軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

290話 受け入れる覚悟

(【暗器術】とか、何者か知らんけどあのじいさんナイスだわ~)

新スキルをゲットして、ニッコニコしながら血だらけの床を拭く俺。

壊しはしなかったものの、やり方が悪くだいぶ床を汚してしまった。

あの時の最良はなんだったのか……【雷魔法】で感電? それとも【水魔法】で溺死?

ん~まだまだスキルの幅と応用力が足りなさすぎるな。

悪党からも学べることは多いし、もっともっと精進しなくては。

「あ、あのーロキ殿? そんなことまでされなくてもいいのだが……?」

「そ、そうだよ! この家を救ってくれたんだし、こんなことくらい私らがやるって!」

ラッド君と恰幅の良いおばちゃん――ラーベラさんはそう言うも、俺はすぐに首を振る。

「いやいや、始末の付け方に問題がありましたからね。やらかしたツケは自分で背負わないと学びませんから」

「えぇぇ……ちなみに、先ほど外に連れていった者達も含めて、死体はどこに……?」

「あぁ、町中も含めて死体は全部回収してます。ハンターなど一部を除けば相当刺激が強いでしょうから」

よーし、こんなもんでいいだろう。

またラッド君が母上と謎の交信してるけど、こちとらそろそろ拠点に戻って、スキルの<New>チェックやら戦利品チェックをしたいのだ。

はよはよと、背中を押すように屋敷内の各部屋へ。

当然屋敷内はラッド君がいた頃と比べて様変わりしており、一応お礼であり戦利品ということで、囲いの女や謎の無駄に強い執事など、不要な私物は丸ごと部屋を空にする勢いで『収納』していく。

魔力回復量増加の丸薬も服用済み。

数百体の死体なんざ屁でもないくらいにまだまだ『収納』可能だ。

スキル収集ももちろん楽しいが、この手の戦利品回収も楽し過ぎてウキウキが止まらない。

一通りの部屋を回り、しかし目的の『お金』が見当たらないため、最後にもう一度アシューが一番使用していたという部屋へ。

ここもラーベラさん曰く、ほぼ全ての家具や調度品が、質のいいモノへ替えられているらしい。

しかし、それでも普通だ。

この部屋に金庫のような存在は見当たらないし、【探査】でもそれらしい反応はない。

他にも特区内に建物はあるが……まさか普段自分がいないような場所に隠すか?

あの狡猾で、仲間を仲間とも思っていないような男が、自分の手が届く範囲に大金を置かないというのはどうにもシックリこない。

「ラッド君、この屋敷にこれ以上の部屋はないんですよね?」

「あぁ、間違いなく無い。私が幽閉されている間に、新しい部屋が造られていれば別だが」

「そんなことをすれば、さすがに毎日ここで仕事していた私達が気付いてるさ」

「ですよねぇ。となると、やっぱりこの部屋が一番怪しいんですけど……調度品以外にも、何か貴族の視点だから分かる違和感とかありません?」

「そうだな。あとは――」

見渡しながら、必死に何かを見つけようとするラッド君。

その顔は明らかに焦りの色が滲んでいる。

間違いなく本当に知らないのだろうし、見つからなくて一番困るのもラッド君自身。

いくら家督を継ごうと、金が無ければ何もできない。

「アシューは少なくとも昨年の税を、父か兄に成り代わって国に納めているはずなのだ。だから間違いなくある。金はどこかにある、はずなのだが……」

「あの!」

そんな中、ビシッと右手を伸ばしながら声を上げたのは、最初にラッド君を庇った女性――アンリさんだった。

「違和感というか、以前の執務室は3階でしたよね?」

「ん? あぁ確かに、父上は3階だったが、そうかここは2階か」

「……移動した理由は聞いてます?」

「いちいち上るのが面倒とか、そんな話を誰かが言っていたのは聞いたことがあるけど」

外仕事が担当だったのか、身体中に草をくっつけたサイラル少年の言葉に思考を巡らすも、全然ヒントになっていないような気がしてならない……

理由はまぁ納得できちゃうし、何より3階が1階に替わるなら意味も分かるが、2階ということなら環境はほとんど変わらない。

上下左右に部屋があり、妙な隙間があるわけでもなく、秘密の隠し部屋なんて造れないことを逆に証明してしまっている。

(物理的に部屋の壁を細工するような場所は無し……窓の外は草や木の生えた斜面だが、穴開け職人の俺から見ても違和感が無い。というより、穴を空けても【飛行】持ちじゃなきゃ相当しんどい)

もっと窓と斜面の距離が近ければ、その中に秘密の空洞をっていう俺的な案も出てくるけど、10メートル以上も離れてるんじゃさすがにないだろう。

もっと地面に近いところなら――――んん?

