軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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パーティ会場でガーゴイルやドッペルゲンガーが暴れている頃、シルヴィアたちも苦境に立たされていた。

「ぐ、ぅ……っ!」

イザベルの首に巻き付いた腕は、容赦なく力を込めていた。

足先が床から離れ、イザベルの体が宙に浮く。

その足がわずかに痙攣し、シルヴィアの心を抉るような音を立てた。

「やめなさいっ! イザベルを離しなさいっ!」

「ほう……? ならば、神聖結界でも展開するか? お前の得意な結界であろう?」

ドッペルゲンガーの笑みは冷たく、黒く 爛(ただ) れていた。

「だが忠告しておこう。結界を張った瞬間、こいつの首をへし折る。面白い音がするぞ、女の骨は柔らかいからな……! ふふ、見てみたいか? 今なら特等席で見られるぞ」

「っ……!」

拳を握るシルヴィアの指が、爪で掌に食い込むほど強張る。

しかし、それでも彼女は戦えない。

イザベルを人質に取られた今、自分の力を使えば、それは彼女の死を意味する。

そんなシルヴィアの内心を見透かしたように、ドッペルゲンガーは喉を鳴らして嗤った。

「甘いな。そういうところが人間の弱点だ。情に脆いから漬け込まれる」

シルヴィアの目が、鋭くドッペルゲンガーを睨みつける。

「……私の飲み物に細工をしたのはあなたですね」

「いいや、違うさ。協力者が他にもいたのさ。人間のね」

「っ! 先程の言葉はそういう意味ですか……!! ですが、何故シャルお姉様の目を掻い潜れて――」

ドッペルゲンガーは愉悦の混じった声音で、指を鳴らした。

「混入したのは毒ではない。薬だ。ただの胃腸薬だが分量を誤れば毒にも転じるがな」

「……っ!?」

それならば、シャルロットの術式を掻い潜れた理由も説明がつく。

胃腸薬であれば薬と判定され、毒として判別されにくい。

ドッペルゲンガーはゆっくりとイザベルを引き寄せ、さらに首の圧を強めた。

「さて……お前の神聖結界とやらは全ての魔を拒むと聞いている。迂闊に使わないことだな。驚いて力が入ってしまうかもしれん」

「ぐぅっ……!」

脅すようにドッペルゲンガーは腕に力を込めてイザベルの首をさらに絞めつけた。

成す術もないシルヴィアの瞳が揺れる。

「……どうして、知っているのですか!」

「我らはお前たちを観察していた。どこで、何を持ち、誰と会い、何を話していたか……。人の姿で溶け込み、じっと情報を集めていたのだよ」

――そうだ。奴らはあらゆる場所にいた。

屋敷の使用人、街の商人、あるいは城の門番。

どこにでも、誰にでもなれる。

だからこそ、護符の存在すら把握していたのだ。

「そして今、お前は護符を隠している。それだけは絶対に奪われないようにと、ドレスの中に仕込んでいるはずだ」

シルヴィアは震える手で胸元を押さえた。

そこには、確かにレオルドから預かった護符がある。

シルヴィアの命を守ってくれる最後の切り札。

ドッペルゲンガーは、笑いながら続けた。

「ならば――それごと、全部脱げ」

「……ッ!」

「ドレスも、下着も、装飾品も、すべてだ。ここで、裸になれ」

「やめ……やめてください……っ! シルヴィア様……! 私のことなど……!」

怒気を孕んだ声でイザベルは、ドッペルゲンガーを睨みつけた。

「まだ喋るだけの力が残っていたか。大した女だが、今は黙っていろ」

「ッ……!」

イザベルの首に巻き付いているドッペルゲンガーの腕がさらに力を増す。

意識を繋ぐのが精一杯なイザベルは必死に目で訴える。

どうか、私を見捨ててください、と。

シルヴィアはイザベルからの訴えを無視することは出来なかった。

長年過ごしてきた姉同様の存在をシルヴィアは見捨てることなど出来なかった。

「……言う通りにすれば、イザベルを解放してくれるのですね?」

「放してやるとも。お前がすべてを脱ぎ、無力になったらな。王家の姫君が素っ裸で震える姿、実に美しいと思わんか?」

ドッペルゲンガーはイザベルに厭らしい笑みを向けた。

イザベルは守るべき主を守れず、それどころか自分の所為で危機に陥ってしまったことを後悔する。

「ほら見ろ。人質が泣いてるぞ?」

イザベルの悔し涙を見てドッペルゲンガーは心底面白そうに笑った。

「……やめて! これ以上、イザベルを苦しめないで!」

決意の滲んだ声とともに、シルヴィアはおずおずと手を胸元へ伸ばした。

衣擦れの音が、あまりにも静かに響く。

丁寧に縫われた礼装が、ひとつずつ外されていく。

装飾品が床に落ち、冷たい音を立てた。

「いい子だ……」

ドッペルゲンガーはいやらしい舌なめずりを浮かべた。

「そのまま、全部――」

その時だった。

――ズドンッ!!!

