軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

208話

「!」

世界に漏れた微かな〝気配〟

それにいち早く反応したのはシルヴィアだ。

「待ってください」

先行する修太郎達をシルヴィアが止める。

現在地は新エリア周辺の上空で、教会と修道院探しの途中であった。

「何か感じましたか?」

「あの遺跡にケットルが居る」

シルヴィアはそう言いながら、はるか後ろに見えるエリア……クリシラ遺跡を指差した。

シルヴィアが彼女を認識した直後――今まで息を潜めていた何かが、まるで〝隠す必要がなくなったから〟と言わんばかりに存在感を放ちはじめる。

殺気ともとれるそれは、修太郎達の肌を刺すように、ビリビリと空気を震わせた。

「少々厄介な存在がいるようですね」

引き返しながら、そう呟くエルロード。

気配に近付けば近付くほど、その存在の力をより強く感じることができる。力の大きさだけで見れば、 魔王達(自分達) と変わらないほどだと、エルロードは分析していた。

(本来、そんな場所に主様を同行させるべきではないのでしょうが……)

修太郎は先を見据えたまま黙っている。

友人を救いたい――その一心で彼はここにいた。

修太郎は他のことを考えていられなかった。

戦闘機の如きそのスピードで遺跡付近へと辿り着いた頃、バンピーから念話が届いた。

『我々は先に向かいます』

『気をつけて』

修太郎の言葉に満足し、念話は途絶えた。

三人は一気に急降下し着地、エルロードは印のようなものを結んで魔法陣を生成する。

「《闇の行進》」

魔法陣の中心からドロリとした何かが溶けるように地面に染みてゆき、辺り一面を不気味な黒に染め上げた。

足元から現れたのは、夜の闇より更に黒い人の形をした異形。

およそ100体ほどのそれらは、四つん這いのまま遺跡の中へと進み、散り散りに分かれる。

エルロードの目の前には100個の窓がモニターのように表示されており、異形達の動向を余さず観察できるようなっていた。

今までのエリアでは、エルロードはこの魔法を使い、シルヴィアは嗅覚と勘を頼りに捜索にあたっている。

「時間はかかりません。きっと大丈夫です、主様」

暗い表情で修太郎を見つめるシルヴィア。その表情からは、ケットルの状態を心の底から心配している様子が窺える。

彼女は修太郎を励ますようにそう呟いた後、そのまま遺跡を駆け抜けるようにして消えた。

数十秒後――。

『見つけました』

シルヴィアの声に反応し、修太郎はエルロードを見た。エルロードは小さく頷くと、修太郎と共に宙へ浮きその場所へと急ぐ。

「この下です」

どかされた石の台座の前にシルヴィアは待機していた。

合流を待っていたのだろう……既に光の剣を纏い、臨戦態勢に入っている。

修太郎は臆する様子もなく階段を見下ろした。

「何が相手だろうと必ず取り戻す」

その顔を見た魔王二人に悪寒が走る。

いまだかつて修太郎がこんな顔を見せたことはない――憎しみとはまた質の違う、深い深い怨みの感情がこもっていた。

天使とは何か。

シオラ大塔の説明文を引用すると、かの塔は別国からの侵略に素早く対応する目的と、地下迷宮の魔物を監視する目的があったというが、建設途中に「天使」の襲撃を受けて途中で放置されたのだという。

天使は神を脅かす存在を罰する者。

天使は〝断罪者〟と呼ばれている。

天使は警察のような存在とは違う。

ただ罪を罰するだけの執行人である。

天使は正規の手段以外で天界に上がってこようとする存在を許さない。シオラ大塔を建てる=天界に近付く=神に近づく行為という基準から建築途中の塔を攻撃した。

塔の建設を命じていたサンドラス城の支配者は天使達に怒り、天使を殺す存在と呼ばれる機械の技術を取り入れ、城を鉄壁の要塞に変えるというのが、シオラ大塔、加えてサンドラス甲鉄城誕生の歴史となっている。

ならば、なぜ天使を殺せる要塞と化した甲鉄城は裁きを受けないのか。

その理由は簡単で、天使にとって機械の力は脅威になり得ないため干渉しないだけであった。

〝 機械の力(こんなもの) では天使は殺せない〟

それは、世界からプレイヤーへ向けたメッセージでもあった――。

地下への階段を降りて行く中で、ミサキと誠は言いようのない圧迫感を覚えていた。

先ほどバンピーから向けられたモノとは性質の違う〝明確な殺意〟が体に纏わりついて離れない。生身の人間ならば、階段に一歩踏み出した時点で卒倒していたはずだ。

「大丈夫。貴女達は妾の加護に守られているから」

言葉を発することができずにいる二人に、バンピーは優しい声でそう伝えた。

階段を降り終えると、そこには遺跡には似つかわしくない研究施設が広がっており、左手奥にはガラス張りの空間があった。

そして部屋の中心に立つ、白色の異形。

(これが天使〝様〟だって? こんなのどう見たって……)

