軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

107話 別れと期待

「申し訳ありません。当館本日は満室でございまして……」

「うぅ……そうでしたか。ちなみに一泊おいくらかだけ教えてもらえますか?」

「お部屋のランクによりますが、一泊3万ビーケからでございます」

はぁ……

予想より宿泊代は安い。

これくらいの額なら問題無く泊まれるというのに、教えてもらった風呂付宿屋は予想外の満室だった。

ロビーと呼べる広い1階スペースを見渡せば、ベザートではまず見ることのなかった豪華な衣装に身を包んだ人達がチラホラと。

南の貿易都市って呼ばれているくらいだし、先ほど教えてもらったゴールドやミスリルクラスの商人が多く泊まっているのかもしれない。

(とりあえず今日は風呂無し宿で部屋を取って、すぐに商業ギルドへ戻るしかないか……)

期待していただけに、質の良さそうな調度品が目立つ高級宿を出る足取りは重い。

だが空きが無いならしょうがないと、近場にありそうな適当な宿屋探索を開始。

ベザートで言えば、ビリーコーンくらいの小綺麗な宿で部屋を取ることができたので、荷物を一通り置いてから商業ギルドへと戻ってきた。

と言っても中に入るまでもなく、なぜか入口近くの壁に寄りかかっているアマンダさんが。

「遅くなってすみません」

「あっ、いいのよ~部屋は取ってきた?」

「えぇ無事。それよりアマンダさんの方はどうでした?」

「とりあえず高い剣だし怖いから先に返すわね……パイサーさんの方は無事通ったわよ。300万ビーケも報奨が出て驚きだわ」

(あ、あれ……? ってことはボールペンの方がまさかのダメだったパターン!?)

なぜかアマンダさんは黙ったまま、手をチョイチョイとするので顔を近づける。

「あんな画期的な物が通らないわけないわよ。……逆に良過ぎるくらいで、上層部が言葉を失っていたからそっちの方が心配だわ」

「あ~そういうことですか」

「だから一応警戒して外に出てきたの。これからロキ君のカードと、預かっているギルマスとペイロの商業カードを使って『ボールペン』の商業登録をしてくるけど一緒に来る? もしかしたら受付カウンターを上層部が見ているかもしれないけど……」

「いや、余計なトラブルは避けたいので遠慮しておきます」

「なら私がロキ君のカードも預かって登録してくるから――そうね。あそこのお店で飲み物でも飲んで待っててもらえる? そんなに時間は掛からないと思うわ」

「了解です。あ、ただ一つだけ。警戒するなら『ボールペン』という名称で登録するのは止めた方がいいですよ。別の異世界人と繋がっていたら名称だけで異世界産とすぐバレますから」

「あっ……たしかにそれもそうだわ……」

「羽根のペンは羽根ペンと呼ばれているわけですし――これは木なんで木製ペン? 見た目そのままの方が名前は浸透し易いと思いますからあとは好きに決めちゃってください」

「……うん、予定に無かったけどその『木製ペン』でいきましょう。それじゃ終わったら向かうからお店で待ってて頂戴!」

そう言って再度商業ギルドの中に入るアマンダさんを見守る。

(大した時間ではないけど、本当はこういう時も魔物を狩っていたいんだけどなぁ……)

ゲームであれば、操作している間はほぼ100%と言ってもいいくらいに全ての時間を狩りに費やした。

大げさでもなく1分を無駄にしないため。

その1分で他のプレイヤーとの差をつけるため。

その積み重ねが半年後、1年後の差に繋がると信じてやってきたし、事実その通りの結果になった。

装備の確認や情報収集も狩りをしながら、器用に手を動かして確認するのは基本中の基本。

それに比べると、今はなんとも寄り道が多いなと痛感する。

(まぁゲームじゃなくてリアルだしな。物理的にできないことを望んでもしょうがないか)

そう納得はしているものの――

(早くスキル上げ、頑張りたいなぁ……)

そんなことを考えながら、視界に入るカフェのようなお店へと向かった。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

「ほっほ~これが証書のようなものなんですか」

「そうよ。下に商業ギルドの印章があるでしょ?」

そう言われて見てみれば、例の硬貨のマークと商業ギルドという文字がインクで押印されている。

しかしわざわざ証書に羊皮紙を使うとは。

「貴重な紙なんて大丈夫だったんですか? 結構なお金が掛かったんじゃ?」

「色々追加で情報も貰っちゃったしいいのよ。それに証書が木板だとロキ君が旅する時、邪魔になるでしょ?」

「本音を言えばそうなんですよね……お気遣い感謝します」

「ただ、今後もし別の物を商業登録できたとしても、その時ロキ君がどこにいるかは分からないわ。だからロキ君用の証書は木板にしてこちらで保管させてもらうことにするけどそれでいい?」

