軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

171話 町長

なんとか2便で済んだなと思いながらも、放り投げた馬車を眺める。

木箱の上に紐で括りつけた男達は……うん、無事なようだな。

最悪一人くらい落ちてもしょうがないくらいの感覚でかっ飛ばしてきたので、なんだかんだと全員生存のまま帰ってこれた俺の飛行技術グッジョブである。

さてと、さっきの門番さんは――

そう思って辺りを見回していると、野次馬の中でやたらと存在感を放っていた人に声を掛けられた。

「少年、君が今回救出してくれた者ということでいいのか?」

腕を組み、仁王立ちしているその人はとにかくデカい。

身長は2メートル近くありそうで、俺の背丈では胸元までも届きそうにない。

頭髪や口の周りを綺麗に囲う髭は白く、しかし年波によって白髪化したようなものとは違う、混じり気のない純度を感じた。

肌色が焼いているのか黒いこともあって年齢が読みにくく、今まで遭遇したことのない、なんとも不思議なオーラを放っているおじさんだった。

だから思わず聞いた。

「そうですが、貴方は?」

すると周りが騒めく中、何か言い淀んだ様子を見せながらも答えてくれる。

「俺は――町長だッ!」

その返答に俺はビビった。色々と。

まずこんな「町長だ!」なんて、自信満々に言い切る人を生まれて初めて見たのだ。

そんな目力たっぷりに、ドヤリながら町長自慢されても困ってしまう。

この世界の町長ってそんなに重職なのだろうか……?

でもこの図体だ。

日本の市長や村長のように、普通っぽいおじさんやおばさんがやれるような仕事じゃないと思った方が良さそうである。

たぶん町や町人を守るために、日々魔物や国とバトルしているに違いない。

それにこの空気感だ。

なぜか周りは息を飲んだように目を丸くしている人もいれば、焦ったような表情を浮かべている人、言葉を失って跪こうとしている人までいる。

総じて視線はこの町長に集まり、一挙手一投足余さず捉えようという気概を周囲の人達から感じる。

まさか自己紹介の一言でここまでの空気を作り上げるとは……この町長、相当やる。

ヒヨッてこっちが委縮しちまいそうだ。

「そ、そうでしたか……それで何か御用でも?」

「うむ。攫われた者達を救出したと聞いてな。褒賞を出そうと思うが、今夜は時間を取れるか?」

なるほど、褒賞か。

嫌いじゃない響きに、自分の耳がピコピコと動いた気がした。

そういえばベザートでも、ジンク君達3人衆の件で礼金のような物を貰ったことを思い出す。

ハンター二人の分がギルドから出るのは分かっていたけど、そうかそうか子供達の分か。

全員がこの町の出身じゃないみたいだけど、20人以上いるわけだから、結構なお金になるのかもしれない。

しかし、今夜はどうしても外せないのだ。

リアに大事なことを伝えなければいけないので、さすがに今日の今日では困ってしまう。

「すみません今日は先約があって、明日だとダメですか?」

俺は普通のことを普通に返した……と思う。

しかし場は一瞬で凍り付いたような気がした。

ところどころ、「断った!」「断ったぞ!?」と、声を洩らしながら驚愕している人達がいる。

いやいや、どんだけだよ町長!

それともこれがこの世界の常識なのか?