その風貌に誠は戦慄を覚えていた。

『マサカ、コノ場所ニ来ルトハナ』

機械的な声が研究室に響く。

四メートルほどある人型の体。

腰から生えた二対の翼。

のっぺりとした面のような顔。

神秘的というよりも、どこか不気味で冒涜的な気配さえ感じられる二体の〝天使〟がそこに立っていた。

《天使 Lv.120》

そのレベルを見て誠は更に絶望した。

勝てるはずがない、と。

『何シニ来タ、希望ノ子ヨ』

両手を広げるように天使は続ける。

バンピーは左手奥のガラス張りの部屋を見つめながら、呟くように答えた。

「大切なものを取り戻しに」

顔の無い天使は感情の掴めない声色で『大切ナモノ?』と呟く。

『アア、罪人ノコトカ』

そう言って天使も同じ場所を見つめた。

ミサキは生体感知に青色の点が現れたことで、ケットルが囚われていることを確信する。

しかし、同時に気付く。

彼女に群がる夥しい数の赤い点に。

「ッ!」

「ダメよ。妾の言ったことを忘れた?」

バンピーの言葉に冷静さを取り戻すミサキ。

ケットルが攫われたのは2日も前で、仮にモンスターに追い立てられているなら、とっくに死んでいてもおかしくない状況だ。

何らかの理由で生かされている――ミサキはそう結論付けると、バンピーと天使の邂逅の行方を見守った。

『彼女ヲ渡スコトハデキナイ。不運ニモ、世界ノ裏側ヲ覗イテシマッタノダカラ』

バンピーは天使が何を言っているのか理解できなかったが、そもそも理解するつもりも、待つつもりも無かった。

飛来した何かを素手で受け止めるバンピー。

誠の顔のすぐ先に尖った何かがあった。

バンピーの手には無骨な剣が握られている。

(何が……!)

反応できる速度をはるかに超える次元。

誠の額に脂汗が滲む。

「不意打ちだなんて余裕がないのかしら?」

無骨な剣は光の粉になって消えてゆく。

不敵な笑みを浮かべる彼女に手をかざし、天使は何かの文言を唱え始める。

『死ノ刻印』

バンピーの体に赤黒い線が刻まれていく。

足先、手の先、首元、顔、そして目へと。

「 そんなの(・・・・) で死ねたら苦労しないわ」

砕けるように弾け飛ぶ刻印。

バンピーは何事もなかったかのように服を払った。

僅かな沈黙、そして――

『何者ダ?』

恨み言のように天使がそう呟いた。

一連の攻防でバンピーが尋常ならざるものだと察したのか、警戒レベルを上げたようだ。

二体の天使が同時に飛び出す。

バンピーは斧を取り出し迎え撃つ構えだ。

「え……?」

「あれ……」

ミサキと誠の視線の先から三人が消える。

気配も、匂いも、そして音も――。

およそ数秒間の沈黙の後、轟音と共に、まるで早送りのように現れた三つの影が激しい攻防を繰り広げていた。

弱者には見ることすら許されない戦い。

二人は自分の無力さを痛感する。

(小癪ね……)

厳しい状況の中で戦うバンピー。

彼女のスキル〝終焉〟の範囲にいても効果が作用しないということは、少なくとも天使達は魔王と同格かそれ以上ということになる。

手で触れられれば同格でも殺せる。

しかし、天使達がそれをさせない。

(接近戦は分が悪いと判断してからミサキ達狙いに変えてきた……)

『裁キノ礫』

『裁キノ礫』

夥しい数の球体がミサキ達へと迫り、バンピーがそれら全てを受け止める。その攻撃は、膨大なバンピーのLPを確実に減らしていく。

互いに睨み合う形になると、ミサキ達はようやくバンピーを目視することができた。

ボロボロの姿で佇む彼女の姿を。

「ば、バンピー!?」

「大したことないわ」

実際、自然治癒でどうとでもなる数値ではあるが、防御に徹してる内はろくな反撃ができない。攻撃特化の彼女にとって、防衛戦は苦手分野であった。

『希望ノ子ラヲ連レテキタノハ誤リダッタヨウダナ』

ミサキ達を置いてくれば苦戦しなかっただろう。

しかし、バンピー自身が二人を連れてくることを選んだのだ。

「この子達を連れてきた理由――貴方達には一生分からないでしょうね」

そう言って、不敵に笑うバンピー。

天使達は問答無用で魔法を展開していく。

先ほどよりも更に強大で、明らかに広範囲を破壊する目的の魔法だ。天使達はどうやらこの施設もろとも無に還すつもりらしい。

「遅れて申し訳ございません」

双方の間に突然現れた――執事服の男。

片方の天使の周りを時計のエフェクトが囲うと、天使の動きが鈍くなり、やがて止まった。