軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

925 カガリさん、黒男と戦う その2

年下の躾は年上の役目じゃ。

お互いの足が動く。

体格の差によって、男のほうが間合いが広い。

先に男が刀を振るう。

刀を躱し、刀を突き出す。

男は驚きの表情で躱す。

右京のことを思い出す。

こうやって、練習相手をしたことを。

まあ、右京の実力はお世辞でも強いとは言えなかった。

目の前にいる男のほうが強い。

動き、速度、力、観察力、動体視力、判断力、体も柔らかい。なにもかも右京より上だ。

なにより、こんな幼い少女に向かって刀を迷い無く振りかざしてくる。

普通は戸惑うものだ。

だから、妾も気遣う必要はない。

刀を横に薙ぎ払う。

男の動きが一瞬止まるが、すぐに切り返してくる。

「どうして、避けられるのですか?」

「その妖刀とは過去に戦ったことがあるだけじゃよ。もっとも、楽しい思い出ではないがのう」

「この妖刀は城で長いこと保管されていたと聞いた」

右京から回収した妖刀はギルドで預かることになってから、城で保管されていた。だから、男が言っていることは間違いじゃない。

「だから、お嬢ちゃんがこの刀と戦えるわけがない」

「お主に説明する義理はない」

過去のことを話すつもりはないし、年齢のことも話すつもりもない。

「分かりました。無理矢理が好きなら、叩き潰したあとに聞きましょう」

「できるならのう」

攻防が始まる。

切り返し、男を斬る。

男は受け流す。

ユナに勝負を挑むだけのことはあるが、ユナには敵わない。

妖刀の技は模倣はできているが、肉体がついてきていない。

過去の持ち主と同様の力を発揮できるわけじゃない。

あくまで模倣。偽物じゃ。

人によって筋肉、柔軟性が違う。

力が必要な技には筋肉が必要。

滑らかな技には柔軟性が必要。

身長、体重によって、威力も速度も変わってくる。

それを数日間、練習?

