軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19 真実の暴露

セリオンは双子を連れて王都に帰るように、とファリティナは言った。

ジェミニが急変してからおよそ10日。

水が温むようにジェミニはだんだんと持ち直し、腰掛けて食事を取れるようにもなった。まだベッドから出て歩き回れるほどではなく、3日の行程を馬車で過ごせるとは思えない。

だが、すでに予定を大幅に過ぎている。

セリオンは今年、学院の執行部に選ばれ、新学期より早めに登校することになっていた。

「サイリウム卿にも申し訳ないわ。こんなに大勢で滞在して。あの子達も一緒に連れて帰って欲しい。私たちは、長期滞在できる宿を探すわ。」

サイリウム卿の厚意でファリティナたちはモドリ城に滞在していた。

サイリウム卿は体調を崩したジェミニたちに同情し、出来うる限りの支援を申し出てくれた。

「ジュリアンとセアラはあなたから離れるのを嫌がるでしょう。私のことなら心配ない。多少遅れても所詮、学院の中のことだ。」

「この人数で宿を取るならかなりの金銭がかかるし、ジェミニはすぐには回復しないでしょう。先に振り出した手形を崩して現金化したとしても人数が多いと長くは保てないわ。先に帰って、宿代を送って欲しいの。」

三日間の恐慌状態はファリティナの体力も奪った。ひどく疲れた目をして、ファリティナはセリオンに言った。

弟妹たちの前では、努めて明るく振舞ってはいるが、食事や水に細心の注意を払っている。

「サイリウム卿のご厚情に甘えましょう。病気の子を抱えたまま城を追い出すような非情な方ではない。お礼ならなんらかの理由をつけて手形を切ります。」

ファリティナの目が不安に揺れた。

サイリウム卿はガヴル子爵が属する派閥の地位ある人間だ。もしかしてジェミニのことを気づいているかもしれない。

社交界の中の人間なら、母親とどのような関係を持っているかもわからず、ファリティナは安心できるとは言えなかった。

「もうしばらく、せめてジェミニがベッドから出られるようになるまで、私も共にいます。あなたは少し休むべきだ。ジェミニと共寝していると、夜中も気が気じゃないのでしょう。」

意識がなくなるほどの高熱ではないが、まだ熱は乱高下している。その度にファリティナは一晩中、祈るようにジェミニに着いている。

「姉様。」

セリオンが固い声でファリティナに呼びかけた。

「セアラに毒を渡したのは、お母様ですか。」

ファリティナがぎゅ、と手を握りしめた。

その青ざめた顔にセリオンは目を細める。

「ジェミニはいつから毒を盛られているのですか。お母様はジェミニを殺そうとしているのですか?」

ファリティナは黙って目の前の冷めた紅茶を見つめた。

隠しとおせるとは思っていなかった。今までセリオンが触れてこなかったのは、状況が収まるまで待っていてくれたのだろう。

だが、母親はセリオンたちの実の母親だ。こんな残酷な所業を知りたくなかっただろう。

実の姉に、毒を渡して弟を殺させるなんて。何も知らない幼いセアラを利用して。

そう考えると絶望的に悲しく、知らず涙が溢れた。

「…ジェミニは、ガヴル子爵に似ていますね。」

ファリティナの肩が大きく揺れた。

「時期的に考えて、ジェミニは不義の子だ。そして、最近の鉱石の価格の崩壊は、ガヴル子爵領を経由した逆輸入の疑いがある。」

ファリティナは目を上げた。セリオンの理知的なブルーグレーの瞳とピタリとあった。

「先日、ここに来た時、鉱石の品質が同じだと聞いて、調べました。たしかに我が領で採掘されるものと酷似している。まるで同じ鉱脈から取れるもののようだ。それが、ろくに鉱脈がないはずのガヴル子爵領から出ている。どうやらガヴル子爵領周辺からも人の流入が多い。」

ああ、さすがはセリオンだわ。

ファリティナは細く長く息をついた。

「なぜ、気づいたのですか。そしてなぜ黙っていたのですか。鉱石の公定価格を揺るがすような事態は、王国を裏切る行為ですよ。王子の婚約者であるあなたの家がそれを容認していると分かれば、婚約の破棄どころでは済まない。公爵の廃位もあり得る。」

ファリティナは黙って俯いた。

生き残りたいだけだ。ジェミニとともに安心して生きていける道を探している。

「私たちに、後ろ盾はないわ。」

ファリティナが小さく、はっきりと言った。

「考えてみて、セリオン。この裏切りが発覚したとして、どうやって責任を取るの?公爵を返上して、降格したとして、そのために尽力してくれる人はどれくらいいる?母が代理とは言え公爵を受け継いで、派閥は壊滅している状態なのよ。あなたがいくら優秀でも、まだ学生で、正式に爵位も継いでいない。グランキエースが何を差し出したら、どこまでの爵位を維持できるのか、私たちをどこまで保護してくれるのか、相談できる人はいるの?お母様が裏切ったと分かれば、母の実家であるホランド家とそれに連なる家は関係を断つでしょう。私の母の実家のレミルトンのように。お父様の兄弟はもう何年も疎遠なのよ。今更、手を差し伸べたとしても、救ってくれるのはせいぜいあなたぐらいよ。それでも、あなたはグランキエースの名は継げない。」

ファリティナはまた強く手を握った。

「ジュリアンとセアラにはだれか同情を寄せて、寄り添ってくれるかもしれないけれど、それでも。ジェミニは。」

ジェミニは絶対に無理だ。名門グランキエースの裏切りの象徴だ。だからこそ、母親は卑劣な手を使ってでも、亡き者にしようとした。

「それでも、わたしは、あの子に生きてほしいのよ。」

涙を流しながら、ファリティナはセリオンを見つめた。

「生まれただけのあの子に、何の罪もない。あの子はただ生きてきただけで、まだ何も知らないのよ。わたしは、生きてほしいの。明るい日の中で、自分の足で走り回って、美味しいものを食べて笑ってほしい。身分なんていらない。生きてさえいれば、笑える日がある。」

セリオンの目が怜悧な怒りを持って光った。

「勝手なことを。ジェミニと自分さえ生き残れば、それでいいと思っているのですか。」

「命さえあれば。」

ファリティナは言い切って息を飲んだ。

「命さえあれば、笑える日が来る。わたしには思いつかなかった。どうすればグランキエースを助けることができるのか。だれを頼ればいいのか。わたしには、せめてジェミニの側にいて見守ることしかできない。」

悪夢の中で、ジェミニはいなかった。あの時、すでにいないものになっていたのかもしれない。

誰にも顧みられず、愛されることもなく。

せめて、自分だけはあの哀れな存在に寄り添ってあげたい。

「ごめんなさい、セリオン。」

ファリティナの声が震えた。

「こんな姉でごめんなさい。何も、できなくて。」