「もちろんですよ。ちなみに僕のカードが無くても商業登録ってできるんですか?」

「そこで使うのが商業識別番号よ」

そう言いながら指で指された場所を見てみると、確かに9桁の番号のみが書かれており、その横に『10%』という数字が記載されている。

「実際には名前じゃなくこの商業識別番号を登録するから、今回のでロキ君の番号を控えさせてもらったってわけね」

「なるほど……ただ、他の数値はこれでいいんですか?」

その並びに書かれた4つの数字。

一つは指を指されてたので『10%』が俺ということでいいのだが、他の3つは『76%』『2%』『2%』となっている。

全て番号なので名前は分からないものの、低い2%が誰なのかはなんとなく想像できてしまう。

「一応伝えておくと、76%がギルマス、2%が私とペイロね。それにロキ君の10%とで足して90%。残りの10%がこの下に書いてあるけど商業ギルドの手数料ということになるわ」

「……ヤーゴフさんの分、飛び抜けてません?」

「時間があれば他にも手はあったんでしょうけど、今はこれしか方法がないのよ。やっていることはハンターギルドと関係の無いことだから、利益も個人で割り振るしかないの。だからギルマスのところから開発や素材などの必要経費を全て賄う形になるわ。実質の取り分はギルマスが3%と事前に決めてあるから」

「そういうことでしたか」

地球なら法人化すればいいだけだろうが、この世界だと会社というのがどうなっているかも分からないからな。

文明レベルを考えれば商人なんかは洩れなく個人事業な気がするし、ヘタに分散して利益配分してから経費を徴収するより、信用できる人のところに一極化させてしまった方がやりやすいのだろう。

ヤーゴフさんは色々な意味で恐ろしいが、誠実かどうかという点で言えばズレたことはしない人だと思っているので、俺の知らない人に任せるよりはよほど良い配分だと思う。

そしてその後は、俺が紙に起こした案などを軽く確認していく。

『自転車』と『サスペンション』は分かっていたけど近い存在すらこの世界には無く、鉱物の加工技術も捻る曲げるなどの加工が入るほど難易度が上がるっぽいので、特に自転車のチェーン部分なんかはかなり難しそうであること。

対して『傘』と『クッション』は、貴族などの富裕層が似たような物を所有しているから一応この世界にもあるみたいだけど、『扇子』や『団扇』なんかも含めて庶民向けに作れるか挑戦してみるらしい。

特に平な形状の『座布団』は聞いたことが無いらしく、苦痛を伴うことが常識とされている馬車の旅が楽になるとなれば需要は激増。

おまけに製品化もこの文明レベルで十分可能とアマンダさんは判断しているようで、これが絶対次の商品登録になると息巻いていた。

こう言ってはなんだが、本業のハンター受付業はいつも暇そうだからなぁ……

その暇な時間を活かして精力的に開発してくれれば、いつか俺の貯金になっているかもしれないわけだし、ベザートの人達や庶民の生活向上に繋がるかもしれない。

そう思うと本業に支障が出ない程度に頑張ってくれと、心の中でだが応援しておいた。

「さてと、それじゃある程度煮詰める部分は煮詰めたし、これでしばらくロキ君ともお別れね」

「そうですね……ちなみにアマンダさんはいつベザートに戻るんですか?」

「乗合馬車の出発予定にもよるけど、明日か明後日でしょうね」

「泊まるところは?」

「ハンターギルド職員は、別の支部があるような街なら大概無料で泊まれる宿泊施設があるのよ」

「へ~僕のいた世界で言う福利厚生ってやつですね。さすが大きい組織はそこら辺が優秀だなぁ」

「もちろん、ロキ君の部屋に泊めてくれるというのならお邪魔するけど?」

「か、勘弁してください……僕13歳なんで……」

「今更何誤魔化してるのよまったく……それに冗談よ。ロキ君に嫌われでもしたらこの計画から外されちゃうかもしれないし」

「は、はははっ……」

「……必ず生きて帰ってくるのよ? 定住しろなんて無理を言うつもりは無い。けど、必ず数年後でもいいから顔は出すこと。これは絶対よ?」

「それはもちろんです。他の皆さんとも約束してますし、なんと言っても僕は顧問ですからね! それまでに思いついた案があれば纏めておきますよ!」

「ふふっ、期待しているわ。それじゃあまた、お元気で」

「えぇ、アマンダさんもお身体に気を付けて。受付業と開発、頑張ってくださいね」

もう日も暮れかかった時間帯。

これでベザート関連は一旦全て終わったんだなと、複雑な心境になりながらハンターギルドの方へと戻っていくアマンダさんの後ろ姿を眺める。

寂しくもあり、次に進めるという期待感もあり……どちらもが正直な俺の気持ちなんだろう。

でも、それでもだ。

どちらが上かと問われれば後者。

これからの旅、どれだけ広いのかも分からない世界、未知の魔物にスキルや魔法。

それらが待っていると思うと、今からでも狩り場に向かってしまいたくなる。

(まず優先してやるべきことは――ハンターギルドに行って近辺の狩場情報を収集、あとはベザートでは見つからなかったアレの確保だな)

だが今からハンターギルドに行ってしまえば、さっきお別れしたばかりのアマンダさんと鉢合わせて、若干気まずい雰囲気になってしまう可能性がある。

そう思った俺は周囲を見渡し、まずは宿周辺の店巡りでもしてみようかと。

アマンダさんとは逆方向に向けて探索を開始するのだった。