「アシューがお金の詰まってそうな革袋を、自室に持ち帰る姿は見たことあるんですよね?」

「何回もあるね」

「あります」

「大事そうに抱えてたな」

「では、お金を持ち出す姿は?」

「言われてみれば、そっちは見たことないね」

「同じく」

「俺も見たことがない」

「……」

3階じゃなく2階を選んだ理由。

それがもし【跳躍】で行き来できる範囲だとすれば、2階にわざわざ降りた理由は説明がつく。

思わず窓から飛び降り、一旦外へ。

周囲を見渡せば、移動したアシューの部屋だけ、真下は大きな風呂場になっていて、ちょうど窓が存在していなかった。

誰にも見られないことが前提であれば、これも成立する。

となれば窓のある左右にもろくに移動できず、建物からも離れられず、それでいて隠せるとなればこの付近の足元だけ。

地面を見れば目立つ雑草などは生えていない、栄養分など無さそうな砂に近い土があるだけだ。

昔やったゲームならば、こんな建物の裏に隠し階段があったなと思いながら、【風魔法】で土を掃けば。

ははっ。

たまにはレトロなゲーム知識も役立つもんだな。

2階の窓から身を乗り出していた4人に向かって思わず叫ぶ。

「隠し部屋発見!」

作りは簡素なもんだ。

自分が近いモノをよく作るんだから、すぐに理解できる。

隠し部屋は土をある程度どかしたら見えてくる木蓋の先にあり、斜めに延びた穴を魔法で照らしながら進めば、周囲を石の壁で覆われた空間が登場した。

位置的には斜面の続く崖の下。

ただ斜面を横に掘るくらいじゃ辿り着けない構造だ。

アシューは杖を持っていたし、自前の【土魔法】で自分だけが知る秘密の空間を作り上げていたんだろう。

そういうの、まったく嫌いじゃない。

と同時に、アシューとの共通項がちょいちょい出てきて、思わず渋い顔をしてしまう。

横にいる4人の反応も様々だな。

「これはまた、凄い光景だね……」

「ラッド様! ま、眩しいくらいですよ!」

「あ、お金以外のモノもあるぞ!?」

「こ、これほどまでに奪ってきたのか、あの男は……ッ!」

驚きも、興奮も、好奇も、怒りも、どんな感情が出たっておかしなことじゃない。

それほどまでに、ここは普通じゃない空間だった。

広がる10畳ほどの部屋には多くの石で作られた箱が並べられており、中身は目に付くモノ全てがパンパンに詰まった大量のお金。

大金貨や金貨、銀貨など種別がしっかり分けられており、中には白金貨の詰まった箱まで存在した。

「こっちは全部お金ですね」

「こちらは貴金属だな。しかしこれは、相当な量だぞ」

いったい誰から奪ったのか、そんなことを今考えたところで答えも出ない。

中身を覗けば様々な色の宝石類が目立つ純粋な装飾品で、普段あまり目にすることがないからこそ、その煌びやかさに目を奪われてしまう。

でも、それだけだな。

あとは逆に存在感を放っていた例の結界魔道具が置かれていたくらい。

小さく価値のあるモノしか運べなかったという理由はあるのだろうが、俺の求める『本』や『上位の素材』。

それにあれば交渉してでも欲しいと思っていた『魔宝石』なんかは見当たらなかった。

「ここからさらに繋がる隠し部屋も無さそうですし、こんなもんですかね」

「そうだな。いくらなのか想像もつかないが、これだけの資産があれば町の再興にも十分な金を回せるはずだ。ロキ殿がこの場所を見つけてくれたおかげ、感謝してもしきれない。それでこの金の配分についてだが――」

