軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

859 クマさん、魔物を渡す

今回の依頼料をマーネさんから受け取り、あとは冒険者ギルドに依頼達成書を提出すれば終わる。ちなみに冒険者ギルドに手数料などは支払い済みのことらしい。

マーネさんの成長を見たわたしは帰ろうとする。

「ユナ、ちょっと待って、忘れていない?」

「……?」

なにか忘れていることあったっけ?

「魔物よ。大猿とゴブリンキング。それから巨大スネイク」

ああ、忘れていた。

大猿を引き取ることになっていたマーネさん。

ついでにゴブリンキングと巨大スネイクも引き取ってくれることになっていた。

「まあわたしも氷竜の素材のことですっかり忘れていたから人のことは言えないけど」

「ここに出してもいい?」

「ダメに決まっているでしょう。血まみれの魔物なんて出したら、大変なことになるでしょう」

やっぱり、ダメだった。

「なら、さっきの屋上?」

「う〜ん、ゴブリンキングと大猿は他の研究部屋があるからそこにお願い。巨大スネイクは確認したいことがあるのよね。それに研究棟の中じゃ無理だし」

マーネさんは考え込む。

「ユナ、今日は泊まっていきなさい。明日の朝までに準備しておくわ」

「泊まるって、ここに?」

「奥にわたしの寝室があるわ」

「マーネさんと一緒に?」

「ここでもいいし、城で働く使用人たちの寮でもいいわよ」

それは嫌だな。

「一度、帰るよ」

「帰るって? クリモニアまで?」

「王都にも家があるんだよ」

ほとんど使っていないけど。

「そうなの?」

「だから、明日の朝にくるよ」

「わかったわ。それじゃ、門番と受付には伝えておくから、明日また来てちょうだい」

「了解」

めんどくさいけど、仕方ない。

わたしは魔法省の研究所を出て、城の敷地内に入る門にやってくる。

「お待ちしておりました」

「なに?」

「エレローラ様に、家までお送りするように言いつかっています」

断ろうとしたけど、疲れていたので乗せてもらう。

そして、無事に王都にあるクマハウスに到着した。

馬車を操縦していた御者は、クマハウスを見て目を丸くしていた。

どうやら、わたしの家がクマとは知らなかったみたいだ。

わたしはお礼を言ってクマハウスの中に入る。

「疲れた〜」

久しぶりの王都のクマハウス。

今日で終わると思っていたけど、終わらなかった。

翌朝、マーネさんに会うためにクマハウスを出ると、昨日、わたしを乗せてくれた馬車が止まっていた。

「おはようございます。お待ちしていました」

昨日の御者が丁寧に挨拶をしてくる。

「えっとなに?」

「マーネ様より、お連れするようにと頼まれておりました」

今度はマーネさんに頼まれたみたいだ。

「いつから、待っていたの?」

「気になさらずに」

いや、気になるよ。

呼んでくれたらよかったのに。

わたしは馬車に揺られて、魔法省に向かう。

簡単に本人確認をして、馬車は城の敷地内に入り、魔法省の建物の前で止まる。

「ありがとう」

お礼を言って、馬車を降りる。

そして、受付に顔を出すと、

「お待ちしていました。こちら入館許可証です」

カードを渡される。

そのまま、エレベーターに乗って、マーネさんの研究室まで移動する。

「ユナ、待っていたわ。いろいろと各部署に伝えておいたから」

部屋に入ったばかりなのに、マーネさんと一緒にエレベーターに乗り、途中の階で降りる。

「ここは?」

「魔物の研究をしている部署ね。わたしは専門外だから、ゴブリンキングと大猿は、ここで研究するのよ」

マーネさんは通路を進む。

すれ違う人がわたしの格好に驚く。

「入るわよ」

マーネさんは中からの返事を待たずに、ドアを開ける。

部屋の中には1人の男性がいた。

「マーネ様、お待ちしていました。えっと、彼女が……」

「ゴブリンキングと大猿の提供者よ。ユナ、そこの床に出してあげて」

ゴブリンキングと大猿はでかい。

普通の解体のテーブルには乗らないので、床に出すことになる。

わたしは言われるままにゴブリンキングと大猿を出す。

「それじゃ、あとはお願いね」

マーネさんはそれだけ言うと、部屋を出る。

わたしも後を追うように部屋を出る。

「それじゃ次に行くわよ」

エレベーターに乗り、一階に戻ってくる。

そのまま、入ってきた受付から外に出るかと思ったら、マーネさんは別の方向へ歩き出す。

「マーネさん?」

「建物の裏は屋上と同じで、実験場になっているわ」

マーネさんは扉の近くにある魔石にカードを翳す。

扉が開き、建物の裏に出ることができた。

建物の裏は壁に囲まれて、外からは見えないようになっており、ちょっとした広さがある。

巨大スネイクを出すには十分な広さだ。

中央に見覚えのある人がいる。

「ユナちゃん、待っていたわ」

エレローラさんだ。

「マーネ様、解体の準備はできています」

「ありがとう。ユナ、それじゃスネイクをお願い」

わたしはクマボックスから巨大双頭スネイクを出す。

「本当に大きわね」

人なんて一口に飲み込める大きさがある。

その口は裂けて、とんでもないことになっているけど。

「それにゴブリンキングに大猿ね」

マーネさんから話を聞いていたのか、小さく口にする。

「ゴブリンキングと大猿は、上の部署に頼んであるから、確認するなら、あとで行ってちょうだい」

