軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

851 クマさん、薬師の店に行く

街に戻ってきたわたしたちは病人のところを回った。

マーネさんは丁寧に患者を診て、薬を処方していく。

魔法で治すわたしと違って、凄いと思う。

あらためて考えても、わたしの力はチートすぎる。

知られたら聖女とかならないよね。

クマの格好した聖女。

考えただけでも、恐ろしい。

「マーネ先生、王都にお帰りにならないのですか?」

薬師の男性が恐る恐る尋ねる。

名前はカボさん。

今、エストさんの薬を作った薬師の店に来ている。

「帰るつもりだったわよ。でも、コルボーに襲われたんだから、仕方ないでしょう」

マーネさんは薬草を調合しながら答える。

襲われるように仕組んだのはマーネさんだけどね。

「それでは、どうして、わたしの店に」

「ここには調合道具も薬草も揃っているから、いろいろと便利なのよ。それとも、わたしが来ると迷惑なのかしら」

チラッと、後ろにいるカボさんを見る。

「そんなことは……」

否定しているけど、顔には迷惑って書いてある。

でも、マーネさんは気にした様子もない。

「それじゃ、この街に来るようなことがあれば、これからも借りるわね」

「うぅ」

カボさんは項垂れる。

「おい、誰かいるか!」

店の方から呼ぶ声がする。

「客か」

カボさんは隣の部屋の売り場に向かう。

ドアが開いているので、話し声が聞こえてくる。

「ボランさん。今日はどうしてこちらに?」

「最近、魔法省からマーネって名前の子供は来なかったか」

マーネさんの手が止まる。

「魔法省のマーネですか?」

「そうだ。クマの格好した女も一緒らしい」

わたしのことだ。

「魔法省のマーネ先生のことなら知っていますが、店には来てません。マーネ先生がどうかしたのですか?」

わたしたちがいるのにカボさんは嘘を吐く。

「コルボー様の指示で、街にいる薬師に確認するように言われただけだ。もし、マーネって子供が来たら、すぐに知らせにこい」

「わかりました」

ドアが開く音がする。

出て行ったみたいだ。

カボさんが戻ってくる。

「誰?」

「コルボー様の店で働いている男です」

「偉そうだったわね」

「貴族であるコルボー様のところで働いてるから、自分も偉くなったと思っているんだよ。実際、逆らって、コルボー様の耳に入れば、俺の店なんて潰されるから、表立って文句も言えませんけどね」

ああ、よくいるね。

自分は偉くはないのに偉い人の下で働いていると、偉ぶる人。

「でも、わたしのことは話さなかったのね」

「実際問題、コルボー様のことは嫌いですからね。マーネ先生が、どうにかしてくださるなら、この街にいる薬師はマーネ先生を助けると思いますよ」

「あら、嬉しいことを言うわね。それなら、手を貸してもらおうかしら」

マーネさんは悪い顔をする。

だから子供の顔で、そんな顔をしないで。

「それにしても、ただの薬草採取が、こんなことになるとはね」

「そういえば、どうして先生本人が採取を? 魔法省で働いているマーネ先生なら、頼めば薬草ぐらい手に入るでしょう」

「自分で採取しないと効果がない薬草もあるのよ」

「そんな特殊な薬草を使う薬なんですか?」

「そうよ。大切な薬草なのよ」

体を大きくするための薬草。

「まあ、今はそれはいいわ。この街の問題を片付けましょう。先ほどの言葉に二言はないわよね」

だから、悪い顔はやめようよ。

「……はい。自分にできることなら」

「簡単なことよ。わたしたちがコルボーを追い詰める。あなたたち薬師は何をされてきたか、何をさせられてきたのか、正直に証言すればいいわ」

「それだけ?」

「それが大切なのよ。あなたたち薬師全員が否定すれば、罰することができたとしても、刑罰は軽くなる。あなたたちの証言は重みが違うわ。あと、物的証拠もあると、なおいいわ」

「物的証拠……」

カボさんは考え込む。

「指示は人伝てだし」

今のところ物的証拠はエストさんの薬や、薬のお金が欲しくてわたしたちを襲った男たちの家族の薬。

それから、コルボーって男の店で買った薬。

全ての薬を返したわけじゃない。マーネさんが怪しいと思った薬をいくつか確保してある。

「まあ、あとは、できる範囲でいいから、コルボーに薬草を渡さないことね。もしくは薬も」

「薬と薬草?」

「もしかしたら、寄越せって言ってくる可能性があるからね」

マーネさんの言葉にカボさんは首を軽く傾げる。

「それにしても、この街の領主ってとんでもないね。息子がそんな悪いことをしているのに庇うなんて」

「う〜ん、どうだったかしら。わたしも貴族については、あまり詳しくはないのよね。この街の領主の悪い噂は聞いたことがないし、だからといって素晴らしい領主だと言う話も聞いたことがないわね。そこらは住んでいる住民のほうが詳しいでしょう」

