軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

162話 リプサムの町

この異世界は24時間という、地球と同様の長さで一日が終わる。

そして季節の流れも、カレンダーという存在が無いので感覚での話だが、地球とあまり変わらないような気がする。

(日暮れが早くなってきたな……それに上空は少し肌寒い……)

時刻は17時過ぎ。

だいぶ陽が傾いた空を飛びながら、前方に灯りが見えてきたことに俺は少しホッとしていた。

規模で言えばベザートよりも3倍くらいは大きいだろうか?

道中いくつか見えた、村や集落とはまったく規模の異なる人工建造物群。

あれがリプサムという町だろう。

上空から目星を付けた大きな建物の屋根に一度着地後、一応仮面を被ってから脇の道に降り立つ。

今回の着地点ははかなり町の中心部だ。

さぁどっちだろう? と思いながら正面に回るとそこは宿屋だったので、ついでとばかりにそのまま部屋を確保。

風呂の有無を確認する前に桶一杯の湯がいくら、布切れの値段がいくらとオプション価格の説明が始まってしまったので、聞く前から風呂が無いことは分かってしまった。

部屋に荷物を置いた後は町をフラフラと。

目についた服屋で身を包めるような皮製の大きな外套を購入した後は、今夜の食事場所を物色しつつ同じ中心地にあったハンターギルドへと向かう。

やることは明日に向けての情報収集だ。

換金で大賑わいのカウンターを横目に、俺は楽しみでしょうがない資料室へと一直線。

ページ数がやや多いことにほくそ笑みながら、近辺の狩場情報を読み込んでいく。

リプサムの周辺狩場は三ヶ所。

Fランク狩場の 《ピア平原》、Eランク狩場の 《カルカムの森》、Dランク狩場の

《ビブロンス湿地》と、なんともこの町からスタートするハンターにとっては環境の良さそうな狩場構成だ。

EランクからいきなりBランクに上がる、ハンター殺しのマルタとは大違いである。

ただFランク狩場のピア平原は用がないので、俺が今回向かうのは2ヵ所だけだな。

ピア平原は、ホーンラビット、ゴブリン、ファンビーの3種と、既に倒したことのある魔物ばかり。

一応ミールの 《トラン森林》で、場所が変われば同じ魔物でも取得スキルが異なるんじゃないかとそれなりに倒してみたが、結果は魔物が同じなら所持スキルも同じだった。

ならば今は効率よく新規スキルが取得できそうな場所を狙って、追々例外があるということが分かれば【空間魔法】取得後にでももう一度くればいいだろう。

Eランク狩場 《カルカムの森》で初となるのは2体。

ビーキーボアとレイラードフェアリーという魔物で、前者は挿絵を見るとまんま猪だし、なんとなく所持スキルも予想できてしまう。

なので問題は後者だな。

フェアリーと名が付く時点でなんかビンビン来るものがある。

それに説明文には、ビーキーボアとオークの傷を回復させる厄介な魔物と書かれていた。

もうこの時点でフェアリーさんありがとうとしか言えない。

とうとう俺もヒーラーの仲間入りである。

そして最後のDランク狩場 《ビブロンス湿地》は、まぁ湿地っぽい魔物というか普通な感じだな。

出現する魔物4種は全て初見で、グロウハウンド、マイコニド、ジャイアントワーム、グレイウーズと書かれている。

挿絵を見ると、泥の付いた犬、キノコ、マルタで食べたステーキ、なんかプリンみたいなやつ。

こんな感想しか出てこないし、いまいち使えそうなスキルを持っている雰囲気が無い。

魔物が強くなるほど高レベルのスキルを所持している可能性が上がるので、ボーナスステータスには大いに期待といったところだ。

ふふふっ……やっぱり新しい町で見る薄い本は楽しくてしょうがないね。

まずはどっち行こうかな~とルンルン気分で受付の方へ行き、ついでに依頼ボードにも目を通しておく。

すると、今まで見た事のない木板が存在を主張するように2枚ぶら下がっていた。

(ん? 赤枠……?)

木板自体の大きさや材質は他と変わらない普通のものだ。

しかし周りを赤い塗料か何かで縁取りされており、数ある依頼の中でも自然と目立つようになっている。

(内容は――あぁ、やっぱり緊急の探索依頼か)

目立たせるということは急ぎということ。

以前ベザートでも緊急の探索依頼が出されたことは知っていたけど、貼り出された依頼内容をこうして見るのは初めての経験だ。

「どちらも 《ビブロンス湿地》の常時討伐依頼中に行方不明、片方は6日前でもう片方は2日前……」

行方不明者は2名パーティと3名パーティのようで、それぞれ生還者1人に対して金貨15枚。

つまり1人15万ビーケほどの報酬と記載されている。

高いか安いかで言えば安いと思うが……

ふと、後ろを振り返る。

報酬を待つ多くのハンターと、そのハンター達に笑顔で対応するギルド職員。

既に報酬を得て、ニヤニヤしながらテーブルに硬貨を並べて仲間達と分け合っているハンターも多いし、奥の食堂には周りの喧騒に負けないほどの大声で騒ぐ者もいたりと、ギルド内は沈んだ雰囲気など一切見られない。

――そう、これが日常なのだ。

身近に行方不明者が出ようと、何事も無く日々は過ぎ、そして忘れられていく命の軽い世界。

(一応 《ビブロンス湿地》から狩ってみるかな……)

