軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

205話

コアネ修道院――

オルスロット修道院よりもこじんまりとしたその建物の前に、ミサキ達は立っていた。

「本当に寄るのか?」

忌々しそうな顔で修道院を睨みながら誠が言った。

誠の横で、冷めた表情のバンピーが佇んでいる。

「はい。いくらバンピーさんがいるとはいえ、できる限りの準備はしておきたいですから」

教会および修道院で祈ることで経験値獲得量やステータスに恩恵が受けられることは、既に多くのプレイヤーが知る事実である。

アリストラスでは特に恩恵を受けてのレベル上げを推奨しており、自立者が増えた要因の一端を担っていた。

ミサキの意志が固いとみるや否や、誠は観念したようにため息をひとつ。

「しゃーない、俺も着いていくよ」

「え? 大丈夫ですよ一人でも」

「悪い。俺の心情的に一人じゃ行かせられないんだわ」

バーバラ達が最後に行ったとされる場所は、同じ修道院である。場所は違えどミサキを黙って一人で行かせるつもりはなかったようだ。

「妾はここで待ってるわ。さっさと済ませなさい」

そう言って腕組みをするバンピー。

彼女はこの場所に入ることができない。

ミサキ達が扉を開けると、そこには他と同じく礼拝堂のある広々とした空間が広がっていた。

「お祈りの方ですか?」

声のする方に視線を向けると、そこには微笑みを浮かべる女性NPCの姿があった。

「ここの修道院長をしてますクァトゥオルと申します」

「ミサキです。よろしくお願いします」

誠は柱にもたれかかり、注意深く修道院長を観察している。

互いに自己紹介とお辞儀を済ませ、祭壇の前に進むミサキ。

祭壇には誰も座っていない椅子が祀られている。

「天使様にお祈りください……」

修道院長の言葉に従い、祈りを捧げるミサキ。

眩い光が体に宿る――そして、体の底から力が漲ってくるような感覚を覚えた。

「ありがとうございました」

お辞儀をして足早にその場を去るミサキ。

しばらく歩いて修道院の外へと来ると、誠は後ろを振り返りながらヒソヒソ声で言った。

「こう言っちゃ失礼だが、修道院長ってどこもあんなに呼びづらそうな名前なのかな」

「分かりませんが、失礼ですよ」

そんなやり取りをしたのち、バンピーと合流した二人は、カロア城下町へ向け再び歩き始めたのだった。

ケンロン大空洞は、シオラ大塔が踏破されるまでは最前線組の修練場であった。

極寒という過酷な環境と、数々の罠。知能が高く連携を取ってくる猿型のモンスターなど、たとえ踏破したプレイヤーでも気の抜けないエリアであるためだ。

だが――。

「巻き添えを食らうことはないわ。安心していい」

呆然とする誠の前で、周囲のモンスターを全て消しながら進んでいくバンピー。

前方の敵を撃ち抜こうとしたミサキは、それすら叶わなかった時点で援護を辞めている。

「貰った武器を使う機会がないとは……」

「無駄口を叩いてないで探して頂戴」

「うい……」

バンピーに冷たくされながら、誠は必死にケットルの名前を呼んだ。ミサキは自分のスキルの範囲を最大限に広げながら、近くに青点がないかを探し続ける。

(大規模侵攻の影響でエリアに潜ってる人が極端に少ない。探しやすくはなってるけど、今のところ全部空振り……)

大空洞の出口付近までやって来たが、エリア内にいた青点は全て別のプレイヤーであり、ケットルの手掛かりは見つからず終いとなった。

誠が大きくため息を吐く。

「エリアに潜ってる可能性は元々低いんですから、気を落とさずに次行きましょう」

「あぁ、そうだな」

誠のことを励ましながら次のエリアを目指すミサキ。バンピーは難しい顔をしながら二人の後をついてくる。

そして休憩を取ることなくクリシラ遺跡にたどり着いた三人は、そのまま捜索を続行していく。

クリシラ遺跡――。

今は失われた技術によって魂の宿った石像達が巡回しているエリアである。

かつてこの遺跡では悪魔の実験が行われており、人と魂とを分離させ、人の魂を石像に閉じ込める研究が進められていたという。石像達の胸に埋め込まれた動力源を破壊すると、人の魂のようなものが飛び去っていく瞬間が見られるといった仕掛けもあった。

遺跡の殆どが石材で造られているが、所々に不思議な模様の金属が散見できる。その上、不気味な魔法陣の跡や、割れたガラス管のようなものも確認できた。

転がってくる岩のオブジェクト。

石造のモンスターもバンピーに近付くことはできず、弾ける様に消えていく。

「っとと……」

ほどなくして、開けた場所にあった出っ張りに躓いた誠が、バランスを崩してそのまま転倒した。

「何をしてるのかしら」

「だ、大丈夫ですか!?」

呆れた様子のバンピーとは対照的に、心配して駆け寄るミサキ。

出っ張りだと思っていたそれは、幅4メートルほどの丸い台座のようなものだった。

ミサキが注視して見てみると、上には幾何学的な紋様が描かれていることに気付く。

(確認できないけど……ボスが居た場所なのかな)

