軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

209話 国境を越えて

東の国境『ルーベリアム境界』。

南から続く深い谷がこの地だけ繋がり、人工的な橋となって東西の往来を可能にしている。

魔法的な要素でこの橋を架けたのはなんとなく分かるが、いったいどれほどの労力を必要としたのか――想像もできないほどに谷は深い。

左右にはそれぞれ砦が存在しており、ここが関所の役割も兼ね備えているようだった。

橋の長さは100メートルほど。

横幅は10メートルもなく、相手国に攻めるとなればかなり防衛側が有利なんだろうなと、素人目で見ても分かる構造だ。

迂回するには南だとパルメラ大森林の付近まで、北はハンスさんのペットが見張っているエイブラウム山脈付近まで行かないといけないので、ここが両国間にとってどれほど重要なのかは言わずもがな。

俺はそんな地に並んでかれこれ3時間。

本当に並ぶべきなのか、人がいなさそうな場所から谷を越えちゃってもいいんじゃないか? と、先ほどからずっと自問自答していた。

たぶんゴリラ町長の話だと、関所を越えれば通行税だかでお金を取られるはずなのだ。

なので払わず通過すれば、それすなわち犯罪者になるのでは?

そんな思いで渋々並んでいるわけだが――

マジでなげぇ。

もうほんと、この一言だった。

でもまぁ、待っている間にもそれなりの楽しみはある。

当然ヴァルツ王国からも人がこちらに入ってくるわけで、その中にはどう見ても獣人と思われる人々が訪れているのだ。

大してこの国の歴史を知っているわけでもないのに、思わずその光景を見て感慨深い気持ちを抱いてしまった。

あぁ、あの土下座の王様、ちゃんと差別無くしたんだなって。

馬車の御者だったり、大きな籠を背負って徒歩だったりと様々だけど、無事交易が復活してきているんだなと思えば自然と頬も緩んでくる。

これなら女神様達にお願いした甲斐があるってもんですよ。

そしてさらに1時間後。

やっと自分の番が来たため、革袋を握り締めお支払いの準備をする。

さすがにお金が足らないなんてことはないよね? 大丈夫だよね?

「まずは身分を証明するものを」

「はい」

「ふむ。では籠の中身を見せてくれ」

「え?」

「商業目的の荷が確認できれば物品税も発生するからな。その確認だ」

これは、油断していた。

商売目的じゃないしと余裕ぶっこいていたら、俺の特製籠が目をつけられてしまったらしい。

別に何かを隠し持っているわけじゃないんだが――

「……」

「……」

「……なぜ、おまえは女物のサンダルを4足も持ってるんだ?」

「趣味です」

「……」

「……」

「……そ、そうか」

ふぅー……危なかった。

これで女子供を殺したとか、訳の分からない方向へ話が進んだらどうしようかとヒヤヒヤしてしまった。

俺がただの変態だとバレただけで済んだのなら、とりあえずは一安心だな。

その後、通行税5万ビーケを支払い、人によっては玉ヒュンしてしまいそうな橋を渡っていく。

そしてもう片方の関所で――って、またかよ!

さらに慎重なやり取りをしたのち追加で5万ビーケ支払い、ようやくヴァルツ王国の地を踏むこととなった。

うん。

これは正直なところ、次は無理だね。

お金の問題じゃなく、時間とか別の部分で問題があり過ぎる。

まぁ時間は前に並んでいた商人っぽい人と兵士の会話内容からすると、お互い多くの交易品が制限解除されたため、その反動で今は商人の動きがかなり活発なんだそうだ。

一定期間の辛抱だと兵士が商人に謝っていたので、それもそうかと後ろで1人納得していた。

今が稼ぎ時、きっとヴァルツ王国からもコーヒー豆とかが大量に運ばれてきている最中なんだろう。

なので時間の面は脇に置いておくとしても、一番の気がかりは今回初めて身分証の内容を台帳か何かに記載されたことだ。

どこまでデータを取っているのか分からないけど、そうなると個人データを極力残したくないというのが現代日本人の心理というもの。

おまけに地球産の物はある程度木箱に入れて埋めてきたとはいえ、ジュラルミンケースやその中の日常的に使う物――電卓や懐中電灯なんかもヴァルツ王国側の兵士にバッチリ見られたし……

