軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

027 s

黒騎士と対面するミサキ。

九死に一生を得たミサキだったが、目の前にいるこの〝得体の知れない三人〟に対し、どう立ち回ればいいかを考えていた。

(モンスターじゃあ、ないよね? 助けてくれたし……)

しかし、さっぱりとした性格のミサキは〝どんな人でも助けてくれたんだからまずは感謝するべき〟と結論づけ、頭を下げた。

「ありがとうございます! 本当に助かりました。まさか戦闘があんなに難しいなんて……」

「ううん、気にしないで! 間に合ってよかった」

思いがけず掛けられた優しい言葉に、ミサキはじわりと涙が出そうになる。

何度も頭を下げては罵倒されて追い返された。

心が憔悴していた彼女にとって、この黒騎士の言葉が荒んだ心に温かく染みわたる。

「私はミサキって言います。見ての通り、 デスゲーム化して(こうなって) からはずっと引き篭もってた非戦闘民です」

非戦闘民だったがために昨日今日で何度も後悔を味わったからか、自嘲気味に笑うミサキ。

「僕は修太郎。後ろの二人は僕の 召喚獣(・・・) で、右がバンピー。左はセオドールだよ」

修太郎に紹介された二人が頭を下げる。

ミサキは「召喚獣?」と、聴き慣れないワードに引っ掛かりつつも、再び頭を下げた。

修太郎は召喚士で、魔王達は召喚獣。

特にしっかり設定を組み立てたわけではないが、外界での修太郎達の設定がこれだ。

実のところ、 フィールドに存在するmobを懐柔して仲間にする 従魔使い(テイマー) よりも、条件を満たして霊体を現世に呼び出す 召喚士(サモナー) の方が、 強い個体(魔王達) が仲間に居ても誤魔化しが効きやすい。

前者は、倒したmobを仲間にしていく職業であるため、必然的に連れて歩くmobの実力はプレイヤー自身の実力に直結する。つまり、あまりに強すぎる個体を連れていた場合「じゃあ本人のレベルは?」とか「どこで仲間にしたの?」などという質問に繋がるわけだ。

後者の場合、さまざまな条件(クエストやアイテムの使用)で特殊な個体を呼び出す例がβ時代にも確認されていたし〝ランダム召喚〟などという運試し要素もある。たとえ召喚士が低レベルでも、連れている召喚獣がドラゴンだったりもシステム上可能であるからだ。

もちろん、ランダム召喚で得られる霊体の殆どがありふれた個体だし、ドラゴンのような強力な個体を呼び出す前提条件など、低レベル帯ではまずこなせない。その上、boss特性を持った霊体を召喚した実例は未だ無いため、一概に誤魔化すにはどっちが適しているとは言えないのだが――

もちろんそんな事を知らない初心者のミサキは「賑やかそうで羨ましい」程度にしか思っていなかった。

「ミサキ殿」

「え、はい……?」

黙って聞いていたセオドールが口を開く。

セオドールがミサキの腹部に手をかざすと、深く抉られた傷は癒え、失われていたLPがみるみる回復していき毒が無くなっていた――熱っぽい痛みも、もう無くなっている。

単純な回復魔法であったが、無知なミサキにとってはまるで奇跡のような技に見えた。

必死に頭を下げるミサキ。

セオドールはミサキの弓を指差し、続ける。

「弓を使うならもっと距離を取るべきだ。弓の性能を最大限発揮できる間合いを学ぶといい。それと、近距離でも対応できる副武器を何か装備しておけば今のように慌てずに済む」

「は、はい。ありがとうございます!」

ミサキの返事に満足したのか、セオドールは再び目を伏せるようにして腕組みをした。

応対したのがミサキではなく、たとえばβテスターだったら、召喚獣であるセオドールの〝人間と 違(たが) わぬ会話能力〟に驚嘆するはずだ。

召喚獣といえど中身はNPCである。

だから本来ここまで自由な会話は成立しないのだが、ミサキはもちろん、主である修太郎すら知る由もない。

(確かに、狙うならもっと遠くからこっちの有利な状態で立ち回るべきなんだ。それに、近付かれても剣か何かあれば……)

