軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

844 クマさん、エストの病気を治す

わたしたちは店を出る。

「本当にマーネさんって凄い人だったんですね。あの人があんなに頭を下げるなんて。わたしが行ったときは、追い出されたんですよ」

「彼にも理由があったんでしょう。力を持つ人には逆らえないのよ」

権力に逆らえる人のほうが少ない。

学校でも力がある学生には逆らえない。

逆らえば虐めに合う。

会社だって、上司の言葉に逆らえないって話も聞く。

人の社会はピラミッドのようになっている。

それはこの世界でも同じだ。平民は貴族に逆らうことはできない。

「話を聞いて、あの男の人が悪いわけじゃないって、分かっています」

自分が虐められたくないから、他人を虐めていい理由にはならないし、許す理由にはならない。

「許してあげてとは言わないけど、今後の彼の行動を見てから決めてあげて」

「……はい」

マーネさんもピラミッドの上にいる人だ。

脅迫するように男を問い詰めていたけど、悪いことをしたことに怒っている。

上にいる人がいい人なら、下にいる人も幸せになれるんだけどね。

「それにしてもマーネさん。先生っぽかったね」

ただ、見た目が子供のマーネさんが大人に先生と言われているので違和感はありまくりだ。

「これから、マーネ先生と呼んだほうがいい? マーネ先生」

「ユナ、先生禁止!」

マーネさんが足で蹴ってくる。

これ以上からかうと怒りそうなので、やめることにする。

「マーネさんは立派な大人だね」

「大人よ!」

マーネさんは頰を膨らませて叫ぶ。

見た目は子供、中身は大人。

カガリさんと一緒で、ちゃんとした大人だ。

「薬も出来たことだし、さっさと帰るわよ」

マーネさんは歩き出す。

わたしとリディアさんは、そんなマーネさんを見て、微笑み、マーネさんの後を追う。

リディアさんの家に戻ってくるとゼクトさんが慌てている。

「リディア!」

「兄さん、どうしたの?」

「エストが熱を出した」

わたしたちはエストさんの部屋に入る。

ベッドに寝ているエストさんにカミラさんが濡れタオルをおでこに乗せて、心配そうにしている。

「お母さん」

「今、薬を飲ませたところよ」

エストさんは静かにベッドに寝ている。

でも、少し顔が赤い。

「マーネさん、ありがとうね。マーネさんがくれた薬を飲んだら、すぐに落ち着いたわ」

ちゃんとマーネさんの薬が効いているようでよかった。

「お母さん……」

エストさんの目が開く。

「エスト、大丈夫?」

「うん、大丈夫。いつもよりも楽」

「よかった」

「あと、薬がいつもよりも飲みやすかった」

「当たり前よ。子供にも飲みやすく作ってあるからね」

「マーネさん、優しいね」

「大人なら我慢して飲むけど、変な味、変な匂いがすると嫌がる子供が多いのよ。嫌がるだけならいいけど、飲まないことは一番してはいけないことだから、少しでも飲みやすいように作ってあるわ」