自分が見つけてやろうなんて正義感はない。

そもそも2日前ならまだしも、6日前となれば絶望的だろう。

今さら魔物のウヨウヨいる環境で生き延びているとは思えない。

ただそれでも、どうせ狩りに行くなら報酬の増える可能性がある選択を取るべきだと。

俺はその他の依頼も一瞥し、 《ビブロンス湿地》の情報を求めて混み合う受付へと足を運んだ。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

翌日。

やっと空が白み始めた時間帯。

やや霧のかかった不気味な雰囲気が漂う中、ワクワクが止まらない俺はビブロンス湿地へ早朝出勤してしまっていた。

【飛行】を使えば町から僅か5分程度。

まだ朝ご飯も食べていないけど、ジャイアントワームがいるなら食事に困ることはない。

「うほぉ~い! 狩場独占じゃ~!」

剣を片手に叫びながら、庶民服のまま沼地を走り回る。

見かけ次第バッサバッサと。

【気配察知】で反応のあったところに向かっては見境なく魔物を切り捨てていく。

警戒は最初の10分程度で、それ以降はひたすらスキル経験値と魔石の回収作業だ。

ここで一番素早そうなグロウハウンドの動きを見て、そしてジャイアントワームの【踏みつけ】によって刎ねる泥の具合を肌で感じ取って確信した。

あ、これ狩場で寝落ちしてもまず死なんやつだな、と。

唯一マイコニドだけは面白いというか、動くことも攻撃を仕掛けてくることもなく、【胞子】によって複数のデバフのみを与えてくる。

その中の麻痺か睡眠を食らったらどうしようと思っていたが、倒せば倒すほど【麻痺耐性】【睡眠耐性】の2種耐性を俺に与えてくれるので、見た目毒々しいマイコニドは既に俺の大好物になっていた。

昼前には他のハンター達があまり入ってこなさそうな湿地帯の奥地に踏み込み、魔石だけ回収していた特大籠を見晴らしの良いポイントに置いて食事休憩。

どうせなら鉄板が欲しいなと思いながら、ジャイアントワームの肉と、これまた食用素材として記載されていたマイコニドを掌サイズくらいに切って焼いていく。

ジャイアントワームは体長2メートルほど。

昔育てたカブトムシの幼虫がそのまま巨大化してオレンジ色っぽくなったような見た目なので、これ以上ないくらいに気色悪いはずなのだが……

それでも食べると、全身が脱力してしまうほど美味いのだ。

日本にいたなら、いくら美味かろうが絶対に手を出さなかったと思うけど、この世界に来て本当に精神がタフになったと実感する。

このキノコだって所々紫色で、色だけで本来なら拒否反応を示してどこかにぶん投げるほどの毒キノコっぷり。

なのに焼いた後、常備している塩を掛けて口に放り込むとふっくらシャキシャキしていてこれまた美味い。

形状はしめじのようでいて全長50センチくらいあり、その一つ一つがしいたけのように傘がしっかりしているという何ともお得なキノコである。

食後に自ら生成した水を飲み、起こした火を消しながら、ついでに全身にも水を浴びて跳ねた泥を洗い流す。

日の出ている日中なら寒さを感じることはないし、これからまた走り回ればすぐに乾くだろう。

しかし、どこに行ったものか……

朝から【探査】で『斧』を探しているけどちっとも見つからない。

昨夜、受付で行方不明中のハンターがどのようなパーティ構成だったのかを確認した。

探索や救出に意欲的なハンターは少ないんだろうな。

お局さん的なガラガラカウンターを作り出している受付嬢がいなかったので、食堂で適当に夕食を食べながらカウンターが空くのを待っていたわけだが、そろそろいいかな? と思って適当に声を掛けると、横から飛び出すように別の受付嬢が行方不明者情報を教えてくれた。

――先ほど、笑顔で対応していた受付嬢だった。

分かる範囲の職構成や各ハンター達の名前、性別に背格好、普段の換金素材から主に狩っている魔物の傾向まで、必死過ぎるくらいに色々と教えてくれる。

だが、もし魔物にやられてしまっていた場合、たぶん名前では【探査】に引っかからないだろう。

既に喰われて胃袋の中というのは、現実的に最も有り得る話だ。

でも武器ならそこまでの巨体な魔物はいないので、ついでに食われる心配はまず無い。

二つのパーティに共通しているのは、どちらも『斧』を愛用するハンターがいたこと。

ならば生きているにしろ死んでいるにしろ、武器が一つの目印になると思っていたわけだが。

「所々にある沼に落ちていたら、深さによっちゃ【探査】の範囲なんて届かんよなぁ……」

この地で生息している魔物に、沼へ引き摺り込むような性質を持ってそうなやつがいるにはいる。

全身が泥でできており、【泥化】というスキルによって固体と液体を使い分ける魔物。

そのせいで真っ二つに切り裂いたと思っても、まったくノーダメージで反撃してきたりするから地味にめんどくさい。

まぁ泥だから、反撃されても痛くはないんだけど。

20メートルくらい先でプリンのようにプルプルしている魔物を見据える。

「……グレイウーズ君、おまえが何かしたの?」

当然返答は返ってこない。

こちらに気付いているのか、挑発するかのようにプルプルしたままだ。

「はぁ。原因が分からんなぁ……」

ボソリと呟きながら、俺は後半戦開始とばかりにそのグレイウーズに向かって走り出した。