軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

224話 希少職

何かが、おかしい。

そう感じ始めたのは、レイド戦開始から約30分後のことだった。

上空を舞い、戦闘状況を俯瞰しながら、積み重なる違和感に目を細める。

「ブレイクッ!」

(まただ……)

遠くから叫ばれる号令と同時に近接職がタンクの後ろへ退避し、そのタイミングを見計らって遠距離部隊の魔法が撃ち込まれる。

多いのは【風魔法】、ついで【雷魔法】と【光魔法】で、【水魔法】と【氷魔法】は防御と冷却要員に。【土魔法】は岩が地面に残って邪魔になるという理由で禁止されていることをボス戦までの道中で聞いていた。

魔法が詠唱され、発動し、着弾するまでの時間は魔法によってマチマチだが、約10秒~15秒前後。

今回もブレス直後にブレイクが入り、予想通り近接組が一歩引いた後も3秒くらいヴァラカンは動かず、その後ヘイトを取っているタンクに向かって攻撃している最中に背後から魔法を浴びせ、退避していた近接組が戦闘に戻る。

これを丁度10回繰り返したのが今のタイミングだ。

――【鼓舞】――

(離れ過ぎだな……)

そう思いながらも4度目の仕事をこなす。

一番範囲内に人が収まるであろう場所へ移動したが、それでも後衛職が距離を取り過ぎていて、カバーしきれていない者がいることは一目瞭然だった。

が、わざわざ移動してかけ直すことはしない。

攻撃頻度が低すぎて、掛け直す魔力が無駄だと判断したからだ。

遠距離アタッカーと呼べる魔法職は総勢15名ほど。

それぞれがブレスなどの遠距離攻撃を警戒しつつ、パーティ単位で四方に分散していた。

と言っても、ブレスは予兆を確認できれば俺が無理やりヘイトを奪って上空へ逃がしているので、今回のレイドは今までよりもかなり楽になっているはずなのだ。

にもかかわらず、近寄って火力を上げるような動きが見られないし、位置取りを気にするような動きもまったく見られない。

ほぼ同じ場所で固定砲台化してしまっている。

魔法種別にもよるが、特に【風魔法】なんて距離によるダメージ減衰が顕著なタイプ。

20メートル、時には30メートル以上離れた位置から放ったところで、そこまで大したダメージにはならないだろう。

それを示すように、魔法ダメージを受けやすいヴァラカンの背部は、焦げ跡のようなものはあっても、裂傷による傷がほとんど見られなかった。

それにタンクは当然動く。

様々な攻撃に耐え、受け流すのに、ひたすらその場で棒立ちなんてことはあり得ない。

その動きに合わせて魔法部隊も配置を変えていけばいいのだが、その程度のことをなぜかしないので、ブレイク後にタンクや避難した近接組から被るような位置取りにいれば、そもそも魔法部隊は同士討ちを避けて魔法すら撃たないのだ。

なんのためにそこに立っているのかと……正直意味が分からなかった。

加えて、なぜか魔法は皆が1発で止めてしまう。

同士討ちを避けられる位置取りにいた魔法職が一斉発射後、一度もヘイトが剥がれ、遠距離職の方へヴァラカンが動くような素振りは見せていない。

それだけ威力が出ていないという証左にもなってしまうんだが、それでも一発止めは確定事項のようで、すぐに近接が仕事に戻る動きを繰り返してしまっている。

おかげで近接組は――もう相当しんどいだろうな。

適度に【水魔法】持ちが上空から水を降らしてくれるが、それでも単純なスタミナの問題で疲弊の色が濃く出てしまっている。

それでもフィデルさんからは、遠距離アタッカー組に対しての改善指示が一向に飛ばない。

下手なのか、それとも故意なのか。

(両方の可能性が高いか……)

