軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

929 クマさん、2人を引き渡す

わたしとカガリさんはくまゆるに乗って、城に向かっている。

ジュウベイさんはともかく、黒男をサクラのところに連れて行くわけにいかないので、城に連れて行くことにした。

「黒男はどうだった? 強かった?」

気になっていたので尋ねる。

「動きは悪くなかった。本来の実力は見ることはできなかったが、弱くはなかった。じゃが、妖刀の力に魅入られ、本来の自分の力を使わず、妖刀の力に頼っていた。妖刀の力と自分の本来の力を組み合わせて戦われていたら、倒すのに少しは苦労したじゃろう」

「負けるとは言わないんだね」

「妾が何年生きていると思っておる。あんな若造に負けたりはせぬ」

カガリさんにとっては、黒男は若造になるんだね。

「お主のほうはどうじゃった。ジュウベイは強かったか?」

「見ていたんじゃないの?」

「見ていたのは最後のほうだけじゃ。それに見ていたとしても、対戦したお主がジュウベイのことをどう思ったかは分からん」

確かにそうだ。

ジュウベイさんと戦ったわたしの気持ちなんて、分かりようがない。

「ジュウベイさんとの戦いは楽しかったよ」

「ジュウベイとの戦いを楽しかったと言うのはお主ぐらいじゃろうな」

「ただ、カガリさんの話を聞いて、少し納得したかも」

「納得?」

わたしの前に座るカガリさんが、怪訝そうな顔をして、振り向く。

「ジュウベイさんも妖刀の力に魅入られていたかも。だから、前回よりも怖くなかった」

「普通は妖刀を持った相手のほうが怖いと思うのじゃが」

「だから、カガリさんの言葉に納得したんだよ。たぶんだけど、ジュウベイさん、妖刀を使うのを悩んでいたみたい。でも、わたしに勝ちたいって気持ちで妖刀を使ったみたいだから」

「過去にお主に負けた者は、皆、そういう気持ちになるのじゃろう。妾が戦った男もそうじゃったが、サタケもジュウベイも、お主に勝ちたいと思ったのじゃろう」

「いい迷惑だね」

ジュウベイさんとの戦いを楽しんだわたしもいるけど、3人につきまとわれたら面倒くさい。

「それだけ、お主がいる頂に挑戦したい。辿り着きたい。思いはいろいろあるが、皆、お主の実力に魅了されているってことじゃ」

嬉しいけど、戦う技術は自分、身体能力はクマ装備。

全てが自分の力ではないから、なんともいえない気持ちになる。

それにクマ装備が危険から守ってくれる安心感が戦いに余裕をもたらせてくれている。

これが攻撃を受けたら死ぬと思ったら、戦う技術があっても、体は動かなかったかもしれない。

そんな会話をしながら、わたしとカガリさんを乗せたくまゆるは城下町を進む。

深夜遅く、城下町は静まりかえっている。

都内みたいに街灯があるわけがなく、真っ暗だ。

月明かりだけが照らす。

城が近くになってくる。

「城の門には人いるんだよね?」

「門は閉まっておるが、見張りの兵士はいるはずじゃ」

「でも、どうやって説明する?」

「…………」

「…………」

わたしとカガリさんの間に短い沈黙が流れる。

わたしの格好はクマ。

カガリさんは幼女。

そして、気を失ったジュウベイさんと妖刀を盗んだ黒男。

「どうにか説明して、サタケをたたき起こしてもらうしかないじゃろう」

「誰が説明するの?」

「…………」

「…………」

また、短い沈黙が起きる。

「お主しかおらんじゃろう。妾は、こんな姿じゃからのう」

「わたしはクマだよ」

「…………」

「…………」

また、短い沈黙が流れる。

「まあ、なんとかなるじゃろう。気を失っていると言っても、ジュウベイの顔を見れば、兵士も理解するじゃろう」

ちなみ、ジュウベイさんの顔と黒男の腕の怪我は治しておいた。

なのでジュウベイさんの顔はちゃんと分かると思う。

治療する前は、ジュウベイさんの顔はかなり腫れていた。

「シノブの奴がいればよかったのじゃが、最悪の場合、妾が飛んで、スオウのところに行くしかないじゃろう」

それは本当に最悪の場合になりそうだ。

そんなことを話している間に城門が近づいてくる。

門は誰も入れないように固く閉ざされている。

「誰だ」

城門の上から声がしてくる。

上を見ると見張りをしていた兵士2人がわたしたちを見ていた。

城門の上は見張りをする場所でもあった。

「えっと、わたしはスオウ王の知り合いで、えっとサタケさんを呼んでもらえますか?」

コミュ障ってわけじゃないけど、どう説明していいか困って、適当に言葉を並べてしまう。

隣ではカガリさんが呆れた表情をしている。

仕方ないでしょう。いきなり声をかけられたんだから。

「クマ? もしかして嬢ちゃんの名前はユナか?」

「わたしを知っているの?」

「すぐに門を開けます」

城門の中が慌ただしくなる。

階段を下りる足音、「急げ」とか聞こえてくる。

しばらくするとゆっくりと門が開いていく。

そして、隙間から見張りをしていた2人が出てくる。

「一応、身分を証明するものをよろしいでしょうか」

思っていたよりも丁寧な扱いだ。

「身分て」

ギルドカード?

