作品タイトル不明
898 クマさん、黒男と戦う その1
「そんな変な格好して、見つけてくださいと言っているようなものでしょう」
なにも言い返す言葉が出てこない。
クマの格好で街の中を歩けば、見つけられるよね。
「まあ、それだけの理由であなたを見つけられたわけではありません。あなたの魔力にわたしが持っている妖刀が反応したんです。妖刀があなたの魔力を欲しがっている」
男は刀に触れる。
魔力を……。
もしかして、妖刀赤桜?
まさか、釣れていたとは思わなかった。
しかも、とんでもないオマケもついて。
「妖刀はあなたの魔力を手にいれられる。わたしは嬢ちゃんと戦える。最高の取引です」
「わたしにメリットがないんだけど」
「あなたはわたしと戦える。そして、勝てば妖刀が手に入る」
前者はメリットではないけど、後者はメリットかも知れない。
妖刀の回収が目的だ。
「だからって、こんな深夜に来なくてもいいでしょう」
「この妖刀がうるさかったんですよ。あなたの魔力が欲しいって」
そんなにわたしの魔力が欲しいの?
気持ち悪いんだけど。
「それに、あなたが起きてくるまで待っていたでしょう」
侵入と同時に襲われていたら、すぐには対処はできなかったかもしれない。
くまゆるとくまきゅうが守ってくれたと思うけど、どうなっていたかは分からない。
ムカつくけど、男がわたしが起きるまで待っていたのは事実だ。
「それだって、あなたがわたしと戦いたいだけでしょう」
「ええ、そうです。あなたを簡単に殺すわけにはいきませんからね」
「復讐?」
「まさか、強い者と戦いたいだけですよ」
それなら、ジュウベイさんと戦えばいいのに。
紹介したいぐらいだ。
「わたしに手も足も出なかったのに?」
「言ってませんでしたね。逃げ出したわたしは、あなたに勝つために特訓をしたんですよ」
この男が特訓?
特訓しているイメージを思い浮べてみたけど、想像ができない。
あまりにもこの男と特訓ってイメージが合わない。
「そのぐらいの特訓でわたしに勝てると?」
何年も修行したわけじゃない。長くても数ヶ月。その程度だ。
「確かめてみたらどうです?」
男が鞘から刀を抜く。
「話を聞いていれば、自分勝手な男じゃのう」
「ユナ様、大丈夫ですか?」
いつのまにかカガリさんとサクラが起きていた。
「おお、こんなに幼いのに、刀があなたがたの魔力も欲しがっています」
男がカガリさんを見て嬉しそうに言う。
「なんじゃ、この変質者は?」
それには同意だ。
「ユナの知り合いか?」
「知り合いって、言いたくないけど。ちょっと因縁がある男だよ。こんなところで再会するとは思わなかったけど。ちなみに、今回、妖刀を盗んだ犯人だよ」
「こやつが」
「あと、もう一人は元城で働いていた人らしいよ」
男から聞いたことをカガリさんとサクラに説明する。
「ずさんじゃのう」
「ずさんですね」
カガリさんとサクラは呆れるように言う。
そう思うよね。
「話はそこまでにしていただけませんか。そろそろ、周囲が気付きそうです。邪魔が入る前に戦いましょう。それとも、あのときと同じように、そちらの女の子たちに何かをしないと戦う気が起きませんか?」
ノアとフィナが倒れていたときのことを思い出す。
「必要ないよ」
わたしは一歩前にでる。
「妾の手は必要か?」
「ううん。カガリさんはサクラをお願い」
「分かった。無理はするなよ」
わたしは男を見る。
「できれば、ここでは戦いたくないんだけど」
「そうですね。騒ぎが大きくなって、あなたと戦えなくなるのは困りますからね。場所を移動しましょう。でも、その代わりに、そのクマにはここに残ってもらいます。邪魔はされたくはありませんから」
男はくまゆるとくまきゅうに目を向ける。
くまゆるとくまきゅうは大きくなって、サクラとカガリさんの傍にいる。
男の提案は断れない。
もし、ここで暴れでもされたら、どれほどの被害がでるか分からない。
この男なら、やりかねない。
「いいよ」
「「くぅ〜ん」」
くまゆるとくまきゅうが心配そうにする。
「大丈夫だよ。くまゆるとくまきゅうは、2人をお願いね」
くまゆるとくまきゅうに頼む。
男は刀を鞘に戻すと、後ろを向き、身軽に塀を越える。
わたしも後を追いかける。
そして、しばらく走ると男が止まる。
わたしたちがやってきたのは町外れ。
男は振り返ると光の玉を浮かび上がらせ、わたしたちを照らす。
「それじゃ、再戦といきましょうか」
男は鞘から刀を抜く。
わたしはクマボックスからくまゆるナイフを取り出す。
流石に、この男相手に勇者の剣(木の棒)ってわけにはいかない。
さて、問題は魔法を使うか、どうかだ。
魔法を使って、妖刀に逃げられても困る。
でも、誰かに拾われたとしても、この男よりはマシって考えもある。
まあ、そのあたりは戦いながら決めるしかない。
男が動く。
速い。
一瞬で間合いが詰まり、横一閃。
後ろに躱す。
首元を刀が通る。
迷いがない。
男は手首で刀を切り返してくる。
ナイフで刀を弾く。
でも、男の攻撃は止まらない。
これはフェイク。これは突き、斬り上げ。
弾き、躱す。
足払い?
