作品タイトル不明
158話 国の情勢
昼まで時間が余った俺は、久しぶりにのんびりと町の探索を始めた。
明日から俺は一人旅を再開する。
その時状況によっては野宿するかもしれないし、狩場でそのまま食事を摂るかもしれない。
携帯寝具の質や値段を確かめたり、鉄製の鍋を手に取ってみたり。
今まで興味の対象外だった物にまで目を向ければ意外と面白く、普段は入らないような店にまで足を運んで異世界ショッピングを楽しんだ。
まぁ運べる量の問題があるので、見て回るだけで実際はほとんど品物を買っていないんだけどね。
そしてウロウロしながらも目的の一つである防具屋を発見。
現在防具が無いのとほぼ同じ状況なので、質の良い物はどのくらいのお値段がするものなのかと。
サイズ的に厳しいのは承知の上で、それでも都合よく物があれば即決しちゃおうくらいの気持ちで入店する。
ここマルタの防具屋はベザートと違って完全な防具専門店のようで、店内に入ると3段の衣装棚には詰めるように鎧一式や盾などが並んでいた。
その数はパイサーさんのところの5倍くらいで、値段や性能も分からないのにもうこの時点で興奮から鼻息が荒くなってしまう。
RPGに有りがちな、次の町に行ったらどんな強い装備が買えるのだろうという――まさにあの気持ちだ。
しかし、置いてある在庫品を見ていくうちにあることに気付いてしまった。
(ん~高いのは1000万ビーケくらいか? あまりパイサーさんのところと価格帯は変わらないか)
町の規模を考えるともっと高いもの。
稀少素材で作られた鎧なんかもあるのかと思っていたのだが。
並んでいる防具の主軸は20~200万ビーケほどで、500万ビーケを超えるような物はカウンター脇の上段にある数個だけ。
なんとも期待外れな結果に、マルタなら他に高級な防具を専門に扱っているお店でもあるのだろうか? と首を傾げてしまう。
「すみません。こちらのお店は最高級品がこの1100万ほどの鎧になるんですか?」
こんなことを農民スタイルに近い格好をした子供が聞いているんだ。
もう慣れたものだが、あまり相手にされていないような感じで返答が返ってくる。
「在庫品はそうなるな」
「ということはこれ以上が欲しければオーダーということですか」
「坊主、そういうのは金が500万1000万ビーケと貯まってから考えるもんだぞ? 手付けを用意しないと素材も仕入れられない」
「そうでしょうね。ちなみにこちらだとどの素材まで仕入れることができます? あと値段の目安も伺いたいです」
「いや、だから話を聞いてたか? そういうのは金が貯まってから考えるんだ。まず今いくら持ってるんだよ?」
「大半はギルドに預けてますけど、1億ビーケくらいですかね」
「……ギルドカード見せてみろ」
「え?」
「ハンターなんだろ? ギルドカード。ほれ」
「これからギルマスのところで交換するんでまだDランクですけど……」
そう言いながら見せれば、見事なまでに鼻で笑われる。
「ふん、だろうなと思ったんだよ。Dランクってのは――まぁ年齢にしちゃそこそこだが、小僧が1億ビーケも貯められるわけねぇだろうが。おまえハンター歴何年だよ?」
「……」
ここで数ヵ月と言ったら余計に笑われる。
嘘をついたところで1~2年サバを読める程度だろう。
「ったく……つくならもうちょっとマシな嘘を考えろ。200万~300万ビーケくらいまでの防具っつーなら真剣に話を聞いてやる」
(はぁ。またこんなパターンか……)
客に対してなんて物言いだよと文句も言いたくなる。
だが実際はそう思われてもおかしくないのだ。
13歳の、まだ声変わりもしてない子供が1億て。
自分で言っててもつまらな過ぎる冗談にしか聞こえない。
そりゃ「そんな遊びは他所でやってくれ」って、多くの人が思ってしまうことだろう。
納得させられる証明を持ち合わせていなければ俺の負け。
半分追い出せされる形で店を出て、ほんと身形が子供って難儀なものだなと。
ラランさんが一応確認してくるくらいだから、この際多少でも誤魔化せるようにお面でも被っちまうか? と。
そんなことを思いながら町の探索を続行した。
ちなみに「この店二度と行かねぇ!」と誓ったのは言うまでもない。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「やっぱりこの鉄っぽいカードじゃ感動も薄いですねぇ」
昼過ぎ。
予定通りギルドマスターであるオランドさんの部屋へ伺うと、既に準備もできていたようで今までの『D』ランクカードと引き換えに、『B』と記載された鉄製のギルドカードを渡された。
