軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

263話 不器用な人

裏通りに面した相変わらずのボロい店。

建付けの悪いドアを鳴らしながら中に入れば、例のドワーフおじさんが何かの素材を奥の机に並べていた。

「こんにちはー」

「ぬ? いつぞやの非常識な小僧か。どうした、装備の補修か?」

開口一番文句を言いながらも、舐め回すように俺の装備を見るおじさん。

だが今回の目的はそっちじゃないのだ。

もっとデカい依頼をお願いしたいと、カウンターに身を乗り出し目的を告げる。

「唐突ですけど、おじさんはどこまでの装備を作れますか?」

「なんだ藪から棒に。Bランク程度の装備ならなんでも作ってやるが……まさか、Bランクより上の装備を俺に作れってんじゃないだろうな?」

「もしできるならお願いしたいと、そう思って声を掛けさせてもらってます」

「なぜだ?」

「え?」

食い気味な切り返しにビビる俺。

理由を問われるとは思っていなかった。

「なぜ、俺に声を掛けた? 俺は作れるなんて一言も言ってないし、そもそもここはローエンフォート。Bランク狩場にAランク以上の装備なんざ必要無いだろう?」

「なぜって、そりゃ装備は命預ける相棒のようなもんですし、どうせなら信用できる人に作ってもらいたいじゃないですか。それに差し出がましいですけど、売り上げに貢献したいっていうのもありますしね」

そう言って天井を見上げれば、天板には大きな雨漏りの染みが広がっていた。

すぐに崩れるというほどじゃないだろうけど、ゼオの建てたログハウスの方が明らかに立派で、この人の経営状況が凄く心配になってくる。

お金がないわけじゃないだろうに、いったいこの人はどこに資金を回しているのか。

「おまえ、もしかして『バルニール』に行ってきたのか?」

「えぇ」

「そうか……繁盛してたか?」

「建物はまぁ、大きくて綺麗でしたね。カウンターには3人の受付担当女性がいましたし、四頭工匠なんていう自画像っぽいモノまで壁に掛けられてましたよ」

「チッ、毒されやがって」

「……」

やっぱり、これは正解だろうな。

でもそれは半分で、もしかしたら――

「毒されたって、誰かの入れ知恵でもありました?」

「……言う通りにすれば儲かるってな。プロデュースしてやるだとか、わけわかんねーこと言いやがってあの女……ッ!」

はぁ……

もうこの答えだけでおおよそは分かる。

「俺達が金に欲を出し過ぎれば、ハンター達が無理して死にやすくなるってのをなんにも分かっちゃいねぇ!」

どうせまた、あの女だ。

裏で動いていたのはマリーとかいう転生者だろう。

「それで、プロデュース料とでも言って売り上げの一部を抜いているってわけですか」

「俺は拒否したから知らねーよ。んな難しいことも分からねーしな。分かってんのは提案に乗らなかった一部のやつらは店が燃えて、しょうがなくどっかに間借りしてもAランク以上の鉱石や希少素材がまともに仕入れられなくなったってことくらいだ」

「くらいって……だから、ここに移られたんですか?」

以前は踏み込まなかった部分だが、今は逆に聞くべき時だ。

「ふん、ここなら余計な邪魔なんてされずに装備を作れっからな。Bランク相当のミスリルならまだ手に入るし、おまえみたいに素材持ち込みなら防具だって他の鍛冶師よりも早く作ってやれる」

この言葉は、たしかに真実なのだろう。

だが……ドワーフのおじさんは言い終わった後も、ジッと自らの分厚い手を見つめていた。

「やっぱり、僕はあなたに作ってもらいたいですね。話し振りからすると、素材さえあればAランク装備も作れますよね?」

「……素材があればな」

「ならば、一つご提案なんですが――……」

成功するかは分からない。

でもたった一つ、条件さえクリアできれば可能性のある方法だ。

提案をした時、たしかにこのおじさん――『ロッジ』と名乗るドワーフの目の色が変わった。

やはり、この人は望んでここにいるわけじゃない。

できれば自らの手で、より上位の装備を作りたいと思っていて――そんな向上心がありながらも、我を通したために居場所を失くしてしまった不器用な人なのだろう。

そんな人だからこそ、俺は俺で協力できる部分はしてあげたくて。

どうせなら、俺やカルラの装備を一手に――

そんな言葉が出かかるも、まだ何も成していないのでは気が早いと、グッと堪えて言葉を飲み込む。

それは無事、成功した時にとっておくべき言葉。

ならば、まずは素材だ。

俺は「また来ます」と伝え、すぐに狩り場へと向かった。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

ロズベリアを囲う追加外壁から北に数km。

日本のいろは坂を思い起こすクネクネした山道を眼下に収めながら上空を移動し、俺は《クオイツ竜葬山地》へ到着した。

高い樹木は無く、大きな岩と芝生のような下草だけが茂った高原という印象の強い場所だ。

決して足元は平坦じゃないが、まだ地に足をつけて狩れる場所が多くあり、複数のパーティがロズベリアに近い場所を陣取り上空の魔物と戦っている。

地形的にはちょうどこの辺りが山中の谷になっており、魔物は両側の高い山から餌を求めてるように飛来していた。

そして、ポツポツと上空からも見える黒い穴。

あれが下層となる『地下』への入り口になるのだろう。

上空を狩場に選んだ人達が踏み外して落ちるということはなさそうだが、緑や茶色の山肌の中に、大小いくつも見える黒いソレは、大きさ次第で山が大きく口を開けているように見えてしまい薄気味が悪い。

