軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

934 クマさん、鍛冶屋に行く

わたしはクリモニアに帰ってきた。

懐かしい我が家だ。

すっかり、クリモニアにある家がわたしの帰る家になっている。

実家に帰ってきた気分だ

ドワーフの街へ出かけるのは3日後、それまでのんびりするつもりだ。

くまゆるとくまきゅうを背もたれにしながら、自室でまったりしていると、玄関のドアが開く。

クマハウスはわたしが許可を出さないと入れない。

つまり、クマハウスに入れるのは知り合いだけだ。

わたしは起き上がり、下の階へ行くとフィナがいた。

「フィナ」

「ユ、ユナお姉ちゃん!」

フィナはわたしがいることに驚くと駆け寄ってくる。

「帰ってきていたんですね」

「ただいま。さっきね」

数日間だけなのに、久しぶりにフィナに会った感覚だ。

「フィナは仕事?」

「うん、解体にきたの」

フィナは孤児院の仕事をしている母親のティルミナさんのお手伝いをしながら、たまにクマハウスに来て、解体の仕事をしている。

そんなこともあって、フィナは自由にクマハウスに入れる1人だ。

「ユナお姉ちゃん、シノブさんは大丈夫だった?」

フィナにはクマフォンでシノブが怪我をして和の国にいること、ちょっと和の国でお手伝いをするので、しばらく和の国にいることを伝えてあった。

「シノブの怪我は大丈夫だよ」

「よかった」

今日の解体の仕事は中止にしてもらい、その代わり和の国でしてきたことを話してあげた。

「意志を持った武器? そんな武器があるんだね」

フィナは信じられないような顔をする。

「フィナが持っている解体のナイフもそのうちに意志を持つかもよ。解体がしたい、解体がしたいって」

わたしがそういうとフィナが「やめてください。怖くて、ナイフが持てなくなります」と怒る。

「意志をもった武器があっちこっちにあるとは思えないから大丈夫だよ」

ないよね?

和の国で数本、この国でもあったりするかもしれないけど。

先ほどの言葉じゃないけど、解体をしたがる解体ナイフがあってもおかしくはない。

将来、フィナが持っている解体ナイフが、妖刀みたいになる可能性もある。

そんなことはフィナには言わないけど。

「ああ、そうだ。そろそろ行かないと」

フィナがなにかを思い出したように立ち上がる。

「どこかに行くの?」

「先日、ゴルドさんに会って、ナイフの確認がしたいから来るように言われたんです」

ゴルドさんはクリモニアの街にいる鍛冶職人だ。

そして、フィナが持っているナイフのメンテナンスはゴルドさんがしている。

「近頃、行っていなくて」

「道具のメンテナンスは必要だよ。いざっていうときに使えないと困るよ」

「ゴルドさんにも言われました。ユナお姉ちゃんはしているんですか?」

「王都に行く予定があったときに、ガザルさんに頼んでいるよ」

フィナにはそう言ったけど、最近は行っていない。

和の国でも使ったし、王都に行かないとダメかな。

「それじゃ、わたし、行ってくるね」

「わたしも一緒に行くよ」

「ユナお姉ちゃんも?」

フィナに妖刀の話をしたり、刀を作ることを考えていたので、なんとなく武器屋に行きたくなった。

くまゆるとくまきゅうを送還すると、わたしとフィナはゴルドさんの鍛冶屋に向かう。

「フィナのほうはなにもなかった?」

歩きながら、わたしがいなかった間のことを尋ねる。

「なにかって?」

「困ったことや、面白いこととか?」

「う~ん。普通に仕事をして、ノア様に会ったり、シュリと遊んだりしただけかな?」

フィナが楽しそうに話すと、わたしも嬉しくなる。

困ったことがなくてよかった。

「もし、困ったことや大変なことがあったら、言うんだよ」

「うん。でも、ユナお姉ちゃんのおかげで、毎日が楽しいよ」

フィナが満面の笑顔で言う。

フィナと話をしながら、ゴルドさんの店にやってくる。

店の前に来るとフィナはドアを開けて店の中に入る。

店の奥のカウンターには若い女性が座っている。

ゴルドさんの奥さんのネルトさんだ。

ドワーフってことで身長は低いので子供に見えるが、実際は大人だ。

「おや、フィナとクマの嬢ちゃんじゃないか」

「ゴルドさんにナイフのメンテナンスに来るように言われて」

わたしとフィナはネルトさんがいるカウンターに向かう。

「そういえば、最近来ていなかったね」

「解体する数も減ったから」

会ったばかりのときは毎日のように解体をしていたけど、母親のティルミナさんの病気が治り、ティルミナさんがゲンツさんと結婚したことで、フィナが解体の仕事をすることが減った。

