軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

93 クマさん、目が覚める

目が覚めると、わたしに寄り添うように寝ているくまゆるたちがいる。

今、何時?

ベッドから降りて、カーテンを開け、窓を開ける。

朝焼けが海に向かって見える。

昼に寝て、朝まで起きないって何時間寝たのよ。

単純計算でも16時間は寝ている。

さすがにそれだけ寝れば、倦怠感も無くなり、体力も魔力も回復はしている。少し早いが黒クマの服に着替えて、ボディーガードをしてくれたクマたちを戻す。

部屋から出て、一階に降りると、丁度デーガさんが奥の部屋からやってくるところだった。

「嬢ちゃん、起きたのか! もう、大丈夫なのか!?」

「おはよう。大丈夫だよ。魔法の使い過ぎで疲れただけだから」

「そうか。何ともないんだな」

安堵の顔が窺われる。心配させたようだ。

「嬢ちゃんって、本当に凄い冒険者だったんだな。見た目はこんなに可愛いのに」

「クラーケンのこと知っているの?」

「嬢ちゃんが宿に戻ってきた時に、アトラに聞いたよ」

まあ、あんな状況で帰ってきたら聞くよね。

「それで、腹は減っているか。昨日の朝から何も食べていないんだろう」

お腹に触れてみる。

ペッタンコだ。

胸じゃないよ。お腹がペッタンコだ。

「空いているみたい」

「なら、すぐに準備するから待っていろ」

デーガさんは奥のキッチンに向かう。

「ゆっくりでいいよ」

デーガさんが作る朝食をボーっとしながら待っていると、アトラさんが宿屋に入ってくる。

「ユナ、起きたの!?」

「さっき起きたところ」

「どこか体が変なところは無い?」

「大丈夫。早く寝たおかげで、魔力も回復して、元に戻っているよ」

「夜になっても起きてこないから心配していたのよ」

本当に心配そうにしてくれている。

デーガさん同様心配をかけたらしい。

「でも、何ともないなら良かったわ」

アトラさんと話していると、デーガさんが朝食を持ってきてくれる。

そして、その朝食をみて驚く。

「お米? 無かったんじゃ」

「町の者が持ってきてくれたんだよ」

「どうして?」

「昨日は大変だったんだぞ。多くの住人が嬢ちゃんに礼を言いに宿屋に集まってきたんだぞ」

「あれは大変だったわね」

アトラさんがデーガさんの言葉に頷く。

「町に戻ってきて、すぐにクラーケンが討伐されたことは町中に広まったわ。そして、それを倒したのがこの宿屋に泊まっているユナだと知ると、みんなこの宿に押しかけてきたわけ」

それってどのくらいの人数が集まったのかな。

想像したくないんだけど。

「でも、あなたは疲れて寝ている。起こすわけにはいかない。だから、静かにするように説得して、帰ってもらったわ。それでも、次から次へと礼をしたい住人があっちこっちから集まってくるから大変だったのよ」

わたしが寝ている間にそんなに大変なことが。

「それで、皆、何かお礼がしたいと言い始めてな。それで、嬢ちゃんがお米が好きなことを伝えると、住民がお互いに家に残っているお米を集めて持ってきてくれたんだよ。一人一人の量は少ないが、町中から集まってきたから、かなりの量になっているぞ」

かなり、嬉しいんだけど。

クラーケンを倒しても、お米がある和の国がどこにあるかも分からないし。次にいつ、船が来るかも分からない。だから、しばらくは手に入らないと思っていた。

「嬉しいけど、もらっていいの? 大切な食料でしょう」

「何言っているの? あなたがクラーケンを倒したから食料問題は解決よ。海は食材の宝庫よ」

それなら、有り難く貰っておくかな。

あれ、そう考えると、隣町まで買い出しに行ったブリッツたちには悪いことをしたかな?

まあ、買ってくるのは魚以外だろうと思うから平気かな?

「住人がお礼にやってきたってことは、わたしがクラーケンを討伐したことは広まっているんだよね」

「クラーケンとユナの戦いを見ていた者もいたのよ。だから、一気に広がったわね」

あの場に人がいたの?