控室の扉が、破砕音とともに吹き飛んだ。

「そこまでだッ!!!!」

「ぐぎゃああああっ!?」

レオルドの怒声と共に、剣閃が舞い、イザベルの首に巻き付いていたドッペルゲンガーの腕がずり落ちた。

「ふふっ。間に合ったわね~」

宙づり状態であったイザベルを助けたのはレオルドと一緒に乗り込んできたシャルロットだった。

シャルロットは朦朧としているイザベルを抱えて、シルヴィアのほうへ瞬間移動する。

シャルロットはすぐさま、シルヴィアに布を被せて、彼女の尊厳を守った。

「レオルド様っ! シャルお姉様!」

「もう大丈夫だ、シルヴィア!! お前には、指一本触れさせないッ!!!」

その瞳に宿るのは怒りと憤怒。

そして――絶対の意思だった。

次の瞬間、怒号が空気を裂いた。

「――覚悟しろっ!!」

レオルドの掌から放たれたのは、青白い雷撃だった。

それは閃光となって疾駆し、ドッペルゲンガーの肩を撃ち抜く。

「がッ……!?」

黒き皮膚が焼け爛れ、ドッペルゲンガーは体勢を崩す。

腕を斬り裂かれ、肩を貫かれたドッペルゲンガーは苦悶の表情を浮かべていた。

「生きて帰れると思うなよ……! シルヴィアを傷つけた罪、俺の部下を傷つけた罪を償ってもらう!」

その声音に、殺意が滲む。

怒れるレオルドの気迫は、空間の密度すら変える。

天井のシャンデリアがわずかに揺れ、空気が唸り声を上げる。

「ふ、ふふ……! 見せてもらおうか。救国の英雄と呼ばれる所以を……!」

ドッペルゲンガーが腕を広げ、黒い瘴気を爆発させた。

その身は膨張し、皮膚が裂け、骨が異形へと変貌していく。

筋肉が波打ち、醜悪な獣人のような形態へと至る。

魔力を喰らい、肉体を変質させるドッペルゲンガーの最終形態だった。

「キエエエエエエエッ!!」

咆哮と共に、ドッペルゲンガーが地を穿ち跳躍した。

「遅いっ!!」

レオルドの咆哮が重なり、空間が反響する。

刹那、レオルドの身体強化が展開される。

その加速は目視すら困難な速度。

ドッペルゲンガーの巨腕が空を裂くと同時、レオルドはすでに死角から斬撃を叩き込んでいた。

レオルドの剣が異形の皮膚を切り裂く。

「がはッ……!? 馬鹿な! 見えなかった……だと!?」

「お前たちがどれだけ人間を観察していようと、俺たちの怒りの一撃までは予測できまい!!」

レオルドは追撃の魔術を連続詠唱する。

水槍、雷槍――二つの属性を束ねた複合魔法が敵を貫く。

だが、ドッペルゲンガーもまた凶悪。

「グ、ググ……無駄だ! この肉体は、死霊の骨と魔獣の筋から構成されている。人間の魔術など、通用せんッ!!」

「――人間を侮るなよ! その程度、打ち砕いてやる!」

レオルド特殊な歩法で足元に魔法陣を描く。

展開されたのは新開発の魔法――

「 水蛇(すいじゃ) 雷鎖(らいさ) ッ!!」

魔力の旋風が唸り、床から蛇の形をした水が飛び出し、ドッペルゲンガーの体に噛み付くと、そこから電撃が走った。

「ぐ、ああああああああああッ!!?」

「これで終わりだ!」

閃光の奔流の中、レオルドは自らの身体を弾丸と化し、痺れて動けないドッペルゲンガーの胸を拳で貫いた。

控室の壁が破壊され、外の庭園まで吹き飛ばされたドッペルゲンガーは、地面に激突し、動かなくなった。

レオルドは荒い息を吐き、ゆっくりと剣を収める。

その瞳にはまだ殺意の残光が揺れていた。

だが――

「シルヴィア、無事かッ!?」

心配そうに駆け寄ったその表情には、怒りよりも安堵が浮かんでいた。