今はティルミナさんの孤児院の仕事のお手伝いをしたり、店に提供する肉や孤児院の食べる肉が無くなったときに、解体するようになった。

あとは、わたしが珍しい魔物を倒したときぐらいだ。

「今、呼んでくるから、待ってな」

ネルトさんは奥の部屋に向かう。

その奥からは鉄を叩く音が聞こえてくる。

ネルトさんがゴルドさんを呼んでくるまで、わたしは店の中を見学する。

長さ、太さが違う、さまざまな剣、槍の種類もさまざま、プレートメイル、胸当て、すね当て、籠手なども置いてある。

でも、やっぱり刀は置いてない。

わたしが店内を見ているのと同じように、フィナも店内を見ている。

なにを見ているのかと思っていると、ナイフを見ている。

こうやってみるとナイフにもいろいろな種類がある。

そういえば、この世界に来たばかりのとき、投げナイフや解体用のナイフを買ったりした。

投げナイフは使ったりしたけど、解体ナイフは一度も使っていない。

鉄を叩く音が消えると、ネルトさんがゴルドさんを連れてきた。

「フィナの嬢ちゃん、来たか。それとクマの嬢ちゃんも」

「わたしは付き添いだよ」

フィナは持っているナイフ2本をカウンターの上に出す。

鉄ナイフとミスリルナイフだ。

ゴルドさんは2本のナイフを確認する。

「刃は綺麗だ。ちゃんと使った後は手入れをしているようだな」

その言葉にフィナは嬉しそうにする。

解体をすると血が付く。

ちゃんと、あとの処置をしないと切れ味が落ちてしまう。

だから、ナイフだけでなく武器を使ったあとの処置は大切だ。

フィナのナイフを確認したゴルドさんはわたしに目を向ける。

「嬢ちゃんのナイフはどうする? ガザルのところで見てもらうか?」

フィナが持っている鉄のナイフとミスリルナイフはゴルドさんが作ったもので、わたしが持っているミスリルナイフは王都のガザルさんに作ってもらったものだ。

なので、わたしのミスリルナイフのメンテナンスはガザルさんに頼んでいる。

「ガザルの奴が、嬢ちゃんが王都に来るのが大変だろうから、俺に見てやってくれと言っていた」

そういえば、ゴルドさんとネルトさんがガザルさんに会いに行くって言っていたけど、そのときに言ったのかな?

「どうする?」

クマの転移門のことを知らないガザルさんが気を遣ってくれたんだと思う。

でも、クマの転移門があったとしても、ガザルさんの店まで行くのは面倒くさい。

王都のクマハウスからガザルさんの店まで距離はある。

だから、ガザルさんの許可もあり、ここでメンテナンスしてくれると言ってくれるなら、断る理由はない。

「それじゃ、お願いしようかな」

わたしはクマボックスから2本のミスリルナイフを取り出し、カウンターの上に置く。

ゴルドさんはさきほどと同じように鞘からナイフを抜き、目を細め、人差し指でナイフを優しくなぞる。

危険かと思ったけど、ゴルドさんは慣れた感じだ。

「うん?」

「嬢ちゃん、峰の部分で受け止めているのか?」

「分かるの? もしかして、傷とか付いている?」

和の国で使ったあと布とかで拭いたけど、気付かなかった。

「目で分かるような傷はない。だが、触れば分かる」

職人だからかな?

「魔物、ゴブリンキングの剣を持った大猿と戦ったときかな、それとも刀を受け止めたとき?」

「…………」

「…………」

「…………」

わたしの言葉にゴルドさん、ネルトさん、フィナが固まる。

「お嬢ちゃんは相変わらず、とんでもない魔物と戦っているんだな」

ゴルドさんは呆れたように言う。

「そもそも、ゴブリンキングの剣を持った大猿って、どんな状況だ」

「ちょっと、森深くに行ったら、ゴブリンキングと大猿が戦っていて、大猿がゴブリンキングに勝って、ゴブリンキングの持っていた剣を持って、わたしに襲いかかってきたんだよ」

「…………」

「…………」

また、沈黙が流れる。

「ゴブリンキングを倒す大猿。それを倒す嬢ちゃん。信じられない話だが、じっさいに嬢ちゃんはゴブリンキングとブラックバイパーを倒しているからな」

わたしがこの世界に来たばかりの頃のことだけど、もう、昔のことのように感じる。

「だが、その戦いでこのナイフが役にたったなら、ガザルの奴も嬉しいだろう」

ゴルドさんはナイフを再確認するように触る。

「そういえば、刀を受け止めたと言っていたな」

「刀を知っているの?」

「和の国の武器だな」

「作れる?」

「作れるかどうかなら、作れる。だが、和の国の職人には勝てないだろう。なんだ。欲しいのか?」

「ちょっと気になってね」

曖昧に誤魔化す。

ゴルドさんが作れないなら、ドワーフの街に行っても、作れないかも。

まあ、カガリさんのお酒を購入する目的もあるし、ドワーフの街に行くことには変わりない。

「2人のナイフは預かる。明日、取りに来てくれ」

「お金は?」

「いらん。それがガザルとの約束だろう」

ガザルさんにアイアンゴーレムをプレゼントしたら、今後のミスリルナイフのメンテナンスは無料でしてくれることになった。

「そうだけど、ゴルドさんは関係ないでしょう」

ゴルドさんにはアイアンゴーレムをプレゼントしていない。

「ふっ、子供が気にするものではない。それにあやつの頼みじゃ。気にする事じゃない」

結局、無料でお願いすることになった。

ナイフのメンテナンスを任せたわたしとフィナは店を後にする。

「そうだ。フィナ、これお土産ね。みんなで食べて」

わたしはお饅頭が入った紙袋を渡す。

「ありがとう。でも、ユナお姉ちゃん、お母さんもシュリも会いたいと思っているから、一緒に行こう」

フィナはわたしのクマパペットを掴むと、歩き出す。

フィナが嬉しそうなので、久しぶりにフィナの家にお邪魔することにした。