足を上げて躱す。
そのまま蹴りを出すが、躱される。
男は後方に下がる。
「ふぅ」
一呼吸入れる。
速い。
「相変わらず、そんな動きにくそうな格好をしているのに、全て防ぎますか」
男は楽しそうに言う。
強くなっている。
動きも速い。
問題は男が、まだ魔法を使っていないことだ。
「短期間に、強くなったね」
「あなたと戦うことを願っていましたからね」
「復讐?」
「まさか、純粋に再戦を願ってですよ」
嫌な願いだ。
だからといって、こんな短期間で強くなれるとは思えない。
わたしのように、生死の戦いを何百回と経験したわけじゃない。
天才って、このような男のことを言うのかも知れない。
躊躇うこともなく、人を斬れるのも才能。
普通は躊躇う。
純粋に戦いを楽しみ、人を殺せる男。
こんな男に才能を授けないで欲しいものだ。
「とは言いましたが、正直なところ、この刀がわたしの魔力を吸って強くさせてくれているんですよ」
男の刀が炎を纏ったと思うと、刀に吸収され、赤くなる。
炎の刀……。
妖刀赤桜は魔力を好むとあった。
魔力を吸って、強くなる?
男が動く。
わたしと男の攻防が始まる。
わたしは男の刀を避け、男はわたしのナイフを躱す。
「やっぱり、あなたは最高です。魔法だけじゃなく、武器の扱いも長けているなんて」
「あなたに褒められても嬉しくないよ」
男の刀を躱すと、男の体が横に流れ、懐が空く。
右足を軸にして左足で蹴り上げる。
男に直撃して、男は吹っ飛ぶ。
手応えがない。
男はなにもなかったかのように立ち上がる。
男は体が横に流れたのに、残った足で後ろに跳んだ。
そんな漫画みたいなことを。
「足癖が悪い嬢ちゃんだ」
ノーダメージ。
「言い忘れていましたが、魔法を使ってもいいですよ」
それじゃ、こっちも魔法を使わせてもらう。
地面が盛り上がり、壁を作り、男の動きを制限させる。
でも、男が刀を振るうと壁が斬られて崩れる。
やっぱり、普通の壁じゃ斬られる。
男が迫ってくる。
クマの置物を作る。
男の動きを鈍らせることができると思った。
でも、男は土魔法で作り上げたクマを斬った。
「…………!?」
わたしとの距離が縮まる。
炎の玉を放つが、男は斬っていく。
「……吸収されている」
男が刀を横に振るう。
その距離からでは刀は届かない。
でも、嫌な予感がする。
男が刀を横に振るうと、刀から赤い刃が放たれる。
紙一重で躱す。
「初見で躱しますか」
男は笑いながら、間合いを詰めてくる。
過去にジュウベイさんと戦っていなかったら、避けられなかったかもしれない。
その時、ジュウベイさんも刀から風の刃を出していた。
男が刀を振るう。
避ける。
刀とナイフがぶつかる。
それと同時にわたしは目を閉じる。
わたしの左手が強い光を放つ。
目くらまし。
光を消し、目を開ける。
「…………!?」
男が目を閉じていた。
そして、目が開き、笑う。
閃光に気付いた?
でも、わたしのほうが速く目を開けた。
それがコンマ何秒だとしても。
男の顔に向けて、腕を振り抜く。
今度は手応えがあった。
でも、わたしのクマパペットは男の手によって、受け止められていた。
だけど、関係無い。
振り抜いたわたしの拳は男を吹っ飛ばした。
男は地面を転がる。
防がれたから、致命傷にはなっていない。
それを証明するように男は立ち上がる。
でも、どうして閃光が気付かれたの。
光魔法を使ったあのタイミングで男は目を閉じていた。
「どうして、分かったの?」
「ああ、光魔法のことですか? この刀が教えてくれたんですよ」
刀が教えた?
それって、どんな魔法を放つか分かるってこと?
「さあ、もっと、楽しみましょう」
男は嬉しそうにわたしに向かって歩いてくる。