軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

270話 偵察

あっさりAランクハンターになれてしまった翌日。

主要な素材の卸先はどこもパンク中ということで、俺はとうとう偵察も兼ねて地下深部を探索することにした。

今までも谷の宝探しをしながら徐々に徐々に奥へと進んでいたが、やはりというか奥に行くほど戦果は乏しく、それだけ人が入っていないことは容易に理解できる。

まぁそれでも多少は見つかるので一応探すわけだけど、時短も兼ねて谷底をサラッと確認する程度。

道中の魔物もほどほどに倒しながら内部へ侵入していけば、長く続いた下り坂の先に、経験上 こ(・) れ(・) は(・) 怪(・) し(・) 過(・) ぎ(・) る(・) とすぐに分かる空間が広がっていた。

【飛行】しているからここまであっさり辿り着けたが、光に照らされた地面を見ていても歩ける道は壁際の一部だったりで足場も悪い。

レイド戦で団体移動となれば、ヴァラカンのように暑さで苦しむ程度では済まず、向かう途中で死者が出る可能性も十分にありそうなほど劣悪な地形だ。

あからさまな空間の手前で内部を眺めるも、生物は一切確認できない。

ならば目視できるまで進むのみ。

全力で警戒しながらドーム型空間の中に入れば、そこでようやくボスフィールドの全容を把握することができた。

(これはまた、随分と恐ろしい地形だな……)

ドームというより、この部屋は光源が無ければ完全に真っ暗闇の球体に近い。

俺が立つ唯一の入り口はその球体構造の丁度真ん中辺りに位置し、しかし3メートルも進めば先は大きな地底湖が広がっていた。

向かいの壁まで400~500メートルくらいはありそうな大部屋だが、その周囲を同様に3メートル程度の平坦な地面が僅かに囲う程度。

部屋の大半は深い青色をした地底湖で占められている。

そしてその地底湖には、明らかにボスと分かるほど巨大で不気味な陰影が優雅に泳いでいた。

大きさは……どのくらいだ?

拠点付近の黒象よりも大きそうだが、水中だといまいち判断がつかない。

それに気になることは他にもある。

湖の中も、そして浸かっていない部屋の上半分も。

入り口が1メートル程度の小穴が無数に空いており、あからさまに怪しい雰囲気を醸し出していた。

『窒息させられる』

ギルドのおばちゃんが言っていた言葉を思い出し、思わず来た道を振り返れば、そこは先ほどまで長く続いていた下り坂。

この穴は人を救うために存在するのか、それとも殺しきるために存在するのか、果たしてどちらなのだろうか……?

(……でも、俺なら大丈夫だ。俺だけなら)

すぐに逃げられる準備だけはしつつ、上空を飛びながらボスの陰影を再度捉える。

深く、深呼吸をし、そのまま何があっても耐えられるように呼吸を止め――

――【洞察】――

敵の強さを、測る。

「…………ぷはぁ。ちょっと負けてる、くらいか?」

感覚で言えば以前樹海で戦ったロキッシュの時と近いような気はする。

未だに【洞察】はどう強さを判断しているのかさっぱり理解できていないけど、総毛立ち、腰を抜かすほどの魔物ではなかった。

スキル構成も覗ける通常ボスなのだから、キングアントよりヴァラカンに近い水準であることは間違いない。

(ならば、いける。いけるはずだ。死亡率が高過ぎるなら一人でなんとかするしかないけど……見たこともないスキルは―――3種か)

まぁ、焦る必要はない。

長年危険だからと放置されているボスなのだ。

まずはパルメラの拠点周りで、このボス戦に使えそうな重要スキルをレベル8まで上げ、そこから改めて挑む。

そう判断し、どうせ拠点に戻るならと、大量にお土産の魔物素材を収納した上で俺は帰還した。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

「ほいカルラ、大量に素材調達してきたから任せたよ~」

「ぴゃぁああああ!! 竜ばっかり! これ全部飲んでいいの!?」

「カルラとゼオしか血は飲まないから好きにしていいよ。あ、二人とも【薬学】なんて強くないよね?」

「ボクは全然だし、師匠も薬作ってる姿は見たことないかな」

「ならしょうがないか。あーでも一応1匹だけ……」

そう言いながらぶった斬ったクエレブレを自分で吊るし、適当に作った石の壺に血を溜めておく。

もしかしたらメイちゃんパパとママが、この血で何か作れるかもしれないからね。

どうせ大量に肉が余るわけだし、お裾分けついでに試しで持っていってみよう。

大好物とあってか狂ったように解体を始めたカルラに後は任せ、そのまま裏庭の野豚に屋台で買ったトウモロコシをあげたら資材倉庫へ。

するとロッジが倉庫の隅っこで作業をしており、ゼオは少し離れたところで棚を作っていた。

「ただいま~どう? 順調?」

「おう、おかえり。2個目の炉も問題ないぞ。もう溶かし始めてる」

ロッジはどうやら隅っこが好きらしく、倉庫の角に作業用プライベート空間を作っていた。

ゼオと二人で作ったという炉は主に金属類を溶かすように作った大型タイプらしく、今は野盗達の戦利品で大量に得られた鉄製武器を実験も兼ねて溶かしまくっているらしい。

「送風魔道具も活躍してるっぽいね」

「おまえの『白い火』とこいつらを組み合わせりゃ、大概の鉱物は弄れんだろ。倉庫ん中も明るくなったし……あ、『銅』は売ってたか?」

そう言われたので、収納していた1個の塊を取り出す。

ロッジ的には欲しい素材のようで、しかしこの倉庫内には全然なかったらしい。

「鉱石専門のインゴット屋さんで売ってたから多めに買っておいたよ。宝探しの装備は今日の回収分で一旦打ち止めだろうけど、クオイツの魔物も結構持って帰ってきたから、そのうちカルラが素材をこっちに持ってくると思う」

