作品タイトル不明
922 クマさん、ジュウベイさんと黒男に会う
わたしたちを乗せたくまゆるは城下町を走る。
くまゆるは黒いから、闇の中を走っても目立たない。
くまゆるは城下町を走り、目的の場所にやってくる。
町外れのひらけた場所。
建物もなく、少し離れた場所に木々があるぐらいだ。
わたしとカガリさんはくまゆるから降りて、周囲を確認する。
「いないのう」
探知スキルを使う。
右に一人、左に一人。
どうやら、2人はかち合っていなかったみたいだ。
心のどこかで、2人が戦っていたら、いいなと思ったのは内緒だ。
「いるよ」
わたしは左右に、クマの形をした光魔法を飛ばす。
「2人とも出てきたら」
わたしの声とともに、クマの光の下に人影が現れる。
右から黒男、左からジュウベイさん。
黒男とジュウベイさんはお互いを見て、驚く。
「あなたは」
「おまえは」
今にも刀を抜きそうな2人だ。
このまま2人を戦わせて、勝ったほうと戦うのはどうだろうか。
そうすれば、戦うのは1人で済むし、しかも相手は戦いに疲れている。
漁夫の利、甘い汁を吸う。
言い方はいろいろとあるけど、楽がしたい。
「クマのお嬢さん、これはどういうことですか?」
黒男とジュウベイさんが疑うような目でわたしを見る。
「勘違いしないように初めに言っておくけど、2人が同時に、わたしを同じ時間と場所に手紙で呼びつけたんだよ。連絡手段もないんだから、わたしに文句を言われる筋合いはないからね」
わたしはクマボックスから手紙を取り出して、2人に見せる。
「同じ場所に、同じ時間」
「この男と」
「しかも、2人とも、わたしに挑戦状」
「ふざけないでください。このクマのお嬢さんはわたしの獲物です」
「悪いが、嬢ちゃんを譲るつもりはない」
ここで、「わたしを取り合わないで」と冗談が言えたら、面白いんだけど。
流石に、空気が読めるわたしは言わない。
いや、冗談でも、そんなことを言える性格ではない。
フィナとノアが、わたしを取り合ったら冗談で言えるかも知れないけど。男相手に言うつもりはない。
「お主の取り合いじゃのう」
心で思っていたことをカガリさんに言われた。
「あやつらを戦わせて、勝ったほうと戦うことにするか?」
だから、わたしが考えていたことを言わないで。
わたしとしても、それが楽だけど。
「それじゃ、どちらと戦うかクマのお嬢さんに決めてもらいましょう」
「そうだな」
黒男の提案にジュウベイさんは頷く。
なんで、そうなるかな。
2人が、どちらと先に戦うか、わたしに求めてくる。
実力的に言えば、ジュウベイさんのほうが強い。
黒男は実力は劣るが、卑怯、予想外の攻撃を仕掛けてくる。
でも、総合的にはジュウベイさんのほうが強い。
「まあ、どっちでもいいよ。勝つのはわたしだから」
ただ、問題としては戦い方を見られるってことだ。
実際に戦って相手を見るのと、外から相手を見るのでは見える箇所が違う。
近くでは見えなかった動きが、離れた場所から見ると見えることもある。
わたしも相手のことを外から研究し、勝てるようになった。
だから、ジュウベイさんや黒男レベルになると、戦いを見せればわたしが不利になる。
「自惚れと言いたいところだが、負けた身としては、言い返せない」
「確かに、負け犬の遠吠えですね」
なに、意気投合しているのよ。
2人で戦えと言いたくなる。
「でも、選べと言うなら」
わたしが黒男とジュウベイさんを交互に見ていると、カガリさんが一歩前に出る。
「この男の相手は妾がしよう」
カガリさんが黒男のほうへ、体を向ける。
「カガリさんの相手はジュウベイさんでしょう」
「そのつもりじゃったが、なぜかこっちの男が妖刀右京を持っておる」
「これですか?」
カガリさんの言葉に黒男は自分が持っている刀を手にする。
黒男が持っている刀に目を向ける。
わたしが見ても、分からないけど、カガリさんがそう言うなら、そうなんだと思う。
「なぜ、お主が持っておる。今までの情報を加味すれば、お主は妖刀魔花を持っておるはずじゃ。そして、その妖刀右京はジュウベイが持っておるはず」
確かに、妖刀右京、妖刀狂華はジュウベイさん。妖刀魔花は黒男が持っているはずだった。
「どういう経緯でお主の手に、その妖刀が手に渡ったか分からんが、その妖刀を持っているなら、妾が相手をする」
カガリさんが黒男が持っている刀に目を向ける。
「この刀を持っている理由ですか? それは数日前に、その男と戦っただけですよ。そのときにお互いに持っていた武器が入れ替わった。それだけです」
それじゃ、ジュウベイさんが持っていると予想していた妖刀右京は黒男が持っているってこと?
それ以前にジュウベイさんと黒男が、また戦ったの?
前回は黒男が逃げて、見ることはできなかった。
そんな面白い戦いが、再度起きていたなら見てみたかった。
どうして、わたしのいないところで戦うのかな。
「どっちが勝ったのじゃ?」
わたしが聞きたいことをカガリさんが聞いてくれる。
「痛み分けだ」
話を聞いていたジュウベイさんが答える。
ジュウベイさんと引き分けたの?