マーネさんは、この街の住民であるカボさんを見る。

「俺たち平民は領主様に会うことはないから、どんな領主様かは知らない」

「そうなの?」

「貴族様なんて屋敷にいるか、移動は馬車だ。護衛を付けて、街の中を歩いていた話も聞かないし、もし一人で歩いていたら、誰も気づかないさ」

クリフなんて、たまにわたしの店に来ているよ。

令嬢のノアなんて、時間さえあれば、店に来たり、わたしの家に来たりしている。

どっちが普通なのかな。

普通に考えて、後者は普通じゃないよね。

「でも、マーネ先生の言うとおりに、良い話も悪い話も聞かない」

「街の住民から大きな不満が出ていなければ、優秀とも言えるわ」

「でも、そんな領主が息子のやっていることに気づいていないのかな」

「気づかないものよ。一緒に暮らしているわけでもないし、領主の息子の愚行を伝える人もいないでしょう。下手に薮を突いて、コルボーの怒りを買うかもしれないしね。領主が息子に厳しいのか甘いのか、知る者は近くにいる人だけよ」

友達の親が子供に優しいのかなんて、他人には分からない。

まして、領主なんて他人だ。

自分が住んでいる街の町長、県知事が自分の子供に優しいのか厳しいのか、尋ねられているようなものだ。

そんなの知らないし、興味もない、と言うしかない。

まあ、情報ってそんなものだ。

「でも、悪いことをした息子は守るんでしょう」

「貴族が守るのは名誉よ。家族が、悪いことをしたら、それを外部に漏れないようにするため揉み消す。それが子供を守っているように見えるのよね。でも、明るみに出れば、切り捨てられるでしょうね」

「怖いね」

「領主って仕事は簡単じゃないわ。綺麗事じゃ治めることはできない。街を豊かにする。治安を守る。他の街との交渉、商業ギルド、冒険者ギルドとの交流も大切。住民の信頼を落とせば、どんな良い政策でも批判的な言葉が出るわ」

「大変なんだね」

「領主なんて、面倒くさい仕事よ。税収が減ろうものなら、王家や他の貴族から無能扱いされ、子供の結婚相手を探すのも苦労するわね」

確かに裕福な土地と貧乏な土地、どっちに嫁ぎたいと言われたら一般的には前者だ。

「そうなんだ。紙に目を通して印を押すだけの仕事じゃなかったのか」

カボさんがマーネさんの話を聞いて、感心した表情をしている。

「部下がまとめた資料を確認して許可を出す仕事ね。それだってちゃんと確認をしないといけないわ。本当に必要なことなのか、費用がどのくらいかかるのか。ちゃんと確認してから印を押すのよ。印を押すってことは、領主が許可を出したことなんだから、失敗すれば許可を出した領主の責任になる。だから、領主の仕事に簡単な仕事なんてないわ」

それでクリフが孤児院の件でミスをしたことがある。

よく、漫画や小説で領主を目指したり、国王になったりするお話があるけど、簡単じゃないんだね。

ベッドの上でゴロゴロしたいわたしには無理だ。

貴族や王族に生まれ変わらなくてよかった。

「だから、その見返りとして貴族は裕福な暮らしができるのよ」

まあ、貴族は子供のときから勉強をしているだろうからね。

ノアも家に行くと、勉強をしていることが多い。

他の街に行けば、その街の街並み、特産、物の価格などを勉強している。

「これで、薬は完成したわ」

マーネさんは話をしながらも手を動かしていた。

流石と言うべきか。

薬を作ったマーネさんは病人の家に向かい、薬を渡す。

マーネさんは代金のほうは受け取らなかった。

「今回だけよ。同じ薬師として、あの男が行った行為の尻拭いをしただけ」

マーネさんはそう言って、今後、薬が欲しくなったら、カボさんの店に行くように話していた。

病人の家を一通り回ったわたしたちは冒険者ギルドに戻ってくる。

もちろん、裏口から入る。

部屋に入ると、コルボーのところに行って戻ってきた男たちは、素直に冒険者ギルドに戻ってきていた。

「とりあえず、嬢ちゃんの言うとおりにしてきた」

男はマーネさんに魔道具を返す。

マーネさんは男に録音ができる魔道具を渡し、コルボーとのやりとりの会話を録音するように指示を出してあった。

マーネさんは録音を確認する。

そこにはコルボーと男たちが取り引きする会話がちゃんと録音されていた。

「これで、また証拠が増えたわ」

「本当に、俺たちは大丈夫なんだろうな」

「ええ、この会話の録音があれば、コルボーに指示をされた証拠になるわ。でも、あなたたちは、わたしたちを襲わず、わたしたちを助けてくれたことにするわ。だから、あなたたちは大丈夫よ」

最後に「今回はね」と小さい声で言っていたのを隣にいたわたしは聞き逃さなかった。

怖い。