軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

188話

あらすじ

ロス・マオラに侵入者が現れ、修太郎はアイアン――新しい名[ベオライト]にこれを任せるとし、プニ夫と共に迎撃にあたった。侵入したNPC達は手痛い洗礼を受けて全滅。捕虜となった一人への何気ない質問で血相を変えたエルロードは修太郎のいる部屋へ急いだ。

aegisと 八岐(ヤマタ) の連合はセルー地下迷宮攻略の最終段階に入っており、残すところ大ボスの[精霊]のみとなっていた。しかし精霊は傷付いても反撃の意思がなく、ただブツブツと決まった言葉を繰り返すばかり。不審に思った八岐の面々だったがaegisは攻撃を続行、精霊の「私を壊さないで」という断末魔と共に祈りが壊れ、何処からかやって来た二体の天使によって息の根を止められる。

PK被害者達の遺品回収のため修道院へ来ていたショウキチ達は、修道院長を名乗るNPCに出会う。天使が現れたことによる恩恵、ステータス増強・経験値上昇の効果がある[天使の祝福]を得たショウキチ達は、デスゲーム攻略の確かな足掛かりを得たのであった。

祈りの奥から発生した大規模進行を最前線組が迎え撃つ。レベルの上がった八岐達をはじめ、プレイヤー側優勢かに思えたが……相次ぐ強力ボスの出現で瞬く間に形成が逆転、諦めかけたその時、バンピーとセオドールが全ての敵を殲滅する。

再会を喜ぶミサキだったが、二人の様子に気が付く。

時同じくして修太郎は、フレンド欄の異変に気付いた――

エルロードは修太郎に視線を向ける。

(涙を見せてから、人が変わられたようだ)

聡明とはいえまだまだ幼い。

立ち直るための時間や環境も十分ではない。

エルロードは修太郎の幼さ故の不安定さを理解していた。かつてアイアンが目の前で主を殺めた際、大きく動揺した修太郎を見てから、それは確信に変わっていた。

精神安定の魔法は解決に繋がらない。

なぜなら、今回はあの時とは状況が違うからだ。

窮地に立たされているのは、修太郎が心を許した存在なのだから。

(しかし、直後の采配は素晴らしいものでした)

魔王達に指示を出す修太郎は実に冷静だった。

嘆いて塞ぎ込むわけでもなければ、怒りに我を失うわけでもなく――やるべきことを成すように、魔王達を指定の場所に送ったのだ。

『サンドラスに到着』

『城内の殲滅と城外の殲滅に分かれます』

最前線にはバンピーとセオドールを送った。

殲滅戦において無類の強さを誇るバンピー。

飛行能力、戦闘力共に申し分ないセオドール。

二人はかつての侵攻の際、プレイヤー達に見られている可能性がある。それを逆手に取り、大っぴらに助けることで、魔王達がプレイヤーの味方であることを知らしめる役目も担っているとエルロードは推測した。

(彼等の窮地を救いつつ、我々への疑いも晴らす最善手をあの一瞬で――)

魔王の中でも最固を誇るガララスは人口の最も多いアリストラスへ、二番目に多いカロアは攻守万能のバートランドを、そして最も優先度の低いエマロへはベオライトを送っている。

甲鉄城での防衛戦が失敗に終わる可能性、もしくは取りこぼしの可能性も視野に入れ、先立って配下を主要都市に配置する手腕――エルロードは修太郎の鋭い采配に身震いする。

(残る可能性はロス・マオラへの侵入ですか)

頭の中で並べた盤上を俯瞰し、エルロードは最も手薄な場所を注視する。

つい最近、不届きな人族共に城への侵入を許したばかり。そんな中、魔王不在というこの状況はいささか警備が薄いと感じても仕方がない。

(いえ、ロス・マオラの防衛とてアビススライム、カムイセムイをはじめ住民達の戦闘能力も尋常ではありません。少女を無事保護できれば我々も戻り、防衛力も補完される。ならばここで最も試されているのは、我々が少女を素早く保護できるかどうか――その一点)

試されているのかもしれない。

エルロードは唐突にそんな答えへ辿り着く。

なぜ試されているのか?

