軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

040

巨大樹がそびえる美しい世界。

苔の生えたその木々に小さな動物達が集まり、小鳥が歌い、蝶が舞う。

鈴蘭にも似た大きな花の照明に照らされながら、白い石の道を進む修太郎と 金髪の騎士(バートランド) 。

「綺麗な世界だね」

「誰か招いた事なんてありませんでしたから、なんか照れますね」

修太郎は目を輝かせながら辺りを見渡す。

その横を、バートランドは頭を掻きながら歩いていた。

しばらく進んだ先に、町が見えてきた。

「あれが俺達エルフの国です」

「うっわー! すっごいなぁ!」

森の中に突如現れる巨大な滝。

四方が滝に囲まれた谷の中心に、石造りの町が栄えていた。

町まで伸びる白い道だけが町に行くための唯一の道であり、谷の遥か底には水と混沌が入り混じっていた。

「お、落ちたらすごそうだね……」

「歓迎されない者は入れないようになってますから。落ちたら最後、二度と上がれない濁流に呑まれてポイです」

愉快そうに笑いながらバートランドは白い道をスタスタ進む。

しばらく底を覗いてから生唾を飲み込むと、修太郎はプニ夫を強く抱きながら金髪の騎士の後を追った。

* * * *

(人が全然いない)

閑散とした町――

修太郎が一番に感じたのがそれだった。

造りも装飾も美しいその町に、 住(すま) う人――もといエルフは数えるほどしかおらず、そこに活気は無い。

バートランドはうら淋げなその光景をじっと眺めていた。

「かつては大いに栄えた国でした。数も、人とそう変わらないくらいに居たと聞きます」

冷たい風が吹き荒ぶ。

修太郎はバートランドの言葉を黙って聞いていた。

「俺が魔王に〝成った〟時にはもうエルフ族は衰退の果てにいましてね、いまさら数を増やしてかつての栄華を――だなんて望んじゃいません。ただただ平穏を望む種族。それが今のエルフ族です」

湿っぽい話をすみませんね――などと言いながら、再び歩き出すバートランド。

修太郎は寂しげな彼の後ろ姿を見つめながら、なんとかしてあげたいと思考を巡らせるのだった。

* * * *

全体に蔦が絡んだ白亜の城に着いた。

城内の一角にある演習場でバートランドは立ち止まる。

その周りにはちらほらと城に住むエルフ達が集まってきていた。

ツルグル原生林周辺mob図鑑から引用すると、エルフ族は高い魔法才能を持つ人型の魔物であり、その高い知能から会話や共存も可能だったという。

しかしその端麗な容姿を好んだ人間の貴族達が奴隷として拐い、その遺体から良質な魔力器官を取り出し、人間に移植する事で高い魔法力を得られる――という事が分かるとさらに乱獲が進み、その数は激減した。

全てのエルフ族が弓の名手であり、狩人である。彼等はツルグル原生林の奥地に集落を作り、人に隠れ生活をしている――

ツルグル原生林に残っているエルフ族は、バートランドが 連れて来れなかった(・・・・・・・・・) 個体達であり、今現在、エルフ族はバートランドの世界と原生林の奥地の二箇所に分かれている。

色白の肌と尖った耳の人型mob。

恐る恐るといった様子で 人間(カタキ) である修太郎を観察しているようだった。

「皆、このお方が俺の主様だ。俺はこのお方に完全な忠誠を誓っている。くれぐれも無礼のないように」

バートランドの言葉に、深々とお辞儀をするエルフ達。彼等、彼女等にとってバートランドは絶対の主君であり、主君の言葉は絶対である。

修太郎はそれをこそばゆく感じながらも、やはりその数の少なさに寂しさを感じていた。

バートランドは「同胞の事はお気になさらず」と言いながら、修太郎に向き直る。

「さて……訓練といっても、ひたすらスキルを反復練習するだけです。主様はレベルこそ上がっていますが〝スキル熟練度〟は低いまま。俺がそれを引き上げます」

バートランドは 仮想空間(インベントリ) から二本の木剣を取り出すと、一本を修太郎に差し出した。

スキル熟練度――

スキルの質を表すパラメータであり、レベル1から100までの数字が存在する。

この熟練度を上げたところで新しいスキルを覚えるわけではない。しかし、スキルの質が上がることで補正される威力や命中率、消費MPを抑えたり発動時間が短縮されたりと、その恩恵は多岐にわたる。

たとえば、剣士のスキルである《三連撃》

対象に強力な斬撃を三回まで与える攻撃スキルだ。

これのスキルレベルが1の場合、 三回攻撃(スキルの性質) はそのままに威力が《130%》であるが、スキルレベル100の場合《330%》にまで上昇する。

プレイヤーはレベルアップや 昇級(クラスアップ) によって新しく強いスキルを習得していくが、熟練度によって、その威力は大きく変わってくるのであった――

プニ夫を床に置いた後、それを受け取りながら修太郎が尋ねる。

「スキル熟練度は上げるのすごく大変だって聞くけど、スキルの練習するだけでいいの?」

「はい。まあその辺は俺の〝固有スキル〟でどうにでもなるので、ご心配なく!」

「うん、わかったよ!」

細かい事は気にするなタイプの二人。

バートランドが見守る中、修太郎の訓練が始まった。

バートランドが持つ固有スキル《生命の促進》は本来、自然治癒能力などを高めるものだが、対象の成長も促進できるため《スキル熟練度成長》や《必要経験値減少》などの効果も付随する。つまり短期間の訓練を、効率よく吸収できるのである。

「まず最初に〝システムアシスト〟ってやつを切ってください。これがあると体が勝手に動いて気持ち悪いんですよ」

「ふーん? ならそうする!」

修太郎は言われた通りにメニュー画面から〝システムアシスト機能〟をOFFにする。

NPCであるバートランドも、自分のメニュー画面ならば開くことができる。それは、プレイヤーに与えられた〝ゲーム的な要素〟はプレイヤー専用のものではなく、元々この世界に存在する常識として認識されているからだった。

世界を急速成長させる過程で、Motherがゲーム的要素を混ぜ込んだ世界。ログアウト機能やフレンド機能こそ無いが、NPCも等しく扱うことができる。

もちろん〝 普通のNPC(・・・・・・) はメニューを開くという思考に至らない〟という大前提があるのだが……

「《三連撃》っとと……! あれ、一回しか剣が動かな――わっ!」

修太郎は《剣術》スキルの《三連撃》を発動させ、剣に振り回され尻餅をついた。

バートランドが駆け寄る。

「主様、大丈夫ですか?!」

「うん、全然平気! でもなんだろ今の」

修太郎は木剣を眺めながら呟く。

バートランドが気まずそうに答えた。

「システムアシストが無いと〝型〟みたいなものを自己流で組み立てないといけませんので、振るった剣の動きに体が引っ張られたんでしょう……申し訳ありません、最初はシステムアシスト有りでやりましょうか」

額を掻きながら言うバートランドに、修太郎は大きく首を振ってみせる。

「ううん、このままやろうよ! その方が強くなれるんだもんね?」

「ああ、はい。先程は俺の指導が悪かったので、今度は細かく解説しながらやりますね。まず――」

そこから本格的に訓練が始まった。

修太郎は何度も尻餅をついては、バートランドに指導を受けて立ち上がり、めげずに何度も挑戦する。

「……」

演習場の柱の裏――

木剣を振るう二人を見つめる影があった。