軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

866 クマさん、様子を見る

子供たちは楽しくリバーシを始めると「えっと、ここにおいて」「あっ、そこは」「端、ゲット」「なら、こっちは逆の端だよ」などの声が聞こえてくる。

ちょっとうるさいかなと思ったけど、周囲は興味津々で見ている。

気になるみたいだ。

母親と一緒にいた男の子が席を離れて、リバーシをやっている子たちに近づく。

そして傍でリバーシをやっているところを見始める。

孤児院の子供たちも気づいたのか、男の子に「やってみる?」と声をかける。男の子は「うん」と返事をすると、片方に座っていた子が席を男の子に譲り、リバーシをやり始める。

おお、いい感じだ。

子供たちは楽しくおしゃべりしながら、石を置いていく。

参加した子供は、遠くからでも笑顔が見える。

そして、しばらくすると、その男の子の母親もやってくる。

その輪は広がっていく。

「僕もやってみたい」

「わたしもやってみたい」

「リバーシなら家にあるよ」

などの声も聞こえてくる。

子供たちが興味を持ち始めると、その親たちも興味を持ち始める。

そして、対戦が終わると簡易リバーシの紙を渡す。

ちゃんと、リバーシを持っていない人がいたら簡易リバーシを渡すように伝えておいたことを覚えていたみたいだ。

「順調みたいですね」

カリンさんがやってくる。

「誰も興味を持たなかったら、どうしようかと思ったけど、よかったよ」

「実は、わたしもエレナさんとやったのですが、面白かったです。石を裏返したりするだけのゲームなのに」

単純だからこそ、面白いってことはある。

「それまで勝っていたのに、一つ石を置かれただけで、あっという間に逆転されちゃうんだから。まあ、その逆もあるんですけど」

「楽しんでくれたなら、わたしも嬉しいよ」

わたしとカリンさんがリバーシをしている子供たちを見ていると、声があがる。

「うぅ、負けた」

先ほどのリバーシを持っていると言っていた男の子が対戦したみたいだけど、どうやら負けたみたいだ。

対戦したのは、自分で強いって言っていた男の子だ。

嘘や強がりじゃなかったみたいだ。

「もう一回!」

負けた男の子は再戦を申し込む。

悔しさをバネに頑張れ。と心の中で応援する。

今日はいいけど、次にやりたい子がいるかもしれないから、再戦についても考えないといけないかもしれない。

並んでいるのに、いつまでも独り占めしているようなものだ。

順番を守るのは大切だからね。

そのことをカリンさんに話したら「『並んでいる人がいたら、交代でお願いします』のポップを作りますね」と言ってくれた。

わたしは他に気になったことや注意点があったら、書いてもらっていいことを伝える。

わたしが気づかないことでも、カリンさんや子供たちの視点なら気づくこともある。

カリンさんは「分かりました」と言うと仕事に戻っていく。

カリンさんと入れ替わるように、今度はリアナさんがやってきた。

「気になって様子を見にきちゃいました」

そう言って、リバーシを見ている子たちに目を向ける。

「順調みたいですね」

「おかげさまで」

「これで、大会参加者が増えて、少しでも盛り上がってくれればいいのですが」

「大会の申し込みは商業ギルドでやっているんだよね」

ポスターにも書いてある。

「はい」

「この店でも受付をしたらいいんじゃないかな。名前、年齢、性別だけでしょう」

この3つを記入してもらうだけだ。

「ありがたいですけど、店の負担になりませんか?」

仕事中はもちろん、リバーシをやっているときに申し込みを頼まれても面倒だ。

「それなら、記入箱を設置すればいいよ」

「記入箱?」

「紙とペンを置いておいて、参加希望は名前、年齢、性別を書いてもらって、箱に入れてもらうの。そうしたら、別に手間じゃないでしょう」

元の世界でも似たようなものはあった。

「それだったら、大丈夫そうですね。わたし帰って準備してきます」

リアナさんはお礼を言って、店を出ていく。

わたしといえば、結局、店が閉店するまでいてしまった。

意外とリバーシをする子やポスターを見る人は多かった。

このままいけば、子供の部なら人は集まるかもしれない。

わたしはシュリを家に送り届けるために、ティルミナさんの家に向かう。

シュリがわたしのクマパペットを握ってくる。

「どうだった?」

「楽しかった」

シュリも一生懸命にやり方を教えたり、対戦をしていた。

「対戦はどうだった?」

「それは……」

まあ、遠くから見ていたけど、シュリの表情で分かる。

「勝つこともあったけど、やり方を教えた子に負けちゃった」

シュリは少し悲しそうな顔をする。

「次、勝てばいいよ」

「うん!」