相変わらずやっつけ感のハンパないこのカード。
今なら力を込めれば真っ二つにできそうなくらい薄くて心許ない。
「希望ならカードをランク相当の素材に変えるか? Bランクだとミスリルだから、50万ビーケくらいあればできるが?」
「げっ。このカードくらいの大きさでもその値段ですか。仮に作ったとして、もしAランクに上がったらどうなります?」
「希望が無ければ次は 鉄(・) 素(・) 材(・) でできた『A』ランクのカードを受け取ることになる」
「それは分かっています。古いミスリルのカードは?」
「カードの交換が条件だからな……返却はされず、裏でコッソリ溶かされた上でギルド資金になる」
「酷い話じゃないっすか……」
「がはは! だから『A』や『S』まで到達しないと、あまりカードの素材を変える奴なんていない。本部の作ったルールも酷いもんだぜ!」
他人事のように言っているけど、絶対オランドさんはその素材溶かしてガハガハ大笑いしていそうなタイプだ。
本部にこうすれば儲かるって、打診している可能性すらある。
「はぁ。もうこのままでいいですよ。改めて昇格手続きありがとうございました」
「ロキはそのままの方が良いだろうな。あん時は突っ込まなかったが、おまえわざとあいつらの攻撃食らってただろう?」
「……どの程度ダメージを受けるのか確認したかったものですから」
「で、見る限りほとんどダメージを受けなかった、と」
「痛いとは思いましたけどね」
「それにラランへ接近した時のあの動き――ロキならすぐAランク昇格の試験も合格しそうだからな。今カードに金を掛けたって無駄金だ」
「僕もそう思います。とりあえず依頼の制限がかかるのは嫌なので、Sランクにはなっておこうと思っていますから」
「『S』なんてハンターの最終目標みたいなもんなんだがなぁ……となると、そろそろまた別の町に移るのか?」
「えぇ。それもあって以前ヤーゴフさんに作ってもらったような書状を作っていただければと」
「問題無い。なんでもするって言ったのは俺だ。明日の朝までには用意しておこう」
「ありがとうございます。あと1つ、聞きたいことが」
「ん? もしかして、Aランク狩場か?」
「その通りです。おおよその場所くらいは把握しておきたいなと思いまして」
もちろんすぐに行くわけじゃない。
先に地図を埋めながら近場の狩場を巡ったり、王都にも足を運んだりとやることは色々ある。
フィーリルとも約束したし、しばらくは安全な旅をしながらコツコツと自力を上げていきたい。
だが、その先だ。
俺が追々どこへ向かえばいいのか。
その道標となるのは、やっぱり次の上位狩場だろう。
「ふむ。本音を言ってしまえばあまり行ってほしくはないんだがなぁ……東の隣国『ヴァルツ王国』を通過したさらに先。『フレイビル王国』にあるAランク狩場がここからだと一番近い」
「できれば行ってほしくないというのは?」
「有望なハンターは俺んところで活動してほしいだろ? マルタにとってもプラスになる」
「自由が売りのハンターには耳を傾けづらい内容ですねソレ」
「まぁ表向きの理由だからな。本音を言えば敵に回ってほしくない。それだけだ」
……敵とはどういうことだろう?
既に和解して取引もしているわけだし、今更オランドさんの敵になるなんて状況が想像できない。
「何か敵になり兼ねない理由でもあるんです? 今のところまったく敵になる予定もないんですけど」
「ふむ……Bランク狩場を保有するマルタで物足りないと思ったやつらは、当然次のAランク狩場を目指すだろ?」
「でしょうね。僕ならそうします」
「だが風の噂じゃ、向かったハンター達の一部が敵国側の独立兵――要は傭兵として雇われているって話だ。ギルドは政治にゃ関与しないが、世間一般で強者と呼ばれているやつらが金に釣られて敵に回るってのは、ラグリースに住んでいる一国民としちゃ不安なのも分かるだろ?」
「んん? まずこの国と隣の国って戦争状態なんです?」
「おまえ何も知らんのか? まだ睨み合い程度だが、ここ数年かなり緊迫した状況が続いているぞ?」
「へぇ~……途中のヴァルツ王国が勧誘やら徴兵募集をしているというわけですか」
「それもあるだろうが、ヴァルツ王国とフレイビル王国は同盟関係だ。フレイビル王国で雇われたやつらがヴァルツ王国に派遣されるってこともあるだろうよ。正規兵でもなけりゃ融通なんざいくらでも利く」
「素人考えだと、そうなる前にラグリース王国が先に人材を押さえちゃえばいいのにって思いますけどね」
その勧誘をバッサリ断っておいてよく言うなと自分で思う。
でもその方が効率的なんじゃないだろうか?
