軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

846 クマさん、悪徳薬師の店に行く

「ユナのおかげで、わたしの出番はなかったわね」

マーネさんがそう言いながら歩き出す。

「冒険者ギルドでも、マーネさんの顔は効果あるの?」

「魔法や魔道具関係で、魔法省と冒険者ギルドに繋がりはあるからね。表立って、逆らいたいと思う人はいないわ。だから、多少の効果はあるわよ。別に無理難題を押しつけるわけじゃないしね」

まあ、噓を吐いて、リディアさんたちが魔物を討伐したことにしようとしたわけじゃない。

「それにしても、ユナのことが、この街まで知られているとは思わなかったけどね」

それにはわたしも同意だ。

まさか対応してくれた受付嬢に、王都の冒険者ギルドで働いている友達がいるなんて。

世間は広いようで狭いものだ。

「でも、これでリディアたちの用も終わったわね」

「マーネさんたちは王都に帰るの?」

「その予定だけど、ゴミを片付けてから帰るわ」

「ゴミ?」

「ゴミなら俺たちが」

リディアさんとゼクトさんはマーネさんが言う「ゴミ」って言葉の意味は分からないみたいだ。

わたしの想像が正しければ、あのことだと思う。

「ゴミって? リディアさんを騙していた薬師のこと?」

「よく分かったわね。薬師の信用を落とした報いはちゃんと受けてもらうわ」

マーネさんからしたら、薬師と名乗っているのに、お金儲けのために人を陥れた人物だ。許されることではない。

「それなら、わたしも」

「ああ、俺も文句を言ってやりたい」

「これはわたしが片付けないといけないゴミ。あなたたちの気持ちも分かるけど、あなたたちは関わらないほうがいいわ。腐っても相手は貴族だからね」

権力者に手を出しても、いいことはない。

わたしやマーネさんなら、なんとでもなる。

「あなたたちは家族のことだけを考えなさい」

「……はい」

「分かれば帰って、エストと一緒にいてあげなさい。それが元気になる近道よ」

「はい。でも、これでお別れじゃないですよね?」

「そうね。帰る前に、一度家に顔を出すわ」

「約束ですよ」

わたしたちはリディアさん、ゼクトさんと別れる。

「ユナにゴミの片付けを手伝ってもらいたいけど、手を貸してくれる? もちろん、追加料金は出すわ」

追加料金は必要ないけど、ゴミを片付けるボランティア精神は必要だ。だから、ゴミの片付けを手伝うことにした。

「わたしはなにをすればいいの?」

「ちょっと荒事になるかもしれないから、いつもどおりに、わたしの護衛をしてくれればいいわ」

確かに荒事になれば、わたしの出番だ。

「任せて。どんな強敵が出ても、倒すから」

「そのときはお願いね」

信用してくれるなら嬉しい限りだ。

「それで、その薬師の居場所は、知っているの?」

「…………。ユナ、この紙に書かれている住所を見て、場所は分かる?」

商業ギルドから貰った薬師の名前と店の住所が書かれている紙だ。

そんな住所だけが書かれている紙を見せられても、分からない。

残念ながら、住所検索のスキルは持ち合わせていない。

こういうとき、スマホのありがたみを感じるね。

まあ、引きこもっていたから、あまり活用はしてなかったけど。

「仕方ないから、商業ギルドに行くわよ」

「リディアさんたちに聞けば」

遠くに歩いているのが見える。

「恥ずかしいから嫌よ。それに商業ギルドだって、近くでしょう」

まあ、見えるほどに近いけど。

そんなわけでわたしたちは商業ギルドにやってくると、マーネさんはギルマスを呼び出す。

「マーネ先生。今日はどのようなご用で」

腰が低いギルマスだ。

ミレーヌさんのような腹黒さはない。

ただ、マーネさんに逆らえないだけかな。

「大したことじゃないわ。コルボーって薬師の店がある場所を教えて」

ギルマスはホッとした表情になる。

「もしかして、マーネ先生がここにきた理由は」

「ゴミの処理よ。確認だけど、商業ギルドはコルボーと関わって?」

「…………」

ギルドマスターは黙る。

「……多少、融通を利かせているぐらいです」

「融通?」

「手に入れた薬草を優先的に回すとか、オススメの薬師を紹介してほしいと言われたとき、紹介するとか」

「はぁ」

マーネさんはため息を吐く。

「仕方ないです。相手は領主の息子ですから。商業ギルドとしても波風は立てたくないですから」

まあ、それは理解できる。

その街の領主といがみ合ってもメリットはない。

仲良くしたほうが、恩恵を得られることが多いと思う。

「もう一度、確認するわ。わたしを裏切る?」

ギルマスは一呼吸おいて。

「利益がある方を選びます」

「そう。あなたの考えは分かったわ」

わたしには分からない。

利益って、つまり領主に付くってこと?

