軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

235話 監視者

旧オーベル跡地に通って6日目の朝。

「あぁ残念、緊急依頼は終わっちゃったんです?」

「え、えぇ。おかげ様で市場在庫がだいぶ回復したみたいでして……」

3日目以降は念のため朝に寄ってから狩場に向かっていたが、とうとう依頼ボードから赤枠の木板が外されてしまい、俺のボーナスタイムは終了した。

ここでのトータル収益は約3100万ビーケ。

4日半での戦果としては上々過ぎる結果だ。

あとは今日から【無属性魔法】のノルマクリアを目指して、あと1日2日ここの狩場で頑張ろう。

そんなことを思いながらいつも通り狩場へ向かい、黙々と狩り続けるも――

(またか……しかも、増えてる?)

籠が埋まり、午前の戦果を換金すべく町へ向かおうとした時、【探査】範囲の隅で何者かの気配を捉える。

初めて気づいた昨日はたまたまだった。

ふいに【飛行】を使った時、視界内で薄っすら人の動く気配――というより、点在する廃墟跡に身を隠すような動きを僅かに感じたのだ。

幽霊なのか、生身の人間なのか、そこは分からないが対象は一人、だったと思う。

そこからだ。

適度に【探査】を使用し、いくつかのワードを試しながら怪しい存在がいるかを試していた。

俺の中ではこの世界の確定ルールと思っているリポップも、広大なためか他所の狩場と比べて遅いように感じる。

だから必然的に狩りは広範囲を走り回るわけで、急に方向転換をしたり、点在している石の壁を利用して意識的に身を隠したり――

そんなことをしていると、『監視者』という探査条件の時に、【探査】範囲ギリギリで反応を捉えることができた。

つまり、何者かが間違いなく俺を監視しているのだ。

すぐに反応が外れたため、一定の距離を取りながら俺の移動に合わせてついてきているんだと思われる。

そしてその反応が、今日の午前中も何度か確認できた。

近寄ってくるわけでもなく、何か危害を加えられるわけでもないので、どうしたものかと気持ち悪さを抱えながら放っておくしかなかったわけだが……

今飛んだ時に感じた反応は、間違いなく少し前に確認した反応とは正反対の位置を示していた。

人間ならば俺でも到底無理な速度――最低二人以上いるとしか思えない。

この距離なら、レベル1程度の僅かな黒い魔力なんて見えるわけないと思うが……

(それでも埋めているお金だって心配だし、午後も続くようならいい加減動くか)

あまりにしつこいようなら対象を目視し、問題無いようなら目的くらいは問い詰めよう。

そう心に決め、俺は一度町に帰還した。

そして午後。

やはり1時間に1回程度は拾えてしまう監視者の反応に、ストレスを感じていた俺は大きく溜め息を吐いた。

「もう、我慢ならん」

――【身体強化】――【突進】――【突進】――【飛行】――『バースト』――

今までならそのまま魔物に向かうところを今回は飛び越し、一度離れた気配をすぐに捉え直してそのまま追う。

相手も初めて俺が追う姿勢を見せたからだろう。

本気で逃走を開始し始めていた。

だが、逃がさない。

地面に足をつけていると、ゴーストメナスの【地縛り】に捕まる可能性があるので、低空飛行のまま足先から小規模の【風魔法】を放つバーストを連発。

距離は少しずつ縮まっているものの、それでも今逃げている対象が"まったく弱くない"ことはこの時点ですぐに悟った。

――この相手、相当に移動が速い。

後ろ姿は尻尾があるのだから、間違いなく獣人だ。

地に足をつけないための対策か、点在する石壁を蹴り上げ立体的に動いているので、先回りがかなりしづらい。

ならば――

背中を向けているなら問題ないと、殺さない程度に進路を塞ぐイメージを作りながら即席の魔法を放つ。

「前方を塞ぎ、せき止めろ、"雷壁"」

――パンッ! パンッ! パパンッ! パンッ!

すると連続する雷が不規則に上空から落ち、想像していた通り壁のような存在となって獣人の足を止めてくれる。

霧が舞う中、回り込むように獣人の前方へ降り立てば、すぐにその獣人は両手を上げた。

「逃がさないですよ。あなたは何者で、目的はなんです?」

「ふぅ~……参った。俺が逃げられねぇとなりゃ本物だ。なぁ、異世界人」

降参した割に随分と不敵な笑みを浮かべるその獣人は、ネコ科だろうなという容姿をしており、目の瞳孔は縦に細く伸びていた。

この返答でおおよそ察しはつくも、それでも質問を繰り返す。

「返答になってませんね。あなたは何者で、目的はなんですか?」

「俺はジョルジアだ。聞いたことくらいあるだろう?」

「いえ、ありませんけど……」

んん? どこかで接点があったのか?

