軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

222話 役割

スキル名を唱えた直後から、修練場にいる人達を凝視する。

(うん、大丈夫。というか誰も気付いてもいないっぽいな)

もうすっかり忘れていたスキル詳細を見れば――

【鼓舞】Lv5 半径25メートル範囲内の味方に対して全能力値を20%向上させる。同スキルによる重複不可。スキル使用者は効果対象外 使用効果時間10分 魔力消費28

――このようになっていた。

50名ほどの団体戦。

全部の範囲を賄えるかは分からないけど、それでも半径25メートルなら大半の人間をカバーすることはできる気がする。

しかも全能力値を20%向上なら、BランクやAランクくらい自力のある人達にはかなり大きなバフとなるはずだ。

いける――チャンスはある。

「あ、あの! 【鼓舞】なんて要りませんか?」

再度相棒獣人と話し合っていたフィデルさんへ声を掛けた。

「ん? なんだ坊主。【鼓舞】が使えるのか?」

「レベルは? 1じゃさすがに範囲が狭過ぎて使い物にならないぞ?」

「レベルは5です」

「……なんだと?」

「……今、ここで使ってみてくれ」

二人の刺すような視線。

……このパターンは毎度のアレだ。

だが怯むわけにはいかない。

なんとしてでも貢献できることを証明し、レイドの枠をもぎ取る。

「もう使ってますよ」

この言葉に怪訝な表情を浮かべつつも、獣人の男が視線鋭く、その場で風を切るようにワンツーとパンチを繰り出す。

おぉ、こりゃやべぇ……

能力上昇の恩恵もあっての結果だろうけど、目で追うのがかなりギリギリってくらいに鬼速い。

避けるなんてまったく無理だな。

「お、おぉ……? 能力1段階上じゃねーかコレ?」

「ユーリアの【鼓舞】は今もレベル3で間違いない?」

「え、えぇ」

「一応使ってみて」

「はい――【鼓舞】」

「……やっぱ1段上だ。上書きされてねーよ」

「となると間違いないか。レベル5だと範囲は50メートルか?」

「それで間違いないです」

俺に聞かれたわけじゃなさそうだったけど、もうアピールするならここしかないだろう。

それが上手く伝わったのか――

「よし、疑って済まなかった。ぜひ君には入ってもらいたい。名前は?」

「ロキです。宜しくお願いします」

「フィデルだ。ボス討伐のリーダーをやらせてもらっている」

「俺はガルセラだ。あとでもう少し詳しくできることを確認させてもらうぜ? メンバー選抜が終わるまでこの場で待機しといてくれ」

「あ、ユーリアは【魔力譲渡】に回ってもらうからそのままで。必ずどこかの場面で必要になるからね」

別の塊へと向かっていく二人の後ろ姿を眺めながら、想定外の滑り込みに思わず深い息を吐く。

なんとかなったからいいものの、まさか俺が 支援役(バッファー) とは……

このポジションでどうラストアタックを狙えばいいのか、まったく想定できていない。

そして流れる若干気まずいこの雰囲気。

別のポジションがあったから良かったものの、危うく横にいるユーリアさんっていう人の枠を俺が奪うところだった。

人数制限がある以上はそういうものだと分かっていても、やっぱり良い印象を持たれるものではないだろうからなぁ。

「すみません。なんか割り込むような形になってしまって」

「ううん大丈夫だよ。1段階上の能力で範囲も50メートルなんて、その方が断然良いに決まってるもん」

先ほどもガルセラさんがそんなことを言っていたな。

このスキルはたしか、キングアントが所持していたはずだから――気絶中に一発でこのレベルまで上がっているはずだ。

だから途中経過は把握できていなかったけど、段階のある能力というならまず『20%』という部分を指しているんだろう。

つまりユーリアさんが持つ【鼓舞】レベル3だと、上昇効果がたぶん『10%』とか『15%』って話なんだと思う。

それにしても、フィデルさんはユーリアさんが【魔力譲渡】もあることを事前に知っていた。

レイドは今回で4回目という話だし、20歳くらいにしか見えないこの可愛らしい女性は、もしやレイドの常連さんなのだろうか?

