軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

119 s

アリストラスからの帰り道――

初心者達の護衛も兼ねてアリストラスにある紋章本部へと赴いたのち、戦闘指南の手伝いと伝言を済ませた第6部隊はエマロの町を抜け、カロア城下町に向かう道中だった。

「流石にガルボ隊長とマトモにやり合えるプレイヤーは、キャンディーさんくらいでしたね」

第6部隊隊員のgaga丸は、テイムモンスターであるデミ・ウルフを先行させながら気怠そうに言った。

「紋章全体でも俺とマトモに勝負ができるのはマスターにサブマスターに支部長、恐らくラオと怜蘭……あと 銀弓の女神(アルテミス) くらいか?」

ガルボの言葉にgaga丸はカラカラと笑う。

「ありゃマスコット枠ですよ? なーんかマスターもサブマスも参謀もえらく気に入ってるみたいでしたけどね。実際は良スキルに恵まれただけの棚ぼたヒロインすね」

gaga丸はミサキを〝便利なレーダー〟程度にしか認識していないようだった。ガルボはどこか遠くを見つめながらポツリと呟く。

「そうか。お前の目にはそう写るんだな」

「?」

などと談笑しながら足を進める第6部隊。

エリア移動した一行は、オルスロット修道院に差し掛かる。

グルルルル……!

「お、どしたポチ」

デミ・ウルフが何かを察した。

面白そうに周囲を見渡すgaga丸。

短く吠えたその刹那――

デミ・ウルフの体が溶けるように消えた。

パーティの空気が一気に張り詰める。

「なんだお前」

メンバーの一人がその人物に気付いた。

ノースリーブのチャイナ服に似た、黒の衣装に身を包んだその人物――黒い髪に灰色の瞳、長い睫毛とくっきりとした鼻筋、二重瞼。美しい男性にも女性にも見える中性的な顔立ちであった。

右目の下に横文字で英文のタトゥーが彫られているのが妙に印象的である。

「紋章ギルドってことは、ゲームクリアを目指してる人達だよね」

ぽつり、と、その人物が呟く。

パンッ――

何かが弾ける音と共に、第6部隊隊員一人の体が爆散するように弾け飛んだ。

「なにを……」

とっさにgaga丸はパーティ画面を見る。

弾けた一人のHPは0となっていた。

――死んだ?

――この一瞬で?

状況を理解した瞬間、

メンバー達は遅れて寒気に襲われた。

「お前ら逃げろおおおお!!!」

ガルボの絶叫が轟いた。

見ればガルボがその剛力で大剣を振り下ろしており、それを受ける形でPKが剣を抜いている。

「ベッティ! PK出現を町に知らせろ! メールでも言伝でも、とにかくプレイヤー全員町から出ないように伝えろいいな!!」

そう言って何かの印を結ぶgaga丸。

「で、でもgaga丸さん達が!」

「一の犠牲より百の命ってな。頼んだ!」

gaga丸は一瞬にして「この相手には絶対的に勝てない」と理解していた。それは彼なりにくぐって来たどの修羅場よりも、この人物から放たれる〝死のイメージ〟が強かったからだ。

二人の隊員は顔を見合わせ、一人はカロア城下町方面、一人はエマロの町方面へと駆け出した――ガルボとgaga丸が討たれても、片方は確実に生き残れる唯一の方法だった。

別方向へと駆けてゆく同胞達を見送りながら、gaga丸は自分の固有スキルを解放した。

「こい! ドグマ・ベアー!」

彼の声に応える形で大地に降り立ったのは、ケンロン大空洞に出現する徘徊ボスのドグマ・ベアーだった。

ケンロン大空洞周辺mob図鑑から引用すると、ドグマ・ベアーは獰猛で残忍な氷世界の王者である。取り込んだ鉱石を鎧のように身体に纏うことでいかなる攻撃も弾き返す。ハルタナ族からは神の使者として崇められており、彼等の角笛の音で呼び寄せられる。

灰色の巨大な熊が獲物を見据えた。

横目でそれを確認したガルボが頷く。

gaga丸は「眷属契約」という固有スキルを持っていた。これはmobを使役するテイマー系職業のスキルの上位互換であり、低確率だが格上のボスでも仲間にすることができる。

それはラオと同じように、職業特性に特化したレアスキルである。

ガルボの凄まじい剣技を飄々といなしながら、PKは向かってくるドグマ・ベアーに視線を向け、楽しそうに尋ねる。

「強そうなの飼ってるんだね」

ガルボはそれに答えない。

ドグマ・ベアーが黒いローブの人物に襲い掛かると同時に、ガルボは固有スキル《 瓜二つ(ドッペルゲンガー) 》を発動し、二方向からの攻撃を浴びせる。

爆音と共に砂煙が舞う――

最前線の盾役でも一撃で死ぬ程の威力だ。

(どうなった?)

砂煙の先を見つめるgaga丸。

パンッ!

手拍子のような軽快な音が鳴る。

gaga丸の頭に、胴体に、無数の何かが当たっては落ちる。そちらに視線を移すと、それは大量のアイテムだった。

目の前に巨大な剣が突き刺さる。

尊敬する背中にいつも背負われていた剣。

反射的にパーティ画面を見たgaga丸は、ガルボの名前が黒くなっている事に気付く。溢れ出る涙を堪え切れず、膝から崩れ落ちた。

ドグマ・ベアーが光の屑となり消えてゆく。

「おしまい」

それが、gaga丸が聞いた最後の言葉となった。

*****

こんなにも町が遠く感じたのは初めてだった。

(早く! 早くッ――!)

第6部隊隊員のベッティは、後ろも振り返らず一心不乱に走っていた。

gaga丸が言ったようにメールを送ることも考えたが、この足を、速度を落としてしまったら〝奴〟が後ろに迫っている気がして、どうしてもできなかったのだ。

運が悪くても、自分が死ぬだけ――

エマロに向かったカグチが事態を報告してくれる。

運が良ければ、二人とも生き残る。

隊長と副隊長を見捨てて、生き残る。

(ガルボ隊長とgaga丸副隊長の熊がいれば、相手が サブマスター(アルバさん) だって止められたんだ。心配する方がおこがましい)

何も考えないように頭を振る。

そして町の門が見えて来た時だった。

「君で最後だ」

悪魔の囁きに聞こえた。

もう逃げられない――

そう確信したベッティは覚悟を決め、涙を流しながら刀を抜き放つ。

「おまえ、おまえなんなんだよ!!」

ベッティの絶叫がこだまする。

その人物は静かに佇んでいる。

不意に視界の隅にあるパーティ一覧を見たベッティの目から、止めどなく涙が溢れる。

自分以外のメンバーが全て死んでいた。

ガルボもgaga丸も、そして逆方向に逃げたはずのカグチも全員死んでいた。先ほどまで笑って歩いていた仲間達が皆、死んでいたのだ。

ベッティの中で、走馬灯のように第6部隊で過ごした日々の映像が流れ、弾ける。自分達のささやかな幸せの時間は、お別れを言う暇すらなく簡単に砕け散った。

「なんで? なんで? カグチと俺は相当離れてたじゃん」

焦点が定まらない目でそう尋ねるベッティ。

その人物は無表情のままそれに答える。

「ひみつ」

パンッ――