軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

175話

急激に数が減っている――

斥候のラオファンは戦闘の最中、モンスター含めた味方の数が明らかに減っていることに気付いていた。

(何人残っている? 何匹残っている? 全部で40? いや、もっと少ないか……?)

騎士の攻撃に倒れたのだろう。奈落に消えたのかもしれない。ラオファンはそう結論づけ、再び騎士へと向き直る。

騎士の攻撃力は、侮れないながらも聖職者の回復もあるため脅威ではない。しかし60ほどいた自分達の誰一人として、未だに先に進めないのは異常と言わざるを得ない。

(こいつを突破しないことには……)

戦闘を開始してすぐ、ラオファンは「ダンジョンの主を倒す」という自分の作戦が愚策だったと理解した。

それほどまで、騎士と自分達には大きな差があったのだ。

ダンジョン攻略は短期突破が基本。

この軍に持久戦の備えはない。

ダンジョンの主を倒せないなら、ダンジョンコアを破壊すればいい。

従来の作戦に戻し、先へ進もうとした斥候組。

しかし、あらゆる手段で侵入を試みるも、悉く騎士によって阻まれていた。

元々耐久力に乏しい斥候は最初の反撃で一人を失い、戦闘が長引いた結果、既にラオファンのみとなっていた。

闇夜のルファの姿もない。

ケールトンの下僕であるあれが、自分の意思で逃げることはできない――つまり、倒されたということになる。

魔境とも言われるロス・マオラのモンスターが呆気なく倒れた事実。ラオファンの脳裏に「敗北」のふた文字が浮かんだ。

無表情のケールトンが杖を振るう。

そして、何かをぶつぶつと呟いた。

「コレは使いたくなかったがそうは言ってられんな。皆、せいぜい生き残ってくれ」

ラオファンの背中に嫌な汗が流れる。

突如、ケールトンを中心とした周囲4メートルに魔法陣が現れ、その内側にいたモンスターおよび冒険者達は宙吊りの形で浮かんだ。

「ぐ、おおおお」

「なんだこれ!!?」

「体がッ、動か……!」

強力な何かで縛られる冒険者達。

(最後は味方にやられるとはな)

拘束されながら、ラオファンは自らの死を悟った。

次の瞬間――宙吊りの者達から刃が生えた。

腹部を縦に裂くようにして刃が生えたのだ。

絶命してゆく冒険者達と入れ替わるようにして、

目の退化した異形の怪物が地面から染み出てくる。

ひと言で表すならば〝双頭の悪魔〟。

異様なほど発達した筋肉をもち、四本ある腕はそれぞれが大きな剣を持っていた。

《mob:異形サムノカン Lv.115》

へルバス地下牢獄出現mob図鑑から引用すると――異形サムノカンは、人間の体に2体の魔族を融合させ生まれた禁忌の存在である。邪教集団による不老不死人体実験の負の遺産であり、その正体はこの世の怨念や死の集合体(怨霊)である。生贄の命と引き換えにこの世に顕現される。

絶望を具現化したような悍ましい異形。

ただ破壊を繰り返すだけの知性なき悪魔。

目が存在しない。

鼻も存在しない。

異様に発達した聴覚のみを頼りに、破壊を続ける。

サムノカンは、ケールトン以外の〝音〟を全て敵と見なし、巨大な剣を振るって薙ぎ払ってゆく。背後から強い衝撃を受けた冒険者及びモンスター達は、真っ二つになるか奈落の底へと消えていった。

まるで暴風の如き異形が騎士と衝突する。

(せめて突破してくれ)

