軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

117

時はキイチが名乗り出た場面に遡る――

解放者の前に歩み出たキイチを見て、バーバラ達の目が見開かれる。それは正しく、先ほど修太郎が親しげに話していた青年だったからだ。

「名前は?」

「キイチです」

「キイチ君か。挨拶は済ませましたか?」

「はい……でも一人だけ、何も伝えていません。彼を見てると決心が揺らぎそうになりますから」

そう言いながら、振り返ったキイチが微笑む。

かつて小さな体で自分達を助けてくれた、勇気ある少年の顔を思い浮かべながら。

群衆の中にはヨシノの姿もあった。

解放者は声高らかに宣言するように、集まっているプレイヤー達に向け語り出す。

「では最初に、彼――キイチ君に〝ログアウト前の待機場所〟に行ってもらい、ここに戻ってきてもらいます。キイチ君がこの場から消えた後、皆さんには彼が〝オフライン〟になっている事を確認してもらいます。そしてキイチ君にはまたここに戻ってきてもらい、もう一度フレンド欄から彼が〝オンライン〟になった事を確認してもらいます。これでいかがでしょうか?」

解放者の言葉に、誰も異論を唱えない。

なぜなら、これ以上ない実演だからだ。

焦った表情のバーバラの前へとやって来て、フレンド交換を迫るキイチ。そして互いに登録する最中、キイチは照れ臭そうに修太郎に宛てた伝言を頼んだ。

再び解放者の前に立つキイチ。

解放者は満足そうに語り出す。

「はじめに、十字架の前で祈りの形をとっていただきます。といってもやる事はそれだけで、数十秒の後、勝手にログアウト処理が開始されます」

言われた通りに膝をつくキイチ。

そしてしばらく、何も起こらず時が過ぎる。

「拠点でもmobの湧くエリアでもない、教会や修道院が定期的に存在するのかを私は常々考えてました。人が住む事は叶わず、イベントも起こらず、しかし町と町の間に存在している。私はここが単なるセーフティではなく、もっと何かメッセージめいた物を感じました」

キイチが祈るその横で、解放者が語る。

「セーブも無く、復活もないなら教会や修道院が未だにある意味は何だろうか。重要な役割も担っていないのに、各地に点在する理由は何か――そう考えた末に、この場所までたどり着けばログアウト可能だというサインなのではないか? という仮説にたどり着きました」

脈絡もありませんが、重要施設であることは間違いない。プレイヤーにとって重要であるならば、それは何よりも重要な〝ログアウトができる施設〟であってほしい――そう願いを込めて祈った末に、解放者は初めてのログアウトを経験したのだと言った。

「露骨にログアウト可能にしていないのは、Motherではない誰かが設置した救済措置の可能性があると考えました。私が危惧しているのは、これがMotherに見つかった暁にはいよいよクリア以外の脱出方法が無いということ。その前に私達は出来る限りの人を解放したい――そう願ってギルドを設立しました」

解放者が語り終えると同時――

キイチの体が消えた。

「!?」

バーバラはあらかじめ開いておいたフレンド欄に目を落とすと、そこにはキイチの名前の横に〝オフライン〟という表示がされていた。

「うそ……本当に……?」

言葉を失うバーバラ。

衝撃を受けたのも束の間、バーバラは解放者の方へと鋭い視線を向け、足元を凝視する。

(手品めいた何かを用いた巧妙なPKの可能性だってある。万が一キイチさんが現れなかったら――)

そう心の中で呟いた時だった。

解放者の目の前に、キイチが現れたのだ。

「あれ、俺……戻れた? のか?」

自分の手を動かしながら、それを確認するように目視するキイチ。それと同時に群衆から歓声が沸き起こり、バーバラはその場にへたり込んだ。

キイチ オンライン

フレンド欄にはハッキリとそう表示されていたのだ。茫然自失のバーバラから意思を受け継ぐように、今度は怜蘭が口を開く。

「なら、同じ事を私にもおこなってください!」

「おい怜蘭!」

「いいの、こうでもしないと自分が信じられないもの」

ラオの制止も振り切り十字架の前へと進むと、キイチと同じようにして祈りを捧げる怜蘭。解放者は別段焦った様子も見せず、事の成り行きを黙って見守っていた。