気づかなかった。

もう少しで、早着替えをするところだった。

問題はそこじゃなく、そこも大事だけど。

本当は王国の時と同様に大事にしたくなかったけど、今回は仕方ないかな。

さすがに冒険者ランクSが倒したって言うには無理があるし。

「一応、皆にはユナに迷惑を掛けないようにとは言ってあるけど。何を心配をしているの」

「ただ、クラーケンをわたしが倒したことが広まると、面倒だなぁ~と思っただけ」

「それなら、心配ないわよ。この町以外には広まらないから。元々、この町は他の町と交流は少ないし、クラーケンの話を知っていたとしても、15歳のクマの格好をした女の子が1人で倒したと言ったとしても、誰も信じないわよ。わたしだって、そんな噂が流れても絶対に信じないわよ」

確かに、クラーケンを1人で倒したと聞いても信じないだろう。

実際問題、クラーケンを1人で倒せる者っているのかな?

そこら辺、強い人に出会ったことが無いから分からないんだよね。

今度、ランクSの冒険者に会ってみたいものだ。

「一応、広めないように口止めはさせておくけど。あまり当てにしないでね」

こればっかしは仕方ない。

噂が広まらないことを祈ろう。

クラーケンが倒され、お米と醤油が手に入ることを喜んでおこう。

住人から貰ったお米でお腹も膨らみ、朝の散歩をするために宿を出る。外に出ると朝早くにもかかわらず、人が多くいる。

みんなの顔に笑顔が浮かび、会話が弾んでいるように見える。

わたしが宿屋から出てくるのに気づいた年配の女性が、数人やってくる。

「お嬢ちゃんがクラーケンを倒してくれた子だね」

「こんな、可愛らしい女の子が、あの化け物を倒したのかい」

「本当にありがとうね。主人も朝一から海に出ていったよ。これもお嬢ちゃんのおかげだよ」

「うちの主人も一緒さ。あんなに暗い顔をしていたのに、倒されたクラーケンを見に行って帰ってくると泣いていたさ」

「それで、今日、感謝の気持ちに、町中で魚料理を作るから参加しておくれ」

「男衆は昨日騒ぎたかったらしいけど。町を救ってくれた、お嬢ちゃんが倒れて寝ているって言うじゃないか」

「そこのアトラが言うには翌日には元気になっているはずだからと言ってね。それなら、朝一で魚を捕りに行って、新鮮な美味しい魚料理を作ることになったのよ」

「美味しい料理を作るから、参加しておくれ」

おばちゃんたちは言いたいことを言うと立ち去っていく。

その後も町を歩いていると次々と礼の言葉が飛んでくる

このままでは捕まりそうだったので、町を出てクラーケンと戦った崖に向かう。

どのような状態なのかとアトラさんに聞くと、昨日の状態だと、海が沸騰してクラーケンには近寄れないそうだ。

崖の近くに辿り着くと、温泉街のように湯気が立ち上っている。

「だいぶましになったわね」

崖の側に行くと、老人の男性が海を見ている姿があった。

「クロさん」

「アトラの嬢ちゃんか」

「クロさん、どうしてここに?」

「ここに居れば、この魔物を倒してくれた人物に会えると思ってな」

「でも、漁はどうしたんですか?」

「そんなの若者にやらせればいい。わしはこの魔物を倒してくれた人物にお礼を言わないといけない。それで、この魔物を倒してくれたのは、そこのクマの格好をした嬢ちゃんか?」

