作品タイトル不明
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思い出される日々は苦悩ばかりではない。
これは昔の話。まだ、三人が仲の良かった頃の話である。
ゲームでは語られる事のなかった過去の物語。レオルドが六歳、レグルスとレイラが四歳の頃のお話。
「レオ兄さん。今日も剣の稽古して!」
忙しい両親に甘える事ができなかった二人は兄であるレオルドにいつも遊んでもらっていた。レグルスはレオルドに剣の稽古を頼んで、いつも付き合ってもらっていた。
「いいぞ。俺に勝てるかな?」
「今日は勝つもん!」
幼いレオルドとレグルスは騎士から教わっていた剣術を用いて、チャンバラごっこを始める。カンカンッと木剣のぶつかる音が小気味良く響いていた。
しばらくは続いていたが、やがてドサリと尻餅の着く音が聞える。レグルスの方が音を上げて、地面に尻餅をついたらしい。
「やっぱり、レオ兄さんは強いや」
「ははっ。まあな」
笑い合う二人に近付く影が一つ。レオルドに飛びつき、身体を寄せるのはレイラであった。
「レオ兄さん。剣の稽古が終わったのなら私に本を読んで聞かせて!」
「いいぞ。今日はどんな本を聞きたいんだ」
「えっとね、これなんだけど、いい?」
レイラが取り出したのは、ごくありふれた童話の本であった。魔王に囚われたお姫さまを勇者が助けるお話。レオルドは本のタイトルを見て、嫌な顔一つ見せずに了承した。
「よし、これだな? じゃあ、部屋に戻るか。レグルスも行くぞ」
「うん!」
「あ、待ってよ。レオ兄さん!」
先頭を歩くレオルドについて行く二人は幸せであった。この頃までは。
レオルドが変わり始めたのは、一年後の事である。王都で開かれた武術大会の少年の部で七歳にして優勝を果たしたのだ。
神童と持てはやされレオルドが天狗になってしまうのは当たり前の事であった。
「レオ兄さん。今日も剣の稽古付き合ってよ!」
「ああ? 俺は忙しいんだよ。あっち行け」
「お願いだよ。少しでいいから!」
「ちっ……わかったよ。少しだけな」
明らかに嫌そうなレオルドはレグルスと剣の稽古に精を出すことはなかった。むしろ、鬱陶しいとばかりにレグルスへと木剣を叩き付けたのだ。
「オラオラッ!」
レグルス相手にレオルドは容赦なく木剣を叩き付けて、早々に稽古を終わらせた。
「い、いたいよ……レオ兄さん」
「じゃあ、もっと強くなれよ。俺みたいにな」
剣の稽古が終わった頃を見計らってレイラが現れるが。レオルドに睨まれて、お願いを言い出せずにレオルドが去って行った。
「レグルス 兄(にい) 。大丈夫?」
「うん。ちょっと痛いけど平気だよ。それよりも、やっぱりレオ兄さんは強くてかっこいいな~」
「うん! 私もそう思う。でも、最近はちょっと怖いかな」
それからもレオルドが態度を改めることはなかった。どんどん増長していき、他人を見下すようになり、気に食わないことがあると癇癪を起こすようになった。
どれだけの使用人がレオルドの癇癪で辞めさせられたかは数え切れないほどだ。ベルーガが叱って注意するもののレオルドは聞く耳持たず。
オリビアが使用人達を助けるも、レオルドが許さなかった。
辞めさせたはずの使用人を見つけると、レオルドは暴力を振るうこともあった。
「なんでお前がいるんだ! 早く辞めろっ!」
相手が女性であろうとレオルドは躊躇うことなく暴力を振るった。使用人がその事を報告すれば、レオルドはベルーガに叱られた後に復讐を行うようになっていた。
「お前のせいで父上に叱られた! 使用人の分際で公爵家次期当主の俺に刃向かった事を思い知れ!!!」
それ以降使用人たちはベルーガに報告することはなかった。レオルドに復讐されるのを恐れて。だから、レオルドに目を付けられた使用人たちは皆辞めていった。
使用人たちからの報告もなくなりレオルドが大人しくなったとベルーガは勘違いしていたが、辞めて行く使用人達が後を絶たなかったので、まだレオルドは反省していない事を知った。
ギルバートをお目付け役にして、レオルドの更生を何度か試みたものの、猫の皮を被るのが上手くなるだけであった。
そして、武術の鍛錬をサボるようになり、ブクブクと醜く太り始める。やがて、社交界に出ると金色の豚と嘲笑われるようになった。
「レオ兄さんの悪口はやめてください!」
「そうです! 今はちょっと、太ってはいますけど、いつか痩せて素敵なレオ兄さんになるんです!」
同じように社交界デビューした二人が必死にレオルドを庇うものの、レオルドの傾向が良くなることはない。
そして、だんだん二人は諦め始める。もう、これ以上は見ていられないと。
そんな折に二人は 母親(オリビア) が泣いているのを目撃した。それからだ。二人がレオルドを思うのを止めて恨むばかりになったのは。
あの優しい母親を泣かせる兄が許せないと。
あの偉大な父親を困らせる兄が許せないと。
それからは毎日レオルドを恨む日々ばかりであった。しかし、やがて終わりが訪れたのだ。レオルドが決闘に敗北したと二人は知って、喜んだ。
これで苦しみから解放されるのだと。
憎い兄が消えて清々したと思ったら、兄は一年足らずで戻ってきた。華々しい成果を上げて帰ってきたのだ。
耳を疑った。国王が褒めたというのだから嘘ではないだろうと思った。だけど、信じることは出来なかった。
次に帰ってきたときは伝説の転移魔法を復活させたと言うではないか。これは、流石に嘘だろうと思われたが、国王直々に試した所、本当である事が証明された。
訳が分からない。今の今まで変わることのなかった兄が、歴史的偉業を成したのだ。困惑してもおかしくはない。
もう信じるしかなかった。兄は変わったのだと。かつて願い、夢見た理想の兄としての姿へと変わったのだと。
ただ、すぐに喜ぶ事ができなかった。あまりにも長い時間恨み続けていたから。今更、どのように話せばいいかわからない。
そんな時に、二人は誘拐されてしまう。そして、その目で見ることとなった。レオルドの勇姿を、確かに見届けたのだった。
かつて追いかけていた背中がそこにはあったのだ。二人はやっと信じようと思った。今の兄なら、もう大丈夫なんだと。
時間はかかるけど、二人はまた歩み寄ろうと決めたのだ。