「まぁ急な話だしな。では明日の夜、 我(・) が(・) 家(・) で会食でもしながら褒賞を渡すとしようか。宿を取っているなら迎えをやってもいいが?」

「あ、それは大丈夫ですよ。町長さんの家って聞けば、この町の人は分かりますよね?」

そう問いかければ、町長さんが周囲を見渡し、目のあった人達が次々と高速で首肯している。

「大丈夫そうだな。では明日、楽しみにしている」

そう言いながら最後に積み荷を確認するためか、俺の横を通り過ぎた時。

「王都に向かったニローから話は聞いている。純粋な興味で害するつもりはないから安心してくれ」

デカい手を肩に置きつつそう呟かれ、楽しみとはそういうことね、と。

そう考えると急にめんどくさくなるも、でもまぁ、町長ならたぶん各町のギルドマスターと同じくらいの立ち位置。

それで褒賞の話もあるなら別にいいかと、人混みをモーゼのようにパッカーンと割りながら去っていく、そんな町長さんの背中を眺めていた。

その後は衛兵さんが奴隷状態の男4人を連行。

欲の強そうな最初の奴隷アルフィバは、俺への恐怖より怒りが増したのか、

「畜生ッ! 俺に飯と酒と女を約束してくれる話はどこにいった!? 話が違うじゃねーかっ!」

このように喚いていたが、俺がこの男に約束したのは 彼(・) 女(・) に(・) 殺されないようにすることくらい。

今は記憶を弄られどう解釈しているのか知らないが、身勝手な願望を口にし、それらが叶うと勘違いしたこの男の問題だ。

つまりこの後、男達が死罪になろうが俺の知ったことではない。

しっかり理解せずに勇み足で契約をしたおまえが悪いということである。

そもそもこの男達に掛けられていた奴隷契約は

"術者に危害を加えない" "術者に嘘をつけない"

この二つだけだったしね。

正確にはコストの問題で、これ以上の制約を男達に施せなかったんだろうけど……

セフォーさん達を殺したのも、アマリエさん達に手を出したのも、金品を奪い盗賊稼業に精を出していたのも。

結局は命令でもなんでもなく、この男達の自己判断でやっていたわけだから、どう処罰されようがなんの同情心も湧いてこない。

それでもわざわざ連れ帰ってきたのは―――

それっぽい男性に視線を向けると、頃合いかとあちらも声を掛けてくれる。

「私はこの町の衛兵長をしているアルバックという。申し訳ないが君も衛兵官舎まで同行願えないだろうか? ハンターの女性二人からも多少の事情は聞いているが、救出者からも事の経緯を詳しく聞かせてほしい」

そう、この展開を望んでいたからだ。

馬に乗り、鎧を着込んだ男に俺は愛想良く返答をする。

「もちろんですよ。この男達の住処や奴隷の売り先など、僕からお話しできることはお伝えします。なのでこの国の法について、できれば詳しく教えてもらえないでしょうか?」

どこまでならセーフで、何をすればアウトなのか。

罪の女神様として日々懺悔を聞いているからか、リアも多少は法について知っているものの、その知識は広い意味でこうなる可能性が高いという程度。

国単位の細かい 法(ルール) までは把握できていなかった。

押収したこの荷物だって、所有権は誰になるのかまったく理解できていないまま、形見が混じっているからというだけでとりあえず回収してしまっている。

となれば、この手の犯罪者を取り締まる人達に聞くのが一番手っ取り早いだろう。

ラグリースはもちろん、隣国あたりの情報まで確認できれば御の字である。

俺が確認しておきたい事項なんてそれなりに限定されているしね。

「おぉ、それは感謝する。法は何か分からないことがあるならもちろん教えよう。肌色からラグリースの出身ではないようだしな」

「こちらこそ感謝します。それで早速ですが、この押収した積み荷はどうすればいいですか? 形見の品もあって全部回収してきたのですが」

「これは凄い量だな……一度男達を取り調べした上でになるが、盗難や奪い取った品であれば、大体のケースではその組織を潰した当人の物になる。そこから持ち主に返すかどうかはその者の自由だ。一度中身も確認しておきたいから、とりあえずは全て衛兵官舎に運びこませるとしよう」

衛兵長のアルバックさんが後方に指示を出すと、部下の数人が町の中へと戻っていく。

どうやら馬を調達してくるようで、横に転がっている1便のカラ馬車も利用して2台で運び込むらしい。

そんなわけでトコトコと。

荷物は門番さんや残った衛兵さん達に任せ、時代劇のようにお縄になった男達4人の後をついていきながら、衛兵官舎というところを目指す。

日本で言えば交番?

