軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

853 クマさん、コルボーを問い詰める その1

「なあ、それで俺たちはいつまで、ここにいればいいんだ」

「もうしばらくよ」

コルボーに命じられてわたしたちを襲った男たちは、マーネさんの指示で冒険者ギルドにある一室にいる。

「ここで、寝泊まりするの辛いんだが」

「金も入ったし、飲みに行きたい」

「我慢しなさい。それとも牢屋のほうがいい? わたしはそれでもいいわよ」

マーネさんの言葉に男たちは口を閉じる。

「そろそろ、わたしが街にいることに気づかれるわ。そうなれば、あなたたちは疑われる。疑われないとしても、もう一度、わたしを襲うように指示を出すかもしれないわ。そうなれば、あなたたちは断れるの? わたしは別にあなたたちがあちらについても構わないわよ」

マーネさんはドアに目を向ける。

鍵はかかってない。出て行こうと思えば出ていける。

「どうせ、俺たちに責任を押し付けられるだけだ」

「それなら、嬢ちゃんについたほうがいい」

「なら、解決するまで、大人しくしてなさい」

男たちと話をしていると、ドアが開き受付嬢が入ってくる。

「よかった。戻っていましたか」

「どうかしたの?」

「マーネさんのことを調べている人たちが冒険者ギルドに来ていました」

「わたしの行動を調べているんでしょうね。まあ、想定通りね」

「あと、商業ギルドにも同様に調べに来ていたそうです」

商業ギルドのギルマスに確認するように伝えてあった。

「本当に口止めとかしないでよかったのですか?」

「構わないわ。下手に情報を止めると、どこまで情報が相手に伝わっているか把握ができなくなるわ。知られているなら、それなりの行動をすればいいだけ」

情報は、どの分野でも重要だ。

いくら隠しても情報は漏れる。それなら、知られていい情報をあえて漏らして把握した方がいい。

簡単に言うけど、それが難しいんだけどね。

「新しく何かわかったらよろしくね」

「わかりました。また、新しい情報が入ったら報告します」

受付嬢は部屋から出ていく。

「それじゃ、俺たちは少し出てくる」

「やっぱり、逃げる?」

「ちげえよ。ちょっと、気になることがあるから出かけてくるだけだ」

「忠告だけど、見つからないようにしてね」

「ああ、分かっている」

男たちは部屋から出ていく。

「裏切るのかな」

「まあ、ギルドカードはわたしが持っているから、簡単に裏切ることはできないでしょう。もし裏切ったら、あることないことを言って、無実の罪を作りあげればいいわ」

これじゃ、どっちが悪人か分からないね。

裏切るなら、相応の罰は必要だけど、無実の罪を作り上げるのは酷いかな。

どこかの悪徳貴族みたいだ。

「でも、これからどうするの?」

いつまでも、このままというわけにはいかない。

マーネさんは少し考え込む。

「そうね。3日後に突撃しましょう」

「3日後?」

「患者と関わった以上、快方に向かうところまで面倒は見ないといけないでしょう」

確かに、患者を放り投げるわけにはいかない。

「それと、急いでこっちに向かってくれていれば、あと3日ほどで到着するでしょう」

マーネさんは冒険者ギルドを使い、エレローラさん宛に手紙を送ったそうだ。

しかも、依頼料が高い早馬を使ったらしい。

普通は馬車などで、まとめて王都や街に手紙や荷物は運ばれる。

そこから、その街の商業ギルドなどが手分けをして配る。

でも、今回は冒険者を使って早馬を走らせ、エレローラさんに直接届けさせたそうだ。

「でも、なんで、エレローラさん?」

「薬師だけの問題なら、わたしだけで対処はできる。でも今回は貴族が関わっているから、こちらもそれなりに準備をしないと逃げられる可能性があるわ」

貴族は名誉のために身内の悪いところを揉み消すって言っていた。

揉み消されないようにこちらも貴族であるエレローラさんの力を借りるらしい。

貴族には貴族ってことかな。

冒険者ギルドで借りている部屋にいると、いろいろな情報が入ってくる。

コルボーが薬師のところに行って、薬草を手に入れようとしたこと。

リディアさんのところに薬草を受け取りに行ったこと。

商業ギルドに薬草を頼んだこと。

冒険者ギルドに薬草の採取の依頼が入ったこと。

全て教えてくれたのは受付嬢のライラさんだ。

お互いに名前を名乗っていなかったので、あらためて名前を名乗り、情報交換した。

「今は、薬草は手に入れられず、店からも出てきていないそうです」

「リディアが薬草を渡さなかったから、薬は作れなかったみたいね。それで商業ギルドに頼んだってところね」

「でも、他の薬師のところに頼んだんでしょう」

「カボが先回りして、他の薬師にコルボーを助けないように頼んだそうよ。だから、あいつの味方は誰もいないわ。患者をないがしろにして、薬師の邪魔をし、自分の利益しか考えてこなかった報いね」

リディアさんの薬を作るときに場所を貸してくれたカボさんは、本当にコルボーを裏切ったみたいだね。

まだ、一度もコルボーって薬師に会ったことがないけど、どんな男なのかな。

それから、わたしを捜している人物がいることも教えてくれた。

「わたし?」

「わたしが街に戻ってきていることを知って、ユナを捜しているんでしょうね」

「……?」

「ユナ、自分の格好を見なさい」

「……クマ」

「あなたみたいな格好している人が他にいると思う? コルボーの店にあなたと行った。そして、コルボーの手下はわたしが小さい女の子ってぐらいしか分からない。子供の女の子って、この街に何人いると思う? その中からわたしを見つけるなんて不可能よ。でも、クマの格好した女の子は、街には一人しかいない」

