作品タイトル不明
845 クマさん、冒険者ギルドに行く
わたしたちは冒険者ギルドにやってきた。
商業ギルドのご近所さんだった。
少し離れた場所に商業ギルドが見える。
ゼクトさんとリディアさんを先頭に、冒険者ギルドの建物の中に入る。
朝ってこともあるけど、冒険者が多い。
「さっさと売って、出ましょう」
こういう場所は慣れていないのか、マーネさんはあまり好ましい顔はしていない。
わたしたちは受付に向かう。
その間にすれ違う冒険者が、怪訝そうな目でわたしを見る。「くま?」「クマ?」「熊?」「ベアー?」と呟いている。
とりあえず、絡まれる前に受付の前までやってくる。
「リディアさん、ゼクトさん、おはようございます」
「おはようございます。クノさん」
ゼクトさんは軽く頭を下げ、リディアさんは受付嬢に挨拶をする。
クノさんと呼ばれた受付嬢は、わたしに視線を向けている。
「えっと、なんのご用か尋ねる前に、後ろにいるクマの格好をした女の子のことをお尋ねしても?」
受付嬢は、なんとも言えない表情をしている。
「えっと、彼女はユナさん。こんな格好してますが、冒険者です。それで、こっちの女の子は」
「ハーフエルフのマーネ。あなたより『年上』よ」
マーネさんは年上って部分を強調する。
受付嬢はわたしとマーネさんを何度も見て、「冒険者」「年上」と小さい声で呟いている。
まあ、わたしはいつものことなので気にしない。
マーネさんも気にした様子はない。
「分かりました。それで、今日はどのような件で?」
受付嬢は、これ以上尋ねることはせず、切り替える。
「魔物の素材を引き取ってほしいんだけど」
「それでは、ギルドカードと素材の提出をお願いします」
ゼクトさんがアイテム袋から魔石が入った小袋と赤猿の毛皮をだす。
「こんなに。リディアさんとゼクトさんが?」
「倒したのは、ユナちゃんで。わたしたちが解体するってことで、譲ってもらったんです」
「ユナちゃんと言うと……」
また、わたしに視線が向けられる。
「申し訳ありませんが、ユナさんのギルドカードもよろしいでしょうか」
やっぱり、求められるよね。
わたしはクマボックスからギルドカードを出す。
「冒険者ランクC……」
受付嬢は何度もカードとわたしを見比べる。
水晶板にギルドカードを乗せて、ギルドカードの内容を確認する。
「凄い。一人でこんな魔物も。それにこの数……。もしかして、噂の……」
受付嬢の小声が漏れる。
噂?
「申し訳ありませんでした」
受付嬢は深く頭を下げる。
「いいよ。疑われるのは慣れているから」
疑われるのも、自分がクマの格好をしているせいだ。
「それでは、引き取らせていただきます」
受付嬢はギルドカードを返してくれる。
そして、無事に赤猿、ウルフ、ゴブリンの魔石、赤猿とウルフの毛皮が引き取られる。
そして、リディアさんとゼクトさんの前にお金が出される。
「こんなに」
かなりの金額がカウンターの上に出される。
「確認をお願いします」
ゼクトさんは確認すると小袋にお金を仕舞っていく。
「それで、討伐記録ですが」
「ユナちゃんでお願いします。わたしたちは解体をしただけなんで」
「俺たちに討伐記録がついて、ランクが上がっても意味がない、過大評価されて、難しい依頼を頼まれても困るからな」
もしリディアさんとゼクトさんが申告しなければ、討伐記録はリディアさんとゼクトさんに登録され、ランクが上がったかもしれない。
そうなれば、難しい討伐依頼を頼まれるかもしれない。
命に関わる問題だ。
「それはもちろんです。ゼクトさんとリディアさんに討伐記録を登録することはできません。ユナさんに付けさせていただきます」
今回の件については断るつもりはない。
そのために一緒に冒険者ギルドにやってきたのだから。
でも、ギルドカードを見せただけで、よく簡単にわたしが倒したって信じてくれたものだ。
いつもなら、疑われるのに。
「ユナさん、申し訳ありませんが、もう一度ギルドカードをお願いします」
わたしのギルドカードに討伐記録が記載されることになった。
リディアさんとゼクトさんはお礼を言って、受付から離れる。
「ユナちゃん、本当にわたしたちが全部もらっていいの?」
予想以上の金額に驚いているみたいだ。
「いいよ。エストさんに美味しい物を食べさせてあげて」
「でも、マーネさんから、すでに薬草を買い取ってもらって」
「薬草を採取した代金でしょう。魔物を解体したのはリディアさんとゼクトさんだよ」
「ほとんど俺だけどな」
ゼクトさんの言葉は聞き流す。
「わたしだったら、解体はせずに埋めて終わりだったよ」
お持ち帰りは、タイガーウルフと巨大魔物だけで十分だ。
百歩譲って、ウルフを追加するぐらいだ。
「だから、それは解体をした2人のお金だよ」
お金はいくらあってもいい。
家族の誰かが病気になるかもしれない。
お金は安心を買える。
「ありがとう。ユナちゃん」
「でも、ギャンブルなんかに使わないでね」
「兄さんじゃないから、しないわよ」
「ゼクトさん、するの?」
「ちょっと、友人と酒を一杯賭けるぐらいだ」
「友達、いるの?」
「いるに決まっているだろう」
「……」
普通はいるよね。
わたしにはいなかったよ。
元の世界には友達はいなかったけど。こっちの世界ではフィナがいる。
年が離れた友達?