その答えはすぐに出た。

「申し訳ございません。祈りの役目に私がもっと早く気付いていれば……」

深刻そうな顔でそう呟くエルロード。

杞憂で終わればいいと楽観視した結果がこれならば、この件で主を最も失望させたのは自分であると、エルロードはそう確信していた。

「エルロードが早く気付いてくれたから大勢助けられたんだよ。ありがとう」

無機質な声でそう答える修太郎。

エルロードは複雑そうにただ頷くことしかできなかった。

「行かせてくれ!!」

夜のサンドラスに悲痛な叫び声がこだまする。

「お前が一人で行って何になるんだ!」

「こっち来てくれ! 自殺志願者だ」

数名に取り押さえられながらも、暴れ狂うその男――誠は、涙を浮かべて叫び続ける。

「最前線で頑張れば早く解放されるんじゃなかったのかよ!! 何でこうなるんだよ!!!」

誰から見ても尋常ではない様子だと分かる。

騒ぎを聞きつけやって来た人の中には、aegisのサブマスター松の姿もあった。

「……お前には恩がある。手を貸してやりたいところだが、そんな状態のお前を守りながらエリアを抜けるのは危険と言わざるを得ない」

彼女は刀を抜くと、鋭い一撃で誠の首筋に峰打ちを放った。誠はぐるんと白目を剥くと、その場に力なく沈み、沈黙する。

「回復魔法と精神安定の魔法も頼む。皆は引き続き、一人でエリア移動を図る自殺志願者達を見張ってくれ。朝が来ればじき落ち着くだろう……」

指示を受け散開するメンバーたち。

松は、運ばれていく誠の後ろ姿を見送ったのち、再び夜の甲鉄城へと消えていったのだった。

紋章カロア支部の 臨時(・・) 受付であるノリヒデは、ギルド内を呆然と見つめながら、ぽろりぽろりと涙を流していた。

「Kさん……皆……」

遺留品回収部隊――総勢29名。

今回の 死者(・・) の数だった。

メンバーの大多数を失ったカロア支部に、ギルドとしての機能は殆ど残されていない。緊急で集まった本部のメンバーと共に、なんとか立て直したのがついさっきの出来事だ。

「私達は間違ってるんでしょうか……」

憔悴した様子でそう呟くルミア。

彼女は本部の受付嬢である。

「間違ってるって?」

そう聞き返したのは、本部の戦闘指南役であるキャンディだった。

「アリストラスで非戦闘民を保護し、全員が死にかけました。部隊を作り、ガルボさん達が死にました。支部を作り、大勢が死にました」

死んだ目でそう呟くルミア。

彼女はかなり衰弱しているようだ。

「それに因果関係はないわ。アナタの言いかただと、私達がやってきたことは全部無駄って言ってるようなものよ? アナタ疲れてるのよ……ここはもう良いから、宿で少し休んできなさい」

促されるがまま、体を引き摺るようにその場から消えるルミア。キャンディは心配するようなため息をつくと、ノリヒデに向き直った。

「最前線でも大規模戦闘の影響で戦闘員が不足してる。あっちは 守り(・・) がない分一刻を争うわ。最前線で戦えるだけのメンバーを集めなきゃ……」

守りというのは、城壁のことである。

そう、現在サンドラスには城壁がないのだ。

城壁にはモンスターの侵入阻止はもちろん、街中でのPK行為も防ぐ効果がある。それが無いとなると、拠点の防衛力は低下し、危険度も増す。

とはいえ、最前線に行けるような戦力となるとアリストラスの防衛にあたっている数隊とキャンディを合わせても10人に届くかどうか。その上、各拠点の防衛を疎かにする訳にもいかず、カロアもこの状況では連れて行けてもせいぜい3〜4人だろう。