「あぁ、そこら辺は気にしなくていいですよ。ここからが一番大変でしょうしね」

「「「「え?」」」」

なんとなしに言った言葉だったが、よほど予想外だったのか。

ラッド君だけじゃなく、使用人の3人まで驚きの表情を浮かべている。

一瞬、そんなおかしいか? って思ったけど、このお金って町民から搾取や徴収をして貯めた貯金のようなものだし、それなら多くはこの町のモノだろう。

俺からしたら3000万ビーケという依頼を見てここに来ているわけだし、それプラスで死んだ使用人達の部屋にあったモノを、それこそ分別関係なく根こそぎ頂いているわけだから、特に損をしたという感覚もない。

欲しいモノがあれば遠慮なく強請るけど、普通の宝石類が付いた装飾品なんて興味ないしなぁ……

「い、いやいやいや、それはおかしいだろう?」

「そ、そうだよ。私はラッド様の味方だけど、それでもさすがにちょっとねぇ。こちらに都合が良過ぎるんじゃないかい?」

「うん。ロキさんがいないと、この場所も絶対に見つけられなかったと思うし……」

「というかそれ以前の問題で、ラッド様が地下室に閉じ込められたままだったよな?」

なんか、変だな。

なぜ俺が責められるような視線を浴びなければいけないんだ。

町の運営にいくら費用がかかるなんて分からないし、そんな状況で「それじゃとりあえず1割くらい貰っていきますね~」なんて言えるわけもない。

どう考えたってこの4人でやっていけるわけないんだから、これから大量の人を雇うお金だって掛かるだろうし……

「このままでは恩を仇で返すようなもの。せめて2割、いや3割くらいは――」

「いやいや、それで町がボロボロのままじゃ僕も気分悪いですし……なら、こうしません?」

「?」

「今は何をするにしても、現金の方が一番都合良いですよね?」

「それは、まぁそうだろうな」

「でしたらこの屋敷の部屋みたいに、他の悪党共が抱えていた資産も僕が回収していって良いですか? 弟のアスクが住んでいた家の私物とか、徴収されて運ばれていた倉庫の中身とか。あ、町の方は時間がないので、そこまで積極的にはやれないと思います」

「モノで良いなら構わないが……換金に手間が掛かるのではないか?」

「はっはっは~ラッド君は分かってないですね。その手間が醍醐味なんですよ。お金だけポンと渡されたってつまらないでしょう?」

「「「「???」」」」

全員綺麗に首を捻っているけど、MMO好きならたぶん俺寄りの考えになるやつだっているはずなのだ。

プレイヤー引退で資産丸ごと譲渡とか、それだけで内心ワクワクが止まらなくなる。

まぁ想像するだけで、ボッチプレイな俺にはそんな知り合い一人もおりませんでしたが。

その後は一旦屋敷に戻り、現在領兵が町の方でやっていることも伝えておく。

非戦闘員の一味がまだ町の中に潜伏していること。

それらを奴隷化した領兵が探し集めていること。

その領兵も、町の衛兵も、悪党の側に回ってしまっていたことなど。

「となると、まずは兵をどうにかしなければ……」

「さすがに戦力がまったく無いのはマズいでしょうからね。なので一旦は奴隷の主をラッド君に切り替えておきますよ」

「無知で済まない。そんなことも可能なのか?」

「えぇ、と言ってもそんなに行動を縛れるわけではないので、『主に危害を加えられない』『ギニエの町を守る』『残党を探し出す』くらいが妥当かと思いますが。あとはハンターギルドも手を貸してくれそうなので、ギルマスに一応頼んでおきます」

