軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

831 クマとの遭遇 リディア編 その3

わたしたちはユナちゃんの提案を了承した。

すると、マーネさんが薬草を適正価格で買い取ってくれることになったし、妹の薬を作ってくれることにもなった。

この森でマーネさんに出会えたことは幸運だ。

そして、気になっていた黒いクマと白いクマの紹介をしてくれる。

黒いクマはくまゆるで、白いクマがくまきゅうと言う、可愛らしい名前だった。

くまゆるとくまきゅうは、わたしの耳と同様に魔物が近くにいることがわかると言う。

しかも、ユナちゃんはくまゆるとくまきゅうが言っている言葉が分かるみたいだ。本当に不思議な女の子だ。

お互いに話をしながら進む。

クマの格好について尋ねてみたら、クマの加護があるからだと、誤魔化されてしまった。

そんなクマの加護なんて聞いたことがない。

…………あるわけがない。

くまゆるとくまきゅうを見る。

…………。

こんなに人に懐いているクマというのも、見たことも聞いたこともない。

ユナちゃんに懐いているクマを見ると、クマの加護が無いとは言い切れないかもと思ってしまう。

それから、出発する前にマーネさんが作ったスネイクが嫌う液体を足や体に振りかけた。

今後もまたここに来ることがあることを考えると、こんな薬があるならぜひ欲しい。

効果のほうは、兄さんが試しにスネイクに近寄ろうとしたら、スネイクは逃げていった。

効果は抜群みたいだ。

「マーネさん、他の魔物についても寄ってこなくなる薬とかあるんですか?」

「ウルフとか、あるわね」

「あるんですか?」

「ウルフが嫌う匂いね。でも、欠点があるのよ。風下だと効果はないわ。でも風上なら大丈夫。洞窟だと風がないから、漂って全方向に効果が出ると思う」

でも、風上で活用できるなら、進む方向を考えながら進めば、ウルフに出会わずに進むことができる。

ベルトラ草の近くにいたウルフも風上から流せば、逃げ出して行くかもしれない。

「そのウルフが嫌う薬って」

「持っていないわよ。ちょっとばかり価格が高い薬草を使うのよね。それに、ウルフぐらいならユナがいれば大丈夫だと思ったし」

「それじゃ、どうして、スネイクが逃げ出す薬は持っていたの?」

わたしの代わりにユナちゃんが尋ねる。

「蛇が嫌いだからよ」

恐いではなく、嫌いだった。

「でも、売れそうだね」

「売れないわよ」

ユナちゃんの言葉にマーネさんは即答する。

「なんで?」

「冒険者は倒すのが仕事。逃げられたら仕事にならないでしょう」

「それじゃ、村とか……」

「さっきも言ったけど、価格が高い薬草を使うのよ。さらに言えば、効果は数時間程度。魔物除けには使えない。コストがかかりすぎるのよ」

確かにコストと合わない。

でも、わたしみたいに薬草を採取する人や旅人、あと野宿するときなどには使えると思う。

ただ、魔物はウルフだけではないってことだ。

そのうえ高価となると、

簡単には使えないかもしれない。

そんな話をしながら歩いていると、洞窟を抜ける。

洞窟の外は巨大スネイクが通った跡が残っている。

そんな跡も気にすることなく、ユナちゃんにクマに乗るように言われる。

わたしと兄さんは黒いクマ、くまゆるちゃんに乗せてもらう。

乗ってみると柔らかくて気持ちいい。

走ってばかりで、足の疲労も大きかったので、歩かないで済むのは助かった。

もし、このまま歩き続けていたら、途中で何度も休むことになったはずだ。

それだけ足の疲労が大きい。

クマたちは魔物が近寄ってくれば分かると言う。

わたしに出来ることも、魔物が近寄ってくる音を聞き分けることしかない。

もしかすると、わたしのほうが範囲が広いかもしれない。

少しでも役に立てればと思い、集中して周囲の音を聞く。

耳を澄ませていると、マーネさんが変なことを言い出す

わたしが風魔法を使って周囲の音を聞いていると。

わたしは自分が魔法を使えないことを説明する。

マーネさんは、わたしが風魔法を使っているから、他の魔法が使えなくなってると言う。

わたしは知らずに風魔法使い、周囲の音を聞いていたらしい。

緊張から魔法が使えないわけじゃなかったんだ。

わたしが森に来ると魔法が使えなくなる謎が解けた。

意識して魔力を止めてみると、音が聞こえなくなった。

正確には遠くの音が聞こえない。

魔力を止める前は鳥の囀り、羽ばたく音が聞こえていたけど、聞こえない。

でも、これが兄さんや普通の人たちが聞いている音の距離。

マーネさんは、魔力を切り替えて使えるようになれば、わたしの強い武器になると言う。

