ金を持つ者も集まってくれるわけだからな。
【毒耐性】Lv8 【麻痺耐性】Lv4 【睡眠耐性】Lv4 【石化耐性】Lv6
【鋼の心】Lv5
【火属性耐性】Lv8 【水属性耐性】Lv6 【闇属性耐性】Lv6 【雷属性耐性】Lv6 【氷属性耐性】Lv5 【土属性耐性】Lv4 【風属性耐性】Lv6
いくつか目立ち過ぎて大問題になりそうなスキルだったり、逆に底辺装備では意味がないなと思った耐性スキルは省いたが。
それらを除く12点を今回出品したので、果たしていくらになるのか。
うははっ! 今から楽しみでしょうがないな!
【付与】されたスキルのレベルは高いが、その装備は野盗連中から得た臭い最底辺鎧なのだから、仮にバラまいたところで俺個人の障害に繋がるとは思えない。
放っておいてもこんなボロ装備長くは保たないだろうし、『修復不可』判定になれば【付与】も勝手に消滅してくれる。
ある程度値が落ち着けば需要の高いモノに絞ったっていいし、少しだけ防具の質を上げてもいいわけだし……
ショボい装備を提供してくれる悪党達は尽きることがないので、仕入れ原価0ビーケ、【付与】費用0ビーケの超高純利商売は末永く続けることができるだろう。
『 絶(・) 対(・) に(・) 本(・) 命(・) に(・) は(・) な(・) り(・) 得(・) ぬ(・) 装(・) 備(・) 』で、特にマリーを筆頭としたお金持ちにはどんどんお金を吐き出してほしいものである。
(あとは俺が出品しているという事実を、上手く隠せるかどうかかなぁ……)
そんなことを思いながら二人に一応の口留めをお願いし、俺は今日中のゴール目指してダンジョン深部へと潜っていった。