軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

060

ウル水門に到着した一行。

はるか遠くにそびえる朽ちた水門が荒廃した街を見下ろす様は、どことなくノスタルジックな気持ちにさせる。

景色を楽しむ時間もそこそこに足を進める。

そして行く手を阻むようにして、四体のゴブリンが躍り出た。

「アイアン。行きなさい」

アイアンにに指示を出す 召喚士(リヴィル) 。

ボロボロの鉄塊はぎこちない動きでゴブリンの群れへと突っ込むと、ゴブリン達が一斉に叩き始めた。

「アイアンに《防壁》」

「ちょっと。余計なことしてないで攻撃しなさいよ。 強化(バフ) なんて贅沢なもん召喚獣に使わなくていいのよ。痛みなんか感じないんだし、死んでも蘇るのよ?」

聖職者(ヨシノ) をひと睨みした後、しかし自分は杖を抜かずに傍観するリヴィル。

兵士(種子田) が駆け、 弓使い(キイチ) は弓を引いた。

皆がレベル20を超えるパーティにとってゴブリン達は敵ではない。修太郎が剣を抜くまでもなく、瞬く間にゴブリン達は壊滅した。

「さ、行きましょ」

退屈そうにリヴィルが歩きだした。

光の粒子が散っていく中、アイアンがその場に佇んでいた。

いくらデータとはいえ戦闘が終わっても主に労いの言葉すら掛けられず、ただ純真に主の命に答えるだけの存在――その背中のなんと虚しいことか。

ヨシノは唇を噛みしめ、魔法を唱える。

「アイアンに《癒し》」

アイアンは緑の光に包まれ、僅かに減っていたLPを回復させた。それを見たリヴィルは「それで戦闘に貢献したつもり?」と鼻で笑いながら、ヨシノと修太郎の前に立った。

「あなた達、戦利品手に入れたわよね? それ私によこしなさい」

「え? でも報酬って普通は……」

「だって戦闘に参加してないでしょ? なら 盾役(パーティの要) の主人である私に渡すべきじゃない? ゴールドもよ。早くして」

そう言って半ば無理やりに戦利品とゴールドを手に入れたリヴィル。

修太郎は戦闘にも参加していなかったし「戦ってない人は貰っちゃダメなんだなぁ」と自己完結していたが、ヨシノは複雑そうな顔でリヴィルを見ていた。

「なあに? 文句あんの?」

「いえ、別に……」

威圧にて反論を許さないリヴィル。

種子田がうんざりした様子で言う。

「リヴィルさん、やめましょうよ」

「はあ? ならあんたの取り分から分配してあげればいいじゃないの」

種子田の言葉にも食ってかかるリヴィル。

キイチは内心、これほどの問題児がいるパーティなら最初から参加してなかったのにと、詐欺にあったような気持ちを抱きつつ無言を貫いていた。

「全く―― 聖職者(ヒーラー) なんて要らないのに、指南役のやつ規則規則って」

そう愚痴りながら鬱陶しそうに髪をかきあげると、リヴィルは思い出したように手を叩く。

「ああ、言ってなかったけど、貴重な 盾役(タンク) が居なければパーティ任務受けられないんだし依頼達成報酬の5割は私の取り分だからね」

その言葉にヨシノは驚愕の声を上げる。

「ええ?! そんなの聞いたことありません! 確かに盾役が優遇されるのは仕方ないと思いますが……」

「じゃあ抜けたら? レベル25もあれば一人で帰っても別に死んだりしないでしょ? まあこの辺、PKがまだ彷徨ってるって噂だけどね」

そう言って愉快そうに手を振るリヴィル。

受付嬢(ルミア) と 戦闘指南役(キャンディー) が危惧していたように、このリヴィルというプレイヤーは、ランダム召喚によってLPやVITが高く盾役適正を持っていた 召喚獣(アイアン) を奇跡的に手にしてからというもの、横暴な態度で味方をいびる素行の悪さで目立っていた。

アイアンを肉壁に無理やりレベリングを行ったお陰もあり、彼女自身のレベルもかなり高い――それがまた彼女の傲慢さを加速させた。

最近では報酬すら不平等に分配し、反論する者はその場で追放すると脅す。そして、抜けた者が幹部連中に報告しようものなら紋章での居場所を失くさせると脅しをかけている。

報告して処罰を求めるより、その場を我慢して二度と近付かない方が摩擦も少なく済むし楽だ――と、参加した面々は考えるようになり、ここまでの悪行全部が晒されることはなかった。

今や降格に次ぐ降格で第38部隊にまで番号を落とした(第1部隊が最も優秀で、そこから総合評価順に番号振りをされていくシステム)ものの、 リヴィル(彼女) が主張するように貴重な盾役適正の召喚獣がいる恩恵は大きい。

盾役は命がけの職業――

しかしそれを、蘇りが可能で痛みも恐怖も感じない 召喚獣(アイアン) に代用させられるならば、プレイヤー側としてはこれほど助かる事もないのだ。

これらのことが、リヴィルの素行については悪評が轟いていたものの、それでも未だギルドに席がある理由となっていた。彼女もまた、自分は紋章にとって必要な存在だと理解しているのであった。

ヨシノとキイチはアイコンタクトをした後小さく頷き、修太郎に耳打ちする。

「修太郎君。一緒に抜ける? 帰って別の部隊に入った方がいいよ」

それに対して修太郎は笑顔で答える。

「ううん、僕はもう少しリヴィルさん達と一緒にやってみます!」

修太郎にとって、経験値も報酬アイテムもゴールドも欲しいものは特にない。彼の目的は、リヴィルから召喚士としての情報を聞きだすことだけだったから。

そんな修太郎を心配してか、ヨシノとキイチは「こんなパーティに一人残すのは可哀想だ」と脱退を断念し、依頼を続行させた。