でも、フィナって、わたしのことを「ユナお姉ちゃん」と呼ぶ。
もしかして、妹?
ノアは「ユナさん」と呼んで慕ってくれている。でも、友達って感じではない。
それなら、同い年のシアは。
どこかに一緒に行く仲ではない。
「…………」
これ以上、考えるのはやめよう。
心が傷付くだけだ。
素材を引き取ってもらったわたしたちは冒険者ギルドを出る。
「無事に冒険者ギルドを出られたね」
「無事って、冒険者ギルドに危険はないでしょう」
わたしの言葉にマーネさんが変な目で見る。
「わたしが初めて冒険者ギルドに行くと、この格好のせいでよく絡まれるんだよ」
もちろん、全てじゃないけど、絡まれ率は高い。
「おい、ゼクトとリディアの嬢ちゃん、待ちな」
わたしたちが冒険者ギルドを出ると、後ろから声をかけられる。
振り返ると、3人の冒険者がいる。
どうやら、無事に冒険者ギルドを立ち去ることはできなかったみたいだ。
「いつも、雑草しか拾ってこない冒険者が、こんなに魔物を倒してくるなんて、どんな卑怯な手を使ったんだ」
「そんなのあなたたちには関係ないでしょう」
「もしかして、他の冒険者の死体でも漁ったのか?」
男の言葉に、一緒にいた2人が笑う。
どうやら、受付嬢との会話を聞いていなかったみたいだ。
「そんなことしないわよ」
「俺たちにも少しばかり分け前をよこしな」
男たちが動く。
わたしも動く。
クマパンチ、三連撃。
男たちが吹っ飛び、地面に転がる。
「つまらないものを殴ってしまったわ」
わたしは自分の 拳(クマパペット) を見ながら言う。
「ちょ、なにをしているんですか!?」
先ほどの受付嬢が声を荒らげながら出てくる。
「リディアさんたちがギルドを出ると、すぐに追うように3人出ていったから、様子を見にくれば。あなたたちギルドカードを剥奪しますよ」
受付嬢は倒れている冒険者3人に向かって言う。
「俺たちが殴られたんだぞ」
「そうだ。少しばかり、奢ってもらうつもりだっただけなのに」
「あなたたちの声は聞こえていました。悪いのはあなたたちです」
受付嬢はバシッと男たちに指さす。
なにか、カッコいい受付嬢だ。
「それに彼女になにかすれば、冒険者ギルドが許しませんよ」
受付嬢に言われた男たちは駆け出すように去っていく。
「申し訳ありませんでした」
「助けてくれてありがとう。でも、冒険者同士の争いには冒険者ギルドは介入しないんじゃなかったの?」
「それは時と場合によります。問題があれば口は挟みますよ」
そうなんだ。
「それと、実はユナさんのことは小耳に挟んでいました」
「わたしのこと、知っているの?」
「わたしの友人が王都の冒険者ギルドで働いているんです。それで、少し前に会ったときに、クマの格好をした強い女の子の冒険者のことを話してくれたんです」
クマの格好をした冒険者って、わたしのことだよね。
「そのクマの女の子は王都のギルマスの信頼を得て、貴族とも繋がりがあり、どんな冒険者よりも強く、可愛らしいクマの格好をした女の子だって話してくれました」
可愛いと言われると恥ずかしいけど。
わたしが可愛いんじゃなくて、クマが可愛いんだ。
勘違いはしてないよ。
「それで、王都の冒険者ギルドではクマの格好をした冒険者が来て、他の冒険者に絡まれたら対処するようにギルマスから指示が出ていると言っていました」
受付嬢は笑みを浮かべながら言う。
「その友人との話のことは忘れていたのですが、ユナさんのギルドカードを見て、友人が言っていたクマの格好をした冒険者だと思い出したんです」
ああ、だからギルドカードを見たとき「あの噂の?」と呟いていたわけか。
「もし、お困りのことがあれば、言ってくださいね」
「それじゃ、わたしが王都に帰っても、リディアさんたちが絡まれたら、今回みたいに守ってあげてね」
「わたしの目が届く範囲でしたら」
「それでいいよ」
知らないところで起きることは、誰でも無理だ。
「それでは、なにかありましたら、申し付けてください」
受付嬢は頭を下げると、冒険者ギルドの中に入っていく。
「ユナちゃんは有名人だったのね」
「少しばかり王都の冒険者ギルドで暴れただけだよ」
「暴れた……」
リディアさんとゼクトさんが目を細めながら、わたしを見る。
あれは、相手から絡んできたから仕方ない。
わたしは悪くない。