笑わせるな。

右京は刀を手に入れて長いこと練習をした。

人を殺してまで使いこなそうとした。

ユナと戦いたいだけのために、その妖刀を使うな。

そんな紛い物の力であやつに勝てると思うな。

男がなめらかな攻撃で刀を振るう。

それも右京が使っていた。

攻撃を受け流し、なぞるように刀を動かし、男の攻撃を自由にさせない。

刀合わせ。

相手の刀に合わせる技。

相手の動きが分からないとできないのが難点だ。

「くっ」

男は顔を歪め、後方に軽くジャンプして、妾の間合いから逃げる。それと同時に突きの構えを取る。

「じゃから、通用はしない」

剣先に合わせるようにして男の突きを受け流す。

さらに、円を描くように切り掛かってくる。

真似をする。

技をなぞるだけ。

ユナは独自の技は持っていないが、対応力がずば抜けている。

どんな攻撃を仕掛けても躱すし、隙があれば攻撃を仕掛けてくる。

同じ攻撃がない。

あったとしても、途中で切り替わる。

でも、この男の攻撃は同じ。

過去の亡霊の技をそのまま使っているだけ。

応用もない。

「この妖刀と戦ったことがあるって言葉は信じられませんが、嘘とも思えませんね。でも、わかってきました。知っているから躱せる。なら、知らない攻撃ならどうですか」

男の攻撃が変わる。

妾の知らない攻撃。

いや、知っている。

過去の妖刀の持ち主たちの技を組み合わせている。

持ち主の数だけ、組み合わせがある。

もちろん、組み合わせることができない技もあるが、10個もあれば、無数の技に等しい。

この切り上げの次は切り上げ……と思ったが、蹴りが飛んでくる。

体を反らし、ギリギリで躱す。

男は体を回転させる。刀が襲ってくる。

至近距離。

避けられない。

刀の峰に手を置き、受け止める。

受け止めることはできたが、回転によって力が増幅され、妾の体重が軽いこともあって、吹っ飛ぶ。

体を回転させて、体勢を整える。

「今のは危なかったのう」

空を飛ぶ応用。

吹き飛ばされた瞬間、空を飛ぶように体を動かし、体勢を整えて着地をした。

それを見た男は驚いている。

「あなた、本当に子供ですか?」

「見た目どおりじゃ」

まあ、嘘じゃが。

「その年齢で、その強さ。もし本当なら、羨ましいかぎりです。そして、将来が楽しみです」

男は気持ち悪い笑みを浮かべる。

ユナの気持ちが分かってきた。

こんな男に粘着されてたら、面倒じゃな。

妾に攻撃が効かないと分かると、すぐに対応した。

技を組み合わせてきた。

思っていたよりも厄介な男かもしれぬ。

「確認じゃが、どうして魔法を使わない。もしかして、妾を気にして使わないつもりか?」

「そういうつもりはありません。幼い少女に使うには卑怯」

まさか、この男から卑怯という言葉が出るとは思わなかった。

「気にせず使ってもいいぞ。妾も魔法は使える」

篝火を横に向けて飛ばす。

「……魔法。どこまでわたしを驚かせてくれるんですか」

「別にお主を驚かせるつもりはない。負けたあとで、妾が魔法を使えないから、自分も魔法を使わなかったと文句を言われても困るからのう」

こういう奴は正面から叩き潰さないと納得しない。

「ふふ、本当に面白い。この国に来てよかった。あなたを倒して、クマのお嬢さんと戦って、片目の男とも戦える」

「悪いが、お主は妾に負けるから、その2人と戦えぬ」

「面白い冗談を言うお嬢ちゃんだ。あなたに合わせて、魔法はなしのつもりでしたが。あなたの全てが見てみたい。自由に魔法を使ってください」

「後悔しても知らぬぞ」

男が納得したなら、負けても納得するじゃろう。

魔法と武器を使用した戦いが始まる。

篝火は風魔法で相殺される。

男の攻撃を躱す。

これは斬り上げをする。

片手が空いている。

その手に風が纏っている。

放たれる前に蹴り上げる。

風魔法が上に放たれる。

蹴った足を踏み込み、そのまま斬りかかる。

男が斬り上げた刀を振り下ろす。

刀と刀がぶつかる。

「ほう、今のを防ぐのか」

魔法を防がれて驚いたようだ。普通なら攻撃は避けられない。

「足癖の悪いお嬢ちゃんだ」

「まさか、戦いに綺麗だの汚いだのとか言うのじゃないじゃろうな」

「言いませんよ。勝った者だけが言える言葉です」

男が三段斬りをする。

避け、受け流し、躱す。

男が三段突きをする。

体をずらし、躱し、受け流す。

男が連続攻撃を仕掛けてくる。

刀を合わせる。

男が足に力をいれる。

踏み込むと最速の突きが突き出される。

横に体をずらし躱す。

すれ違いざまに刀を振るう。

男の体を斬る。

避けながら斬ったせいで、ギリギリ刀が届かない。

いや、男の服を斬った。

振り返った男の表情が変わる。

「どうして、おまえみたいな子供が!」

表情と一緒に言葉使いも変わる。

そうとう怒っているようだ。

「お主が弱いだけじゃ」

「俺は弱くない!」

「子供に勝てないお主が、強いわけがない」

刀に篝火を纏いつかせる。男に向かって走ると同時に刀を振るい、篝火を飛ばす。

男は刀で篝火を斬り、妾に向かって走ってくる。

お互いに間合いを詰め、斬り合う。

「どうして、躱せるんだ」

達人の技を躱していく。

「持ち手が三流じゃからだろう」

まあ、右京に比べたら、男のほうが実力が上なのは間違いない。

ただ、この数日間、ユナと手合わせをして戦いの感覚は戻った。

だから、分かる。

ユナの強さが、ユナの異常さが。

この男とジュウベイがユナの強さに惹かれる理由も分かる。

そして、普通に戦っても勝てないことを分かっている。

だから、妖刀の力を手に入れたことで、勝てると思ったのじゃろう。

妖刀を手に入れていなければ、この男もジュウベイもユナと戦いたいとは思わなかったかもしれぬ。

この男もジュウベイも妖刀の力に魅了され、飲み込まれたということじゃろう。

意志を持っていかれるだけが、飲み込まれるということではない。

「もう、終わりにしよう」

「ふざけるな」

男の攻撃を躱し、斬り返す。

男の腕を剣先が掠る。

男は強力な炎の魔法を放ってくる。

刀に風を纏わせて斬る。

炎は拡散し、その炎があったところを抜け、男に向けて下から斬りあげる。

男は刀で防ごうとする。

手首を返し、男の刀の横をすり抜ける。

男の刀を持っている腕を斬る。

「お主の負けじゃ」

「ふざけるな」

血が流れる腕を振りかざそうとする。

体を軽く浮かせ、男の顎下を蹴り上げる。

男の動きは止まり、体は崩れるように地面に倒れ、手から刀がこぼれ落ちる。

終わった。

男は白目をむき、気を失っている。

「バカ者が、こんなやつに拾われるなんて」

刀に近づき、拾い上げる。

その瞬間、右京の感情が流れてくる。「カガリ姉さん、ごめん」「カガリ姉さん、俺を止めてくれてありがとう」「カガリ姉さんに会えて嬉しかった」「カガリ姉さん、ごめん、ありがとう」

謝罪と感謝の言葉が並べられていた。

その声は徐々に消えていく。

こんな奇跡みたいなことが起きるんじゃな。

長く生きているが、知らないことばかりじゃ。

「右京の言葉を伝えてくれて感謝する。じゃが、お主の力は争いの元じゃ、悪いが封印させてもらうぞ」

右京の声を噛み締め、魔法陣を展開し、妖刀右京に封印を施す。

さて、残りはジュウベイとユナとの戦いじゃな。