多くの同胞の死を報いるにはダンジョン攻略を達成するしかないと、ホリヴァイは心の中で異形の怪物の勝利を願った。

四本の剣が、騎士の頭部と肩にかけてを潰すようにして振り下ろされ、ゴシャッ! と凄まじい音が響いた。

おもむろに剣を立てるように構える騎士。

徐々に黄金色のオーラが集まってゆく。

オーラが弾けたその刹那――異形サムノカン達は、塵のようにして消えていった。

「まさか……奴は聖職者なのか」

驚愕するケールトン。

圧倒的耐久力を誇る騎士ベオライトは、その ステータス(才能) の多くを物理防御・魔法防御、そして聖属性魔法に費やした。

過酷な世界に身を置いた彼は、どれだけ時が経とうとも、かつての主を殺めた自分が許せなかった。

だから求めた。守る力と、癒す力を。

冒険者ケールトンは、自分達が苦労して与えたダメージを、一瞬のうちに回復された事実が理解できなかった。

自分達は聖職者に総力戦を仕掛け、全く歯が立たなかったのかと。

これを敗北と言わずして何と言う。

「ふっ……化け物め」

目の前に迫るアビス・スライムの攻撃を避けようともせず、ケールトンはそのまま、蒸発するようにして床のシミとなった。

「ちくしょう……」

そう呟きながら、ホリヴァイは膝から崩れ落ち、最後の時を待ったのだった。

*****

《侵入者達を撃破しました!》

《侵入者達の持ち物が手に入りました!》

《ダンジョンマスターへ経験値が入ります》

《ダンジョンモンスターへ経験値が入ります》

勝利のアナウンスが連続して起こると、

修太郎はようやく安堵のため息を吐いた。

(ベオライトとプニ夫がやってくれたんだ……)

はじめての襲撃イベントに無事勝利した修太郎。

得た物は多かった。

《修太郎 統べる者 Lv.94》

修太郎のレベルはもはや誤魔化し不可能となっていた。

皆と合流するまでに考えよう――そう考えながら、続報を開いてゆく。

《捕虜を捕まえました》

(捕虜?)

不穏なそのふた文字を指でなぞっていると、

部屋の扉が音を立てて開け放たれた。

「おかえり!」

ベオライトとプニ夫を笑顔で出迎える修太郎。

功労者二名は嬉しそうに抱きしめられている。

「見事なものでした。中への侵入を一切許さず、翻弄しながら確実に数を減らし、最後は自滅させ捕虜も確保とは」

エルロードは賞賛するように微笑んだ。

「もう侵入者はいないみたいだね!」

「俺達の出る幕はなかったなァ」

バートランドは退屈そうに煙草をふかしていた。

ベオライトが活躍したことを内心で喜びながら――

「これからどうするんだ?」

セオドールは静かにそう尋ねた。

捕虜をどうするかを聞いているようだ。

ベオライトの横には拘束具こそないが、

怯えた様子で佇むNPCの姿があった。

戦士風の格好をした40代くらいの男だ。

それは死を悟ったはずのホリヴァイだった。

「捕虜はいいが、一人じゃあまり意味を成さないだろう」

と、ガララスがホリヴァイを睨む。

「全員殺すよりいいんじゃない?」

「何かを自白させるなら三人は欲しかった」

「待った。そういう話は別の所でやろう」

バンピーとガララスの会話をバートランドが苦笑しながら止めに入る。

修太郎はガララスの言葉の真意が分からなかったが、三人必要な理由は「尋問」での整合性を取るため――というものである。

よく言えば尋問、悪く言えば拷問。

ロス・マオラ城からの出口は修太郎の近く、或いは初期地点アリストラスに繋がっているが、侵入者達のレベルを鑑みるに明らかに先のエリアからの使者だと分かる。

どこから来たのか。

どうやって来たのか。

なぜ来たのか。

他にも侵入者がいるのか。

それを三人以上に質問し、多数決的に正しい解答を擦り合わせる必要がある――ガララスはそう考え、そんな残酷なことを聞かせるべきではないと、バートランドが釘を刺したのだった。

そんな会話を、体を震わせて聞く一人の男。

(なんだ、なんだこの地獄のような空間は)

ホリヴァイは意識を保つのがやっとだった。

手も足も出なかった騎士とスライムよりも、遥かに恐ろしい怪物が何体もいるのだ。仮にそのうちの一体が自分達の住む町へ向かえば、一瞬にして生物が死に絶えるだろう。

ダンジョン発生からそう日は経ってないはずだった。

安全圏の倍の戦力で挑んだはずだった。

結果それは――見積が甘すぎた。

「捕虜さん」

修太郎はホリヴァイに声をかけた。

ホリヴァイはなんとか「はい」と答えることができた。

修太郎はダンジョン生成のヘルプから捕虜についての項目を眺めつつ、淡々とした調子で質問してゆく。

「ここのダンジョンの入り口はどこに繋がっているんですか?」

最初こそアリストラスに繋がっていると思っていた修太郎は、プレイヤー達の落下を危惧していたのだが、今回の侵入でどうやら入り口は別の場所だと知ることができた。

これは一つ大きな収穫だ。

「ろ、ロスマ、マオラです」

言葉を詰まらせながらホリヴァイが答える。

入り口はロス・マオラ。

出口はアリストラス、または修太郎の近く。

奇妙な状態にあるなと修太郎は思った。

(この人を解放したら、もうここには来ないようにお願いして回らせることもできるのかな)