「わかりました。それじゃ、解体する人をお呼びしますね」

「お願い」

エレローラさんは、わたしたちが入ってきたドアを開け、建物の中に入っていく。

「解体する人って?」

「スネイクの魔石の確認がしたかったから、エレローラに頼んでおいたの」

「魔石?」

「わたしの考えが正しければ、魔石は2つあるわ。もし、2つあれば、とある魔道具が作れるかもしれないのよ」

その魔道具とは? と聞こうとしたら、ドアが開きエレローラさんが戻ってくる。その後ろには5人ほどの男性がいる。

「本当にでかいスネイクがいるぞ」

「エレローラ様、近寄っても」

「いいわよ」

エレローラさんが許可を出すと、男の人たちはスネイクに近寄る。

「頭が2つあるが、破壊されているな」

「体は、切られた痕があるな」

「攻撃した痕だろう」

「こんな魔物、よく討伐できたな」

「エレローラ様、この魔物は」

「この魔物の出所は答えられないわ。あなたたちも黙っておくこと。契約書どおりに解体してくれればいいわ」

「俺たちは珍しい魔物の解体とお金さえもらえれば、問題ない」

「エレローラさん、あの人たちは?」

「解体の専門家よ。城にたまに珍しい魔物が運ばれてくることがあるわ。その解体をお願いしているのが彼らなの。口も堅いし、契約もしているから、外に漏れることはないから、安心して。もし、外に漏れようものなら……」

「俺たちは自分たちの仕事に誇りを持っている。言いふらすことはしない」

「珍しい魔物を解体できれば、それでいい」

「それじゃ、ここの解体が終わったら、ゴブリンキングと大猿の解体もお願いしようかしら?」

マーネさんの言葉に男の人たちは目を輝かせる。

ちょっと怖い。

「それで悪いけど。まず魔石を回収してほしいの」

「どこに魔石があるか分からないから、ちょっと時間がかかるが」

「構わないわ」

マーネさんが許可を出すと、男の人たちは巨大スネイクの解体を始める。

男の人たちの解体は丁寧かつ、解体速度も速い。

前回、解体イベントがあったけど、負けていない。

もしかしたら、あの解体のイベントに参加していたかもしれない。

流石に、参加者のことは全然覚えていない。

覚えているのは、フィナの一生懸命に解体している姿ぐらいだ。

「あったぞ」

1人の男性がわたしたちのところにやってくる。

手には無色の魔石がある。

「大きいわね」

大きいけど、クラーケンや大蛇に比べたら小さい。

「もう一つあると思うわ。探してみて」

マーネさんの言うとおりに、しばらくするともう1つの魔石が見つかる。

同じ無色の魔石。

「マーネ様、1つの魔物の体から魔石が2つですか?」

「ええ、この双頭スネイクは別々の意思をもっていたわ。しかも、別々の能力ももっていた。片方は普通のスネイク。もう片方は毒を吐いていた。だから、魔石が2つあると思っていたわ」

「そんなに2つあることが珍しいの?」

「珍しいわ。魔石を2つ持っている魔物なんて、遭遇するのは稀。まして討伐することを考えたら、入手できる確率は相当低くなるわ」

確かに魔石が2つあった魔物なんて遭遇したことがない。

大蛇が5つあったぐらいだ。

つまり、双頭スネイクはレア魔物だったってことかな。

「ふふ、これであれが作れるかもしれないわ」

「あれって?」

「遠くの人と話ができる魔道具よ」

「……!?」

「マーネ様、それは本当ですか?」

「ええ、この大きさなら、かなりの距離まで大丈夫なはずよ」

つまりクマフォンが作れるってこと?

「他の魔石じゃ作れないの?」

「作れない。過去の研究者が研究してきたけど、同じ種族でも作ることはできなかった。お互いの魔石が共鳴しているためにできるのか、同じ体で産まれたからできたのか、詳しいことは分かっていない。過去に唯一作れたのが同じ体から採れた2つの魔石のみ」

一卵性双生児みたいなもの?

「この魔石は、同じ大きさで、どんな魔石とも比較にならないほど貴重」

「そうなんだ」

「軽いわね」

だって、わたししか使えないけど、わたしにはクマフォンがあるし。

しかも、何個でも作れる。

わたしには普通の大きな魔石と変わりない。

「エレローラ、そういうことだから、ユナには多めにお願いね。安く買い取ったとか、言いふらさないように」

「わたし、そんなこと言わないよ。ただ、二度と売らないと思うけど」

「ユナちゃんの報復は怖いわね。とりあえず、マーネ様の報告だと、引き取った魔物は巨大双頭スネイク、大猿、ゴブリンキングだったわね。ユナちゃん、お金は後日でいいかしら?」

「貸しでもいいけど」

「ふふ、これだけの貸しは、ちょっと怖いからお金を払わせてもらうわ。どうせ、国庫から出すんだから」

それって、つまり税金だよね。

「別に無駄にお金を払うわけじゃないわ」

心を読まれた。

「遠くの人と会話ができれば、伝達が早くできる。そうなれば時間と人の労力が減るわ。大猿にしてもゴブリンキングにしてもそう。魔物を調べることによって、今後現れたときに対処がしやすくなる。それに調べ終われば素材にもなる。だから、無駄に国民の税金を使うわけじゃないわ」

確かに今後の役に立つなら、無駄な税金ではない。素材を売れば元は取れるだろうし。

とりあえず、別にお金には困っていないので「いつでもいいよ」と答えた。

それから、研究職員がやってきて、双頭スネイクを調べ始める。

「ユナ、ありがとうね」

マーネさんは嬉しそうに魔石を持って研究室に戻っていった。