軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

158 s

ボス部屋前の長い螺旋階段。

まだ建設途中だったのか壁らしい壁はなく、骨組みだけが残されている。

天井からは空が見えていた。 デスゲーム(この地獄) が嘘のような、青く晴れた空だった。

「なんだ?」

先頭を行くラオが何かに感づいた。後に続くメンバーが不思議そうに辺りを見渡す。

「どうしたの?」

「鳴き声が……気のせい、じゃないと思う」

ラオがそう呟いた瞬間――

シオラ大塔に奇妙な鳴き声がこだました。

何かが太陽を遮るかのような暗転。

見上げた者が目にしたシルエット。

天より降りてくる それ(・・) が羽を広げ、大塔上部を覆っていた。

シオラ大塔周辺mob図鑑から引用すると、雷鳥フェンダールは白電を纏う巨大な鷲だ。かつて天使の襲撃に遭い放置された塔の上に巣を作り、その頂から獲物を狙って滑空する。過去多くの冒険者が討伐に向かうも一人として戻ってこなかったという。

ゆっくりと下降してくる雷鳥。

周りに小さい鳥が群れを成して飛んでいる。

螺旋階段を登る黄昏の冒険者一行を見つけると、ちょうど列の横腹辺りで滞空し、鋭い目をギョロリと動かし観察している。

雷鳥の視線が一瞬――下に向けられた。

ゾクッ。

「みんな下に走れ!!」

いち早く動いたのはラオ、令蘭、白蓮の三人だった。

「『私を見ろ!!』」

「『破斬剣』!!」

「《 素(Rune) 早き(of) 者(Aquilia) 》!!」

ラオは即座に敵視を奪いに動いた。

令蘭、白蓮も同じ考えから攻撃を放つ。

しかし雷鳥はフイと興味を失ったようにその場から離れると、塔の周りを旋回し始める。白蓮はメンバー達に向け叫ぶ。

「慌てず下の階へ! 恐ろしくなっても絶対に前の人を追い越そうとしないで! もしそんな事が起これば――」

起これば、間違いなく落下するだろう。

はるか下にある地面まで。

雷鳥が再び奇妙な声で鳴く。

その体から白い電撃が走っている。

旋回していた雷鳥は塔へ近付いた。

ジジジジッ!!!