そう思って尋ねると、ヴァラカン討伐は今回で2回目だが、フィデル氏の彼女さんっぽいニュアンスの返しをされてしまった。

いや、別に残念とは思わないけど、彼女さんならはっきり「彼女です」と言ってくれよと。

照れながら、「もうちょっとで彼女になれるかもしれなくて~」なんて言われると、ユーリアさん大丈夫なのか? と心配にもなってくる。

まぁそれでも経験者だ。

どうせメンバー選定までまだ時間も掛かるだろうとあれこれ聞けば、支援役だったからか。

離れた立ち位置から見えるボス戦の様子を色々と教えてくれた。

中でも『龍の飛び出す火柱』と『暴れ回る尾の火光』という強烈な言葉。

これには命を張る覚悟で挑む人たちには申し訳ないが、それがスキルなら思わず" 欲(・) し(・) い(・) "と、既に楽しみでしょうがなくなってしまっている。

それに『 三(・) 段(・) 階(・) 目(・) か(・) ら(・) が(・) 本(・) 番(・) 』という、ボスだからこそ出てくる段階の話なんてされてしまえば、MMO好きならウズウズしたってしょうがないだろう。

パンパン!

両手を叩く音に顔をあげれば、再度木箱の上に立つフィデルさんが。

「皆待たせた。ようやく各枠での人選も終了したよ。これなら今回も――いや、今までよりも楽に討伐できる可能性だってあると思う」

「おぉ……」

修練場がにわかにざわつく中、フィデル氏の視線はなぜか俺の方へ向く。

思わず後ろを振り向くも――誰もいない。

「ロキ君が飛べることもう分かってんですよきっと! もしかしたら異世界人だってことも」

「だから違うって言ってるでしょうが!」

先ほどいた近接アタッカー組の枠を見事勝ち取っていた、40歳くらいの――ジョフマンと名乗るおっさんが、わざわざ俺の横にまで来てコソコソと話す。

どうやら俺が狩場で飛んでいる姿を何度も目撃していたようで、もう『異世界人』とすでに断定している様子だった。

ちなみに俺は一言も「そうだ」と言っていない。

言ってメリットのありそうな状況なら言うけど、たぶんこの場だと何かしらの天級スキルを持っているという、過剰な期待を向けられるだけ。

おまけに答えられるほどの 力(スキル) はないので、身を守るためにも一切認めないが吉である。

「明日は予定通り朝から開始だ。鐘の音が鳴ったら極力早めに各自洞穴入り口まで集合するようにしてくれ。細かい振り分けは明日移動しながら報告する。それじゃあ経験者は解散!」

パン!

再度打ち鳴らされる乾いた音に、それぞれが立ち上がり修練場を後にしていく。

残されたのは――16人か。

やはりというかほぼ近接職で、激戦区という理由の他にも死亡率がきっと高いんだろうなと、別の理由まで自然と頭に浮かんでしまった。

「一応同枠の経験者からボス戦攻略の流れやコツ、注意点は聞けたことだと思う。初めてなら緊張もすると思うが、一番大事なのは役割に徹すること。1人の不用意な動きで全体が崩れる恐れもあるから、周りを信じて自分の役割をこなしてほしい」