負けたからといって、死ぬわけじゃないんだから、楽しんだほうが勝ちだ。

シュリを家に送り届け、わたしも家に帰る。

それから、最初の3日間ほど様子を見に店に足を運んだ。

リバーシのテーブルは人気が出始める。

初心者から経験者と、さまざまだ。

おしゃべりしながらする人もいれば、真剣にする人もいる。

簡易リバーシの紙の配布も順調だ。

子連れの母親は友達とケーキを食べている間、子供同士にリバーシで遊ばせている。

保育所じゃないよ。と言いたいけど、こればかりは仕方ない。

リバーシのほうを見ていると、3人の母親が集まっている席から会話が聞こえてくる。

「リバーシを買ってから、息子が夫に一緒にやろうって、せがむようになったわ」

「わたしのところもよ」

「わたしの夫は、今度の休日に本物のリバーシを買いに行くって言っていたわ」

それは朗報だ。

「うちは先日購入して、毎日のようにしているわよ。そのおかげで、静かになったわ」

「うちも同じよ。家の中で騒いでいたから、助かっているわ」

「しかも、夫は父親として負けられないとか言って、真剣にやっているから、おかしいわよ」

さらに数日後。

「息子が大会に出たいって言い出したわ。そしたら、夫までが」

「うちもよ。息子との会話が増えて楽しいみたい」

「そうなのね。うちの娘がクマのぬいぐるみを欲しがって、お兄ちゃんに優勝してとせがんでいたわ」

くまゆるとくまきゅうのぬいぐるみ?

「そしたら、『食べ放題の方がいいだろう』と息子が言い出して、喧嘩になって大変だったわ」

「クマのぬいぐるみって、あれ?」

奥様方があるところを見る。

1位、2位、3位の賞品として、くまゆるとくまきゅうのぬいぐるみが飾られている。

ちなみにガラスケースの中に入れられて、盗難防止策もちゃんとしてある。

「あのクマって、この店のオーナーの?」

ちらっとわたしのほうを見る奥様方。

横目で見ていたわたしは視線を戻し、耳だけを傾ける。

「一緒にクマがいるのを見たことがあるわ」

「わたしも見たわ。子供が駆け寄って、触っていたわ」

「大丈夫だったの?」

「始めは驚いたけど、他にも子供たちがいたけど、おとなしかったわよ」

そんなこともあったね。

くまゆるとくまきゅうを見ても、怖がらないのは嬉しいけど、人が集まるのも困りものだ。

もし、他の街だったら、警備兵を呼ばれて、大変なことになると思う。

まあ、クマが街の中にいたら、それが普通だと思う。

「この店のオーナーがクマだから、この店はクマなのね」

そこは否定したい。

初めは店をクマにするつもりはなかったよ。

普通のパン屋さんを始めるつもりだったんだよ。

「格好といい、連れているクマといい、本当にクマ好きなのね」

そうだけど、そうじゃないよ。

「でも、息子があのおとなしいクマを見て、クマは危険な動物じゃないって思い始めているのよ」

「うちの娘もよ。『くまさん、可愛かった』って言うし」

それは、申し訳ありません。

「とりあえず、他のクマに遭遇しても近寄らないように言ってあるけど」

「そもそも、他のクマなんて、見たことがないし、遭遇することもないけど」

野生のクマなんて、街にいれば見ることはない。

森だって、そうだ。

どっちかと言うと、ウルフとの遭遇のほうが高い。

「わたしも、こんなクマだったら、可愛くていいし、好きよ」

奥様の一人が周りのクマの置物を見る。

「それに、この店の食べ物は価格もちょうどいいし、美味しいしね」

「子供が喜びそうなパンもあるしね」

「クマパンね」

「うちの娘なんて、自分でクマのパンを選んだのに、食べたら可哀想とか言って、なかなか食べなかった頃があったわ。でも、今じゃ、普通に食べているから、おかしいわ」

奥様方から、笑う声が出る。

確か、孤児院でも同じようなことがあった。

でも、今では普通にクマパンは食べている。

それから、しばらくして奥様方は子供を連れて帰っていった。

盗み聞きはよくないけど、聞こえてきたのだから仕方ないよね。

参加者といえば、順調に増えている。

やっぱりというか、子供が多い。

「ユナさん、リバーシの売り上げも順調に増えていますよ」

大会参加の用紙を回収にきたリアナさんが嬉しそうに報告してくれる。

なんでも、ティルミナさんのアイディアで配った簡易リバーシを家でやった人たちが、ちゃんとしたものを買おうという話になって、買いに来る人が増えたらしい。

「大会に人が集まらなくても、成功って感じだね」

「せっかくやるんです。成功させます」

まあ、わたしも失敗するより、成功させたい。

もし、参加人数が少なかったら、孤児院の子供たちにも大会に参加してもらえばいいのかな。

でも、大会は朝早くからやるから、鳥のお世話もあるから難しいかな。

大会は店の定休日だし、どうにかなるかも?

まあ、それはわたしの一存では決められないし、保留だね。