それとも警察署くらいに少し規模が大きいのかな? などと想像していると、大通りから一本入ったところ。

2階建ての一軒家よりやや広いくらい、石造りが一目で分かる建物の前で動きが止まる。

両開きの鉄扉で堅牢そうではあるが、意外と建物自体は小さい。

「男達は一旦地下牢に入れろ。すぐに取り調べ開始だ」

(あ~なるほど地下があるってわけね。納得納得)

アルバックさんの指示に一人納得しながら、俺は一階入り口付近にある一室へ。

そこはテーブルを挟んで4脚の椅子が置かれており、応接室という雰囲気ではないけど、小窓から日の光もしっかり入った清潔感のある4畳程度の小部屋だった。

「改めて、私はリプサムの衛兵長を任されているアルバックだ。協力感謝する」

「僕はロキです。宜しくお願いします」

「では、事の発端だが―――……」

そこからなぜ、この事件に首を突っ込むことになったのか。

ハンターギルドの緊急探索依頼から始まり、受付嬢レイミーさんの存在。

【飛行】と【探査】を併用しながら『斧』や『行方不明者の名前』を探したこと。

結果街道の北側に反応があり、そこが男達の住処になっていたこと。

そして、中で行われていたこと、俺が行なったことなど―――

リアという存在だけは隠し、リアがやったことを俺に置き換えた上で、一から九くらいまでの事情を説明していく。

その間アルバックさんは木板に黙々と俺の言った内容を書いており、この世界は書記官のような存在がいないんだなと。

そんな余計なことを思ってしまうくらいに淡々と事が進んでいった。

「なるほど。【奴隷術】か……それで子供達が人攫いの被害にあったというなら納得もいく。道理で少し前、子供達の行方不明報告が続いたわけだ」

「少女ばかりなのは奴隷術者の趣味でしょうね。被害は近隣の村にまで及んでいるみたいなので、どうか彼女達を宜しくお願いします」

「もちろんだ。しかし、なぜハンターまで混ざっている?……ロキはその辺りを聞いているのか?」

「えぇ。どうやら護衛もできる奴隷ということで、他国からオーダーが入っていたみたいですよ」

「他国……ちなみにどの国か、国名は覚えているか?」

「いえ、申し訳ありませんが。引き渡した男達もそこまでは知らなかったようです」

Dランクハンターといえば、世間の評価としても弱くはない――中級者クラスのハンターという立ち位置だろう。

それでいて若く容姿に優れ、いざとなれば回復や解毒も可能で、おまけに性的な部分までカバーできる。

客観的に見たって奴隷としてはかなり優秀だ。

だからこそ相応の金額で取引されるのだろうし、パーティメンバーという障害を排除してでも手に入れようとしたのだろう。

排除できれば遺品という名の 戦(・) 利(・) 品(・) も手に入るわけだしな。

普通にやったんでは勝ち目がなくとも、子供という餌を使い、おまけにその餌が武器にも早変わりするとなれば、ハードルは一気に下がる。

俺もその罠にあっさりハマったわけだしね……

ポケットをゴソゴソと。

子供達から回収した『指輪』を机の上に並べる。

「これが子供達に嵌めさせていた武器です。麻痺と毒―――毒はカズラ血毒と言ってましたが、その2種類が仕込まれているようです」

「カズラ血毒……? カズラ……カズラ……まさか同盟国が……いや、そんなわけは……」

何やら口元を手で覆い、思い当たる名称と紐づけ作業をしていそうなアルバックさん。

ならばと、2~3日後に運び専門の業者が住処へ訪れるらしいと伝えれば、目がギラリと光り、暫し考え込む。

そこから事件の背後を特定できるかは彼らの腕次第。

同盟国なんて言葉も出てきたし、他国で人を攫っていることが発覚すれば、地球同様に両国間の関係は相当冷え込むのかもしれないな。

まぁ……そこまでの規模の話、俺が気にすることじゃないけどね。

約1時間ほど。

話せることは大概話し、アルバックさんからの質問も出てこなくなった。

自分で書いた木板を眺めながら、ウンウンと頷いている姿を見て、これはそろそろ俺のターンじゃない? と。

そんな雰囲気を感じ取る。

「この辺りでもう大丈夫ですか?」

今、俺が切実に知りたいこと。

定められた 法(ルール) について詳しく教えてほしい。

「あぁ、非常に助かった。りょ……町長から子供達救出の謝礼も支払われるそうだから、この内容も町長に伝えさせてもらう」

「問題ありません。では、僕が知りたかった法についてですが」

「うむ。具体的に、どんなことを知りたいんだ?」

そう言って身を乗り出してくるアルバックさんへ、大真面目な顔をして俺は質問した。

「人を殺しても、法的に許される条件を教えてください」