「本当に、何から何まですまない……」

「そんなことないですよ? 奴隷化だって永続ではなく一時的なものですしね。それにラッド君には、代わりにやってもらいたいことだってあるんですから」

「どんなことだ?」

「中央に集めさせている残党の処理です。そちらは新しい領主となるラッド君にお任せします」

「そうか……そうだな。了解した」

敢えてどう処理するかは聞かない。

聞けば余計な欲が出てしまうし、この『熱』は一旦冷まさないとさすがにマズい。

そんな気がする。

またそのうち顔を出すと伝え、特区内にある建物の中身を、元からこの家にありそうだったモノ以外は片っ端から収納。

領兵達の家も存在していたが、そちらも必要最低限のモノを残して収納してやった。

あれはたまたま生かしているだけで、本来はどう考えても執行対象だからな。

そして4つある大型倉庫は、一応ラッド君が責任を持って火葬するらしいので、回収と同時に悪党共の死体をここで放出。

お金やらポーション類に鎧など、剥げるモノは全て剥いでいき、逆にすぐ悪くなりそうな肉などの食料は、死体とは別の倉庫にまとめて置いておく。

大量にある猫の肉とか、回収したところでそんな食べないし、これが町の備蓄食料にでもなってたらさすがにマズいからね。

そして領兵の奴隷術を書き換えながら、【探査】で引っ掛かった『一味の家』にご訪問。

中で布団被って隠れているやつは摘まみ出し、家の中身は当然の如く全収納していった。

推定『白』の家族がいるところはさすがに収納しなかったが、領兵の契約書き換えが全員完了するまではひたすらこの流れを繰り返し――

夕暮れ時。

魔力がほとんど回復しなくなったところでハンターギルドへ。

傭兵ギルドの依頼は完了したことに加え、ノグマイア家の生き残りがラッド君一人であったこと。

それでも町の復興に向けて動くようなので、力になってあげてほしい旨を伝えておく。

念のため確認してもホレスさん含め、ギルド内はもう『白』だけだし、妙にやる気になっているのでこれで状況はもう少しマシになるはずだ。

これで仕事は終了。

最後に町の中央へ寄り、集められていた一味の残党を眺める。

数は俺が強制連行したこともあって既に50人以上おり、4名の領兵が見張っているも、場はかなりピリピリとした様子。

周囲の野次馬達も、なぜここに人が集められているのか。

集められた人達の共通点から、その理由に見当が付き始めているのだろう。

事情が知れ渡れば物陰から出てきて、そのまま魔女裁判でもやり兼ねない雰囲気を感じてしまう。

それは集められた残党も理解しているようで――

中には俺を視界に捉えただけで、泣き崩れる者までいる始末だった。

(ははっ、まるで俺が悪党だな……まぁ自分が嫌いなことはしていないってだけで、あながち間違っちゃいないか)

人を大量に殺し、後悔することなくその結果を想像しては悦に入る。

悪党を狙い撃ちしているからまだ許されているが、やっていることはもう、まともな人のすることではない。

そもそも俺はこの町を救うためではなく、『戦果』が美味しそうだと思って来ているのだから、この時点でまったく善人の思考じゃ――

「あ、あ、あの!」

「?」

声の方へ振り向けば、そこには母親であろう女性と共に、見覚えのある少年が立っていた。

恐怖が先立つのか足は小刻みに震えているが、それでも拳を握り、ジッと俺の方を見据えている。

「た、助けてくれたのにごめんなさい! 酷いこと言って、本当にごめんなさい!!」

この言葉に、俺は改めてゆっくりと目を瞑った。

この少年にとっては、凄く勇気のいることだったのだろう。

でも、今更謝る必要もないんだ。

「気にしなくて良いよ。結果的に多くの悪党が消えたというだけで、やっていることは人殺しなんだから」

「え?」

「それに、君の言葉で目が覚めたというか……覚悟も決まったから、実は感謝しているくらいなんだ」

「ど、どういうこと……?」

「反省し、謝ることができるならきっと良い大人になれるはず。君は『悪党』にならないでね」

それだけ言い残し、俺は人ごみの中へ。

もうこれからは、人前でこの黒い魔力を必要以上に隠すこともないだろう。

反応は人それぞれ。

ラッド君達みたいに、明らかに見たはずなのに気にしないでいてくれる人達もいれば、反応して警戒する人、距離を置く人だっているはずだ。

それでも使わなくてはいけない場面で躊躇い、何かを失う方がよほど怖い。

必要があれば使い、その反応を受け入れる。

もし魔物と判断して襲い掛かってくるならば、その時は俺も敵と判断して斬ればいいだけのこと。

(ちゃんと理解してくれている人達がいる。ならば、それでいい)

そう心に決め、俺は拠点へと転移した。