そもそもがおかしいのだ。

大層な盾を持ったフィデルさんは、【土魔法】で土台でも作らせたのだろう。

高台の上から戦況を眺めて指示役に徹していた。

当初は途中で体力の少ないタンクと入れ替えでもするのかと思っていたが、今のところはその動きが見られず、3分おきに「ブレイク」と叫ぶだけの人になってしまっている。

でもまぁ、100歩譲ってこれは分からないでもない。

知識あるリーダーが戦況を把握し、指示に徹することがプラスになる場面だってそりゃあるだろう。

だが、サブリーダーポジションの獣人ガルセラさん。

なぜアンタまで、フィデルさんの横で戦況眺めてんだ。

既に一人近接が食われてるのに、なんでその穴を埋めようともしない。

はぁ――……

酷いストレスを感じていることが自分でよく分かる。

長引くほど暑さでも苦しくなるのに、ダメージを最大化させない非効率さ。

あまりにも負担が近接職に偏り過ぎているこの状況。

(口出しすべきか……あっ)

大口を開けての噛みつき、からの前足を地に付けた前傾姿勢――予兆だ。

――【身体強化】――

出番だとばかりに、上空へ真っ直ぐ伸びた尾を深く斬りつけ、その後に尾を抱きかかえる。

「ふがががががっ!」

尾の先から勢いよく射出される火光。

まるでレーザービームのような炎の光線が天井へ伸び、パラパラと、火を纏った小型の岩が上部から降り注ぐ。

本来であれば、この尾が火光を噴出させながら不規則に暴れ回るのだ。

ボス情報を聞いた時は、ブレスより明らかにこちらの方が厄介だろうと思ったが、直接この目で確認すれば事実その通りだった。

天井に余裕で到達するほどの長距離射程。

20㎝程度まで圧縮された炎の線は、さすがにこれを真正面から受け止めようとは思えないほどの威力を感じさせる。

暴れ馬のように動き、跳ねようとするその尾を、力業で無理やり抑え込むのだって必死も必死。

(は、早くこんな尻尾はぶった斬らないと……!)

毎回こんなリスキーなことをやっていられないと、その思いは対処する回数が増える毎に増していく。

……同じ個所を切り続けた尾の傷は、鱗や肉は問題なくても骨の切断で躓いていた。

怪しい先端の蕾を切り落とせば、きっと戦況も楽になりそうなものなんだが……

尾の振動が薄れ、火光の射出も終わりを迎える。

やっとだ。

ブレスも尾の火光も、放てば5秒ほどの硬直時間が発生することはすぐに分かった。

できればここで、尾の切断までもっていきたい。

一斉に攻撃のチャンス―――

「ブレイクッ!!」

また、かよ。

なぜフィデルさんは、こんな無駄なことばかりする。

せっかく訪れたチャンスを……ッ!

中には何人かもう気付いている人達もいるはずだ。

ジョフマンさんなんかは明らかにこの僅かな休憩を喜んでいるが、ステータスの高そうなタンクや――他にも一部の近接は眉間に皺が寄っていた。

だが、持ち場を離れられない。

死守を厳命されている。

ならば、俺にできることは――

――【鼓舞】――

念のため早めに仕事をこなし、俺はリーダーのもとへと飛び立った。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

「ダメだ! 急な変更は場を混乱させる!」

「はぁ? 現状ブレスと尾の火光は僕が抑えています! 遠距離職に攻撃が向く手段はないでしょう!?」

「君がミスをしたらどうなる? 僅かに威力が上がるという理由で高レベル魔法所持者を危険に晒すのか? ブレイク後の攻撃回数も同様だ。過去にダメージが多過ぎてヘイトが剥がれ、遠距離職を巻き込んだ事例がある以上は許可できない。タンクの後ろに立つなというのは……それは伝えておこう」

「危険に晒されているのは近接職も同じですよ!? なぜ時間を掛けられないという制限があるのに、過剰なほど遠距離職のリスクを避けるんです!?」

「……」

なんだこの、拭えない違和感は。

全部を完全に否定されるわけじゃない。

認められる部分もあったが――それでもダメと言われたその理由が何かおかしい。

まるで――

「もしかして、近接職の命の方が軽いって思ってます?」

「…………否定はしない」

これは本当にリアルか?