俯くノリヒデの肩に手を乗せるキャンディ。

「しっかりして。臨時とはいえ暫くアナタがここのトップよ。せめてマスター達が戻るまでしっかりここを守ってもらわなきゃ」

「はい……」

戻ってきた返事に不安を覚えながらも、キャンディは今最も危険な場所へ応援に向かう準備を始めた――その時だった。

カラン、カララン。

ギルドの扉が開き、三つの人影が入って来るのが見えた。

「ッ!」

咄嗟に武器を構えるキャンディ。

その三人から人外クラスの力を感じたからだ。

新手のPK。

もっと言えば、カロア支部の精鋭達を殺した本人である可能性すらあった。

「キャンディさん」

無機質だがその声には聞き覚えがあった。

逆光で見えなかった人物の顔が露わになってゆくと、キャンディは涙を浮かべ、その人物に駆け寄る。

「修太郎ちゃん! 無事だったのね!」

それは紛れもなく、自分が戦闘指南をした少年――修太郎だった。

見た目にさほど変化は見られなかったが、纏う雰囲気はかつての比ではない。両隣に立つ恐ろしい存在ほどではないにしても、修太郎自身からも凄まじい〝格〟が感じられる。

(この子は一体何をしてきたの……!)

召喚士にクラスチェンジしたという知らせは聞いていた。つまり召喚ができるのだが……まさか両隣の人型モンスターがソレだというのだろうか。

あまりにも禍々しい雰囲気に当てられ、キャンディは知らぬ間に後退り、カウンターに腰を打つ。

「時間がないので簡潔に言います。ショウキチ達に何があったのか教えてください」

以前までの修太郎とは別人かと思うほどに、とても冷めた口調だった。

(修太郎ちゃんからのメール……あれは大規模侵攻中に送られてきたものだった。あの時私達は〝モンスターの大群が攻めてくる〟という内容しか伝達されていなかったのに、この子は原因が〝祈り〟にあることまで知っていた……)

キャンディは、なぜ修太郎がそんなことを知っているのかまでは分からなかったが、召喚獣アイアンの一件もあり、悪と認識することができなかった。

彼はなにか重要な秘密を握っている。

確信めいた感情に従うがまま、キャンディは修太郎を支援する為、その質問に答えた。

「詳細までは分からない。なにせ唯一の生き残りも行方不明だしね……ただ、最後に向かった場所はオルスロット修道院だと聞いているわ」

遺留品回収部隊は修道院で全員死んだ。

それが知りうる限りの情報で、それ以上のことは何一つ分かっていない。

「ありがとうございます。ケットルは必ず僕達が見つけてきます。皆さんはくれぐれも拠点から出ないようにしてください」

それだけ伝え、踵を返す修太郎。

気圧(けお) されるキャンディを押し退くようにして、ノリヒデが声を張り上げた。

「おいお前! 明らかに怪しいのはお前じゃないのか?!」

修太郎達の足が止まる。

側近の男がパタンと本を閉じ、ノリヒデへと目をやった。

「ひっ……!」

まるで、巨大な手に掴まれるような感覚。

セーフティエリアで何かされることは不可能――だからこれは攻撃ではなく、単なる〝殺気〟のようなもの。

(殺される……!)

あまりの圧迫感に息をするのも忘れ、酸欠気味に尻餅をついたノリヒデは、必死に肩で呼吸をしている。

「僕のことは信じなくてもいいです。町中にいる限りは安全をお約束します。最前線も対応してあります」

対応してある――。

キャンディは反射的に側近へと視線を移す。

確かに、どちらか一人でも最前線に行けば、大抵の敵は問題なく処理できるかもしれないと、彼女はそう判断した。

「私達はオルスロット修道院に行ったけど、遺体はおろか遺留品も見つからなかった。そうなると、現場にいたであろうケットルちゃんが唯一の手がかりになってくるけど、居所は全く掴めていないわ」

つまり、実質何も分かっていない状況だ。

修太郎は「ありがとうございます」と言いながら、再び歩き出す。

「修道院にケットルがいなければ、アリストラスからしらみ潰しに探すつもりです。些細なことでも何かわかれば連絡ください」

そう言い残すと、三人の人影は溶けるように消えた。

「な、なんですかあの三人組……」

ノリヒデはまだ立てないのか、ガタガタと震えながらそう呟く。キャンディは遠い目をしながら、三人が消えた扉の先を眺めていた。