一瞬の出来事だった。

脳が焼き切れるかのような強い衝撃。

武器を持つ手が固定されるような感覚。

そして灼熱の痛みが全身を貫いた。

塔は静寂に包まれた。

皆のステータスに《 感電(スタン) 》の文字が浮かぶ。

「(体が動かない――!)」

何もできず、全員がそこから動けない。

雷鳥が再びメンバー達の横に滞空した。

その滞空が意味することを誰もが察した。

「『不屈の盾』!」

「『パライズ・ヒールオーラ』」

盾役の耐久力のお陰だろうか、最も早く動いたのはラオだった。

孤立した白蓮、令蘭を庇う形でスキルを使う。

続いて僧侶のテリアが周囲のスタンを解除させ、体の自由を取り戻したメンバー達は転がるように下へと駆けていく。

隊列は崩れ、三つに分断されていた。

自分を犠牲に後続を逃す選択をした三人と、最後尾にいたテリア含む数人、真ん中付近の十数人。

雷鳥は ソレ(・・) を発動させた。

外側から内側へと力強く羽ばたく雷鳥。

発生した風は突風となる。

それは、かつて自分の領域に踏み込んできた無粋な冒険者達を突き落としてきた、雷鳥のいつもの狩りのやり方であった。

ラオによって白蓮と令蘭は守られた。最後尾のメンバー達は駆け込むように前の層へと脱出に成功していた。

しかし、残された真ん中付近のメンバー達はなす術なく突風に煽られる――ある者は下層へ、ある者は骨組みに捕まり、ある者は塔の内側へと投げ出された。

「う、ああぁあぁあぁ!!!!」

「いやあぁああ!!あ!!!あ!!」

絶叫がこだまする。

シオラ大塔はその高さ故に天使の罰を受けた場所。その頂付近から落ちればどうなるかは火を見るよりも明らかであった。

パンッと、弾けるような音が何度か続く。

それを合図に雷鳥の周りを飛んでいた小さな鳥が滑空すると、落下衝撃でLP1となったメンバー達をついばみ光の屑に変えていった。

しばらくの静寂――

均衡を破ったのは、残された真ん中付近のメンバー達だ。

「ああああ!!!!」

「死ん、死んだ……!」

「どいて、どいてよ!!」

まさに阿鼻叫喚。奇跡的に突風から生還したメンバー達が脇目も降らず駆け下りる。もちろんそこに思いやりなど皆無で、押し飛ばされて落下する者までいた。

落下した者は激突のダメージでLPが1になり、間髪入れずについばむ雷鳥の群れが死を量産してゆく。

雷鳥フェンダールが再び大きく翼を広げる。その目線は駆け降りる8名のプレイヤーに向けられている。

「皆をお願い――」

そう言い残し、令蘭は跳んだ。

目が眩むほどの高い塔から跳んだ。

雷鳥フェンダールへ向け大剣を突き立てた。

system block

その表示は主に街中でプレイヤー同士が攻撃した場合や、クエスト進行上不可欠なNPCを攻撃した場合、または「今は攻撃できないボス」などによく見られる表示であった。

ボス戦ではなかった。

イベント戦だったのだ。

つまりコレは「ギミックの見落とし」。

起こるべくして起こった事故である。

弾かれた令蘭が空に投げ出される。

「令蘭!!!」

絶叫するラオ。落下する令蘭の目は地面とは別の方角を見ていた。白蓮は走り出す。 令蘭(彼女) の視線の先――残されたメンバー達の元へ、走った。

雷鳥フェンダールが再び突風を起こす。

無我夢中で駆けるメンバー達に襲い掛かり、その全員が苦悶の表情と共に宙へと投げ出された。

絶望の中で白蓮は見た。

「テ――」

一緒に落ちてゆくテリアの姿。

彼女の口が僅かに動く。

たぶん、四文字だった。

言葉は聞こえなかった。

メンバー達の絶叫がこだました。

*****

虚な目でそこまで語った白蓮。

ミサキと誠は黙ってそれを聞いていた。

「結局、その時メンバー11人とテリアを失った。外側に投げ出された令蘭達が溺死で済んだのは何か条件があったんだろうなぁ」

そう呟く白蓮。

ミサキは神妙な面持ちで尋ねる。

「テリアさんはなぜ一緒に?」

「分からない。でも目の前で大勢の仲間が死んでいったら、とても正常でなんかいられないからね」

と、苦笑しながら答える白蓮。

ミサキは俯き、黙り込む。

「サヨナラって言ってたのかな。それともツカレタって言ったのかな。実際、死んじゃったもんな」

白蓮は、あの日のテリアの顔を思い浮かべていた。微笑み落ちてゆく彼女の顔を。

白蓮はストレージより二つの羽根を取り出した。

一つは白く、一つは緑に光っている。

「これ、あの塔のキーアイテム。雷電の羽根と風の羽根。まぁ効果は察しがつくと思うけど」

簡単な話である。

ボス部屋に続く道にはギミックが仕掛けられており、対策も無しに進めば雷鳥が侵入者を捕捉。痺れさせてから突き落とす必殺の罠に襲われる――この塔に限った話ではなく、数多くのエリアにこういった「即死ギミック」は存在するのだ。

即死ギミックの対策。

これはボス対策よりも最優先事項である。

そして斥候の大きな仕事の一つでもある。

「斥候の判断ミスか?」

「見落としてたんだろうね」

そか、と、誠は残念そうに呟く。

「豪快そうに見えてラオは人一倍繊細な子だし、仲間や親友の死で心を病んじゃったんだ。私が無理やり進めようとした経緯もあって、次の日に別れてそれっきり。それから皆バラバラになって――っていうのが経緯」

どう? 自業自得でしょ? と白蓮。

ミサキは複雑な顔をしつつも首を振る。

「自業自得だなんて……」

「春カナタが街から出る時も、私は引き止められなかった。結局彼女も死んでしまった」

現実世界の時間が無い二人が死んだことで、彼女達の中で「急ぐ理由」も消えたのだ。侵攻討伐にも参加できず、ラオと令蘭と別れ、ここから出られず白蓮は腐ってしまっていた。

もし償えるなら――

そう考えたこともあった。

でも以前のように大勢を率いる度胸がない。

残ったメンバー達の期待に応えられずにいたのだ。

白蓮はミサキに優しい笑みを向けた。

「でもミサキちゃんを見てたらさ、私の力を使わないことこそ、クリアを目指す皆の足を引っ張ってるなと思ったんだ。たとえ誰かに責められようと、恨まれようと、この力を腐らせるのは間違ってる――今はそう思える」

自分がいくら後悔しても死んでいったメンバー達は戻らない。自分のすべきことは償うために皆と同じ場所に行くことじゃない。償うために、皆を一日も早く脱出させることだ。

近い境遇ながら必死に生きるミサキの真摯な説得により、白蓮は小さくも大きな一歩を踏み出そうとしていた。

意を決したようにミサキが口を開く。

「私とパーティ組みませんか?」