そう思った。

でもどうしてそのような考えになるのか、ゲームをやっていたからこそ理解できてしまう自分自身にも苛立ちを覚える。

武器を握れば始まる近接職と違い、魔法職は入門と呼ぶべき段階のハードルが非常に高い。

これは紛れもない事実だ。

だからそもそもとして総人口が違う……募集の集まり具合を見ても、これだってたぶん事実なのだろう。

希(・) 少(・) 職(・) か(・) ど(・) う(・) か(・) 。

レイドや何かを奪い合う対人チーム戦のような、編成バランスが結果に直結してしまうような場面では特にその影響が出てしまう。

強くても参加できない夥多職と、弱くても替わりがいないという理由だけで入れてしまう希少職。

そんな現実があることは理解するが、だからと言って命の重さは関係ないだろう……?

「分かりました……でもせめて、ブレスと尾の火光。あの後にすぐブレイクを挟むのだけは止めてください。約5秒ほどの無防備な硬直が発生するのは、当然 慣(・) れ(・) た(・) あなたならご存じだと思います。無条件に攻撃できる機会を捨てるなんてアホのすることでしょう?」

「……了解した」

「あーそれと」

「?」

「命の価値が軽いはずのあなた方は、いったいいつまでここで待機しているんでしょう? 特にガルセラさんは指示役でもないんですから、既に一人欠けていますし早めに参戦をお願いしたいんですが?」

「て、てめぇ……」

「……」

これ以上やり取りする意味はない。

主催者の方針が遠距離職を大事にということなら、その意向に合わせて動くしかないのだ。

初参加組の近接職は詐欺にあったようなものだが……気に食わないなら次回から二度とこの主催者のレイドは参加しなければいいし、入口が塞がっている様子もないのだから、極論はこの場で戦闘放棄でもすれば良い。

(はぁ~まいったな……ペース配分を変えるか?)

そう思って持ち場に戻ろうとした時――

「よし、ようやく二段階目に入ったな」

ボソリと呟いたフィデルさんの言葉を耳が拾う。

と同時に視界には、全てが火で構成されているとしか思えない、巨大な火柱が出現し始めていた。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

半分文句とも言える進言をし、再度飛びながら戦いの場へと戻っていくロキを眺めながら、渋い顔をしたガルセラが口を開く。

「フィデル、俺達の戦略はあの小僧に言わないのか?」

「当初は言うつもりだったんだが、近接戦も担うとなればもう言えないだろう。それこそ本当に場が混乱する」

「……それもそうか」

「どう思う? 否定はしていたが、あの少年は異世界人だと思うか?」

「どうだかな。ブレスをまともに食らってピンピンしてやがる時点で普通じゃねぇ。尻尾にあんな強引な対処をするのも初めて見た。が…… ガ(・) チ(・) の(・) 本(・) 物(・) ならもうとっくに戦闘なんざ終わってると思うが?」

「私も同意見だな。この状況で魔法を一切撃つ様子は無く、強いは強いが異次元というほどの技能や力は持っていない……分からないな。まさか、空を飛ぶことだけを願ったか?」

「狩場で目撃したやつらにも再三確認したが、魔法を撃った光景は見たことがねぇらしいからな。他に何かあったとしても、戦闘特化ってわけじゃねぇんだろう」

「ならば、三段階目であの少年がどのような動きを見せるか次第だな。予定に変更は無し、いつでも参戦できるようにはしておいてくれ」

「あぁ」

「ユーリア、【水魔法】持ちの魔力回復ついでに、一応後衛アタッカーはタンクの後ろに立つなと伝えてきてくれ。それと俺達が参戦するまでは、どのような状況であろうとも温存だと」

「わ、分かりました……」

ユーリアの心情は複雑だった。

少年とはたまたま接点があり、その分少しだけ情が湧いてしまったところもある。

でも、言うことをちゃんと聞かなければ――その思いだけで魔力回復と伝達の目的を果たすべく、外周の定期巡回を開始した。