元の世界でも子供用の薬は飲みやすいように作られていた。

良薬は口に苦しって言葉もあるし、良く効く薬は苦いことが多い。でも、今は飲みやすい薬が売られている。

わたしも子供のとき風邪シロップを飲んだことがあったけど、飲みやすかった。

「薬師として当然よ」

マーネさんは恥ずかしそうにする。

「エスト、起き上がれる? 薬を作ってきたから」

「大丈夫です」

カミラさんに支えられながら体を起き上がらせる。

「さっきの薬じゃダメなのですか?」

カミラさんが尋ねる。

「あれは一時的に熱を抑える薬よ。根本的には治らないわ。でも、薬は作ってきたから、大丈夫よ。エスト、これを飲んで」

マーネさんは薬屋で作った薬を二つ出す。

青色の丸薬と赤いボツボツを治す薬だ。

カミラさんがベッドの近くにある小さい台に乗っているコップに手を伸ばす。

コップには水が入っている。

「水よ」

エストさんは丸薬を口の中に入れ、水を飲む。

「あとは寝ていなさい」

「うん」

エストさんは落ち着いたのか、寝息が聞こえてくる。

わたしたちは起こさないように部屋から出る。

「マーネさん、これでエストの病気は治るの?」

「思っていたより症状は酷くないから、しばらく薬を飲めば治るわ」

マーネさんの言葉にリディアさんたちは嬉しそうにする。

マーネさんは薬の飲み方を教える。

「こっちの青い薬はしばらく飲ませてあげて、こっちの緑色の薬は赤いボツボツが消えても、三日ほど飲ませて」

「ボツボツが消えても飲ませるの?」

「消えたと思っても、再発する可能性があるわ。だから、体の中にある悪い物が完全に消えるまで、三日ほど飲んでほしいの」

「分かりました」

「一応、明日、症状の確認にくるわ。それで経過に問題がなければ、大丈夫よ」

「マーネさん、ありがとう」

「あのう、代金のほうは」

カミラさんが、恐る恐る尋ねてくる。

「代金ならリディアとゼクトから貰っているから大丈夫よ」

「わたしたち、払っていない」

「薬草の生えているところを教えてくれたでしょう。いろんな薬草が採取できたから十分よ。それに、今後ほしい薬草があったら、頼むからお願いね」

「任せてください」

流石、年長者のことだけはある。

そして、日が暮れてきたので、わたしたちはリディアさんたちに宿屋の場所を教えてもらう。

「それじゃ、明日来るわね」

わたしたちはリディアさんの家を出ると、宿屋に向かう。

そして、教えてもらった宿屋で2人部屋を1つ借りる。

部屋が空いていて、よかった。

「食事はどうする? どこかで食べる?」

「部屋で食べましょう。あなたとわたしじゃ、絡まれる恐れがあるわ」

クマの格好と子供。

どちらかと言うとわたしのクマの格好のせいで、絡まれそうだ。

「それに、ユナが用意してくれる食事は美味しいでしょう」

そう言ってくれると、嬉しい。

わたしはパンと簡単な作り置きをしていた料理をテーブルの上に出す。

マーネさんは料理を口に入れる。

「やっぱり、ユナの料理は美味しいわ」

「ありがとう」

「とくにこのパンが美味しいわ」

「それは、わたしの店のパンだよ」

「ユナの店のパン?」

ああ、そういえば話していなかった。

わたしはクリモニアで店を経営していることを話す。

「冒険者だけじゃなかったのね」

「まあ、成り行きでね」

食事を終え、デザートにプリンを出してあげたら、3つも食べられた。

まあ、たくさんあるからいいんだけど。

マーネさんのお腹がぽっくり膨らんでいたことは、黙っておいた。

「エストさんは、本当に大丈夫なの?」

一応、確認する。

もしかすると、家族には言えない可能性もある。

「ええ、大丈夫よ。薬を飲めば治るわ」

わたしに噓を吐く必要はない。

なら、本当に大丈夫ってことだと思う。

そして、わたしたちは早めに寝ることにして、護衛として子熊化したくまゆるとくまきゅうを召喚する。

「なにかあったら、起こしてね」

「「くぅ~ん」」

わたしとマーネさんは眠りに就いた。

翌朝、くまゆるとくまきゅうに起こされ、寝坊することもなく起きた。

朝食を簡単に済ませると、わたしとマーネさんはリディアさんの家に向かう。

「マーネさん、ユナちゃん、おはよう」

リディアさんが出迎えてくれる。

家の中に入ると、ゼクトさんとカミラさんもいる。

「エストさんの様子はどう?」

「それが、元気に起きて、朝食を食べたんですよ」

「いつも、いらないって言う子が」

カミラさんは泣きそうになっている。

「食欲も出たみたいで、よかったわ」

マーネさんは状態の確認をするため、エストさんの部屋に移動する。

「調子はどう?」

「マーネちゃん、じゃなくて、マーネさん」

言い直した。

「それで、調子はどう」

マーネさんは聞き流し、もう一度尋ねる。

「はい、とっても調子がいいです。それと赤いボツボツも」

エストさんは腕の袖を捲る。

赤いボツボツが薄くなっている。

「お腹と背中も診せて」

エストさんは服を捲り、マーネさんにお腹と背中を見せる。

「大丈夫そうね。このまま薬を飲めば、治るわ」

「本当ですか?」

「でも、薬を飲むだけじゃダメよ。しっかり食べて、よく寝るのよ」

「はい」

わたしたちは部屋を出る。

「本当にありがとうございます」

「ありがとうな」

「森でマーネさんに会えなかったら、エストは、未だに苦しんでいました」

「人の縁なんて、そんなものよ。実際に、どこかで苦しんでいる人がいても、わたしはなにもしてあげられない。どうにかしてあげられるのは、手が届く範囲。一応、薬師としての知識はあるけど、国の研究者だからね」

マーネさんは魔法省で色々な研究をしている。

薬草に関することから、魔法陣、魔道具と幅が広い。

でも、それが多くの人を助けていると思う。

薬師としてのマーネさんがいなくても、他の薬師がいる。

そのために薬師という職業があり、多くの人が薬師として働いている。でも、その中には金儲けのために人の弱みにつけ込む薬師もいる。金儲けは悪いことではないけど、他人を不幸にしてまで手に入れることは許せない。

「昨日はいろいろあって忘れていたけど、リディア、ゼクト、採取した薬草出しなさい。買い取ってあげるから」

「マーネさんも一緒に採取したから、同じものじゃ」

「いいのよ。薬草なんて、いくらあってもいいんだから。でも、あのリディア専用の薬は大切にとっておきなさい。あなた本人もそうだけど、家族にもしものときがあったら使えるから」

「はい」

テーブルの上に薬草が並び、マーネさんが全て引き取った。

「こんなに」

「少しばかり、色をつけさせてもらったわ。今後の関係のためにね」

「ありがとうございます」

「エストに栄養がある美味しいもの食べさせてあげて」

病気のときは栄養があるものを食べるのが一番だ。

回復も早い。

「それじゃ、買い物に」

「待ちなさい」

動き出すリディアさんをマーネさんが止める。

「リディアとゼクトには、まだやることがあるでしょう」

「やること?」

ゼクトさんとリディアさんが顔を見合わせて、考える。

マーネさんはため息を吐く。

「森で手に入れたのは薬草だけじゃないでしょう」

「あっ」

思い出したみたいだ。

魔物の素材だ。

わたしも忘れていたけど。

わたしの場合は、クマボックスに放り込み、そのまま放置することが多いから、忘れることが多い。

解体ならフィナに頼んでいるので、素材は溜まっていくばかりだ。

「母さん、ごめん。わたし……」

「買い物なら、わたしが行ってくるわ。2人は行ってらっしゃい」

「うん」

買い物はカミラさんに任せ、わたしたちは冒険者ギルドに向かうことになった。