軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

177話 それぞれの道

《ビブロンス湿地》3日目。

といっても結局昨日は丸1日狩りをしなかったので実質2日目になるわけだが、本日 2(・) 回(・) 目(・) の解体場に出向き、カウンターへ特製の籠をドドンッと置く。

本当に開き直ると楽なもんだな。

もう町中だろうがお構いなしに飛び回っているので、時間のロスも無く狩りに勤しみ、籠が魔石でいっぱいになったら一度解体場へ持ち込むことにした。

昼間なら解体場のカウンターはガラガラだし、魔石を数えてもらっている間に出店で買った食事を摂れば、丁度昼休憩にもなって一石二鳥である。

「Bランクが本気出すと凄ぇんだな……ほらよ。2回目の分だ」

横にあるもう一つのカウンターで素材を渡していた男達が、2回目という言葉にギョッとした様子で視線を向けてくるが気にしない。

各魔石の数に適当な相槌を打ちつつ、ステータス画面を眺めながらスキルの進捗状況を確認していく。

(町長宅のお食事会が無ければ今日中に終わらせられたかもしれないが……まぁしょうがないか)

明日は昼くらいまで湿地、午後は期待のフェアリー狩りにいけるかな?

そういえば、フェアリーともう1種はなんだっけ?

そんなことを考えながら木板を受け取り換金に向かうと

「ロキさん!」

やや強い口調で呼び止められ、声の方へ振り向けば、そこには私服姿のレイミーさんが。

視界の奥にはアマリエさんとエステルテさんもおり、声に反応したのかこちらに走り寄ってきている。

(もしかして、解体場の方と受付の方に分かれて待ってたのか?)

昨日はあの場の空気に耐えられなくて、逃げ出したような感じになってしまっていた。

なんとも気まずい空気が―――

「昨日はごめんなさい! せっかく尽力頂いたのに、泣き崩れるばかりでろくにお礼もお伝えできなくて……っ!」

「ごめんね……現実は知っていたはずなのに、彼の愛用していた装備を見たら胸が張り裂けそうになって……」

「ごめんなさい。私達がまずすべきことは、探索や救出に動いてくれたロキ君への感謝なのに、本当にごめんなさい」

到着するや否や、レイミーさん同様装備を抱えて泣きじゃくっていたエステルテさんとアマリエさんも、開口一番謝罪の言葉をぶつけてくる。

違うよ、俺はそんな言葉をもらいたかったわけじゃないのに。

「ちょ……まずは頭をあげてください。近しい人が亡くなったのならしょうがないですって。悪いわけじゃないんですから謝らないでください」

それでも、と。

よほど自分達の行動が許せなかったのか、謝罪の言葉が止まらない三人に痺れを切らし、被せるように口を開く。

「謝られるよりもっ! 僕はごめんなさいより、ありがとうって言われた方が嬉しいですから!」

そう告げればやっと落ち着いたのか、口々に感謝の言葉を告げてくれる。

うん、やっぱりこっちの方が良いよ。

その方が、自分の行動にだって誇りがもてる。

ウンウンと、一人納得したように頷いていると

「それでロキさん、今夜はお邪魔しても大丈夫ですか……?」

「「「え?」」」

レイミーさんのこの言葉で、素っ頓狂な声が漏れる3人。

何やら空気がおかしくなったことをこの場にいる 大(・) 人(・) 全(・) 員(・) が感じ取ったのか、妙な雰囲気が流れ始めた。

「えと……え? どういうことですか?」

「探索してもらった報酬の件です。その、成果報酬だと思いますので……」

思わず理由を聞いても、頭には疑問符が浮かぶばかり。

(あれぇ……俺そんなこと言ったっけ……?)

頭の中に先日のやり取りが思い返されるも、「必ず結果は出すから、そしたら……な?」なんてイケメン的なセリフを吐いた記憶はまったく無かった。

もしかしてリステに悪いから報酬はいらないって、ちゃんと伝えてなかった?

そう判断して口を開こうとすると――

「な、なら私も……それくらいしかできませんので……」

「汚れた身体でも良ければ……」

「ホヒョ」

俺の肺から、情けない空気が漏れる音だけが響く。

(おっ、おっ、おったまげぇえええええええええええええ!! これはまさかの、複合遊戯!!?)

