軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

074

《boss mob:ネグルス Lv.37》

「しん……こう……?」

弓使い(キョウコ) の顔が絶望に染まる。

不相応に強い個体が突然現れる現象。その個体が群れの長となり、最後には都市を侵略するゲーム内イベント――〝侵攻〟

不運なことに、第21部隊は侵攻発生の瞬間に遭遇したのだ。

ツルグル原生林周辺mob図鑑から引用すると、 黒き大狼(ネグルス) は群れを作らない孤高の存在である。その黒い体毛は夜の闇によく溶ける。赤く光る二つの点が目印、夜行性である彼等を見つけることは難しい。瞬きする 間(ま) に、彼等は1マイル移動できると言われている。

一瞬の沈黙――

「皆集まって!!!!」

叫び声にも似たバーバラの声が響く。

相手のレベルを見て、倒すのは不可能だと即座に判断したバーバラが祈りの体勢に入ると、半透明の膜が現れた。

「あ、あ、あぁ……」

あまりの恐怖に、その場にへたり込んで失禁する 魔道士(ケットル) をキョウコが抱えて祈りに飛び込んだ。

「お、お、俺達も……」

後方組のショウキチと修太郎。

祈りの場所までおよそ10歩程の距離がある――

「ッえ……?」

ネグルスが二人の目の前に立っていた。

二人が足を動かすその刹那の時間で、十数メートルの距離を音も無く詰めたのだ。

遅れてくる――恐怖

カチカチと歯が鳴る。

ガタガタと膝が震える。

恐怖に支配される中、ショウキチは自分の 目標(ヒーロー) の事を思い浮かべていた。

(こんな時……こんな時、誠だったら……!)

ショウキチは涙を流しながらも覚悟を決める。

剣を抜き放ち、盾となる形で修太郎の前に立った。

「修太郎! 俺の側から離れるな!! お前の事は死んでも俺が守る!」

恐怖をはねのけ、必死に囮となるショウキチは、目の前に現れた銀色の何かにぶつかり尻餅をつく。

そこに居たのは――

「なん……え……?」

ネグルスよりも更にひと回り大きな狼。

銀色の体毛を靡かせ、青の瞳でその場にいる全員を静かに見据えていた。

恐怖とはまた違った威圧感。

ネグルスすらも、動けない。

首輪のように並ぶ光の剣がゆっくり回っており、剣に刻まれた文様には神々しさすら覚える。

「あ、う……え?」

ショウキチが気付いた頃には目の前の銀狼は消えており――振り返るとそこに首を失った黒色の狼と、道の向こう側に佇む銀狼を見つけた。

黒色の狼は血を撒き散らしながら地に伏した。

地響きにも似た音と同時に体は粒子へと変わり、森の中へと溶けるように消えてゆく。

『消えろ野良犬が』

そう言いながら勝ち誇るシルヴィア。

全員のレベルアップ音がけたたましく鳴り響き、唖然と眺めるパーティを見た修太郎は、頭の中で必死に言い訳を考えるのだった。

* * * *

再びバーバラの祈りの中に戻った一行。

修太郎の膝上に、銀色の小狼が可愛らしく小首を傾げて座っているが、今回は女性陣が騒ぐことは無かった。

「ごめん、全然整理できてない……」

祈りの体勢を取りながら、両手を額に当て、絞り出すような声で言うバーバラ。

先ほど起こった一連の事は疲れから来る幻覚――そう信じたい彼女だったが、パーティの一覧に映る大幅に上がった皆のレベルを見て、現実逃避を諦めた。

バーバラ(L)聖職者 Lv.29

ショウキチ 剣士 Lv.29

ケットル 魔道士 Lv.28

キョウコ 弓使い Lv.28

修太郎 召喚士 Lv.25

+AcM シルヴィア

レベルによる戦闘能力格差が凄まじいこのeternityにおいて、レベル37の格上ボスの経験値は膨大である。

たった一度の、一瞬の戦闘が、紋章ギルドの中堅で燻っていた彼女達を一気にトップレベルへと押し上げたのだ。