軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

852 コルボーの行動

マーネから薬を取り返した翌日、いつもどおりに薬を調合していると、昨日調べるように指示を出していたマーネの情報が入ってきた。

まず、俺以外の薬師の店には現れていないこと。

商業ギルドでマーネがなにをしていたのか分かった。

なんでも、この街に居る薬師の情報をギルマスに頼んだらしい。

でも、他の薬師の店には現れていない。

つまり、俺の店のことを調べるためか?

どっちにしても、過去の情報だ。

だが、次の情報でマーネの行動が理解できた。

冒険者ギルドに、あの薬草を採取させている兄妹が魔物の素材を売りに来たのを見た者がいた。そこには小さい子供とクマの格好した女が一緒だったという。

このクマの格好した女はマーネと一緒に俺の店に来たクマ女で間違いない。

つまり、あの兄妹と一緒にいた小さい女って言うのはマーネってことになる。

クマ女がいなかったら、マーネと兄妹の繋がりは分からなかった。

俺の店に来た理由は、あの兄妹から話を聞いて、俺の薬を怪しみ、店の薬を購入したってことだろう。

「ふふ」

英断だった。

すぐに薬を回収させてよかった。

もし、回収できなかったら、王都の研究所で調べられていた。

そうなっていたら、言い訳もできない。

ただ、問題点があるとしたら、現在のマーネがどうなっているかだ。

生きている可能性は十分にあり得る。

やっぱり、なにがなんでも殺させておくべきだった。

でも、状況は最悪ではない。

マーネが生きていても、俺が男たちに指示を出した証拠はない。マーネが持っていた店の薬も回収した。

あとは店頭に並ぶ薬を、ちゃんと効果がある薬に並べ替えるだけだ。

でも、それには薬草が必要だ。

薬草はあの兄妹から買い取る予定だったから在庫はない。

あの兄妹が街に戻っている。

薬草はどうした?