この言葉に威勢よく返事をする者。

覚悟を決めたように、緊張の面持ちで頷く者。

感情を表に出そうとしない者など、反応は様々だな。

「では臨時パーティ割り振りのために、個別の能力をもう少し詳しく確認させてもらいたい。一応一人ずつ呼ぶから、急ぐ者がいたら手を挙げてくれ」

そう言われたので、様子を見つつもソッと手を挙げる。

さすがに16番目とか言われると暇過ぎるし、それなら狩場に戻って稼いでおきたい。

「よし、じゃあ君から始めるか。他のやつらは受付の方で何か飲み食いしてもらってても構わない。ギルド内にさえ居てくれれば自由にしてくれ」

こうして強者二人を前にした面談が始まった。

何を伝え、何を秘密にするか。

慎重に言葉を選びながらレイド戦の立ち位置、何よりも優先したい俺の目的を考慮しつつ情報を開示していく。

「済まない私達が疎かったようだが、どうやら君は有名人のようだな?」

「え? そこまでハンターと接点はないはずですが」

「だからだ。一人で火岩洞を駆け回り、1日に2回も素材を卸しているそうじゃないか。加えて君は剣を片手に空を飛ぶと、複数のハンターが教えてくれたよ」

「は、ははっ……そこら辺はまぁ、正解ですね。なので飛びながら適切な場所で【鼓舞】を使用できると思います」

「あぁ頼むよ。50メートルという範囲は広くとも、後衛職はブレスや尾から噴き出る火光を避けるために四方へ分散させる。上手く適切な場所で使用してほしい」

「それでだ、ロキ。おまえさんは他に何ができる? 火力魔法は撃てるのか?」

来たな。

ガルセラさんのストレートな質問――

まずここは素直に合わせていく。

「魔法は残念ながら……僕の武器は見ての通り剣でして、スキルレベルは伏せますが、近接職の募集条件をクリアできるスキルレベルは保有しています」

「……なるほど、レベル6以上か」

顎に手をやり考えるフィデル氏と、何も言わずニヤリと口角を上げるガルセラさん。

「【鼓舞】の特性は、正確に言えば半径25メートル。つまり戦闘の中心にいることが望ましいのはご存じでしょう?」

「ふむ。だから近接アタッカーも兼任するということか」

「その方が貢献できるとは思っています」

「だが、ボスに張り付く近接職はすでにギリギリの人数だ。これ以上増やすとお互いの行動を阻害してしまう可能性もある」

「でも、僕は飛べます」

「空中から、踏ん張りもせずに斬れるのか……?」

「やり方次第ですよ。上空から突き刺すように下降すれば逆に威力は通常よりも増します。何度もやるものじゃありませんけどね」

「……近接組のルールも覚えてもらうことになるが、大丈夫か?」

「具体的には?」

「もしヘイトを取ってしまっても、逃げず、引かず、耐えて、穴を空けないこと」

「なるほど……」

そりゃ死亡率が上がるわな。

でも大事なことだというのは分かる。

近接職がヘイトを持ったまま逃げようものなら、後衛職がバンバン死んで立て直しが絶望的になるのはお決まりの流れだ。

「まぁロキ少年の場合は上空へ逃げるという手もあるから、必ず当てはまるものじゃなさそうだが。あとは『ブレイク』の掛け声とともに、近接アタッカーは一斉にタンクの後ろに回ってもらうことも重要だ」

「その意味は?」

「小休止だよ。近接アタッカーは特に精神を摩耗する。ブレイク中にタンクがヘイトを集めながら、遠距離アタッカーがそのタイミングで魔法を撃ち込むって寸法だ」

「あぁ、前に近接アタッカーがいたら仲間に当たっちゃいますもんね」

「戦況次第だが、おおよそ3分に一度くらいの目安で『ブレイク』の合図が入ると思ってくれ。その指示出しは私がやる」

「そのくらいなら大丈夫だと思います。あ、あと"やってはいけないこと"も事前に教えてもらえるとありがたいですね」

【鼓舞】の魔力消費は10分間で28。

これなら計算上10時間以上持つ――ということはボス戦で確実に魔力が余るのだ。

だからこそ、禁止事項を確認しておく。

魔力の漏れる魔法まで使う予定はないけど、一時的に【挑発】と【硬質化】でタンクの代わりを担うくらいはできるだろう。

実行可能な手札を理解しておけば、咄嗟の判断で行動も取りやすくなる。

――まぁ、具体的に何ができるかを、そこまで細かく言う必要まではないけどね。

必要不可欠な場面が現れた時、禁止でないなら実行して状況改善を図ればそれで良い。

俺の目的はラストアタックを取り、無事討伐を終えること。

これさえ叶えられれば、最悪分け前は捨てても良いと思っているのだから――

常に手の届く距離に。

その点だけを意識して、役割についての交渉を続けていった。