軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22-ハンター協会④

見事な 紺碧大鷲(スニバリオール) であった。

ギルドの預かり所に置かれたそれは、昼時に偶然居合わせたハンターの目を否応なく集めた。

しっかりと冷凍されて保存状態もよく、あざやかな青色のそれは、迷信好きな女性ハンターなどに何かいいことあるかもと密かな期待を抱かせていた。

紺碧大鷲(スニバリオール) を見る、狩るというのは幸運の訪れとハンターにはそんなジンクスがあった。

トラボック狩りはハンター協会で買い取りしているが、実際は子どもの小遣い稼ぎである。

当然それを協会内の買取所にもっていくのは子どもか、新人か、腕のないやつか、そうみるのが普通であった。

擦り切れた作業着、ザンバラな髪形、見なれない人種(人種)だが二〇歳は越えていると他のハンターの目には映り、必然的に蔵人は腕のないやつとみられることになった。

ドッグタグを渡して、緑石をバラバラとカウンターに置いた蔵人に、ぶしつけな嘲りの視線が向けられる。

緑石の報酬である四ロドを受け取りながら、視線にまったく気にした様子のない蔵人はいった。

「あと、荒野で襲われたんで返り討ちにした魔獣があるんだが」

何の縁か昨日の登録をした職員が相手だった。

「その魔獣が依頼になければ、現物のみの買取になります」

「ん、ああ、いいんだ。売る気はないんだが、一時間ほど預かってもらえるか?」

「構いませんが、生肉は半日以上受け取りにこない場合、ハンター協会に所有権が移りますがよろしいですか?」

「ああ、それでいい。もってきても?」

では裏口の大口買取所に、という職員の了承を得て、蔵人は外に出るとずるずると 紺碧大鷲(スニバリオール) を引きずってきた。

強化すればもてるのだが、蔵人並みの大きさである。ひきずるのはいたしかたなかった。

蔵人の持ってきた獲物、 紺碧大鷲(スニバリオール) をみて、職員は驚く。

強さとしてはそれほどでもない、稀少さというのでもそれほどではない。空中にいるため狩るのは難しいが一匹なら 七つ星(ルビニチア) あれば狩るだけなら可能である。

しかし、綺麗な青を残して討伐するのが難しい。それだけで星一つは難易度が上がる。

魔法で殺せば色が変色してしまうし、焦げてしまうことも多い。墜落死すればなぜか色が一瞬にしてあせてしまう。かといって半端な攻撃では飛んで逃げらてしまう。

上手く片翼の機能を殺して、ゆっくりと落下させ、鈍器ではなく切断系の武器でトドメを刺す。

すると、この上流階級のご婦人に好まれる純然とした深い青を残すことができるが、狙ってそれをできる器用なハンターはそう多くなかった。

「じゃあ、もう冷凍してあるんでよろしく。あっ、預かり証とかある?」

「えっ、あ、はい。こちらに名前を」

割り符のようになった紙に二か所名前を書き、その片方を渡された。

「へぇ、 紺碧大鷲(スニバリオール) っていうんだな」

預かり証を読んだ蔵人が一言そう呟き、本来の目的である当面の買い物に出かけた。

残された職員は冷凍された 紺碧大鷲(スニバリオール) をしばらく見つめていた。

蔵人は門とは反対の、商店の建ち並ぶ一本道を歩きながら考えていた。

ついてこられずにご機嫌斜めであろう雪白へのお土産は 紺碧大鷲(スニバリオール) でいいとして。

あとは、と蔵人は普段不便を感じていたことを考える。

といってもたいてい魔法で済んでしまうのだから、この世界はどうなんだろうかと店に行く前から蔵人はそれが心配であった。

確かに精霊魔法で便利になった部分は大きかったが、細かい作業を精霊に伝えるというのは難しく、さらに蔵人のように生活でそれを使いきってしまえば当然魔力は枯渇してしまい動けなくなってしまう。

そんなことにならないように、この世界の人間たちは要所要所で魔法を使い、それ以外は普通の生活をする、そんな生活様式が定着していた。

手斧、ナイフ、シャベル、砥石、大小の皮袋と麻袋、針、糸、皮の服・ズボン・ブーツ、綿や麻のシャツ・インナー、ロープ、毛皮の毛布などはあった。逆をいえば娯楽品などはなく、そんなものしか店にはおいてなかった。

支払った金はアカリを匿う報酬である。

蔵人は面倒をしょい込むのを報酬と日本の誼だというので自分を誤魔化すことにしていた。そうでもしないとぐちぐちと後悔しそうになるのだ。

食材店で不純物の混じった塩、安酒はあったが、小麦粉は少し値が張り、黒糖の塊、胡椒、唐辛子は少量で少し高く、それ以外の調味料はなかった。

パンは黒っぽいもので、固いものが安くあった。白いパンもわずかにあったが黒パンの倍以上の値がした。

時期的なものであろうか、食物の種なんかもおいてあってジャガイモのようなイモの種とタマネギやトマトに近いなにかの種を買った。こちらはそれほど高くなかったが、きちんと芽が出るのだろうか、あの山で。