「よっしゃ助かるぜ!」

手の届く場所に樽があり、酒飲みながら作業をしてるのは衝撃的だけど、顔が赤い程度でベロンベロンという感じはまったくないからな。

それに1本のAランク武器を作ってもらうだけでも、正規依頼ならロズベリアで3000万ビーケ、どんなに安くても1000万ビーケくらいはかかるはずなのだ。

それをタダでやってもらうわけなので、酒代なんて安いものだし、まともなモノが出来上がるなら好きにしてくれって話である。

あとは――……

「ゼオ、木材足りそう?」

「まだまだ大丈夫だが、外で木炭も作り始めたからな。もう少し余裕をもって確保した方がいいだろう」

「んじゃ『上』が大量に余ってるから調達してくるよ。今日はそのまま向こうでご飯食べてきちゃうから、ゼオも竜の血は好きに飲んでいいからね。今日いっぱい獲ってきてカルラが今捌いてるから」

「ほぉ、今日は飲み放題か。アレは力が漲るような気がするのだ」

本人は気がするだけと言っているけど、実際は何が切っ掛けになるかは分からないからな。

生命の源なんていうくらいなのだから、明らかに生命力が落ちているように見えるゼオにはガブガブいっちゃってほしい。

ロッジも弱いわけではないし、せめてゼオがここの魔物で即死しないぐらいの強さに戻ってくれれば俺も一安心ってもんである。

上で山のようになった木材の一部を資材倉庫に運んだら、俺は上台地の食卓へ。

料理の練習をしていたアリシアが皆を呼んでくれるので、俺はその間にロズベリアで調達してきた料理を机の上に並べる。

もう何を我慢してでも【空間魔法】に全振りして本当に良かった。

なんせ食べ物が出来立てホヤホヤの温かいまま、皆が食べたそうなモノをいくらでも買ってこられるのだ。

10日に1回程度と決めた、全員での報告を兼ねたお食事会。

女神様達からは報告というより下界観光の感想ばかりだったけど、俺は俺で準備が整い次第、片手間程度のギルド間運搬作業をすることが決定したと伝えれば、リステはすぐに意味を理解したようで食事をする手が止まっていた。

多少は大陸中央部のカンフル剤になるのかもしれないし、多少程度で済む話じゃなくなるのかもしれない。

それはやってみなければ分からないことだが……

まぁ既製品装備や鉱石類なんかも運んでもらいたいという話だったので、不定期にということであれば全体でマイナスになることはたぶんないだろう。

俺が脱税容疑で捕まらないよう、ハンターギルドが間に入って上手くやってくれることを祈るばかりだ。

あとは、一応これも伝えておくか。

「ボスを発見したから、もうちょっと修行したら挑んでくる」

すると今度は、元気になって活動を再開させているリルの動きがピタリと止まる。

「どちらだ?」

キングアント戦を経験したからこそ出てくる言葉。

だから、

「過去に討伐履歴もちゃんとある表のボスだよ。1匹裏ボスっぽいやつの出現パターンは掴めてるけど、そっちは身の丈弁えて挑まないようにしてるから安心して」

「そうか……でも、だな? 大丈夫なのか?」

9割は心配してくれての言葉だと思う。

でもちょっとだけ、参戦したいという気持ちも垣間見えてしまうためか、この言葉に俺ではなくリアが釘を刺す。

「ロキが人種にはめられてた時の魔物と同じようなモノでしょ?」

「そうそう。狩場のランクがこっちは『A』だから、アレよりはちょっと強いっぽいけど、ちょうど今の俺と同じくらいの感覚なんだよね」

「なら安易に手を貸すべきじゃない。ロキの成長を妨げることになるし、甘えにも繋がる」

「あらやだ……リアが凄くお姉さんに見えるんだけど!?」

「お、お姉さんだとーッ!?」

「フフン」

「あー! 私も賛成賛成賛成ーーっ! 極力自分で解決させるから意味があるんだよね! たぶんそういうことだよね!?」

「それ正解っ! さすがフェリン!」

「えへへ~」

「しかし、もし何かあっても、もう生き返らせることは難しいのですよ~?」

「それはまぁ、理解もしておりましてですね」

フィーリルは魔物討伐反対派だからなぁ……

死ぬことのない普通の狩りなら何も言わないけど、ボス戦となるとやはり難色を示すか。

でも、今なら――

「ロキ君なら大丈夫でしょう? 勝てる勝てないは別として、いざとなれば空間転移ができるのですから、ね?」

「うん。アリシアの言う通りで、マズいと思ったらすぐに逃げるから大丈夫だよ。そんな死ぬスレスレまで粘るつもりもないし」

「ならばいいのですが、それでも心配ですねぇ~」

「そういう強いボスを倒して、自分も強くなってくもんだからさ」

冒険とはそういうものだ。

ボスにビビっていたら、いつまで経っても倒した恩恵に 与(あずか) ることができない。

俺はボスの所有するスキルが欲しいし、素材だってきっとそこから装備が――――ん??

「……やっべ、忘れてた」

「「「「「「?」」」」」」

そうだよ、何やってんだよ。

《クオイツ竜葬山地》はAランク狩場で、そこのボスとなればランクはたぶんS相当か、もしかしたらさらに上。

ロッジのスキルレベル次第では、上手く倒せたところで宝の持ち腐れになってしまう。

(これは、早急に準備だけでもしておかないと……)

そんなことを考えながら、ほぼ雑談しかしていない賑やかな食事会は、平和に過ぎてゆくのだった。