そして狩り場の入り口付近には多くの人だかりが。

見ているとハンター自ら素材を運ぶ組と、運び専用の人間を雇っている組とがあるようで、運び専用の人達は1~2体のやや少量と言える素材を積んでは、山の傾斜部分まで広がる追加外壁で囲われた『特区』と呼ばれる場所へ運んでいる。

誰も彼もがやっていないのは、運び屋との信頼関係が築けていないと成り立たないやり方だからだろうな。

まぁ俺にとってはどうでもいいが。

――【魔力感知】――

敢えて人のいない左右の山へ【飛行】し、湧いてくる竜種を片っ端からぶった斬る。

初めてのAランク狩場であればもっと緊張もしていただろうけど、もう散々パルメラの奥地でAランク魔物と戦っているし、空中戦も飽きるくらいにはやっているわけで。

今更ここで苦戦するとは思っておらず、面倒な攻撃手段を持っているなーとは思いつつもサクサク首を飛ばし、そのまま上空で収納していく。

宙に浮く『異物』は目立つのだろう。

特に近接主体のワイバーンは、目の前まで近寄ってきて捕食しようとしてくれるので凄くありがたい。

たまに【衝撃波】を放ってくるけど、空中にいる俺に対してじゃ、「あ~れ~」ってちょっと吹き飛ばされるだけだしね。

でも地上で頑張っている人達は大変だろうなぁ。

体長5メートルほどのデカい亜竜が爪を立てながら急速下降し、地表スレスレで【衝撃波】をブチかましてくるのだ。

盾を構えるタンカーも体勢を崩されたりしているし、吹き飛ばされた後衛なんかはそのまま上空へ連れ去られそうになっているので、降りてくる度にヒヤヒヤしながら迎撃をしていかないといけない。

(でも俺はウィングドラゴンの方がめんどくさいなぁ……)

地上で対応する魔物は、ウィングドラゴンとワイバーンの2種類のみ。

鱗の有る無しや大きさの違いはあるものの、どちらも緑色の体表をした似たような魔物だ。

だが体長3メートルほどのウィングドラゴンは近寄ってきてくれない。

遠くからそこそこ強烈な【風魔法】をひたすら放ってくるので、これまた地上で狩っている人達は相当ウザったい魔物だろう。

なんせ遠距離手段だけで仕留めなければいけないのだ。

おまけに放たれるのは目視困難な風の刃なので、目だけに頼れば身体を切り刻まれるし、竜巻のような拘束を伴う魔法も使ってくる。

これで巻き上げられているハンターもいたので、ここで狩るなら【魔力感知】は必須級スキル。

逆にあれば見えない【風魔法】の動きを目で捉えられるので、事前に避けるなどの対策も容易になってくる。

「おーし、これで50体と。んーまだいけるかな?」

見ているのは1分間の魔力消費量だ。

取得すれば世界が完全に変わる、ウルトラ神スキル【空間魔法】の魔力消費量を小まめに確認していく。

パルメラでしっかり地力を上げたため、今の俺は1分間に15くらいは魔力が自動回復している。

この魔力消費分を相殺し、さらに1分間で50ほどの魔力消費が発生するには、どれほどの収納量になってくるのか。

今はその実験も兼ねていた。

できれば素材は1体丸ごとの方が望ましいと言われているのだ。

まずはハンターギルドの解体場で正規の買い取りを。

次にパンクしたら、特区と呼ばれる狩場から非常に近い危険エリアで、素材買取だけを専門に扱うちょっと買取値段の安いお店に持ち込みを。

そしてここでもパンクすれば、ファルメンタのオルグさんのところに持っていけば、あの人ならAランク素材だし喜んでなんとかしてくれるだろう。

ミズチだけはちょっと安いが、1体おおよそ80万~250万ビーケの買い取りだ。

【飛行】だけの時であれば、せいぜい重さを感じない荷運びを活用したとしても1日5000万ビーケくらいが限界な気もするけど、神スキルがあれば世界は変わり、収入の桁も変わっていく。

「ふははっ! ここでギルドがもう限界と泣くまで稼ぎまくる。本の金で当面困らないように、限界まで」

やっぱりコソコソ非効率的なことをやるのは性に合わない。

遅かれ早かれバレるのならば、遠慮せずに全力で。

そう覚悟を決め、視界に入る魔物の首を片っ端から斬り落としていった。