異世界人とバレることは良しとしても、転移者とバレるのは勘弁願いたいので、国を正規のルートで跨ぐのは今回限り。

今後はコッソリ人のいないところを上空から渡ってリスク回避していこう。

そう心に誓いながら、初めての他国だし最初くらいはちょっと警戒するかと、一度山中に入ってから空を舞って大きく見渡す。

「ん~あの遠くにチラッと見えるのは町かな?」

東方面にひたすら延びていく街道。

その先に本当にチラッとだが、人工建造物がある、ような気もする。

それならまずは向かってみましょうかねと。

俺はその町と思しき場所へと飛んでいった。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

ヴァルツ王国最西端の町『グリールモルグ』。

規模で言えばリプサムと同程度で、まずまずの人口、まずまずの活気といったところだが、上空から見た時の印象はラグリースの町と大きく異なっていた。

とにかく道が狭い。

真っ先に感じた印象はこれだ。

ラグリースのようなデカい大通りがボンッと延びた街並みとは違い、ここグリールモルグは一言で言えば"迷路"。

メイン通りかと思えば唐突に丁字路が現れ、クネクネクネクネと、今自分がどちらの方角を向いて歩いているのかよく分からなくなりそうな不思議な造りをしている。

一応馬車は通れる程度の道幅だが、それでもこれだけ曲りくねっていたら中心部につくまでは結構時間がかかるだろうな。

まぁ、俺はあまり関係ないが。

遠慮したのは関所を抜けた最初の一度だけ。

どうせこの国でも遅かれ早かれだし、この町の不便さを強く感じてからはあっさり開き直ってしまった。

パパッと飛んで大きな建物の屋根へ。

最初に引き当てたのは残念ながら宿屋だったが、風呂付きだったのですぐに部屋を確保。

そのまま荷物を置き、意気揚々とハンターギルドを探しながら町中をうろつく。

(ふむふむ。だいたい10人いたら2~3人くらいが獣人って感じかな?)

以前ハンスさんの国で見た時と同じく、顔は動物に近い雰囲気を持つ人達が普通に店番をしていたり、露店で何かの料理を作ったりしている。

「これ1個くださーい」

「はいヨ~1個1200ビーケだヨ~」

売っているモノに釣られて犬っぽい店主に話しかければ、【異言語理解】を通したイントネーションはちょっと変だが、それでもまぁ普通だな。

そして渡された食べ物も――

「おおっ……ちなみにこれって何のお肉ですか?」

「豚ヨ~いっぱい育ててるから安くておいしいヨ~?」

「ほっほー!!」

犬店主のナイス情報に身体がプルッと震える。

(キタキタキタ……ッ! カツっぽいやつがキターッ!)

見た目はちょっと大きめの串カツだ。

ただソースはなく、フルーティーな匂いのする液体に一度潜らせてから渡された。

ハチミツのような色合いで少しとろみのある謎のタレだが、食べてみると不思議な甘辛い味。

どちらが好みと言われれば食べ慣れたソースを選んでしまうが、こちらはこちらでかなり美味いと感じる。

というか肉がジューシーでめちゃ美味い。

これで1200ビーケとなると――ラグリースの屋台相場よりはお値段高めな気がするけどどうなんだ?

油が高いのかもしれないし、肉ならこんなもんと言えばこんなもん……って、今更だけどお金がビーケじゃん!

以前ジンク君たちが言っていたように、『ビーケ』がそのまま共通通貨として使われているようでありがたい話だな。

その後も店の横で食べながら犬の店主と話していると、どうやらヴァルツ王国は畜産業が最も盛んらしく、日本で馴染みのある牛や鶏なんかも多く出回っているとのこと。

ただ平地がやや少なく、少し前までラグリースからの穀物類も止められていたせいでパンが高く、だいたいの人達は何かしらの肉ばっかり食べているらしい。

交易が再開されて麦が入ってくれば、肉の消費が減るのではと不安がっていたので

「パンが安くなった時にそのカツ挟んだら、バカ売れすると思うヨ~」

と真似しながら教えたら、なぜか予想以上に感謝されてしまった。

ウン、やっぱり獣人と言っても凄く普通で、見た目以外に人間との違いが分からないな。

(種族に限らず、良い人もいれば悪い人もいる、か……)

ハンスさんに言われた言葉を思い返しながら、犬店主に教わった道を辿ってハンターギルドに到着。

時刻が昼過ぎとあって閑散とした受付を通過し、一目散に資料室へと駆け込んでいった。

さてさて、他国の狩場はどうなのかな?