「もちろんやってはいるらしい。ギルドにだって国から協力の打診をされたりもする。だがフレイビルは金を持ってやがるからな……あのドワーフ共が 阿漕(あこぎ) な商売しているせいで、金の勝負になったらまずこの国に勝ち目は無いだろう」
「ドワーフ……その話、もう少し詳しく聞いてもいいですか?」
国同士の争いに首を突っ込む気なんてサラサラない。
ただ、ドワーフという言葉には豪快に釣られてしまった。
異世界に飛んできたんだもの。せっかくならドワーフだって見てみたいじゃない。
そんな俺の事情を知らないオランドさんが語ってくれた状況は、俺が予想していたよりもだいぶ複雑な関係性のように思えた。
まず構図として、東隣にあるヴァルツ王国、そのさらに東のフレイビル王国の2ヵ国と、ここラグリース王国、そして国名が出過ぎて把握しきれなかったラグリース王国の西側の国、そして北西の国の3か国が同盟関係。
つまり西の三国同盟対東の二国同盟という状況で睨み合っているらしく、戦場になるのは唯一の隣接地であるラグリース王国東とヴァルツ王国の西に当たる国境付近で、既に関所を挟んで何度か小競り合いも起きているとのこと。
そして俺が興味を抱いたフレイビル王国は北部が山岳地帯になっており、そこにドワーフが多く住んでいるため、別名 ド(・) ワ(・) ー(・) フ(・) 王(・) 国(・) とも呼ばれているらしい。
国内にAランク狩場を保有しているため、偏りはあるものの高ランクの魔物素材が安定供給。
おまけに山岳地帯からは良質で希少な鉱物も産出されるようで、潤沢な上位素材によって作られた装備は上位ハンターや周辺国の貴族連中には人気が高く、常に高値取引されていること。
その他鉱物の輸出も行なっているようなので、資源の面で優位に立つフレイビル王国は金銭事情に恵まれているという話だった。
ちなみにそれだけ国力のあるフレイビル王国がヴァルツ王国となぜ同盟を組んでいるかはオランドさんもよく分かっていないようで、ラグリースからの侵攻を防ぐための盾にしているんじゃないか? と予想を立てていた。
ここまでの話を聞いて、西で転生者が暴れ回っているのになぜ協力しないのか。
素朴な疑問をぶつけてみたところ、それまで饒舌だったオランドさんの口は急にモゴモゴと歯切れが悪くなり始める。
だから俺は敢えてそれ以上突っ込まなかった。
こりゃ非はラグリース側にありそうだなとか、ヴァルツ王国同様ラグリース王国も西と北西の国に盾にされているだけじゃないの? とか。
思うことはいくつかあったが……所詮俺は平和な日本から飛んできたド素人だ。
ヘタに踏み込み過ぎると余計な厄介事に巻き込まれるし、情が――――
一瞬思考が止まり、理解できたと同時に溜め息を吐きながら両手で頭を抱えてしまった。
(あーあ……既にベザートの人達には死んでほしくないって思ってる時点でダメじゃん……)
ベザートだけじゃない。
マルタだって接点のあった一部の人には、戦争に巻き込まれて死んでほしくないなと思ってしまっている。
(余計なこと聞かなきゃ良かったか)
踏み込んで聞いてしまった後に後悔してももう遅い。
俺はドワーフという種族を見学して、Aランク狩場で手に入れた素材や現地の鉱物で立派な装備が作れればそれでいい。
そう思っていたのに、もし本格的な戦争が起きたらどうすればいいのだろうか……?
「魔物を倒すので忙しいから、俺が戦争に参加することなんてありませんよ」
俺自身が戦争に参加するなんて想像できないし、自分のことだけを考えれば参加するメリットがあるとも思えない。
オランドさんはこの回答にホッとしていたので、とりあえずはこれで問題無いだろう。
明日の朝また書状を受け取りに伺うことを伝え、ギルドの外へ出てみればまだ明るい時間帯。
空を見上げれば、俺のモヤモヤした心とは対照的に雲一つない晴天だった。
「はぁ……」
長い溜め息を一つ。
まだ時間があるなら先にやるべきことをやってしまうかと。
今日唯一買った安物の木製お面を手でクルクルと回しながら、俺は町の南部、リアとリルの神像が置いてある教会へと向かって歩きだした。