普通に考えて、会ったこともないマーネさんを街の中から捜すのは不可能に近い。

尋ねても、子供なんてたくさんいる。

だけど、クマの格好した女を捜していると尋ねれば情報は入る。

この街にクマの格好した女は、わたししかいないから。

一番、捜しやすい特徴をしているから仕方ない。

「ごめん、わたしのせいで」

「別に謝らないでいいわよ。分かっていて、ユナを連れ回したんだから」

どうやら、初めからわたしの格好で気付かれるのは念頭に入っていたみたいだ。

でも、わたしの存在が気付かれたあと、マーネさんは一人で患者のところに行こうとする。

わたしが「護衛は?」と尋ねると、「ユナがいると、コルボーの指示を受けてわたしを捜している人物に出くわすかもしれないから、不要よ」と言われてしまった。

確かに、わたしが一緒にいると、マーネさんの居場所を知らせているようなものだ。

でも、危険もあるかもしれないので、受付嬢のライラさんが信用がおける冒険者の一人を護衛に付けてくれた。

少し不安もあったけど、マーネさんが街の中を歩いても気付かれることはなかった。

そして、数日後、わたしたちは予定通りに悪徳薬師、コルボーの店に向かう。

「閉まっているわね」

情報通りに店は閉まっている。

「わたしが来るのが怖くて、戸締まりかしら?」

マーネさんは腕を組み、そんなことを言う。

この数日間、マーネさんのことでビクついていたかもしれない。

マーネさん曰く、「わたしの影に恐怖すればいいわ」とか言っていた。

「それで、どうする? ドアを壊す?」

「それじゃ、どっちが犯罪者か分からなくなるわ」

確かに。

どうしようか話していると、ゆっくりとドアが開く。

ドアから出てきたのは20代後半の男性。

「あなたがコルボーね。昔の面影があるわ」

彼がコルボー。

痩せ細って、顔色が悪い。

「お久しぶりです。マーネ先生。今日は、なにしに来られたのでしょうか?」

「あら、あまり驚かないのね」

「伝言をもらっていますから。お互いにお話もあるでしょう。中にどうぞ」

コルボーは抵抗することもなく、店の中に招き入れてくれる。

店の中は、窓がカーテンで閉じられ薄暗い。

「2階へどうぞ」

奥にある階段を上がり、部屋の中に通される。

執務室のように机と椅子がある。

「どうぞ、お座りください」

わたしたちは座る。

「わたしが来た理由は分かっている?」

「わたしが作った薬ですか?」

「そうよ。あの兄妹に渡していた薬」

「どうやら、渡し間違えたようです」

「そんなわけがないでしょう。悪意を以て渡していたでしょう」

「そうだとしても、命に関わるものじゃない。あとしばらくしたら、治すつもりでした」

「あんたね。患者をなんだと思っているの?」

「生きるための金づるです。誰もが、生きるために金を稼いでいるでしょう。わたしも生きるためにお金を稼いでいるんですよ」

「他人を不幸にして、稼いだお金よ」

「不幸? 誰もそんなことは思っていませんよ。時間はかかっても最後はちゃんと治してあげていますから、みなさんからは感謝されていますよ」

「それは、あなたがやっていることを知らないからでしょう」

「そう、知らない。だから、誰も不幸にはなっていない。今回は兄妹に知られてしまいましたが」

「相手が知らなければ、悪いことをしてもいいと思っているの?」

「知らなければ、その人にとって悪いことにはならないでしょう」

堂々巡りだ。

相手が気づいていなければ、悪いことをしてもいいと思っている。実際に、相手が気づいていなければ、傷つくことはない。

病気を治すには時間がかかると言われて、薬を飲み続け、最終的に治れば、患者は感謝する。

だって、病気がどのくらいで治るかなんて、素人には分からない。

まして、他の薬師にまで手を回していた。

他の薬師からも同じことを言われたら、もう信じるしかない。

「はあ、情けないわ。こんなのが薬師と名乗っているなんて」

「わたしは、人を殺してません。だから、犯罪者ではありません。それにこのぐらいのことなら、バレても親父が庇ってくれる」

人は殺してないという部分に重みを乗せれば、それはそうだ。

さらに、貴族の息子となれば、大ごとにはならないのだろう。

「わたしを襲わせたことを忘れたの?」

コルボーの顔が強張る。

「なんのことで」

マーネさんは無言で録音の魔道具を取り出し、魔石に触れると、コルボーと男たちの会話が流れてくる。

「あなたが指示を出した会話が残っているわ」

「それを」

コルボーが手を伸ばすが、わたしがその手を弾く。

「あなたもわたしのことを知っているなら、わたしを襲った罪は大きいわよ」

「あいつらは、俺を裏切ったのか」

わたしから俺に口調が変わった。

こっちが素なのかもしれない。

「裏切ったのではなく、取り引きをしただけ。誰だって、刑罰は軽い方がいいでしょう」

実行犯も悪いけど、指示役が一番悪い。

安全な場所から指示を出して、悪いことをさせるんだから。

失敗すれば、トカゲの尻尾切りだ。

元の世界でも、そんな事件はたくさんあった。