「うん、そうだけど」

クロさんと呼ばれたお爺さんはわたしのところにやってくる。

「話には聞いていたが、こんなに小さな女の子だったとはな。わしはこの町で、一応海の管理を任されている者じゃ、今回は町と海を救ってくれてありがとう」

お爺さんは頭を下げる。

『そんなお爺ちゃんを見ていると。倒した理由が、お米とか』

「こうやって、海に船が浮かんでいるのを見ることができるのもお嬢ちゃんのおかげだ」

お爺さんは海を見て、遠くに浮かぶ船を見る。

『醤油のために、』

「こんな魔物を倒せる者はいないと思っていた。軍隊でも、倒せるかわからん魔物だ。町の者はその辺を分かっておらん。嬢ちゃんがどんなに凄いことをしたかを」

「…………」

『頑張ったとは絶対に言えない状況になっている』

「気にしないでいいよ。たまたま、倒す方法があっただけだから」

今のわたしにはそれしか言葉が出てこない。

「そうか。もし、この町で困ったことがあったらわしに言うといい。お嬢ちゃんのためなら力を貸すぞ」

「それでユナ。クラーケンはどうするつもりなの?」

アトラさんが海に浮かぶクラーケンを見ながら尋ねてくる。

「クラーケンって食べられるの?」

「そりゃ、食べられるわよ」

「ちなみに、ワームは?」

「珍味で高級食材になっているって聞くけど」

あのゲテモノが高級食材ですか。

たとえ、お金を貰っても食べたくないんだけど。

「それじゃ、町にあげるよ」

「いいの? 一財産になるわよ」

「町で役に立ててくれればいいよ。クラーケンに船を壊された人もいるだろうし」

「本当に良いの? とても助かるけど」

「どうしても、気が引けるなら、この町の見晴らしがいい場所の土地を紹介してくれればいいよ」

「ユナ、この町に住むの?」

わたしは首を横に振る。

「別荘にするだけ。暖かくなったら、知り合いを連れてきたいし」

「泳ぐなら、この町の海はオススメよ」

そういえばこの世界の住人ってどんな格好で泳ぐのかな?

水着はあるのかな?

流石に裸はないだろうから、あると思いたい。

「でも、解体をするにしても、さすがにこれだけ大きいと海から持ち上げることもできないし、海の上じゃ解体もできないわね」

「ちょっと待ってて」

わたしは土魔法で崖の上からクラーケンに向かって階段を作る。

階段を降りて、クマに囲まれた海水を水魔法で抜く。

海水を抜くと、海の底には茹であがったクラーケンとワームが残る。

海底に降りたわたしは、クマボックスの中にクラーケンとワームを入れる。

そして、二人のところに戻ってくる。

「このアイテム袋のことはあまり知られたくないから黙っておいてね」

「それは、いいけど。海水が無くなると壮観ね」

海水が無くなった後には土でできた数体のクマが聳え立っている。

「今、消すね」

「ちょっと待ってくれ」

クロのお爺さんが止める。

「これはこのままにしてくれないか」

「どうして」

「それは、今回のことを忘れないためだ。時間が過ぎると人の記憶は色あせて忘れてゆくものだ。嬢ちゃんに助けてもらったこと、クラーケンが現れたこと、海で亡くなった者を忘れないためだ」

本当は残したくないから消したいんだけど、お爺さんにそこまで言われたら消すことはできない。

わたしはお爺さんの言葉を了承する。

「それで、どこで解体する?」

「そうじゃのう。この先の砂浜でいいのではないか?」

「そうね。どうやって運んだのかと聞かれたら、ユナの魔法って言えば納得するでしょうから」

そんなわけで崖から近い砂浜にクラーケンとワームを取り出す。

二匹とも、いい感じで茹であがっている。

「ここなら海水もあるし、汚れを落とすこともできるからよかろう。そろそろ、漁から皆も帰ってきているはずじゃ、わしは皆を呼んでくる」

「わたしも解体ができる職員を呼んでくるわ」

恐がるお爺ちゃんをくまゆるに乗せて町に戻ってくる。

お爺ちゃんの足ではどのくらい時間が掛かるか分からない。

「お嬢ちゃん、貴重な体験をさせてもらったよ。まさか、この歳になってクマに乗るとは思いもしなかった。それじゃ、わしは港に行ってくる」

「わたしは冒険者ギルドに行くわね」

二人はそれぞれの目的地に向かう。

さて、一人残されたわたしはどうしたものかと思っていると、ユウラさんがやってくる。

「ユウラさん、おはようございます」

「おはよう、ユナちゃん。それとありがとうね」

「自分のためにやっただけだから」

「わたしたちは、何度もユナちゃんに助けられているわね。雪山、食材、盗賊、クラーケン。そういえばクラーケンはどうするの? 昨日、見に行ったけど、あのままじゃないんでしょう」

「今、漁師のクロさんってお爺ちゃんが、港にクラーケンを解体する人を集めに行ったよ。アトラさんも冒険者ギルドに同様に向かったけど」

「あれ、解体するの?」

「砂浜に移動させたから、解体したら町の人に食べてもらうつもりだよ」

ワームのおまけ付きで。

わたしは食べないけど。

「それじゃ、わたしも行かないとダメだね。クロさんが港に行ったなら、わたしは女衆を集めるかな。それじゃ、ユナちゃんまた後でね」

ユウラさんは去っていく。