いつもなら、俺が薬を作る代わりに薬草を持って来ていた。

だがマーネが兄妹の薬を作ったと考えたら、俺の薬は不要となり、俺に薬草を持って来る必要がなくなったってことか。

ここでも、マーネは俺の邪魔をするのか。

でも、契約は契約だ。

商業ギルドに薬草を売った情報は入っていない。

それなら、まだ持っているはずだ。

俺は立ち上がると、部屋を出て、兄妹が住む地区までやってくる。

この辺りは貧乏くさい家ばかりが並ぶ。

確か、この辺りだったはず。

何度も頼まれて一度だけ家まで来たことがある。

ここだ。

見覚えがある家だ。

俺はドアをノックする。

出てきたのは妹の方だ。

「コルボーさん? どうしてここに?」

「街に戻っていると聞いてな。それで、薬草を引き取りにきた」

「わざわざ、コルボーさんが家まで?」

ああ、そうだよ。

わざわざ、来てやったんだよ。

「ちょっと必要になってな」

「申し訳ありませんが、薬草はありません」

「どういうことだ?」

「薬草は別の薬師さんに売りました」

「ふざけるな。約束が違うだろう」

薬草を売っただと。

「誰に売ったんだ」

「見た目は子供だけど、立派な薬師さんに。コルボーさんが治せなかった妹の薬も作ってくれて、今は快方に向かっています」

やっぱり、マーネか。

ここでも俺の邪魔をするのか。

しかも、俺の金づるの兄妹の薬を作り、病気を治した。

さらに、俺が受け取るはずだった薬草まで、持っていきやがった。

「コルボーさんさん、今まで、ありがとうございました」

女が深々と礼を言う。

「妹の病気も治りました。今後は薬草をお渡しすることはできませんので、家には来ないでください」

「だが、契約では」

「はい、コルボーさんが薬を作ってくれる代わりに、薬草をお渡ししていましたが、薬は不要になりましたので、薬草をお渡しすることはできません」

病気が治ってしまったら、薬草を引き取る理由はなくなる。

タダで俺に薬草を持ってきてくれる存在を手放すしかないのか。

どうしたらいい。

「それじゃ、多少、価格を上げて、これからも引き取っても」

貧乏人なら、少し買い取り金額を高くしてやれば大丈夫だろう。

「申し訳ありません。その方の知り合いに適正価格で買い取ってもらえることになりましたので、大丈夫です」

適正価格って部分が強調されたように聞こえた。

「今まで、ありがとうございました」

女は頭を下げると、ドアを閉める。

ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。

俺を誰だと思っている。

領主の息子で、薬師だぞ。

イライラする。

金づるがなくなった。

それも全て、マーネのせいだ。

やっぱり、殺しておくべきだった。

でも、今は薬草だ。

マーネが生きていれば、必ず戻ってくる。

そのときのために薬を作っておかないといけない。

もっと、早くに兄妹とマーネの関係が分かっていれば、マーネを襲わせた男たちに薬草も回収するように指示を出せたのに。

……いや、待て。

男たちに金を奪い取れと指示を出した。

もしかすると、男たちが金と一緒に薬草も回収した可能性もある。

俺は店に戻り、マーネを襲わせた男たちを、もう一度呼ぶように言う。

翌日。

「男たちと連絡がつかないだと?」

「はい、いつもいる場所にいません。最近、見た者もいません」

「とりあえず、急いで行方を捜して、俺のところに連れて来い」

「人数を増やして、捜します」

「俺は出かけるから、見つかったら、客室に待たせておけ」

俺は指示を出すと、部屋を出る。

くそ、面倒くさい。

向かった場所は商業ギルド。

男たちが薬草を持っているか確認してから行く予定だったが、男たちが見つからないなら、次の手を打たないといけない。

「これはコルボー様」

男が声をかけてくる。

この男は商業ギルドで働いている職員だ。

親父の部下だ。

「今日は、どのような用件で」

「薬草が欲しい」

俺はリストアップした薬草の紙を男に渡す。

「それも至急だ」

「いくつかは在庫がありますが、無いものもあります」

「急いで用意してくれ」

「10日ほど、いただければ」

「それじゃ、遅い」

「遅いと言われましても、在庫が無い薬草は危険な森に生息している薬草ばかりです。冒険者ギルドに依頼しなければいけません。そこから採取に向かうことになりますので。急いでも……」

「それは分かっている」

俺だって素人じゃない。

薬草の生息地ぐらい把握している。

「金は相場の二倍、三倍払う。だから急いでくれ」

今は金の問題じゃない。

時間との勝負だ。

「急がせますが、お約束はできません。薬草に詳しい冒険者がいなければ、薬草を見つけることはできませんから」

冒険者なら誰でもいいわけじゃない。

薬草と雑草の区別がつかない冒険者に依頼しても、ゴミを持って帰ってくるだけだ。

あの兄妹なら、そんなことはなかった。

これもマーネのせいだ。

「もし、急いでいるなら他の薬師に譲ってもらっては、どうですか?」

確かに。

それは思いつかなかった。

俺は在庫がある薬草を店に届けるように言い、商業ギルドを出ると薬師の店に向かう。

「なぜ、ないんだ」

「その薬草はコルボー様が独占して」

そうだ。この薬は俺の店でだけ販売するため、他の薬師には作らせないようにしていた。

ここで、裏目に出るとは。

それじゃ、他の薬師のところに行っても同じことだ。

いっそのこと、薬の在庫もない、薬草もないから、作れないことにして、しばらく店を休みにするか。

それだと売り上げが。

何より、親父の耳に入れば、面倒になる。

とりあえず、マーネの情報だ。

俺は店に戻ってきて、情報を確認する。

マーネを襲わせた男たちの行方は分からず。

必要な薬草は手に入らず。

他の薬師からマーネの情報はなし。

商業ギルドと冒険者ギルドにも新しい情報はなし。

どうするか考えていると、ドアがノックされる。

「入れ」

「コルボー様」

男が部屋に入ってくる。

「なんだ。男たちが見つかったのか?」

「いえ、クマを街の中で見たものがいます」

「クマ?」

何を言っているんだ。

クマが街の中にいるわけがないだろう。

街の入り口には兵士がいるんだぞ。

そもそも、クマが街の中にいたからなんだと言うんだ。

俺には関係ないだろう。

「コルボー様がお探しになっている魔法省のマーネと一緒にいたというクマの格好した女のことです」

そういえばマーネと一緒にクマの格好した女がいたな。

「そのクマの格好した女と一緒に小さい子供がいたそうです」

マーネだ。

「それは、いつの話だ」

「今日です。知り合いがクマの格好をした女が歩いているのを見たそうです。あまりにも変な格好だったから、覚えていたと」

つまり、マーネは無事だったと。

まずいぞ。

これを使うしかないか。

俺は机の引き出しを開け、薬瓶を見る。