ときには音を聞き、戦うときは魔法を使う。

本当にそんなことができれば、戦いで役に立てる。

兄さんを見捨ててしまうこともなくなる。

でも、気を抜くと遠くの音が聞こえてくる。

本当に、今まで無意識に使っていたみたいだ。

そして、日が落ち、今日のところはここまでにして、野宿することになった。

野宿をする場所を探さないといけない。

クマに乗っているだけで何もしていなかったわたしは、せめて野宿ができそうな場所を探しに行こうとすると、ユナちゃんに引き止められる。

その理由が家を持っているからだった。

アイテム袋から出てきたのはクマの形をした家だった。

なんでもクマ。

マーネさんの、ユナちゃんはクマ好きと言う言葉も納得だ。

それにくまゆるちゃんとくまきゅうちゃん。こんな可愛いクマが一緒ならなおさらだ。

わたし、熊と出会ったら戦えないような気がしてきた。

クマの家の中に入ると、中は普通の家だった。

まあ、ところどころにクマの模様をした物があるけど、気にしない。

ユナちゃんが食事の準備をする間、わたしはマーネさんの仕事を手伝うことになった。

そのときに、今日採取した日焼け止めの薬の作り方も教えてくれると言う。

わたしたちは隣の部屋に移動する。

その部屋の中央には作業をする大きなテーブルがあり、水場がある広い部屋だった。

「ここは解体場らしいわよ」

わたしが部屋を見ていたら、マーネさんが教えてくれる。

こんな部屋まで用意しているんだ。

わたしが部屋を見ていると、マーネさんは採取した薬草をテーブルの上に並べていく。

「あなたたちも持っているなら出しなさい。適当に仕舞っておけば、品質が落ちるわよ」

わたしたちは言われるままに採取した薬草を出す。

「結構あるわね。これは……、こんなのも生えているのね」

マーネさんは薬草を見て、次々と薬草名を言っていく。

本当に凄い人なんだとあらためて認識する。

「それじゃ、これと、これは、こんな感じで切って、別々の容器に入れて」

マーネさんがお手本になるようにナイフで薬草を切る。

わたしと兄さんは言われるままに行う。

マーネさんも他の薬草を手にすると、処理を始める。

「マーネさん、終わりました」

「それじゃ、次はこれをお願い。棘があるから気をつけて」

「はい」

そんな感じで処理をしていく。

「マーネさん、それは?」

「乾燥させる魔道具よ。ここで乾燥させれば品質も下がらないわ」

「そんな魔道具があるんですね」

「まあね。わたしたち、薬師には必要品ね」

「マーネさん、これは?」

兄さんが、薬草を手に持つ。

「それは、この魔力水の中に入れておいて」

わたしたちは、薬草を片付けていく。

これは勉強になる。

今までもある程度、勉強して採取してきたつもりだったけど、品質を考えると、処理は早くしたほうがいい。

……そして、最後に一つ残る。

「マーネさんこれは」

これは日焼け止めに使うと言っていた薬草だ。

「それじゃ、日焼け止めの薬の作り方を教えるわね。準備するのはこの薬草の他には、魔力水と保湿性の薬、肌荒れやニキビを防ぐ薬も必要ね」

「ちょっと待ってください。そんなにたくさんですか?」

「まあ、日焼け止めだけでもいいけど。女の子なら、必要でしょう」

「でも、わたしは冒険者です」

「どうして、冒険者が日焼けや肌荒れを気にしちゃダメなの?」

「それは」

ダメな理由はない。

「ちゃんと、肌の手入れをしないと、年取ってから大変よ。若いと言ってられるのも今のうちよ」

「女って面倒だな」

兄さんの言葉にマーネさんが忠告する。

「あなたね。女性の肌の手入れを面倒とか言っちゃダメよ。そんな男、モテないわよ。それ以前に、あなたも付けなさい。汚い男はモテないわよ」

マーネさんの言葉に兄さんは黙ってしまう。

もしかすると、心当たりがあったのかもしれない。

それから、マーネさんは簡単に作れる方法で肌を手入れする薬を作ってくれた。

ただ、こんなにいろいろと効果がある薬草を入れると、お金がかかりそうだ。

それから、まもなくしてユナちゃんが料理ができたと呼びにきてくれる。

テーブルの上には湯気が上がる温かい料理が並ぶ。

料理はどれも美味しく、久しぶりの温かい料理と柔らかいパンを食べた。

とても、魔物がいる森の深くでする食事とは思えない。

しかも、驚くことにお風呂まであると言う。

信じられない。

何日もお風呂に入っていなかったので、入りたい気持ちはある。

でも、魔物がいる森の中で裸になってお風呂に入る危険を冒すことはできない。

何度も言うけど、ここは魔物がいる森の中だ。