そう思って真剣に考えてみるも、こんな灰色と白のストライブ柄をした猫っぽい獣人は見たことがないし、名前も聞いたことがない。

「チッ……傭兵ランク35位! 爆走のジョルジアだ覚えとけッ!」

「は、はぁ。35位で、爆走……それで襲いにきたんですか? まだ昼ですけど」

なんか35位も、爆走という二つ名も、どちらもかなり微妙と思うのは俺だけだろうか。

複雑な表情を浮かべながら見つめていると、目の前の獣人は不貞腐れたような顔をして首を横に振った。

「そこまでの指示は出てねぇよ。依頼内容はおまえの動向監視と所持スキルの分析。依頼主はこの国だ」

「……ずいぶんあっさり答えましたね」

「当たり前だろ? 国が優秀な人材登用のために調査するなんてよくある話だし、別に悪いことでもない」

「あーまぁ、たしかに」

「俺だって依頼の通り遠目から監視はしていたが、直接何かをするつもりなんてなかった。理解できないスキルを持ってやがるから、近寄りたくなかったってのもあるしな」

視られて理解できないと判断されているのはまず【発火】……

そしてヴァルツ王国も、俺を異世界人と断定した上で調査に乗り出しているってわけね。

しかし、ずいぶんあっさりした獣人だなと、そう思ってしまった。

開き直りともちょっと違う、自分は悪に染まっていないと自負しているような、そんな堂々とした雰囲気を感じる。

だがそうなると解せない点も。

「三つ確認したいことがあります。まず一つ目、逃げた理由は?」

自分が悪じゃないと思うなら逃げる必要もない。逃げたということは、まだ隠している何かがある。

そう思うのは自然なことだと思うが。

「自分よりヤバそうなやつが鬼の形相で迫ってきたら、そんなのとりあえずは逃げるだろ。容赦なく殺す異世界人だっているんだ」

た、たしかにぃ~。

俺もそんな状況なら逃げるわ。

「……今、随分と余裕そうな理由は?」

「弱い部分を見せたって得になることなんて一つもねェ。それに、俺はジオール一派だ。何かあればきっちり報復してくれる」

「ん? ジオール一派?」

「おまえマジで何も知らねーのかよ? ヴァルツ王国の傭兵ランク1位。『オールランカー』にも名前が載ってるって噂のヴァルツ王国最強がうちの頭だ」

「……」

傭兵ギルドにデカデカと飾られているランキングボードを思い出す。

言われてみれば、1位にはジオールなんちゃらって名前が載っていたような。

なるほど……バックが国内1位ということもあってのこの余裕か。

目の前に立つ猫っぽい年齢不詳の兄ちゃんは、強さで言えばフィデルやペット獣人と似たような感覚だ。

となると、その親分は――うーん。

戦う気なんてないけど、そのジオール一派とやり合うのはさすがに厳しいような気がするな。

それに、『オールランカー』とは……?

その後もいくつか確認をし、聞けばなんでも答えてくれたこと。

そしてバレた以上はここで撤退するということなので、俺はこの獣人兄ちゃんをあっさり解放することにした。

監視はされる方からするとそりゃウザいが、目的があってということなら確かに普通のことでもある。

日本だって常識的な範囲内の監視や調査なんて当たり前なのだし、俺は俺で町中から堂々と【飛行】したり、されてもしょうがないことをやってしまっているのだ。

国が異世界人を欲しがっているのも、身に染みて分かっているわけだしね。

ならば効率重視で堂々と動く以上、"敵意のない監視"はある程度割り切らないといけない部分だろう。

まぁそれでも、せめてバレないようにやってくれとは思ってしまうが。

「最後に一つ質問です」

「なんだ?」

「結局、お仲間は何人いたんですか?」

「ん? 依頼を受けたのは俺一人だが?」

「え? いますよね? 最低もう一人は」

「? 本当に知らないぞ?」

「……」

今まであっさり答えていただけに、この言葉が嘘だとも思えない。

となると、もう一人いた監視者は――

いったい何者なのだろうか?