「そう言ってくれるのは嬉しいですが、わたしの負けですね。ですので、クマのお嬢さんと戦ったあとに、再戦するつもりだったのですが」
ここで2人が再会したってことか。
「それはこちらのセリフだ。嬢ちゃんと戦ったあと、妖刀を持っているおまえを捕まえる予定だったからな」
なんだろう。
2人とも、わたしに勝つつもりだったのかな?
ジュウベイさんの場合は、勝敗に関係なくってことかもしれないけど。
「残念じゃが、お主たちの願いは叶わぬ。お主は妾に負け、ジュウベイはユナに負ける」
カガリさんは宣言する。
やっぱり、わたしがジュウベイさんと戦うのは決定事項らしい。でも、わたしがジュウベイさんに勝つと思ってくれているのは、少し嬉しい。
「どうして、わたしがあなたのような子供と戦わないといけないのですか? 前に持っていた妖刀はクマのお嬢さんの魔力に反応していた。でも、今は違う……」
刀を握った男の言葉が止まる。
「その刀はなんと言っておる」
「……お前を斬りたい」
「それが、妖刀の意思じゃ。それで、お主はどうする? 妾に勝てば、ユナと戦える権利をやろう」
勝手に決めないでよ。
まあ、わたしもカガリさんが勝つと信じているけど。
「あはは、面白い。この茶番に付き合ってあげましょう」
黒男は、カガリさんの申し込みを受ける。
「わたしは子供でも容赦はしませんよ」
ミサを攫い、フィナとノアを殴った男だ。
相手が子供でも容赦はしない。
「かまわんよ。お主に勝ち目はないんじゃからのう」
「おもしろいです。泣いて許しをこうたら、許して差し上げます」
「妾は、お主が泣いても許さんが」
やっぱり、黒男とカガリさんが戦う話になっている。
そうなると必然的に、わたしとジュウベイさんが戦うことになる。
黒男はジュウベイさんとわたしを見る。
「クマのお嬢さんとの相手は譲りましょう。だから、クマのお嬢さん、負けないでくださいよ。あなたに勝つのはわたしなのですから」
「お主は、妾に負けるから、その願いは叶わぬぞ」
手には刀が握られている。
「ふふ、そうですね。まずはあなたを倒してからの話ですね」
「妾たちはあちらで、戦うぞ」
カガリさんの言葉に黒男は無言で、カガリさんが指さした方へ歩き出す。
黒男を照らしていたクマの光は2人の上に一緒についていく。
わたしとジュウベイさんが残される。
「この数日間、考えた。勝てないかも知れぬ。だが、自分の心を殺してでも、嬢ちゃんに勝ちたいという気持ちが抑えきれなかった。嬢ちゃんには悪いが、卑怯と言われても、妖刀を使った俺と戦ってもらう」
「それが、ジュウベイさんの意思? 妖刀の意思?」
「俺の意思だ」
ジュウベイさんは迷いなく言う。
ジュウベイさんの目を見る。妖刀に飲み込まれた目はしてない。
本当にジュウベイさんの意思なんだと思う。
「ジュウベイさんが納得するなら、戦ってあげる」
断ることはできないし、元から戦う予定だった。
ただ、ここに来るまでは、黒男の相手はわたしがして、ジュウベイさんの相手はカガリさんがするものだと、勝手に思い込んでいたから、少しだけ、気持ちが追いついていない。
「感謝する」
「それで、ルールはどうする?」
「ルールか?」
「なんでもありだったら、ジュウベイさんに勝ち目はないよ。知っているでしょう。わたしが大蛇を倒したことは」
「嬢ちゃんの目から見て、どれほどのハンデがあれば、俺が勝てると思う」
「それをわたしに聞くの?」
「聞きたい。教えてくれ」
「魔法なし、武器なしぐらい」
つまり素手で戦うってことだ。
まあ、クマパペットは着けるけど。
そもそも、クマ装備が着けているだけで、反則だ。
「それが、嬢ちゃんの目から見た俺の実力差ってことか」
「別にバカにしていないよ」
ジュウベイさんは、少し考える。
「嬢ちゃんが自由に決めてくれ」
「自由?」
「そうだ。俺を倒せると思った攻撃を仕掛けてくれたらいい。それが、嬢ちゃんから見た俺への強さの指標になる。ナイフ一本で勝てると思うなら、ナイフ一本で。魔法が必要と思うなら、魔法を使ってくれていい。魔法の強さも弱い魔法で倒せると思ったら、弱い魔法でいい。嬢ちゃんが大蛇を倒した方法でないと俺を倒せないと思ったら、その攻撃を仕掛けてくれていい。でも、俺にその価値がなければ、使わなくていい」
「つまり、ジュウベイさんの強さを判断して、攻撃をしろってこと?」
「そうしてくれると助かる。俺は少しでも嬢ちゃんの力を引き出す。自分の力と嬢ちゃんの力の差を認識したい」
面倒くさい。
徐々に力を解放していけってことでしょう。
いきなり強力な攻撃で倒しちゃダメってことだ。
それだとジュウベイさんは納得しない。
「それで、納得してくれるの?」
「今回は、それで十分だ」
今回ってなに?
次回があるってこと?
これだから戦闘狂はイヤだ。
「だが、地形を破壊するほどの魔法は無しにしてもらいたい」
まあ、そんな魔法を使ったら、ジュウベイさんを殺してしまうかもしれないし。大騒ぎになる。
「そのぐらいは自重するよ」
「それじゃ、相手を頼む」
ジュウベイさんは刀を構える。
わたしもくまゆるナイフを構える。