ここのボスでは、バンピーのスキルの余波で死にかねないなとミサキは思った。

そんな事を考えながら誠に視線を戻すも、打ち所が悪かったのだろうか――彼はなかなか動かない。

「ケットル……」

心ここに在らずといった様子である。

立ち上がる気力も残っていないようだ。

誠の精神的は限界に近かった。

「バンピーさん、一度休みを取りませんか?」

「……」

バンピーは無言で誠を見下ろすと、諦めたようにため息を吐いた。

生体感知に引っかかる青点がない事を確認した後、壁際で休憩を取る三人。

「こうやって安全に捜索ができてるのもバンピーさんのお陰です。本当にありがとうございます」

「なに? 急に」

改まった様子のミサキに、バンピーはぶっきらぼうにそう言った。

「なんて言うか……私、助けられてばかりでなにもお返しできてなくて。感謝を伝えることしかできなくて……」

消えいるような声でそう呟くミサキに、バンピーは少し考えた後、無表情のままこう言った。

「友達になる方法を教えて頂戴」

唐突すぎる内容に驚き、反射的にバンピーの方を見つめるミサキ。

「友達、ですか?」

「そうよ。妾はそれが知りたい」

バンピーは、ケットルを探し出して修太郎に褒められたいという気持ち以上に、本当の意味で彼の支えとなるにはどうすべきかを考えていた。

『主様の心を支えていたのは、我々ではなく少女達だったということだろう?』

再びガララスの言葉が頭をよぎり、忌々しそうに首を振る。

「友達はなろうとしてなれるものじゃないと思ってます」

ミサキの言葉にバンピーは眉を顰める。

かつてセオドールも同じことを言っていた。

「自然になっている、というやつね」

「そうですね」

「なら、しばらく一緒にいても関係に変化がないということは、妾と主様は友達になれないということになるのね」

ミサキは少し驚いた様な顔でバンピーを見た。バンピーは深刻そうな顔で俯いている。

「主従関係にある修太郎さんと友達になりたい、ということですか?」

「……」

バンピーが修太郎を想う気持ちというのは、尊敬よりも恋愛感情のそれに近いとミサキは勝手にそう思っていた。しかし、彼女が望んでいるのは修太郎との友人関係であると言う。

そのチグハグさが、ミサキには分からなかった。

「友人になるには、主従関係を解消すべきだと思います」

「妾と主様の立場は絶対よ」

ミサキの言葉にバンピーは苛立ちを覚えた。

そんな事は不可能であるからだ。

まぁ聞いてくださいとミサキが続ける。

「私の知る友人とは、互いの存在を理解し、気を使うことなく笑い合い、何でも相談できる関係性だと思っています」

バンピーは黙ってそれを聞いている。

ミサキは微かに微笑みながら更に続けた。

「主従という立場の違いがある限り、お二人の間には壁がある。踏み行ってはいけない領域がある。ですが友人とは、そんな壁をも乗り越えて、笑顔で手を握ってくれる存在だと思ってます」

魔王達や側近達からは聞けなかった、すごく真っ当な助言にバンピーは言葉を失った。自分が求める答えを彼女は持っている――と、バンピーは詰め寄る様に身を乗り出す。

「て、手を握ればいいの?」

「肉体的にではなく精神的な話です」

困った様に笑いながら、ミサキはバンピーの手を取った。

「例えばすごく気持ちが落ち込んでた時に優しく声をかけてくれたり、話を聞いてくれたりとか。見返りなんて発生しない、そこには互いを思いやる気持ちだけがある。それはもう友人と言っても過言ではないと思います」

握ってきた手をジィーっと見つめるバンピー。ハッとなったミサキは「ご、ごめんなさい!」と慌てて手を離した。

「悪くないかもしれないわね」

自分の手を見つめ、バンピーがそう呟いた。

「なら、まずアナタと友人になることにするわ」

「へ? わ、私ですか……?」

困惑の表情を浮かべながら頬をかくミサキ。

「主様とイキナリ手を繋ごうなんて無理に決まっているもの。だからアナタで練習するのよ」

言葉の意味を間違って認識していることに気付きつつも、大きすぎる恩の一つを少しでも返せるならと、それに同意するミサキ。

「じゃあよろしくね、 バンピー(・・・・) 」

「? 敬称はやめるの?」

「友人には敬称も敬語も不要だよ! もちろん、互いを敬う気持ちは忘れちゃだめだけどね」

得意げにそう語るミサキを眺めながら、バンピーは、懐かしい光景を思い出していた。

『俺は強い固有スキルを発現させて、****を守る近衛兵になるんだ!』

『**みたいな頼もしくない近衛兵なんていらなーい!』

『言ったなー!! でもここから先、どんな固有スキルになっても俺達は変わらず友達だかんな!』

それは、自分には存在しないはずの記憶だった。

(妾にも楽しく笑い合う関係の人がいた?)

今となっては顔も名前も思い出せない――が、この記憶を呼び覚ましてくれたのは、他でもない目の前の少女である。

「……わかったわ、 ミサキ(・・・) 」

「な、なんか感激です……」

「敬語に戻ってるわよ? 友人関係をやめたいということなの?」

「あ、あ、そうじゃなくて! 違くって!」

「冗談よ」

バンピーが冗談を言ったことに、目を丸くしながら驚くミサキ。バンピーが照れ臭そうにそっぽを向くと、ミサキはクスクスと笑いだす。

「なんだぁ? 急に仲良しだな」

頭をごろんと動かしながらニヤける誠。

「つまり俺とも友達になりたいってこと?」

「貴様とではない」

即答され意気消沈する誠。

それを見たミサキは再び笑った。