蔵人がブツブツいいながら歩く姿をみた村人たちはヒソヒソと何かを言い合うのだった。

それもそうだろう。見たこともないよそ者が、汚くはないとはいえ、ぼさぼさの髪、ボロボロの作業着と靴、三本の武器らしきものをつけて大荷物を背負っているのである。

いかに辺境でハンターが多いとはいえ、この姿は目立つことこの上なかった。

村人の視線を集めながら一時間をちょっと過ぎたくらいで蔵人はハンター協会に戻ってきた。

スイングドアをギギッと開けてカウンターに向かうと、職員が助かったとばかりに蔵人に駆け寄った。

はてこんなに懐かれただろうか、むしろ倦厭されていたように思っていた蔵人は内心で首を傾げる。

「ようやく帰ってきましたか」

責めるようにいう例の職員。

「半日までじゃ?」

「……アナタに――」

「――あの 紺碧大鷲(スニバリオール) を狩ったのは貴様ということだが」

職員を遮り、尊大な仕草をで近寄ってきた、大柄な金髪の 人種(ひとしゅ) の男が声をかけてきた。大柄といってもマクシームほどはなく、 人種(ひとしゅ) の範囲内のことである。

蔵人はなにがなにやらわからず、それでも頷くと、

「あれを譲れ」

「……あれは持ち帰るんでお断りします」

よくわからないが、誤解を与えないようきっぱりと蔵人は断った。

目の前の人物は蔵人の言葉が意外だったのかしばらくきょとんとしていたが、意味がわかると顔を顰めて、一歩踏み込んで蔵人を威圧した。

「おれがだれだかわかっていってるんだろうな」

蔵人はきょとんとする。

「どちらさまで?」

蔵人の隣でやり取りをみていた職員があちゃーと額に手をやって、蔵人の耳元で囁いた。

「……この方はザウル・ドミトール・ブラゴイ様です。ブラゴイ様は 四つ星(ガボドラッヅェ) 、旧貴族ブラゴイ家のご子息です」

ザウルという名を思い出す蔵人。アカリを嵌めた奴、という認識しかない。

「そういうことだ。わかったなら、譲れ。いくらか金もだしてやる」

「いや、ちょっとこっちも理由があって譲れないんで」

「…… 四つ星(ガボドラッツェ) のハンターに対して礼儀がなってないようだな」

ザウルは白い肌をいくらか紅潮させ、蔵人を見下ろしながら威圧する。

蔵人はザウルとは目をあわさず、隣の職員に問いかける。

「そんなルール、協会に?」

「……ありません」

暗に星が上のハンターには獲物を譲らなければならないというルールがあるのかときく蔵人を睨みながら、職員は首を振った。

「そういうことで」

蔵人はペコっと頭を下げて、 紺碧大鷲(スニバリオール) の置いてある場所に向かおうとする。

足元にパサッと紙幣が投げつけられる。

一〇〇ロド紙幣が一〇枚といったところか。蔵人がした今日の買い物分にも満たない。

「それだけあればいいだろう」

ザウル・ドミトール・ブラゴイはマクシームが山から戻ったと連絡を受けたときは娼館におり、ゆっくり一昼夜してからハンター協会に訪れたがマクシームはすでにいなかった。

昨夜の内に話を通しておいたはずだが、どうやらマクシームにすっぽかされたらしいとわかるとザウルはギリリッと歯を食いしばった。

アカリという勇者がどうやら見つからなかったらしいことはわかったが、そのかわりにマクシームは山にひっそりと棲んでいたクランドという男をハンターに推薦したと耳にした。

なにかつながりがあるのかとその男の所在を聞きだそうと協会の奥に進んだとき、ザウルは見事な 紺碧大鷲(スニバリオール) が買取保管場所に置いてあるのを目にした。

聞くとそれもその男が狩ったらしく、しばらくすると取りに来るとのことだった。

そういえば、妹の結婚式も近い。幸福の象徴といわれる 紺碧大鷲(スニバリオール) で衣装を飾るのも悪くはない。

ちょうどいいと、ザウルはその男を待つことにした。

「だから、売らないって」

蔵人は立ちふさがるザウルにそういった。

立ちふさがるザウルは、ウェーブのある金髪をきちんと整えており、髭などもない。アングロサクソン系のほりの深い顔立ちはなかなかに精悍で、背丈も蔵人の頭一つ分以上高く、筋肉もほどよくついているようだった。上等な絹のようなシャツにズボンと外套を着て、腰にショートソードを佩いていた。品のいいハンターといった容姿であった。

ただ、目だけは険しく、常に見下しており、蔵人には自尊心の塊にしかみえなかった。

「値を吊りあげるつもりか? 十つ星(ルテレラ) が狩れるわけもない。どうせ死にぞこないの 紺碧大鷲(スニバリオール) を見つけて、殺しただけだろう。欲張るとろくなことにならんぞ」

関わりたくないなぁと思いながらも蔵人に売る気はない。

なんぜ雪白へのお土産である。これでお土産がなかったらどれだけ尻尾で抗議され、いつまで不機嫌でいるかわからないのだ。

「売る気は、ない」

詰め寄るザウル、引かない蔵人。

「いいのか、この村でいや国でハンターができなくなるぞ?」

ザウルにとっては脅し文句の一つだったのだろうが、

「好きにしてくれ。別にこの国にいる必要はないし、ハンターやる必要もないんだ」

ここは日本ではないのだ。愛着もなければ義理もない。言葉の問題すらないのだ。

言葉の能力はどうにもあの声の主がくれたらしく、話すのと読むのは問題ないらしい。初めてマクシームにあった時も通じるかどうかドキドキであったが、問題はなかった。おそらくどの国にいっても問題ないのだろう。

半ばとらぬ狸の皮算用であったが、蔵人の言葉は実際にどの国にいっても問題なかった。

ますます剣呑になるザウル。腰のショートソードに手を置いていた。

蔵人も荷物を置き、いつでも対応できるようにする。

もう動けなかったではすまされない。

「――おっ、お待ちください」