気が動転どころの騒ぎじゃない。

レイミーさんはもちろんのこと、アマリエさんだって20代半ばくらいの優しそうな美人さんだし、エステルテさんは何より胸部の自己主張がかなり激しい。

(どどどどえらいことになってきた……今晩なんて、そんな心の準備もできていない中で――)

はち切れんばかりに夜の想像力を膨らませたところで、しかしふと、『 今(・) 晩(・) 』という言葉に引っかかりを覚える。

「あっ――……町長と、ご飯じゃん……」

「え?」

「あ、いえ、今日は町長からご飯に誘われてまして。どうやら助けた子供達の分の謝礼が支払われるみたいなんですよね~ハハハ……」

空笑いしかできない。

心の中ではあの『珍種ゴリラ』がと、悪態をついていた。

「そうでしたか……リプサムで過ごす夜は今日が最後だったので、それは困りましたね」

「へ? そうなんですか?」

この言葉で少し冷静になり、詳しい事情を聞いてみると、レイミーさんの地元は俺が先日通過したばかりの小さな町<ミール>のようで、旦那さんがリプサムだったためこちらに嫁ぎ、サポートをする意味でギルドの受付嬢をしていたとのこと。

だが子供はまだおらず、旦那さんも亡くなってしまえばリプサムに留まる理由もなくなるため、昨日付けでギルドは休職。

どうやら旦那さんの最悪を想定してギルドマスターには相談していたようで、明日からは一度ミールの実家に戻って、落ち着いたらそのままミールのハンターギルドで受付嬢か、奥で事務員さん的な仕事をしていくつもりのようだった。

だから今日は小奇麗な私服だったわけですね。

随分急な展開だなとは思うも、二人で生活していたこの町に居続けては前を向けないとか、身近な人を亡くした人にしか理解できない心情もあるのだろうから、外野がとやかく言う部分ではないだろう。

(今晩限定……先約有り……未体験の複合……って、いやいやいや)

冷静になるとやっぱり出てくるのはリステの姿。

本人は裏切られたと思わないのかもしれないけど、俺からすれば、このまま突き進めば豪快な裏切りである。

「ふぅ――……大丈夫ですよ。そんなことまで望んでませんから、報酬とかは気にしないでください。あ、アマリエさんとエステルテさんも別に合わせなくていいですからね」

「……」

「そ、それなら、ちょっと希少な『シャーマネス』なんて職業を狩りのお供にどう? って思ったけど――ロキ君Bランクなのよねぇ~その中でも別格に強そうだし……」

「ハ、ハハハッ……」

エステルテさんの言う別格というのは、記憶がすり替わって俺がやったことになっているが、実際はリアが男達にやらかしたあの所業についてだろう。

そりゃあんなの見せられたら理解が追い付かない。

実際の俺は恰好悪く毒食らって、ほぼ地面に這い蹲っていただけですけどね!

しかし『シャーマネス』か。

聞きなれない職業だなと思って詳しく聞いてみると、どうやら『 呪術師(シャーマン) 』の女性版みたいで、この世界では珍しい【呪術魔法】と【医学】が伸びており、かつ『女性限定』で職業選択の時に発現する可能性がある中級職業の中でもかなりのレア職らしい。

個人的にはどの職業にも就けないので、まだ俺が所持していない【呪術魔法】に興味津々と、助けたお礼にということで取得条件を教えてもらうことになった。

エステルテさんは本当にその程度で良いの? と言った感じで首を傾げていたが、ヒッソリ耳元で「【闇魔法】のスキルレベル3」と、語尾にハートマークが幻視できるほど色っぽく言われてしまい、思わず背筋がゾクリとしてしまう。

声を吹きかけられた耳に「あふぅ」となったのも事実だが、エステルテさんがとても【闇魔法】を持っているようには見えないのだ。

だから人は見かけによらないな、と。

そして【呪術魔法】がどんなものかは分からないけど、【医学】と絡めて回復にも応用できるのならば、やっぱりこの世界は奥が深い。

「ではロキ君、本当に緊急探索を受けてくれてありがとうございました。【算術】くらいしか取り柄のない私ですけど、もし必要と感じた時には声を掛けてください。今後はミールのハンターギルドに勤める予定ですので」

「私もです。予定ではこのままリプサムでパーティを探すことになると思いますけど……この御恩を絶対忘れることはありませんので、何かあれば『回復魔術師』として必ずお力になります」

「ロキ君は命の恩人だから私も同じ。もうリプサムにこだわる必要もないからどうしようって感じだけど、言ってくれればどこにだってついていくからね」

「ふふ、皆さんのお力を借りなければいけないほど切迫した状況というのも嫌ですけど、もし何かあれば――その時は声を掛けさせてもらいます」

こうしてそれぞれがそれぞれに、また別の道を歩んでいく。

俺が職業やスキルに興味を示したからか、最後は得意分野を公表するような別れの挨拶になってしまった。

ここでハンター二人をパーティに入れるという選択も、人によってはあったのかもしれない。

しかし俺にはそれができない。

全てにおいて凄まじい制限を負うことになるからこそ、俺はソロで今後もやっていくしかない。

「エステルテさんは駄目元でも一応言ってみたって感じだけど、たぶんアマリエさんは言いたくても言えなかったっぽいなぁ……」

なんとなくだ。

でも表情を見ていたら、自信過剰かもしれないけどそんな気がした。

さて、今日の分と、緊急依頼探索の報酬を貰ったら町長宅か。

あの不思議な雰囲気のする町長と会食とか、いったい何を話せばいいんだろうか?

そんなことを考えながら、俺はハンターギルドで精算を済ませ、一人町長宅へ向かった。