「スオウのやつから貰ったカードがあるじゃろう」

カガリさんに言われて思い出す。

わたしはスオウ王から貰ったカードを見せる。

「これは」

見張りをしていた男性は驚く。

「わたしのことを知っているの?」

「スオウ王の指示で、ユナと名乗るクマの格好をした少女とカガリと名乗る少女が来ましたら、どんな時間でも通すように言われています」

スオウ王の指示のためか、口調が丁寧だ。

そして見張りをしていた男性は「中に入りください」と言って、扉を指す。

人が1人通れるほどしか開いていない。

「ごめん、もう少し開いてもらえる?」

そう言って、後ろに目を向ける。

そこにはくまゆると、クマゴーレムが引く荷台があった。

「えっと、確認です。そのクマは?」

「こっちはわたしのクマだから大丈夫だよ」

くまゆるを撫でながら説明する。

「こっちは荷台を運ぶために魔法で作ったゴーレムだよ」

「その荷台にはジュウベイが寝ておる。介抱してやりたい」

わたしの説明にカガリさんが付け足すように説明すると、見張り役の男が荷台に近づき、確認する。

「ジュウベイ隊長だ。それとこの男は?」

黒男を見ながら尋ねてくるが、答えるか悩む。

「報告はサタケさんにすることになっているから、知りたいなら、サタケさんに聞いて」

妖刀が盗まれた件は一部の者しかしらないと言っていた。

この見張りの兵士が知っているのか、知らないのか分からないけど、わたしの口から説明することでないと思う。

「いえ、自分は」

「それよりも早くサタケのやつを呼んで来てくれぬか?」

カガリさんが、そういうと一人の見張りが「すぐに呼んできます」と言うと駆け出していく。

なんだろう。

この風景、他の城でも見たような。

「とりあえず、中にお入りください」

男性は荷台が通れるまで扉を開けてくれる。

その扉から、城門の中へ入る。

そして、わたしたちは城門の中に入ると、扉は安全のため閉められる。

「えっと、自分は……」

残った1人の見張りが困った表情を浮かべる。

見張りは2人。

1人はサタケさんを呼びに行ったので、彼がわたしたちに付き添っていたら、見張りができない。

仕事を全うできないってことだ。

その間に、何かがあったら大変だ。

だからと言って、わたしたちのことは放置できない。

「お主は、見張りに戻っていいぞ。妾たちはここで待っておるから」

「ですが」

「上から、門の外とこちらも確認できるじゃろう。もしも、妾たちが変な行動をすれば、叫べばよかろう」

見張りの男性は、少し考え、見張り台に向かっていく。

「早く帰らないとサクラが心配するから、帰りたいのう」

「そうだね。ここはカガリさんに任せて、わたしが先に帰るってどうかな?」

「それなら、サクラのことは妾に任せよ。妾が先に帰って、サクラを安心させよう。じゃから、お主は残って」

どっちも引く様子はない。

説明なんて面倒なだけだ。

結局、どっちも引くこともなく、サタケさんを待つことになった。

それから、それほど待つこともなく、遠くから走ってくる音が聞こえてくる。

「来たようじゃな」

カガリさんの言葉どおりにサタケさんが息を切らしてやってきた。

「嬢ちゃん、それとカガリ様」

「深夜遅くにごめんね。ジュウベイさんを引き渡したくて」

わたしは後ろの荷台に目を向ける。

「ジュウベイさんと妖刀を盗んだ男だよ」

サタケさんは荷台に近づき、確認する。

「2人とも、気を失っているだけだから、大丈夫だよ」

「そうか。詳しい話を聞きたいが」

「ジュウベイさんにわたしが勝って。カガリさんがその男に勝った。説明は以上」

わたしの簡単な説明にサタケさんは口をパクパクさせる。なにか言いたそうだけど、眠い。

「帰って寝たい」

「妾もじゃ。詳しい説明は明日でよかろう」

カガリさんは小さく欠伸をする。

「それにサクラが起きて、待っているかもしれないし」

寝てていいよと言っても、サクラは寝ていないと思う。

わたしたちの言葉にサタケさんは考える。

「……分かった。それじゃ、明日? もう今日か? 必ず来てくれ」

「時間は約束できないから分からないよ」

今から帰って寝たら、起きる時間は分からない。

「構わない。ただ、絶対に来てくれ」

わたしたちは約束して、帰ることになった。

クマゴーレムは消し、ジュウベイさんと黒男を引き渡し、わたしとカガリさんはくまゆるに乗って、サクラが待つ家に帰る。

ちなみにサタケさんとの話が終わる頃に、サタケさんを呼びに行った男性が息を切らして帰ってきて、城門を開けてくれた。