「この薬師の場所はここです」

ギルマスは紙を出し、マーネさんは受け取る。

「ありがとう」

マーネさんは紙を見て、お礼を言う。

「ユナ、行くわよ」

「うん」

部屋から出ていくマーネさんについて行く。

「マーネさん、よかったの?」

わたしの言葉にマーネさんはギルマスから受け取った紙を差し出してくる。

わたしは紙を受け取る。

紙を見ると商業ギルドから店までの地図が書かれていた。

「裏を見なさい」

言われるままに紙の裏を見る。

『ギルド職員の中に領主の手の者がいます』

「これって」

「まあ、ギルマスも表立って、裏切れないってことなんでしょうね。でも、ギルド職員の中に領主の手の者がいるってことは、情報が漏れている可能性があるわね」

「でも、それって問題があるの?」

どっちにしても会いに行くんだし。

会いに行けば、マーネさんがいることは知られることになる。

それが、早いか遅いかだ。

「遅ければ、証拠を消されるわ。もしかしたら、昨日のうちにコルボーの耳に入って、証拠が消されている可能性があるわ」

「それじゃ、手遅れってこと?」

「ギルマスが口を閉じたってことは、まだ大丈夫ってことよ」

仲間がいるってことだけで、情報が漏れていると書かれていない。

まあ、どっちにしても行くしかない。

わたしたちはギルマスから貰った地図を頼りに悪徳薬師のところに向かう。

「ここね」

大きい。

目の前には大きな店がある。

薬師の店に必要なの? と言うくらい大きい。

流石、貴族の息子。

親のお金かな。

それとも、あくどいことをして稼いだお金かもしれない。

「入るわよ」

わたしたちは店の中にはいる。

店内には数人のお客さんとカウンターには男性が一人いる。

店内から「くま?」「クマ?」「熊?」「ベアー?」と聞こえてくるが無視をする。

「うん、なんだ? この変な格好したガキと子供は?」

変な格好したガキって、わたしのこと?

店員の言葉に店の客も笑い出す。

久しぶりに怒りが湧いてくる。

「この店はガキが買える薬は置いていないから、帰れ」

客を見た目で決めるの?

マーネさんは気にした様子もなく、店員の前まで歩くと尋ねる。

「コルボーはいるかしら?」

「なんだ? コルボー様を呼び捨てにして」

男の言葉遣いが豹変する。

どうやら、コルボー呼びが気に入らなかったみたいだ。

「コルボー様? こんなぼったくり価格の薬を作っている薬師に敬称なんて不要でしょう」

「嬢ちゃん、効果がいい薬は高いもんだよ。ここに来るなら、お父さん、お母さんにお金を貰ってきな。金があれば売ってやるから」

「そう。なら、買わせてもらうわ」

マーネさんはアイテム袋から小袋を出し、男に向かって投げる。

小袋は男の前のカウンターの上に落ちる。

男は小袋の中を確認すると、驚きの表情をする。

「それだけあれは、ここにある薬を全種類買うことができるでしょう」

「それは……」

「お金があれば売ってくれるんでしょう。ユナ、悪いけど、そこらにある薬を全種類、仕舞ってくれる」

「うん、分かった」

わたしは棚にある薬をクマボックスの中に仕舞っていく。

これは美容?

これは健康?

風邪薬や傷薬も置いてある。

他にも分からない薬も多数あるけど、どんどんクマボックスの中に入れていく。

「やめろ」

「お金なら払ったでしょう。もしかして、足らないと言うのかしら? どんだけぼったくりをするつもりなのかしら? それなら、追加すればいいかしら?」

マーネさんは再度、小袋を男に向けて放り投げる。

「嬢ちゃんは、なんなんだ」

「王都の魔法省所属の職員よ。少しばかりコルボーの先生でもあったわ」

「魔法省? コルボー様の先生?」

「コルボーにマーネが視察に来たと伝えておいてくれる。あなたの先生と言えば伝わるから」

「なにをバカなことを」

「隠蔽、効果詐称、他の薬師への強要、圧力。薬草の買取価格、販売価格は自由だから、そこはいいわ」

いいんだ。

まあ、それはお互いに納得したことなら問題はない。

取引とはそういうものだ。

お互いに利益の奪い合いだ。

でも、リディアさんとゼクトさんの場合は病気の妹を盾にされて、相手の要望を一方的に飲む感じになっていた。

それが、効果がある薬なら百歩譲って許せても、今回は違う。

「ここにある薬の成分、効果を調べさせてもらうわ」

「そんなことコルボー様が許すわけがないだろう」

「どうして、わたしがコルボーの許可をもらわないといけないの? ちゃんとお金を払って購入したわよ。その購入した薬を調べるだけ。なにか問題あるかしら?」

「それは……」

「それに、コルボー本人を出さなかったのはあなた。だから、責任があるとしたら、あなたよ」

「ふ、ふざけるな! 俺がコルボー様に叱られるだろう!」

男がカウンターを乗り越え、マーネさんに襲い掛かる。

わたしはマーネさんの前に割り込み、男の腕を掴む。

「マーネさんには指一本触れさせないよ」

掴む腕に力を込める。

「い、いたい」

男は床に倒れる。

わたしはそのまま、土魔法で、男の腕を後ろで縛り上げる。ついでに足首にも巻き付け、床に転がす。

「もし、成分と効果が違ったら、薬師としての資格の剥奪は免れないわね。貴族としての名誉も落ちるかもね」

「コルボー様は貴族だぞ」

「だからなに?」

強気のマーネさん、カッコいい。

「明日の朝一に、王都に帰るつもりだから、よろしく伝えておいてね」

マーネさんは男に向かって、微笑む。