と、ヘルプを見ながらそう考える修太郎。

捕虜の項目にはこんな事が書いてあった。

○捕虜状態が解ける条件は、ダンジョン外からやってくる仲間に救助され外に出た時。ダンジョンが崩壊した時。そして救助されない限りは捕虜所有権はダンジョンに帰属し、いつでも解放・処分・強制送還ができる。

修太郎としては今後ダンジョンに侵入され続ける方が危険だし、その都度レジウリアの民を心配させる方が嫌だった。

だから、ホリヴァイを解放してロス・マオラ近辺のNPC拠点に「あそこに行くな」と触れ込んでもらったほうがいいと考えた。

とはいえ、ホリヴァイはただのNPC。

魔王達とは 作り(・・) が根本的に異なる存在である。

「死門は何を指してますか?」

「わかりません」

「闇の神はどこにいますか?」

「わかりません」

「なぜダンジョンを破壊しに来たんですか?」

「覚えていません」

当然のように、彼の口からゲームクリアに関するまともな情報を得ることも叶わず、果てにはダンジョンに来た理由すら分からないときた。

聞きたいことも無くなり、途方に暮れる修太郎。

(どうして、どうして何も 答えられない(・・・・・・) )

ホリヴァイは自分への違和感を覚えていた。

しかしその心の叫びが誰かに届くことはない。

深いため息の後、バンピーが呟く。

「もう処分しましょう」

「!?」

「だめ。彼は貴重な存在だよ」

修太郎が止めに入ったことで、バンピーは「そうですか……」と沈黙する。そして一連のやり取りを聞いて、ホリヴァイはこの場にいる者達の力関係を理解した。

(この子供が主人、ってことか)

化け物揃いのこの中で特に浮いた存在。

力量はB級冒険者に劣る程度だが、この人のひと声で自分の命は簡単に消える――せめて誠実に振る舞おうと、ホリヴァイは誓った。

「捕虜さん」

「は、はい。閣下」

「あなたを無闇に殺したりしません。けれど、僕たちの世界を脅かしたことは、ずっと忘れないでくださいね」

怒気の篭った声で修太郎はそう囁いた。

ホリヴァイは涙目で「はい」と、ただそう答える他なかった。

*****

工房に修太郎の歓喜の声が響いた。

「これすっごいかっこいいよ!」

そう言って何度も回りながら、新しい装備に感動する修太郎。

身軽さと丈夫さを兼ね備えた鎧を、フード付きのマントが覆っている。

腰には新しい武器である立派な長剣が収まっていた。

「装備はこまめに替えたほうがいい。特にその剣は魔法にも補正がつく。きっと助けになってくれる」

と、セオドールが説明した。

長剣の刃には複雑な紋様が描かれており、これが魔法の補助の役割を担う。

いわゆる魔法剣というものだった。

レベルが一気に90代まで上がったことで、装備できるものも増えた修太郎。

セオドールお手製の装備に身を包んだ彼のステータスは、プレイヤー最高レベルの攻撃でも傷付けることができないほどに上がっていた。

装備を見て少し寂しそうにする修太郎。

「……僕達だけで進まなきゃなのかな」

以前は〝召喚士になるため〟という大義名分のもと、転職によるレベルダウンを行った。

しかし今、転職してレベルを戻す理由はない。

もはやレベルは隠すことはできない。

ショウキチ達と肩を並べ、切磋琢磨することもできない。

「主様」

優しい口調でセオドールが言う。

「あなたはこれまで力を誇示することをしてこなかった。これから先もそうするだろう。たとえ強さが変わっても、在り方が同じなら、それは変わらないのと同義。変わらなければ、彼等も変わらず接してくれるはずだ」

その言葉を修太郎は黙って聞いていた。

セオドールは続ける。

「上手い言い訳は見つからないが、彼等もきっと理解し、深く聞くこともないだろう。我々が与えられないものを、彼等は主様に与えられる。そこから無理に去る必要はない」

たとえ異常にレベルが上がっても、ショウキチ達は変わらず修太郎を迎えてくれる――セオドールは短い付き合いながらも、彼等のことを理解していたのだった。

修太郎の頬からぽろぽろと涙がこぼれる。

「まだッ、一緒にッ、いていい……のかなぁ」

「たとえ主様を否定する者が現れようと、全て俺が倒す。やりたいようにやるべきだ」

そう言って微笑むセオドール。

修太郎も安心したように笑顔を見せた。