だけど、ユナちゃんはくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんがいるから大丈夫だと言う。

なにかあれば教えてくれるし、そもそもウルフぐらい倒せるし、この家ならウルフ程度に襲われても大丈夫だと言う。

わたしはお言葉に甘えてお風呂に入らせてもらうことにした。

脱衣所は広く、お風呂も広かった。

まず目に付いたのはクマの置物。

クマの口からお湯が出ている。

本当にユナちゃんはクマが好きみたいだ。

わたしは体を洗う。

数日ぶりに体を洗うことができて気持ちい。

髪も汚れを洗い流す。

マーネさんが石鹸を貸してくれた。

髪の傷みを抑える効果があるそうだ。

「洗ったあとは、これも使うといいわよ」

渡された液体を髪につけて、流す。

なにか、髪が滑らかになった感じがする。

体と髪を洗い終わったわたしたちは湯船に入る。

気持ちいい。

広くて、足が伸ばせる。

ここは、本当に魔物のいる森なの?

それだけは忘れてはいけない。

でも、気持ちい。

わたしはマーネさんに聞きたかったことを尋ねてみる。

どうして、わたしが風魔法を使っていたことに気づいたのか。

わたし本人さえ気づいていなかった。近くにいた兄さんも、他の人たちも。

マーネさんが言うには髪がなびいていて、自分がエルフだからと言う。

マーネさんは周りを見てと言う。

わたしは周りを見る。

湯気が動いている。

わたしの方へ向かっている?

もしかして、無意識に使っている?

早く、自分の意識で切り替えができるようにならないと。

わたしにそんな力があることを教えてくれた、マーネさんには感謝しかない。

そして、お風呂から出たわたしは兄さんがいるところに戻る。

扉を開けると前にくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんがいた。

兄さん曰く、わたしたちが脱衣所に入ったら、扉の前に居座ったと言う。

もしかして、覗き……。

わたしは兄さんを睨んだ。

兄さんは言い訳をしていたけど、信じていいんだよね。

それから兄さんもお風呂に入らせてもらい、わたしたちは2階の部屋を貸してもらえることになった。

ベッドがあり、お客さん用の部屋だと言う。

「兄さん、どう思う」

部屋を与えられたわたしはベッドに腰をかけて、兄さんに尋ねる。

「信じられないことばかりだな。自分の常識が崩れていく」

「あれが、高ランク冒険者なのかな」

「俺が知っている高ランク冒険者でも、こんなに凄くはない」

それには同意だ。

「でも、王都の魔法省で働くマーネさんが雇っている冒険者だ。それだけの実力があるってことだろう」

「王都の冒険者って、みんな、ユナちゃんみたいに凄いのかな」

「さあな。でも、巨大スネイクやこんな家が入るアイテム袋を持っているんだ。それだけでも、凄い冒険者だと分かる」

アイテム袋の容量が凄すぎる。

こんな家や巨大スネイクが入るアイテム袋を持っているだけでも、高ランクの証明だ。

なにより、巨大スネイクを討伐しただけでも、その実力は計り知れない。

「幼い姿に騙されそうになるけど、マーネさんの薬草の知識も凄いし」

「魔法省で働いてるってことも本当みたいだね」

「このまま2人を信じるんだよね」

「交渉したんだ。信じるしかない」

裏切られたら怖い気持ちがどこかにある。

でも、一緒に食事をして、お風呂に入った2人を信じたい。

この優しさが嘘ではないと思いたい。

「とりあえず、寝ようぜ」

「うん」

兄さんが灯りを消してくれる。

ベットに倒れる。

眠る前に兄さんに言う。

「兄さん、もう、あんなことはしないでね」

「なんだ、いきなり」

「とにかく、自分を犠牲にしないでってこと」

わたしを逃すために犠牲になろうとした。

冗談ではく、本当に。

「それはできない約束だな。同じことが起きれば、同じことをする」

頑固だ。

お父さんが亡くなってから、兄さんが父親代わりになろうとしていることは知っている。

でも、兄さんも結婚して幸せになってほしい。

兄さんが結婚すれば、わたしたちを気にかけることもなくなるかもしれない。

今回のことが上手に終わったら、兄さんの恋人探しをしないと。

冒険者で危険な仕事だし、特技は剣だけだし、……見つかるかな。

部屋は暗く、お腹一杯に食べて、お風呂に入って、安全だと思うと、眠気がやってくる。

さらに柔らかい布団が追い打ちをかける。

明日にはベルトラ草が手に入る……。

目を閉じると、体が疲れていたのか、なにも考えることもなく、眠りに落ちていった。

翌朝、マーネさんに起こされるまで、爆睡してしまった。

この家は人をダメにする家だ。