ぶっきらぼうだが、的確なアドバイス。

ミサキは忘れないように頭の中で何度も復唱するが――セオドールの言動といい奇跡といい、修太郎の装備といい強さといい、三人が纏う独特の雰囲気といい、明らかに〝初心者〟では無さそうだと判断できる。

(この人達なら、この人達だったら)

自分が安全な道を誘導できれば、坑道の 三人(・・) を救い出せるかもしれない――と、打算的だが、こうやって助けてくれる良心を持つ大きな存在に、藁にもすがる思いでミサキは懇願する。

「あの! どうか助けてください!!」

頬を伝う涙に気付くミサキ。

涙を武器に使うつもりは無かった。無かったが、mobに殺されかけたミサキの心は、本人が思っている以上に弱っていたのかもしれない。

昨日発生した侵攻のこと。

自分が非戦闘民で参加できなかったこと。

集まった戦力が少なかったこと。

朝から2時間経っても赤点が消えないこと。

坑道の奥に浮いた青点があること。

一度話し出したら止めどなく溢れた。

「そんな事があったんだ……」

黙って聞いていた修太郎はそう呟いた後、優しい口調で――

「案内して! 力になるから」

と、答えた。

* * * *

坑道内に複数人の足音が響く。

先頭を行く少女の表情は、先ほどまでとは打って変わって明るく、希望に満ちていた。

隣を行く漆黒の騎士と白い少女。

黒髪の騎士は最後尾を歩いている。

青点までのルートを案内するミサキ。

非戦闘民であるミサキを坑道の奥に連れて行くのはどうなんだと考えていた修太郎だったが、ミサキの強い希望で同行する事になった。

( バンピーとセオドール(この二人) がいればまず安心か)

修太郎は心の中で自分を納得させる。

事実、魔王が二人とアビス・スライムのいる修太郎の近くは、アリストラスの宿屋よりも安全な場所である。

「このルートなら、最短距離で青色の場所に行けます! 敵との接触も私の固有スキルで最小限に抑えられると思います」

地図を見ながらミサキが言う。

そこまでを聞いた修太郎が尋ねる。

「キング・ゴブリンへのルートは?」

「――えっ?」

修太郎の言葉に、ミサキが立ち止まる。

「取り残された人達の場所は覚えたけど、それよりもっと危ないのはキング・ゴブリンと戦ってる人達だよね? ならそっちも手伝ったほうがいいよね」

「えっ、あの、でもすごくレベルが高いそうなので……」

「もともとゴブリンの集落撃退依頼を受けてここにきてるから、心配しなくて大丈夫だよ!」

せめて坑道に残された三名を助けにいくくらいなら――と、多くを望んでいなかったミサキにとって、キング・ゴブリンへの助太刀を頼むかどうかまでの頭が無かったのだ。

「聞いた所によれば、キング・ゴブリンのレベルは40くらいあるそうです! それに加えてゴブリンの派生種達が15程で、固有スキルによってステータスも底上げされてると……!」

デスゲームとなった今は特に、事前情報のある無しではかなり変わってくる。

しかし 白い少女(バンピー) が、表情ひとつ変えずにそれに答えた。

「レベル40程度で〝 王(キング) 〟を名乗る愚か者。我々のようにレベル120に到達してはじめて王を名乗りなさい」

「ひゃくに……!」

驚愕の表情を浮かべるミサキと、甲冑の奥で「口外禁止しておくべきだった」と嘆く修太郎。

巨人(ガララス) がそうだったように、魔王達は皆、力は誇示するものと考えているため、 レベル120(到達した高み) を公言する事は、ある種当たり前の行為であった。