軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

153 s

「おっと」

「!」

八岐(ヤマタ) の二人組がそこにいた。

Hiiiiive(ハイヴ) は何かを察した様に「あぁ」と呟く。

アルバとアランが睨み合う形で立った。

見る人が見れば一触即発の様子である。

「お前らも〝盲目〟に用事か?」

目の端をトントンとしながら笑みを浮かべるアラン。

「盲目?」

「目を失った千里眼だよ」

明らかな蔑称に睨みを効かせるアルバ。

アランは全く気にしてない様子で続ける。

「あのスキルは別格だからな。システムプロテクトさえなければ引きずり出してでもエリアに連れて行くのになぁ」

「目的のためなら手段は選ばないと?」

不愉快そうにアルバが唸る。

アランもまた睨み返していた。

「手段……? 手段なんざ選んでたらいつまで経っても脱出なんてできねえよ。俺ぁ早く出たいんだよ。邪魔すんな」

ハイヴは「やめとけアラン」と諫め、面倒そうに頭を掻いた。そしてワタルの方へ視線を向け、続ける。

「行っても無駄足になると思うぞ」

ハイヴ(彼) なりの善意であった。

それほどまでに 彼女(・・) の状態は悪い。

ハイヴはここで初めてワタルの瞳を見た。

「!」

今まで色んな人と会ってきた。

顔を突き合わせれば相手が何を考えているのか、自分をどう思っているのかが分かる――と、ハイヴはそう自負している。

ベテラン刑事さながらの嗅覚というべきか。

目を見れば、恐れだったり嫉妬だったり憧れだったり期待だったりと、秘めたる感情は人それぞれだが読み取ることができる。

しかしこの青年、ワタルにはソレがない。

ない――違う、読めないのだ。

「(ただのいい子ちゃんじゃねぇな)」

ワタルへの認識を改めるハイヴ。

当の本人はどこ吹く風と笑顔を見せる。

「それは一度会ってみて判断します」

そう返すワタル。

ハイヴは興味を失ったようにワタル達の間を抜け、手をヒラヒラとさせた。

「あそ。んじゃあな」

そう言って 八岐(ヤマタ) の二人は人混みの中に消えていった。アルバはしばらく二人を目で追っていたが、ワタルはさっさと中へ入っていった。

*****

ワタルが扉を叩くと、中からは驚くほど元気な声で「開いてるよ」と返事があった。他の引き篭もりプレイヤーと全く違う反応に一瞬戸惑うも、そのまま扉を開けて中へと入った。

部屋の中は非常に綺麗だった。

美しい、という意味ではない。

何もないのである。

窓から差し込む僅かな光に照らされ、部屋の奥に座る一人の女性が見えた。ボサ髪で隠れて顔は分からないが、名前には白蓮とあった。

黄昏の冒険者マスター 白蓮(ビャクレン)

彼女はワタルの様に強いわけでも、ゲームに詳しいわけでもなかった。ただ純粋なゲームへの好奇心でプレイを始め、その人柄に惹かれ自然と人が集まった。

ダブグレーのロングヘア。

かつては責任感の強い姉御肌だったと聞く。

顔を上げた白蓮は意外そうな顔を見せた。

「ワタルにアルバじゃん。珍しいね」

嬉しそうに微笑む白蓮。

一見して元気そうではあるが、アルバはむしろ普通に振る舞うその姿に「底知れぬ闇」を感じ寒気を覚えていた。

「ここへはいつ?」

「今日着いたばかりです」

ワタルの返答に「そか」と呟く白蓮。

「塞ぎ込んでると聞きましたよ?」

「カゴネかぁー。大袈裟だなぁ」

あちゃーと、額に手を当てる白蓮。

ワタルは、普通に応対する白蓮の状態がそこまで悪いようには思えなかった。

それからしばらく三人は昔話に花を咲かせてゆく。

屈託のない笑顔。

冗談混じりの話し口調。

二人が過去知っていた白蓮のソレだ。

しばらく談笑したのち、アルバが言いづらそうに語り出す。

「――大規模侵攻のことは気にしなくていい。被害も最小限で抑えられた。今アリストラスは世界で最も安全な町になってる」

白蓮からフッと笑顔が消えた。

壁にもたれかかり、天井を見ている。

空気の変化に気付く二人。

白蓮は天井を見つめたまま口を開いた。

「ごめんね。私達も駆け付けるつもりだったんだ。本当さ? ただタイミング悪くエリア攻略の最中でね」

それを聞いたワタルが頷く。

「最前線組の中で、最も早くシオラ大塔攻略に挑んだと聞いてます。途中退出による損失を考えると進む選択をした皆さんを我々は否定はできません」

エリア攻略には多額の金が掛かる。

挑戦するメンバー全員に万が一のことがないよう適正の装備を揃える必要があるし、全員分の消費アイテムを揃えるにも馬鹿にならない金が掛かる。

特に〝攻略するつもりで挑んだ〟状況において、途中退出はできる限り避けたい手段であった――最前線かつ未攻略エリアともなれば、万全に万全を期したアイテム群を揃える必要があるのだから。

それに対し何の反応も示さない白蓮。

気を遣ったアルバがさらに続ける。

「侵攻の件で後ろめたさを感じているなら心配には及ばないと伝えたかった。あの日、お前からの連絡には……その、色々思うところがあったからな」

言葉を濁すように、最後は呟き声になりながらもそう伝えたアルバ。しかし、先ほどまでとは打って変わって、白蓮は電池が切れたように全く動かなくなっていた。

「12人」

「?」

ポツリ、と、白蓮が呟く。

「私の判断のせいで12人が死んだ。今でも、今でも思うよ……あの時ああしてたらとか、これに気付いていればとかさ」

脈絡なく話し始める白蓮に対し「何を言い出すんだ……?」と、たじろぐアルバ。

壊れたラジオのように、

彼女の言葉は止まらない。

「でももう無理じゃん? 帰ってこないじゃん。割り切れないよ。忘れられないよ。私はそんなに強くない! だって! 私達はただのフツーの……!」

そこまで言いかけて、言葉を飲み込んだ。

『私は内気な自分を変えるために!』

『私は家庭が終わってるからさ……』

『私は退屈な日常を変えたくて』

『私は皆と一緒ならどこまでも』

友人たちとの誓いが脳内を駆け巡る。

乾いた笑いが宿屋に悲しく響く。

肩を落としたように俯く白蓮。

「……黄昏の冒険者はもう解散だよ。カゴネ達はまだ私を必要としてくれてるけど、私はもう進むつもりがない。気力がない。資格もない。二人も私の〝スキル〟目当てで来たんだろうけど――そういう事だから、悪いね」

そう言って彼女は再び沈黙し、とうとう二人の声にも返答しなくなってしまった。

「……」

ワタルはアルバに目配せし、二人は部屋から立ち去った。しばらく静寂に包まれる部屋の中で、白蓮は膝に顔を埋めて動かなくなった。